「発想法」は、クリエイティブワークの土台を成すものであり、クリエイティブワークは発想に始まって発想で終わると言っても過言ではない。イノベーティブな思考スタイル(※1)を実践する中で、ゼロベースで課題を考える時でも、ポジティブな思考を行う時でも、“良い発想”が求められることは言うまでもない。

発想を実践する「発想ワーク」として重要なのは、ただやみくもに発想しはじめるべきではないということだ。発想ワークに熟達したメンバーだけならまだしも、不慣れな人が1人でもいるならば、適切な発想法を選ぶことが肝心である。これは、効果的効率的に発想ワークを行うことにもつながる。

今回は、その「発想法」について、第2回で触れた点も含め、掘り下げて解説する。

UXデザインのための発想

発想ワークにおいて、「自由に発想しましょう」と言っても、アイディアそのものが出てこない、というようなことはないだろうか。これはUXデザインに限らず、どんな分野の発想ワークについても言えることだ。

UXデザインとして発想を行う場合は、経験や体験の良し悪しを問題にすることから、その経験・体験は「行為」によって形成されると考へるべきだ。つまり、「〜する」と言う“動詞的な視点”を持つべきである。そこには行為者(経験する人)がいて行為の中身(経験そのもの)がある。

動詞的な発想は、基はと言えばマーチャンダイジング(※2)の世界のものである。UXデザインが発生する以前は、製品のアイディアを問題にするケースが多く、その製品とは多くが物理的に存在するモノであった。しかし今日、商品にはモノ(製品)以外のものとして、サービスや情報コンテンツなどが多くなりつつある。

サービスデザインとは、言い換えれば、顧客を幸せにする商品を企画し、その企画を顧客が利用できるしくみとして作り込み、提供することである。

UXデザインが問題にするのは「経験」であり、モノも含めて一連の文脈の中に存在するコトである。コトにはサービスや情報などが含まれる。これらを含めつつ、アイディアを展開する。これが動詞的な発想ということであり、「UXデザインのための発想」を考える上で重要な点である。

マーチャンダイジングの限界

ところで、マーチャンダイジングは、「消費者の欲求・要求にかなう商品を提供する」という意味においては正しい見識である。ただ、欲求・要求にかなうかどうか、そもそも消費者の欲求・要求とは何なのかについて、マーチャンダイジングの中に答えがない。

また、ここで問題にする商品が、”モノ主体”から、”モノも含めたコト”という風に変わってきているし、しかもそれが経験の中に存在するという点について、一考を必要とする。マーケティングの世界でも最近は、売り手志向ではなく、ユーザー志向が重要である点が理解され、「ユーザー経験」に注力するようになってきた。従って、マーチャンダイジングにおける課題は次の2点に集約される。

  1. いかに消費者の真の欲求や要求を知り企画に反映するか。
  2. 商品の解をいかに経験としてユーザーに提供するか。

この2点については、前者はエスノグラフィ手法、後者はエクスペリエンスマップ(またはカスタマージャーニーマップ)というツールでカバーすることができる。これらを熟知したデザイナーと協働することが、ユーザー志向の商品提供を行う早道である。

動詞的な発想 副詞的な発想

さて、UX向きの発想スタイルを考える時、筆者はさらに「動詞+副詞で発想する」ことを提唱する。

コトからの発想の例として、カメラのアイディア出しについて考察する。この場合、「新しいカメラ」という製品ではなく、「新しい作法で撮る」とか「便利に記録する」いう風に動詞で発想すべきであると言うことはすでに述べた。

最後の「撮る」とか「記録する」という部分が大事なのである。「撮るとはどういうことなのか」「記録するとはどういうことなのか」を考えるのだ。つまり動詞発想に副詞的発想を加えると「UX思考」になる。「便利に記録する」とは、例えば、記録したデータ(画像やテキストやQR情報)が単に「ストックされるデータ」というにとどまらず、いろいろな用途に有効活用できるような形にして蓄える、というような意味を含ませている。

言いたいのは、「新しいカメラは?」という名詞的なアイディア発想を行っても、形や素材や構成が違う無数の”ちょっと違うカメラ”が産み出されるだけで、少しもイノベーティブではないということだ。ならば動詞+副詞で「便利に記録するとは?」と問うてみる。

“便利に”の部分の意図は先に示したようなことだから、具体的には次のようなアイディアが生まれるであろう。例えば、

  • 記録と同時に場所や天気などの6W1H属性も記録する
  • 記録したデータがクラウドの関連フォルダーに自動的に分類保存される。
  • 記録対象のIDを照合し特定できる。
  • ライフログとなり健康管理ができる。etc.

