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辛口査定で大人気!『プレバト!!』快進撃の秘密を水野雅之さん(総合演出)に聞く

芸能人が俳句や生け花、水彩画などに挑戦し、その道のプロによる「才能アリ」「凡人」「才能ナシ」の査定をランキングで発表するバラエティ番組『プレバト!!』。先日も裏で放送したサッカーW杯予選を視聴率で上回るなど今、話題の人気番組です。「毒舌俳句先生」こと夏井いつきさんによる劇的添削は、主婦層を中心に圧倒的な支持を得て、いまや俳句ブームを牽引しているとも言われています。同番組の演出を手掛ける水野雅之さんは、2012年の番組立ち上げ時から【木曜よる7時からの視聴者層×ダウンタウン浜田さんの未開拓ジャンル】は何なのか模索をし続けて“知的バラエティ”にたどり着いたと明かします。「俳句」「生け花」「料理の盛り付け」など狭いジャンルをどのような演出の工夫で人気番組へと成長させたのか?そして、水野さんが思う、テレビ番組の制作にとって大切なこととは?

大阪でのスキルだけでは東京では通用しない!

テレビ局を志望したのは、自分の作ったものをより多くの人が評価するフィールドで勝負したかったからです。
MBSに入社してからの6年間、東京支社で営業に携わった後、大阪本社へ異動。念願のバラエティ制作に配属されました。制作マンとしてはかなり出遅れたスタートだったので、配属早々かなりのスパルタ教育を受けました(笑)。異動の1週間後には「東京から来た自分しか気づかない大阪で最も驚いたこと」をテーマにVTRを制作し、配属1か月後には、4時間の生放送『ちちんぷいぷい』で、チーフディレクターとして番組進行に関わる指示を出しました。

生放送を仕切るチーフディレクターの役割の1つはCMへ行くタイミングを決断し瞬時にボタンを押すことです。しかし関西の番組は出演者の自由気ままなトークが番組のウリなので、CMへ行くきっかけは放送前に決めません。桂ざこばさん、なるみさん、たむらけんじさんなど、圧倒的な喋りのプロたちのトークを、配属1か月の素人同然の僕が区切らないといけない…そのタイミングがつかめなくて、生放送では致命的とも言える10分の遅れを出してしまいました。まさに究極のスパルタ教育。その様子を見てプロデューサーは大笑いしてました(笑)あの日は、僕が制作マンとして洗礼を受けた日でしたね。
大阪の制作ではその後もスパルタ教育が続きまして、リサーチャーがつくことなくネタを自分で探し、作家さんなしで構成を考え、毎週VTRを作り続けました。この時に培ったネタの収集力や構成力は現在の番組制作での“地肩の強さ”に繋がっています。
2年後に全国ネット番組を制作する東京支社に異動しました。ただ、全国ネットは大阪でのスキルが全く通用しないんです。中でも最も苦労したのが“視聴者との距離感”でした。
例えるなら結婚式のVTRですね。結婚式のVTRって誰が作っても絶対にウケるんです。それは、皆が祝福モードであるという共通の価値観があるから。あと、会場にいる人だけが分かる“身内ウケ”で笑いが取れるんです。それと同じで、関西エリアだけで放送する時は、テレビ局と視聴者の距離感が近いから、ネタを共通の価値観に落とし込みやすい。でも、全国ネットはそうは行かない。どんな目線で見てもらうのかという明確なフリや煽り、丁寧なフォローなどが不可欠なんです。そんな全国ネットと大阪の差を感じながら、東京での制作のスタートを切りました。

日本の文化で“縦文字で書けそうなもの”をビフォーアフターで見せていく

現在、総合演出を担当している『プレバト!!』は、まず視聴者層を考えて企画しました。浜田さんが司会の番組だと視聴者は絶対に「笑い」をイメージします。でも僕が任された平日の夜7時枠の視聴者層は、主婦が中心で笑いだけでは見てもらえません。【主婦層×浜田さんにとっても未開拓のジャンル】を模索して“知的バラエティ”というキーワードが浮かび上がったので、「才能ランキング」を立ち上げました。

