コモディティー化する商品

「コモディティー化」という言葉がある。商品(製品やシステムやサービス)の特徴が薄れ、市場価値が低下することを意味する。市場価値が低下して競争力が無くなることを「コモディティー・トラップ」といい、相対的に商品の魅力が無くなり出しても売れない状態となる。現在、多くの製品やサービスがコモディティー化していると言われる。例えば、スマートフォンやデジタルTV、デジタルカメラ、白物家電、あるいは、旅行のパッケージツアーや宅配サービス、等々である。

このような状況におちいることなくモノ・コトを作り続けるためには、「魅力品質」を高めなければならないということを前回お話した(※1)

ところが、品質として達成すべき魅力自体が飽和していて、生半可な努力だけでは、“真の意味での魅力品質”を達成するのは難しい状況である。つまり「良いデザイン」は当たり前であり普通のレベルのものであり、“良いという以上の魅力”を付与することが求められる(※2)

デザインも、制約の中で色形のシンプルさだけを追求しても、突出した良さを達成するのは難しい。ではどうするか。やはり感性を磨き続け、感性思考でモノ・コトを練り上げる以外には無いのである。デザインにおいても、感性美(※3)を今まで以上に研ぎ澄まさなければならない。

トラップを回避する

コモディティー・トラップは次の方法で回避する。

  1. イノベーションを行う
  2. 事業を見直す
  3. 感性思考に基づくデザインをとことん実践する

イノベーションを行う

コモディティー化回避のもっとも有効な手段は、イノベーションを行うことだ。イノベーションを行う上での問題は、イノベーションそのものは定義できないということである。したがって、イノベーションとは何かにこだわっていては、何をすれば良いかがよく分からない。

米ハーバード大学教授のクレイトン・クリステンセン(Clayton Christensen)氏は『イノベーションのジレンマ』の中で、イノベーションについて言及しているが、イノベーションそのものは定義しておらず、「イノベーションの種類」を定義しただけであった(図2-1参照)。

by Clayton M. ChristensentとJoseph Bower
図2-1:イノベーションの種類(『イノベーションのジレンマ』より)

イノベーションの言葉の定義にこだわっても先に進まない。ビジネスデザイナーの濱口秀司氏は「イノベーションを行うには、イノベーティブな思考スタイルを持てば良い」と指摘している。行動を定義するのである。確かに行動を定義して実行すれば、求める”イノベーションの実現“も可能となる。筆者が考える「イノベーティブな思考スタイル」とは次のようなものだ。

  • 既存のモノを否定し ゼロベースで考える。
  • 自社のコアコンピタンスに精通し徹底的に使いこなす。
  • ポジティブに発想し 批判を恐れない。

ゼロベースで考える

イノベーションを行う上で重要なポイントとなるのは、まず、「既存のモノを否定する」ということである。それは、とりも直さず、「他と異なる感性を意識して、それをモノ・コトのデザインに注入する」ということだ。既知のものや既視感のあるものをアイディア発想するのは、イノベーティブな思考とは言えないのである。

例えば、おとぎ話の「桃太郎」を例に考えてみよう。桃太郎のストーリーを破壊して、ゼロベースで「新・桃太郎」をアイディア発想するのだ。

  • 桃から生まれずに木から生まれる。
  • 川から流れて来ないでロケットでやってくる。
  • 桃太郎チームではなく単独行動させる。
  • 勧善懲悪(善を勧め悪を懲しめる)ではなく、名声欲もおりまぜつつ、グレーなものとして考える、等々。

江戸時代までの桃太郎は、桃から生まれるのではなく、桃を食べて若返ったおじいさんおばあさんから生まれるというのが本来のストーリーのようだから(※4)、現在の桃太郎は教育教材用の“おとぎ話のイノベーション”であるとも言えるのだ。

しかし「他と異なる感性」を持つというのは、簡単なようでいて難しい。例えば、モダン全盛の時代にあえて古典的なものを採用するのは勇気がいるし、孤独でもある。しかし、改革者はいつもそうである。ゼロベースで物事を考えるというのは、イノベーションを目指す上ではとても重要なことだ。

コアコンピタンスを使いこなす

コンピタンスとは、個人にも組織にも存在する。他社(他組織)に勝る競争力、というような意味だ。その中で特に核となるものを「コアコンピタンス」という。コアコンピタンスは誰にも負けない力の源なのだ。