これらあくまでも、動詞+副詞で発想すると新しい用途や利用方法が見えてくるという例だ。

ここで1つの動詞発想の例を紹介する。

動詞的発想

皆さんもお気付きの通り、図4-1の事例では、ユーザーの期待や要求とは紐付けられていない。このままではきわめて不十分となる。そこで、その溝を埋めるものとして、あらかじめユーザー調査を十分に行い、ある程度のインサイト(潜在的な欲求や期待)を得ておく必要がある。得られたインサイトを基に、例えば「オーロラを観る」のレイヤーやその下のレイヤーで、副詞的な解釈の追加を考えながら、アイディアを展開するわけだ。

副詞的展開の他には、動物の行動など対象を意図的に変えてアイディアを発散する方法(エクスカーション法という)、チェックリストにより意図的に視点を変えて発想を広げる方法(オズボーンのチェックリスト法など)、あらかじめ抽出しておいた感情語などと組み合わせて、情緒的なしかけを強制的に組み込む手法(クロスビー法という)などがある。

この中で、エクスカーション法については後に説明する(※3)

強制発想法を使う

発想ワークは、出すアイディアの量が多い方が良いとされている。本当に良いアイディアを得るには生みの苦しみというものがあり、簡単に出るものではないからである。出つくしてもまだ出そうとする努力の末に、偶然見つかる場合が多い。

数を出そうとする場合には、自分の頭の中で考えるだけでなく、発想を支援するように工夫し、ある程度強制的に発想する。ここでは、代表的な強制発想法として、「マンダラート法」、「クリエイティブ・マトリクス法、」「エクスカーション法」の3種類を詳しく解説する。

これらは、個人で発想する場でもチーム発想の場合でも、どちらでも使用できる。

マンダラート法

この方法は、デザイナーの今泉浩晃氏によって考案された発想法である。あらかじめ用意した用紙の中央に発想テーマを書き、これに関連した8つのカテゴリーを周辺に配置する。例えば「新しい傘」を考える時には、周囲に「取手」「カラーリング」「素材」「重さ」「強度」「価格」「たたみ方」「他の用途」などとなる。

マンダラーと法の例

8つのカテゴリーはテーマによって変わるため、あらかじめテーマの背景や細部を検討分析し整理した上で選択する必要がある。

例えば、傘の例で言えば、女性を代表ユーザーとする場合は、「色彩」や「柄」などが入る方が良いであろう。その場合は、「価格」などと入れ替えるなど、カテゴリーの選択が発想の方向性を左右する。事前の分析やカテゴリー選択などが必要なため、事前準備に負担はある。

またカテゴリーによっては、発散に貢献しない場合も出てくる。面白いだけで豊かさにかける場合もあるであろう。できれば、経験者の進行にしたがって準備し、カテゴリーを選ぶ方が賢明であろう。<良いカテゴリーを発想する必要性がある>という別の問題も生じるわけだ。

クリエイティブ・マトリクス法

クリエイティブ・マトリクスとは、縦横に重要な質問事項を配置し、その交差したところにアイディアを出していくものである。縦軸は人や技術に関係したものとし(ペルソナ、セグメント・テクノロジー、サービス、イベント、環境など)、横軸は解決を必要とする課題を配置する。この表を下にアイディア出しするのだ。