才能ランキングの発端は身近なところにありました。例えばプロのカメラマンは入社希望の子に「そのコップを撮ってみて」とテストするそうなんです。その時のワンカットのサイズで「才能ある」か「10年やっても才能ない」が分かるらしくて。もちろん、「このぐらいの余白を持たせると良い」などの知識は後からでも習得できますが、それでも天性のセンスの差は埋めがたいそうです。というような一瞬で才能のアリ、ナシが分かるものを集めて番組にしようと決めました。

最初に浮かんだジャンルは「言葉の表現力」「芸術センス」「リズム感」です。これは、自分が才能ナシと言われたら特に嫌な気持ちになるものをチョイスしました(笑)。それを他の番組でやっていない感じで査定しようとなって出てきたのが[俳句][生け花]でした。「リズム感」は、結果的にはカスタネットを叩いてもらって査定したんですけど、企画段階では[日本舞踊]で考えていました。裏番組が『VS嵐』や『黄金伝説』といった華やかな人気番組でしたから、逆に正反対の狭いジャンルをワザと狙ったのですが、それがかえって番組のオリジナリティとなりましたね。今まで好評だったのは[俳句][生け花][盛り付け][ぬか漬け][着物リメイク]など狭いテーマばかり。共通点は“縦文字で書けそうな日本文化”です。

あと俳句の査定方法も思い切りました。俳句のような狭いジャンルをテレビで扱う場合は、例えば五・七・五の最後の五音を空けてクイズにするのが王道なんです。だってテレビを見ながら、まったく身近でもない俳句をゼロから一緒に考えるって超積極視聴ですからね。まずありえません(笑)。でも十七音を全部書いてもらって査定するという、ストロングスタイルにしました。結果的にはこれが上手くいって良かったです。

モニター越しだからこその毒舌!夏井先生と芸能人のベストな距離感

「才能ランキング」の一番の見せ場はもちろん芸能人の順位発表ですが、最初の収録で、先生による添削やお手本のビフォーアフターショーが面白いことに気が付きました。今や『プレバト!!』はカルチャースクールですよね。そう、日本トップクラスの講師が無料で分かりやすく教えてくれる主婦向けカルチャースクール番組です。

よく「俳句の先生はどこで見つけてきたの?」って聞かれるんですけど、夏井いつき先生は、ディレクターが全国の俳句の先生を探しているうちに、とあるケーブルテレビの動画を見つけてきたんです。それを見せてもらって即決しました。一般の方の俳句を講評していたので、まだ優しかったんですけど、それでもキレッキレでした(笑)ちなみに「あの毒舌は演出?」とも聞かれますが、僕らは夏井先生のキャラにまったく演出をかけていません(笑)
でも、たった1つだけ演出をしていることがあります。それは夏井先生をモニター越しにしていること。実はあの距離感がベストなんです。というのも、さすがの夏井先生も初対面の芸能人を目の前にしたらどうしても優しくなってしまうんですよね。年上の大御所や強面の芸能人に臆することなく繰り広げられるあの添削はモニター越しだからこそできるんです。

関西と関東の違いから、変えた“見せ方”

『プレバト!!』は関西では開始当初から好評だったんですけど、関東の視聴率が二桁に乗るか乗らないかの時期が続きました。でも、浮上する手応えはあったんです。
視聴率を上げるには2通りの手段があって、1つは視聴者の数を増やすこと。もう1つは見てくれている人の視聴時間を伸ばすことなんですが、『プレバト!!』の場合は、関西も関東も、見始めたらチャンネルを変える人が極端に少ないというデータが出ていたんです。関西と関東の視聴率の差は、見てくれる人数の差だけだったんです。

