今回はシリーズ最終回として「UXディレクター・デザイナーの肩書きと役割の変化」について解説する。

肩書きの多様化

UXディレクター・デザイナーの肩書きは多様である。手元にある名刺を手がかりに、ユーザーの経験価値をデザインしている人達の肩書きを調べてみた。 まず列記してみる。

  • UXデザイナーアーキテクト
  • UXリサーチャー/デザイナー
  • インタラクションデザイナー
  • UI/UXデザイナー
  • エクスペリエンスデザイナー
  • UXエンジニア
  • UXアーキテクト
  • ヒューマンセンタードアーキテクト
  • ユーザビリティエンジニア
  • ユーザビリティスペシャリスト
  • ユーザビリティデザイナー
  • エルゴノミクスデザイナー
  • UXスペシャリスト
  • プロダクトデザイナー
  • デジタルデザイナー
  • UXエバンジェリスト
  • UXライター
  • UXコラムニスト

このように18通りもある。実際に行っている仕事にあまり違いは無く、皆さん「ユーザーの経験価値のデザイン」をやっている。

実際に経験価値が生み出される現場では、上記以外に、プランナーやマーケッターなど多種多様な人が関わっているので、カオスのような状態だ。

何が起こっているのだろう。何故、こうも多くの肩書きが存在するのか。

分かりにくい肩書き

まず、分かりにくい肩書きについて説明する。

「デジタルデザイナー」はCGデザイナーと呼ぶ場合もあり、どちらかと言うとビジュアル寄りの仕事をするデザイナーである。IT機器を駆使して経験価値を可視化する(表現する)仕事であると言ってよい。

「UXエバンジェリスト」とは、UXデザインの役割とか機能を組織内に普及認知させる「伝導者」の役割を持った人である。教育部門に在籍する社員教育の担当者が自らを「UXデザインのエバンジェリストだ」と言う場合もある(※1)。あるいは専門家がプロジェクトワークから離れ、主にUXデザインの社会啓蒙を行うようになって、UXエバンジェリストの呼称を使い始めるというケースもある。

「UXライター」と「UXコラムニスト」はほとんど同義だが、書いているものがUX関連のコラムに片寄っていればUXコラムニスト、新しい経験のシナリオを書いたりプレゼン資料のコピーを考えたりする比重が高いとUXライターとなる。筆者は両方やるので、仕方なく現在は「UXライター/コラムニスト」と自称している。UXデザインの“ある側面”に特化すると、その役割を端的に表す呼称を考えるというのは必然である。

「UXアーキテクト」と「ヒューマンセンタードアーキテクト」は、共に、提供するサービスのアーキテクチャ(提供価値そのものに加え、タッチポイントやUIの種類、提供するコンテンツの構造的な構成など)や、ステークホルダー との関係性を構造的に明らかにする人である(※2)。「UXアーキテクト」はより経験に踏み込んだ思考を行い、「ヒューマンセンタードアーキテクト」はシステム寄りに思考する傾向にあるようだ。

アーキテクトのバックグラウンド

この両者をバックグラウンドでみると、システム工学系の人が多い。デザイン出身者が同じ仕事をする場合は、「UXデザイナー」とシンプルな呼称が使用されている。デザイナーはやはり「デザイン」という言葉を使うことにこだわりがある。

タッチポイントを具体的にデザイン設計する人(いわゆる、UXデザイナー)は全体の関係を理解する必要があるので、UXアーキテクトやヒューマンセンタードアーキテクトから提供されるサービスのアークテクチャは、インプット情報として必要不可欠である。

全てをデザインする役割の出現

米国のメディア「Designer News」を見ていると、製品のUIをデザインする人は「プロダクトデザイナー」と表現される。ウェブページや製品のUIデザインに関する情報メディアなので、「プロダクト」の冠を付けても違和感ないのであろう。つまりこのケースでは、「プロダクトデザイナー」は、いわゆる製品の外観をデザインする「インダストリアルデザイナー」ではない。

米国は製品開発を海外に依存しはじめてから、企業からインダストリアルデザイナーがどんどん減っており、彼らが製品の外観だけでなく、UIデザインを担当する場合も多々あるようだ。

あるいは、経験を積み高い能力を得たインダストリアルデザイナーがUIデザインだけでなく経験価値全体のデザインを担当する場合もあり、一本化した呼称として「プロダクトデザイナー」を使用しているケースもある。