「10分でアイディア出し」など制限時間をもうける場合もある。クリエイティブ・マトリックスの一例は図の通りである。

クリエイティブ・マトリックスの例

エクスカーション法

エクスカーションとは、”旅行の主要経路から外れる”ことである。この意味を転じて、発想者の連想記憶を刺激して、連想するためのキーワードとテーマを掛け合わせてアイディア発想の方法を提供する。

エクスカーションには、「動物」「職業」「場所」の3つの種類があるとされている。例えば、新しい傘をテーマとした場合に、サルという動物から「サルは木に登る」「サルは毛づくろいする」などの生態を掛け合わせて、「木登りに使える傘」とか「毛がフサフサした傘」のようにアイディアを発散する手法が「エクスカーション」である。

エクスカーションは、やり方によっては脳を柔軟にし、発想に活気を与えることができる。アイディア数を確保したい時には有効な手法であろう。但し、アイディアに根拠がある訳ではないので、収束の段階で他のアイディアと整理統合するなど、あくまでも途中段階の発散方法の1つとして考える方が無難である。

基本となるのはチーム発想

発想ワークは、複数人がいるチームで行うことが多い。勿論個人でも行うが、アイディアを共有したり、メンバー全員の当事者意識を確保したりする意味からも、チームによる発想ワーク(以後、チーム発想)は重要である。チーム発想の方がアイディアの数も増えるので、好都合である。

チーム発想で一番重要なのはファシリテーションである。ファシリテーションの出来によって、チーム発想の成否がほぼ決まってしまう。いくら発想豊かなアイディアマンがいても、ファシリテーターの力量(コンピタンス的に言えば「ファシリテーション力」)が低ければ、まとまりの無い、散文的なチーム発想になってしまう。

チーム発想については、次回、第5回で詳しく解説する。ご期待ください。

参考情報

(※1)イノベーティブな思考スタイルには次の3つがある。
1.既存のモノを否定し ゼロベースで考える。
2.自社のコアコンピタンスに精通し徹底的に使いこなす。
3.ポジティブに発想し 批判を恐れない。
「感性思考デザイン第2回 〜コモディティー・トラップを回避する〜」を参照のこと。(https://www.creativevillage.ne.jp/57099
(※2) 消費者の欲求・要求にかなう商品を提供する意味のマーケティング用語。商品は英語でmerchandiseであり製品productとは区別して考えている。また、製品とは作り手が販売を前提に作るモノである(=製造する品)。商品とは、明確に顧客が想定されていて、その顧客に売るためのモノやサービスである。また商品には固有の情報が付加されている場合もある。この場合、情報も商品を構成する重要な要素である。
(※3) エクスカーション法の参考ページ:「エクスカーション――ノート1つで100個以上のアイディアを出す方法」(http://www.itmedia.co.jp/bizid/articles/0804/09/news013.html
オズボーンのチェックリスト法の参考ページ:「短時間でアイデア量産!オズボーンのチェックリスト活用法」(http://idea-soken.com/checklist
クロスビー法の参考ページ:U’eyes Design社のページは削除されているため、詳細は次を参照のこと。
「XB法(クロスビー法)に関する情報まとめ【更新版】」(https://uxxinspiration.com/2014/08/xb-method/

関連記事

感性思考デザイン 第5回 〜チーム発想のしかた〜
感性思考デザイン 第4回 〜発想法の使い方と発想力の強化〜
感性思考デザイン 第3回 〜必要なスキルやノウハウ〜
感性思考デザイン 第2回 〜コモディティー・トラップを回避する〜
感性思考デザイン 第1回 〜感性がビジネスを豊かにする〜
実践的UXデザイン論 第6回 イノベーションとUXナッジ
実践的UXデザイン論 第5回 HCD(人間中心設計)におけるアイディア発想
実践的UXデザイン論 第4回 デザイン思考 〜 IDEOから全ての企業へ〜
実践的UXデザイン論 第3回 サービスデザイン歳時記 〜幅広い視点からデザインを考える〜
実践的UXデザイン論 第2回 良いUXデザインとは 〜ノーマンやモービルやギャレットらと共に〜
実践的UXデザイン論 第1回 Webやゲームにおけるユーザビリティとユーザエクスペリエンス