じゃあ見てくれる人数を増やすにはどうすればいいのか、ということで2つの手を打ちました。
まずは1年半前から順位を発表された人たちにランキング順に座ってもらうように変更しました。本来、レギュラー番組のセットというのは、いつでもリニューアルに対応できるようにしておくものなんですが、東京の視聴者の方が、大阪よりも見た瞬間の分かりやすさを求めているし、「才能ランキング」の内容には自信があったので1秒で企画が分かるセットに変えました。
もう1つは出演者の幅を広げました。特にKis-My-Ft2の活躍は一つの分岐点で、明らかに視聴者が増えましたね。しかも彼らがすごいのは真剣に俳句や生け花と向き合ってくれていることです。才能ナシ査定の直後にセットの裏で「才能ナシだったらもう呼ばれないですか?」と涙目で聞いてきた千賀(健永)さんや最下位の席で逆ギレしてる二階堂(高嗣)さんなど、彼らの最下位を全くオイシイと思わずに悔しがる姿が、番組に刺激を与えてくれています。

番組作りは“総合力”

現在は『プレバト!!』以外に、『林先生が驚く初耳学!』の演出も担当しています。『プレバト!!』と同様に、『初耳学』もまず放送枠を意識して、どうすれば多くの人に見てもらえるかを一番に考えています。
『初耳学』が放送されている日曜夜10時はここ10年で大きく視聴習慣が変わりました。かつてこの時間で放送されていた『世界ウルルン滞在記』は簡単に言うと10時50分にピークが来る番組です。10時に出会って、いろいろなことがあって10時50分に迎える別れの朝で涙を誘っていました。10年前はそのスタイルが合いましたが、今は10時になったらインターネットで動画を見る人もいるし、月曜からの学校や会社勤務に備えて早々にお風呂に入る人もいるし、寝る人もいる…実は10年前に比べてこの枠の総視聴率がかなり下がっているんです。そのようなライフスタイルの変化の中で、僕は10時1分にピークを作りたかったんです。10時1分にまず驚いてもらって、その後も少しでも長く惹きつけて、テレビを消す時間を何分遅らせられるか、と考えて作ったのが『初耳学』です。

僕はテレビ番組は“商品”だと思っています。決して“作品”ではありません。多くの人に見てもらえるかが全てですし、「視聴率は悪かったけど面白かったから満足」なんてことは絶対にありえません。自分が満足する“作品”を作りたいんだったら動画サイトに上げれば良いわけで、僕らは視聴者やスポンサーを満足させることを目的としたプロなんです。もちろん媚びるということではありません。テレビ離れが叫ばれる中、新たなニーズを発掘しようと日々、頭を悩ませています。
あとこの仕事は、才能や発想は研ぎ澄まされていなくてもいいと思っています。発想力は確かに大切ですが、場数や経験、人脈、どれだけテレビを見ているか、街ぶらや本屋さんなどでのリサーチや勉強などなど……。それらの総合点が高い人がテレビでは勝つような気がするんです。発想力が弱いと思ったら他でカバーして“総合力”を高めたらきっと勝てるような気がして僕は番組を作っています。


番組情報

MBS/TBS『プレバト!!』
毎週木曜 よる7:00~
http://www.mbs.jp/p-battle/

MBS/TBS『林先生が驚く初耳学!』
http://www.mbs.jp/mimi/


profile2

水野雅之(みずの・まさゆき)

1977年愛知県春日井市出身。慶應義塾大学卒業後2000年毎日放送入社、東京支社テレビ営業を経て2006年本社制作局へ配属。『ちちんぷいぷい』の演出を手がけ、『たむらけんじの学校に行こッ イマドキのセイシュン』で放送文化基金賞受賞。2008年東京支社テレビ制作部に異動。『チェック!ザ・No.1』『走れ!ポストマン』などのディレクターを経て『イチハチ』『超人気芸人ガチで大ゲンカ祭』『芸人ベストパフォーマンス』などの総合演出を手がける。現在は『プレバト!!』の総合演出と『林先生が驚く初耳学!』の演出・プロデューサーを担当。高校時代の2年間、現代文講師の林修に師事。当時から講義終わりに食事に行く間柄で、林が今でも当時の答案内容も覚えているほどの師弟関係。

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