役割の変化

肩書きが乱立する背景の一つには、「UX」がバズワード化していることがある。やっていることは同じ「経験価値の創出」だが、攻めるアプローチが違うということだ。もし創出するという仕事を「企画・開発」ととらえれば、それは「デザイン」のことだから、「UXデザイナー」 で良いと思うが、「デザイン」の意味を狭くとらえる人は別の呼称にしたいと思うであろうし、ある意図を持ってあえて新規性のある言葉で表現したい人もいる。だから多様化するのだ。

もう一つの背景は、従来の役割からの変化(進化)がある。モノ志向からコト志向(※3)へ変化するのに伴い、UIデザイナーやユーザビリティエンジニアの役割も明らかに変化している。役割は変化したが肩書きは従来のままというケースがある一方で、その新らしい役割をアピールするために新たな肩書を考えるということが盛んに行われる。

また、社内に「UXって何?」という人がまだ多い組織では、あえて「UXデザイナー」と自称するには躊躇いもあろう。悩みどころである。

新しく命名するのは何も悪いことではないが、他のディシプリン(例えばシステムエンジニア)のような、役割が社会的に認知される状態からは遠くなる。まだUXという言葉自体がUX界の外側ではそれほど認知されていない現状で新たな肩書を考案すると、混乱に拍車をかける。これが肩書きというラベリングにおけるジレンマである。

UXデザイナーの役割は、前回お話ししたAIの進化に影響を受けながら呼応しつつ変化する(※4)

AIデザイン(※5)が実現した世界では、デザイナーの役割は、処理中にデータを補正したり、最終案を選択したり、その結果をステークホルダーに説明することなどが中心になるであろう。コンピュータに依存しない部分において、UXデザインとしては、人の心に訴えかけ説得するようなストーリーテリングを行う役割も発生している。感性や執筆力がますます求められるわけだ。

乱立する肩書きの交通整理は誰かができるようなものではない。やはり自然淘汰に任せるしかないであろう。現状のビジネスシーンにおいては、職種的には「UXデザイン」の通りが良いようだが、知らない人も依然として多い。イノベーター理論(※6)を無理を承知であえて適用すれば、まだアーリーアダプターに浸透した程度だろう。つまり20%程度の人が認知しているにすぎないと言える。

役割が社会に認知されるには、その役割を発揮し続けることと、その役割が社会から理解され必要性が認められなければならない。

例えば、社会的にインパクトのあるサービスを創出したり(※7)、ソーシャルセンタードデザインのプロジェクトに参加したり自ら仕掛けたりして、行動に対する認知度を上がる必要がある。 しかもそれを継続しなければならない。

特に、ソーシャルセンタードデザインなどを考えると、中心に据える人は「ユーザー」とは言えないケースもあり得る。そうなると、「ユーザエクスペリエンスデザイン」ではなく、ユーザーを付けずに、単に「エクスペリエンスデザイン」でも良いような気もする。

UXデザインに関わる一部の企業・団体はソーシャルセンタードデザインに取り組み始めているが、まだ大部分の企業はそこまで成熟していない。もう少し時間がかかるのではないか。そういうものだ、と割り切るしか無いような気がする。

本コラム筆者が単著の『UXデザインのための発想法』を、11月1日に近代科学社より発刊しました。「発想」に関する手法、ファシリテーション、プロセス、ツールなど、幅広くまとめています。特に各章には「UXデザインのための○○○」と、UXデザインに役立つ視点で執筆した節も設けておりあります。どうぞご一読ください。
https://www.kindaikagaku.co.jp/engineering/kd0603.htm

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参考情報

(※1)「AppleのUXエバンジェリストが教える、優れたアプリアイコンをデザインする6つの秘訣」(http://www.seojapan.com/blog/app-icon-design
(※2)「UXデザインをUXアーキテクトに置き換える。 横文字による誤誘導」(https://medium.com/@bungo/uxデザインをuxアーキテクトに置き換える-横文字による誤誘導-973fb557f8a0
(※3) コト志向とはモノが無くなるというのではなく、モノがコトの中に内在化する、つまり入れ子の状態になることである。まずコトがあり、その中にモノがあるのだ。
(※4)「ユーザエクスペリエンスの現在地 第2回『AIでどう変わる? 〜自動車運転に於けるUX〜』」参照 (https://www.creativevillage.ne.jp/70550
(※5) アメリカの社会学者 エベレット・ ロジャース(Everett M. Rogers)氏による。「普及学」(https://ja.wikipedia.org/wiki/普及学
(※6) AIコンピュータが人(デザイナー)に代わりデザイン案を自動生成する。デザイナーがアイディア出しから解放される時代が来るとも言われている。
(※7) 宅配サービスというのはインパクトが大きかった。