吉田結依菜は放送業界を目指したときから、人脈がいかに大切かを知っていた。
「本当に業界に興味があるなら、学生のうちからどんどん現場に行くべきです。テレビでも映画でもジャンルを問わず、とにかくチャンスがあれば現場に行ってみる。そしてそこで働いている人の話を聞く。スタッフさんの話って信頼できるし、それが業界を知る上で一番参考になると思います」
せっかくの出会いを無駄にしてはいけない。そうして自らチャンスを掴み、強くしなやかに照明として着実にキャリアを積んでいる。

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■ 現場が本当に楽しかった

照明チーフとして主にPVとCMを中心に手がけています。学生時代にアルバイトで最初に経験したのがPV撮影でした。その現場がすごく楽しくて、現場の雰囲気や、スタッフのチームワークの素晴らしさとか、そういったものにも感動して、プロの照明としてPVの現場に参加したいと思うようになりました。いま念願の仕事に就けて本当にうれしいです。
小さなときからずっと外で遊んでいるような活発な子どもでした。昔から絵を描くのも好きで、ものづくりの世界にも興味がありました。高校生の頃から映画をたくさん見るようになり映像業界に興味を持ち始め、スタッフとして作品づくりに参加したいと思うようになりました。三谷幸喜監督の映画「ザ・マジックアワー」(08)などを見て、美術が可愛いな、セットつくる仕事って面白そうだなと思って、最初は大道具に興味を持ちました。ただなんとなく照明も気になっていて、照明って大切なんだろうけど、実際の仕事内容や仕組みってよくわからないですよね。それである専門学校の体験入学で、映画「レザボア・ドッグス」(92)の一場面を再現するという授業があって、私は照明をやらせてもらったんです。それがものすごく楽しくて、ますます照明の仕事に興味を持つようになりました。
高校卒業後に上京し、日本工学院専門学校 クリエイターズカレッジ放送・映画科に入学しました。兄は現在グラフィックデザイナーをやっているんですが、実は日本工学院専門学校の卒業生で、だから以前から日本工学院のことは知っていたんです。実際に見学に行ってみると、設備も整っているし、なにより放送・映画科は歴史があり業界とのつながりがしっかりしていると感じました。親には「ちゃんと頑張れるなら行きなさい。でも、すごく厳しい世界だと思うよ」ときつく言われました。これはもう入学するからには絶対に映像業界に入って一人前にならないとダメだ、意地でもちゃんと就職しようと思いました。

 

■ 現場で人脈をつくる

入学した当時は、まだ照明か美術かで少し迷っていました。でも入学してすぐ全コースの実習をやって、改めて自分は照明をやりたいと思いました。寸法を測って図面を描く細かい作業が前提にある美術より、感覚重視というか、まず感じて動く、即興が要求されるところのある照明のほうが自分の性格に合っていると感じました。あとやっぱり照明ってなんなのかがわからなくて。だからこそ逆に学びたいと意欲がわきました。
学校は面白かったです。講師の先生が実際に現場でやっている方たちだったので、授業にも説得力がありました。入学当時から、早く現場を経験したい、そこで人脈をつくりたいと考えていました。先生にも相談し夏頃に照明やカメラの準備のために演者さんの代わりに立つスタンドインのアルバイトを紹介してもらいました。初めて入ったのはPV撮影でした。そこでPVの現場の面白さに触れたことが、いまの仕事につながっています。
そのスタンドインのバイトを学校に持ってきてくれた制作会社の人も日本工学院の卒業生だったので「現場に興味があります!」って挨拶のときに言ったら、それからも何度か声をかけてくれて、それで撮影現場も少しずつわかってきましたし、現場での知り合いも増えてきました。ただ私は照明志望だったので、照明で入れるチャンスを探していました。
そんなときに1年の後期から現在所属しているタッチ・アンド・ゴーの代表の野口益登(ますと)さんの授業が始まりました。撮影で会うスタッフのみなさんから「益登さんは本物だよ」と聞いていたので、現場の人たちからこれだけ評価されているんだから間違いないだろうと、授業のあとで「照明のバイトがあったらぜひ呼んでください!」と積極的にアピールしました。そしたら本当に照明のバイトで現場に誘ってもらえたんです。
照明のバイトは楽しい反面、難しかったです。機材を覚えるだけで必死でした。ただ難しいけど、不思議と不安もなかったです。やる気のほうが勝っていたというか。それで何回か益登さんの現場に参加させてもらい、2年生の9月ぐらいに益登さんのほうから“合格通知”みたいなものをもらい、「卒業したら来られるか?」と言われたので「はい!!」と。それで第一志望だったタッチ・アンド・ゴーへの就職が決まりました。

