ゲストが“話したいことを話す”トーク番組『オトナの!』(毎週水曜 深夜1:31~ MC:いとう せいこう、ユースケ・サンタマリア)。同番組のプロデューサーを務める角田さんの創り出すものは、ジャンルにとらわれず多岐にわたります。まず面白いことを考え、それを番組として、またリアルイベントや本、アプリとしてなど、その時々に最適な方法でアウトプットしていきます。その角田さんが考えるテレビの未来、そしてこれからのクリエイターに求められる“自分のスキルをタレント化する”こととは…?!

 

■ 世界史を学べば、全てを学ぶことができる

IMG_4808大学では世界史を専攻していました。なぜ世界史を学びたいと思ったかと言うと、世界史を専攻しておけば、日本史も含めて全てを学ぶことができると思ったからです。ビートルズが好きなら、アルバムを1枚目から聴きますよね、それはビートルズの歴史を学ぶということで。数学にしても、アルキメデスから始まって、ニュートン、アインシュタインと数学の歴史を学ぶことだと思うと、僕は歴史好きというわけではなくて、ただ全てのことに興味があって、何でも好きだから世界史を専攻したのだと思います。

そして、何でも興味があるからテレビ局に入り、バラエティをやっておけばドラマもドキュメンタリーも報道もやれるので、バラエティをやっているのだと思います。自分のことをバラエティプロデューサーと名乗っているのも、バラエティ番組のプロデューサーということではなくて、いろいろやるという意味でのバラエティのプロデューサーです。だから本(『成功の神はネガティブな狩人に降臨するーバラエティ的企画術』、『「24のキーワード」でまるわかり! 最速で身につく世界史』)も書いたし映画も撮ったし、ロックフェスを主催したり、ネットで企画を形にすることもあれば、番組も作ります。一般的には、番組のために面白いことをしようと考えますが、そうではなくて。面白いことを考え、形にする結果が番組になったり、時にはリアルイベントやアプリ、本になるということだと思っています。

 

■ “面白い”には2種類ある

『オトナの!』はゲストの方に“話したいことだけ話してもらう”スタンスの番組です。例えばゴシップネタとか、話したくないことを話させようとする番組が多い中で、そこが一番の違いだと思っています。
話したいことを話してもらった方が面白い番組ができます。面白いには2種類あって、面白いことを言う人と、面白いことを考えている人だと思うんです。今のテレビには、面白いことを言う人しか出ていないんですよ。フリやオチや空気や…なぜかと言うと、面白いことを考えていても説明するのには時間がかかるので、編集でカットしちゃうんです。だからテレビは面白いことを言う人しか出れないメディアです。
ところが、面白いことを言う人よりも面白いことを考えている人の考え方を聞いている方が本当は面白いんです。でも、それを伝えるには時間がかかりますよね。なので『オトナの!』には、放送が何週にわたってもいいから面白いと思っている人しか出てもらいません。

一番良い例は紀里谷 和明さんと蜷川 実花さんが出演した回です。紀里谷さんは話も面白いので、テレビでいう「面白い人」でもあります。だから短く編集しても面白いですが、その言葉の選び方のするどさから見る人には誤解もされやすいんですよね。僕は紀里谷さんに「何週にわたっても大丈夫なので、面白い話をしてください」とお願いしました。そこで紀里谷さんが選んだテーマが「大人の奴隷解放運動」でした。今の若者は自分探しという奴隷に成り下がっていて、それが良くない、と蜷川 実花さんと話し合い、3週にわたって大人の奴隷解放運動について語ることになりました。そんな番組、この21世紀に他にないですよね(笑)でも、その回、圧倒的に面白いですよ。

 

■ 360°全方位が撮影できるカメラ×地上波=テレビの未来

IMG_4836今、テレビの未来として大きな可能性を感じているのは、360°全方位が撮影できるカメラです。実際に「オトナの!フェスNEXT」というライブイベントの開催後に、その様子を360°カメラを使って撮影した映像を、アプリで配信したこともあります。

360°カメラは、ステージの真ん中に設置されたカメラで、あたかもステージの上にいるようにそこから客席が見えて、横を見ればギタリストやベーシスト、後ろを振り返ればドラマーが見えます。ライブハウスの天井を見上げると、CGで合成した花火や星も見えるんです。

360°カメラと地上波を組み合わせて面白いのは、地上波のライバルにならないところですね。Netflix もYouTubeも地上波のライバルになり得ますが、地上波では360°の放送はできないので、カット割りしたライブ映像をテレビで放送して、翌日から360°映像をネットで配信するという展開もできます。

例えば360°カメラでドラマを撮って、刑事が「この中に犯人がいる」と言ったとします。その時にはカメラは刑事の方を向いていて「犯人はお前だ!」となった時に指名された人の方にカメラが向きますよね。それが普通のドラマのカット割りです。
翌日、360°版をアップすると、「犯人はお前だ!」のカメラの動きがないから、登場人物の誰を見ていても良いわけですよね。そうすると、犯人と言われた人は驚いた顔をしているけれど、その横でニヤッと笑っている人がいるんですよ。テレビでドラマを見ていた人にとっては、指名された人が犯人だけれど、360°版を見たら、真犯人が別にいるんじゃないかとか。ストーリーが複層的に展開するドラマが作れるので、360°版はテレビ局にとっても未来があると思います。

 

■ 自分のスキルをどうタレント化するか

IMG_4806今から30年後の2045年は、特異点と言われています。特異点は人工知能(AI)のIQが人間のIQを超える日です。人間のIQはだいたい100くらいで、その100倍の10000になるというんです。それまでは、AIのプログラムを人間が作っているんですが、AIがプログラミングし始めるんです。そうすると、数年後には自動運転も普及して、運転手という仕事もなくなりますよね。

そう考えると、やりたくない仕事はなくなります。AIがやってくれるようになるので。よく「やりたいことを仕事にしましょう」という言葉を聞くのは、今までは裏を返せば仕事はやりたくないことで溢れていて、それでお金をもらってバカンスに行く、物を買うという世の中でした。でも、これからはやりたいことを仕事にせざるを得なくなります。この差は凄く大きくて、やりたいことを仕事にしたい、ではなくて、やりたいことを仕事にしなくちゃ生きていけなくなると思います。そんな時にどう生きるかを考えて仕事を選んだ方が良いですよ。

テレビに出ている人はタレントと呼ばれますが、タレントは才能、という意味ですよね。芸能人が自分の才能で生きている、という意味で言うと、これからは全ての人がタレント化していく社会。社会がテレビ化して、一人一人が多かれ少なかれタレントになっていく。ブログが上手いタレントかもしれないし、料理が上手いタレントかもしれない、あなたはそのタレントで仕事をしていますか?という観点で仕事を選んでいかないと生きていけなくなりますよ、という未来が待っています。「ADが辛いから、普通の仕事に戻るわ」と聞くこともありますが、その“普通の仕事”が、もうなくなるんですよ。これに気付いている人は、職種に関わらず僕と同じようなことを言っています。気付いていない人は、時給とかブラックバイトとか、自分の労働をどうお金に変えるかを言っていますが、そんな時代じゃなくなると思います。これからは、自分のスキルをどうタレント化するかが、特にクリエイターを目指す人にとって一番大事だと思いますね。


■番組情報

TBSテレビ『オトナの!』
毎週水曜 深夜1:31~
logo
http://www.tbs.co.jp/otonano/
https://www.youtube.com/user/TBSOTONANO

■書籍情報

成功の神はネガティブな狩人に降臨するーバラエティ的企画術
著者:角田 陽一郎
出版社:朝日新聞出版
定価:1,512円(税込)