例えば、カメラメーカーであれば「画像処理技術」とか「豊富な交換レンズ群」など、技術力であったり品揃えであったりする。最近の宅配は翌日配達が主流だが、配達期間が数日かかる時代には「翌日配達」は一つのコアコンピタンスと言えるものであった。つまり、コンピタンスは時代とともに競争関係にあるプレイヤーとの関係において変化していく。
社員の定着率が高い企業は、それ自体がコアコンピタンスであると言える。要は、自組織の自組織たる最大限の特徴であり、自組織の強みを端的に示すものなのだ。

しかるに、まず十分に吟味し定義することが重要だ。その上で、そのコアコンピタンスを大事にしながら、さらに磨き上げつつ、使いこなす。つまり事業化に結びつける。それがイノベーションにもつながる。他組織が真似をできないからだ。

批判を恐れない

イノベーティブな発想は、保守的な人から見れば奇抜であり、規定路線を尊重する人には危険でリスクの多い選択と映る。認知心理学でいうところの「現状維持バイアス」があるからだ。

したがって、イノベーティブなアイディアは常に批判されると言ってよい。逆に言えば、批判されるのはイノベーティブだからである。しかし批判されても、100人の内に1人や2人は賛同者がいるものである。とにかく批判は恐れるのではなく、何故ダメなのかを考える。その理由が単に継承をおもんばかるとかリスク回避などであれば、無視して良い。もし自分の視点に欠けていることであれば、素直にアイディアを見直せば良いのである。

事業の見直し

コモディティー・トラップを回避する方法の2つ目である「事業を見直す」とは、コモディティー化した分野から撤退し、新たな事業を考えるということである。これは半導体製造を行う企業が半導体工場のクリーンルームを利用して野菜を栽培するようなことである。これをやるには、それなりの組織体力が必要となるが、「洗う必要がない野菜」というような新たな価値が実現できる。

どの事業を撤退するかについてはポートフォリオ分析などで導けるが、浮いた資産を何に使うかについては、感性を求められるであろう。

感性思考デザインの実践

やはり一番無理がないのは、3の“感性思考に基づくデザインを実施する”ということである。つまり、”感性思考でモノ・コトを練り上げる”(=感性思考デザイン)ということだ。

従来と同じ感性(※5)の下で発想すると、工夫が必要であると意識するあまり議論となる。しかし議論から斬新なアイディアは生まれにくい。小手先を変えても、コモディティー化は回避できないのである。

感性を変える、つまりモノ・コトの意味に新たしい解釈を与えると議論にならないばかりか、視点も変わるので、黙っていても新しい発想が生まれる。極端な例だが、モダンデザインの時代に古典を求めるようなことだ。つまり、冒頭に述べたように、「感性思考デザイン」が重要になってくるわけだ。

単に感性を変えろ、という意味では無い。それを“ダントツ(断然トップの略)”といわれる魅力品質のレベルまで昇華させなくてはならない。感性思考デザインとしては、次のような2つの段階で取り組むこと必要だ。

  1. 新しい感性で発想する
  2. 魅力品質をダントツレベルまで高める

いかがであろうか。この2つは直近の目標でもある。この目標をクリアしながら、感性思考デザインを追求して欲しい。

ダントツの魅力品質を出すためには、まず他と違う感性を練り上げた概念づくりを行う。つまり他と違う感性を創出し、モノ・コトづくりやブランディングに展開する。他と同じ感性では、魅力の創出レベルにも大差なく、コモディティー・トラップは回避できない。まず新しい感性を求めた上で、魅力品質を洗練化する。このような、「感性思考デザイン手法」がカギとなるのである。

次回は、感性思考デザインを実施する上で必要となるスキルやノウハウについて解説する。

参考情報

(※1)「第1回 感性思考デザイン ー感性がビジネスを豊かにするー」(https://www.creativevillage.ne.jp/56109
(※2)狩野モデルではこれを「当たり前品質」と称している。
(※3)感性美とは、“感性的な意味を含んだ美”ということである。単にシンプルにするとか、造形のヒントを得るためだけにメタファーを求めるのではなく、商品の持つ本来の意味合いから感性を働かせ、デザイン表現することが重要である。
(※4)「桃太郎」(https://dic.pixiv.net/a/桃太郎
(※5)「既定路線」とか「ステレオタイプ」、「既成概念」と言われるものを指す。モダンデザインの時代にモダンデザインを過信して追求していても、ありきたりなものになってしまう。

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