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■ できない、とは言わない

バイトのときと就職してからでは先輩の厳しさが全然違いました。1年目はものすごく大変でした。入ってから半年間は研修期間で、現場がない日は機材屋さんに行ってバイトして機材を覚え、メンテナンスの仕方や積み込み方など徹底的に叩き込まれました。私は機械にあまり興味がないからか、機材を覚えるのに時間がかかり、それで何度も怒られました。雑用から何からやるべき仕事、覚えなければならないことが山積みで、タッチ・アンド・ゴーは新人をひとりしか採らないので苦労を分かち合える同期もいないし、本当にキツかったです。でも歴代の先輩たちもみんな地獄の1年目を乗り越えてきているわけですし、いつ怒鳴られるか、いつもビクビクしながらでしたが、でもずっとこれが続くわけじゃないだろう、いつか見返してやる!という気持ちでなんとか乗り越えました。
2年間助手をやって、3年目からチーフになりました。照明の現場は、トップに技師がいて、その下にチーフ、助手といった構成になっています。チーフは照明技師のプランニングにそって、機材を選定して発注したり、助手を手配したり、スケジュールを調整し管理するなど具体的な作業全般を担っています。技師のプランをいかにスムーズに実現させられるか、現場を問題なく進行させられるか、すべて現場責任者のチーフにかかっていると言えると思います。大変ですが、チーフになって自分で考えるようなり、やっと仕事が楽しいと思えるようになりました。同時に、改めて照明の奥深さを感じています。
褒められることなんてないです。やれて当然、できて当たり前ですから。一番大切なのは“できないと言わない意地”ではないでしょうか。すごく無茶なオーダーをされても、ちょっと時間もらえますかって一言添えて、これだったらできると代案を出したり、新しい方法を提案したり。照明の技術や知識はもちろんですが、プロとしてやっていくには相手に納得してもらう言い方や交渉力がとても大事になってくるような気がします。そういったことを、私は尊敬する女性の先輩から学びました。先輩は男とか女とか関係ないってよく話していて、どんな人にも言うべきことをちゃんと言い、媚を売ることなく堂々としていました。しかも周りのスタッフさんを乗せるのがとても上手で、みんなをその気にさせて、いつも楽しい雰囲気のなかで現場を進めていました。若いのに実力と人間力でスタッフさんの心をつかんで現場を束ねていた。先輩は私の憧れであり、目標です。
あと1年はチーフとして経験を積んで実力を磨きたいと思っていますが、いま少しずつ技師もやらせてもらっています。タッチ・アンド・ゴーでは「私、技師しかやりません宣言」っていうのをみんなやるんですけど、いずれ私も。目下の目標は「技師一本宣言」です!


小林太郎 「花音(はなのね)」

照明技師として参加しました。撮影は山梨県の大きな湖と樹海で夜通し行いました。湖の反対側からひとつだけライトを当てて、その光がちょうど湖にハーッて映ってすごく幻想的できれいなシーンになりました。想像以上の画(え)にみんなテンション上がっちゃって「フウ!!」って感じで。予想もしなかったことが起こったりできたりするから、私はロケが好きなんです。天候にも左右されるし、とんでもないことも多々起きるんですけど、だからこそ腕が試されるというか自分の引き出しが増えるし、制約がないぶん、ロケならなんだってできる、可能性が無限にあると思えるんです。

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