――撮影監督・今村圭佑の最新作「青春18×2 君へと続く道」。大学の先輩であり同志である監督の藤井道人のルーツ・台湾との本合作は、文化を超え、言葉を超え、映画の力で結ばれ生まれた。大事にしてきたのは、映像に登場人物の感情がきちんと乗っているか。考えて撮り、撮りながらも考える。台湾と日本、過去と現在を巡りながら、今村は圧倒的な強さと深さで“想い”を撮る。人生という旅の中で、出会ってくれてありがとう、そう思わずにいられない愛おしい映画だ。――

日本と台湾のシーンの質感を変える

映画「青春18×2 君へと続く道」は、監督の藤井道人さんからのオファーでした。撮影(2023年3月から約2か月)の1年半ぐらい前のことだったと思います。藤井さんの作品はずっと撮影させてもらっているのですが、藤井さんは台湾のクオーターでいつか台湾と合作で映画を撮りたいと話していて、それが実現するということもあって参加したいと思いました。僕の初監督作品「燕 Yan(つばめ イエン)」(20)も日本と台湾が舞台でした。日本と台湾というふたつの地域や家族、親兄弟間にできてしまった壁やボーダー(境界線)を越えようとする映画なのですが、撮影現場で日本と台湾のスタッフが交ざり合って協力している様子、それこそ一緒に荷物を運んでいる姿を見るだけで、「まさにボーダーを超えているな」と感じる瞬間がたくさんあって、台湾のスタッフと一緒にやれたことが映画を撮っていく上でも大きくプラスになった部分がありました。

今回も再び台湾で撮影するということで、「燕 Yan」で一緒だったスタッフも何人かいたりして、台湾のみなさんとのつながりがそのまま映画にプラスアルファされて出てくるといいなと思いました。本作での一番の挑戦は、日本と台湾のシーンにどう変化をつけるかということでした。それで、普通は全編同じ機材で撮るのですが、今回はあえて機材を変えて、日本パートは最新のレンズで、台湾パートは古いレンズで撮影し映像の質感を変えました。台湾のシーンの中でも、ジミー(シュー・グァンハン
)とアミ(清原果耶)がバイクでふたり乗りをする場面などでは8ミリフィルムカメラも使いました。

手持ちでハンドルをガラガラ回しながら撮った、ふたりに本当に近い目線からの、また違った映像の趣を感じてもらえると思います。実は、8ミリで撮ろうと思いついたのは台湾の撮影に出発する前日でした。撮影は日本パートからだったのですが、日本に来て18年前の台湾でのアミとの日々を思い出している36歳になったジミーの顔を撮りながら、ジミーの目線の先に映っているものを思ったときに、映画の中に登場する台湾での18歳当時のジミーたちを映したそれと、大人になったジミーの記憶の中にある18歳の映像とは違うものだよなと感じました。僕自身、長編映画で8ミリを使うのは初めてでしたが、急遽8ミリを取り寄せ台湾の撮影に向かいました。

感情を撮りたい

日本パートは、本当にジミーが通ってきたルートをたどって撮影したのですが、電車シーンの撮影は緊張感がありました。普通に運行している車両だからやり直しできない上に時間も限られているし、1時間半電車に乗っていても1時間半のどこで撮ってもいいわけではなくて、何駅から何駅までの間とか、トンネルを抜けた瞬間だったり、本当に一瞬で特定の場所を撮らなければならなかった。同じ場所で撮ったシーンはないんじゃないかなと思うぐらい、毎日毎日違う場所で、ジミーと同じように旅をしながらの撮影でした。いろいろな場所を転々としながら撮っていくというのは、この映画にはとても重要だったし、景色がどんどん変わっていくのは撮っていてとても面白かったです。ずっと同じところで3日も4日も撮っていると僕は飽きちゃうんです(笑)。

美しい風景や自然を選んで撮影しているのですが、日本を旅する大人になったジミーには美しくはあるけれど、そんなにキラキラしたものとしては見えてないと思いました。だから日本パートは、色を抑えて少しグレーがかったマイルドなトーンにして、ジミーの感情がスクリーンに出ればいいなと考えました。それと対比するように、台湾パートは色がしっかり立った映像にして雰囲気を変えました。登場人物たちの感情がちゃんと背景に乗った映像にするということは、ずっと藤井さんと話して大事にしてきたことのひとつです。

言葉がなくても伝わる

空撮についてはドローンを使っているのですが、操縦はドローンパイロットの方で、僕自身がドローンの動きを指示しながら搭載したカメラを操作し撮っています。ドローンでの空撮はどこからの目線なのかがわかりづらい特殊なカットではあるので、あまり突出し過ぎないようにしたいと思っているのですが、今回は場所や土地の雰囲気がとても重要だったので必須でした。ドローンを使って街のスケール感を見せたり、あと台湾と日本が映像でつながる部分に“橋”が映画の中で特徴的な場所として登場します。ジミーが黒木華さん演じるネットカフェの店員と一緒に車で橋を走るシーンと、台湾でバイクに乗って橋を渡るジミーを同じようなカメラポジションでつなげたり、そういったことも藤井さんのホン(脚本)を読んでイメージしたものを藤井さんと話し決めて撮影していきました。

今回、台湾の俳優さんとスタッフと映画を撮影するということで、言葉が通じなかったり、不都合な部分が出てくるかもなって思っていたのですが、本当にまったく問題ありませんでした。逆に、言葉がなくても伝わるんだなって、映画「燕 Yan」のときも思ったのですが、今回はさらに強く感じました。言葉が通じないからこそ、お互いコミュニケーションを取ろうと表情から読み取ろうとしたり、それってすごく映画的だなと感じました。言葉がわからなくても顔を見ればわかるって映画のシーンでよくあるけど、やっぱりそうだよなって。日本で撮影しているとき、僕は俳優さんの感情が動く瞬間って撮っていてわかるのですが、台湾の俳優さんに対してもまったく同じで、言葉でコミュニケーション取れなくても彼らの感情の動きを感じることができた。「いい映画を撮る」という同じ想いさえあれば、もし今後僕が海外作品に参加することがあってもなんの心配もないと思いました。

「いいな」って感じてもらえる瞬間が絶対にある

映画の世界を目指すきっかけは、高校生のときに石川寛監督の「すきだ、」(06)を観たことです。それまで映画はデートで行くぐらいで興味なかったのですが、たぶんポスターとかを見て気になって観に行ったら、たまたま劇場に観客が僕ひとりで、なぜそんなに響いたのかわからないのですが、本当にいいなって思ったんです。いまでこそ映画や撮影についてもわかってきて、撮影時の記事なども読んで、「だからああいう空気感が出てたんだな」ってなんとなく理解できてきましたが、撮っている人たちの作品に込めた思いや狙いを、映画について何も知らない高校生の僕ですら勝手に感じてしまった。だからいま、「だれも気づいてくれないかもしれない」みたいなこだわりも大事にしています。今回も、僕がどのような意図で、どんなレンズで撮ろうが、観てる人にはわからないかもしれない。でも、僕らの想いの積み重ねが、それほど映画好きでない人にも何かの瞬間に「いいな」って感じてもらえることだって絶対にあると思っています。だって実際それで僕は、いまカメラマンになっているわけですから。

学生時代はあまり勉強は好きではありませんでした。高校時代はサッカー部で、むしろ運動しかやってなかった感じです。でも運動会や文化祭は大好きでした。映画の世界にあこがれたのも、映画のメイキングを観たときに文化祭のような雰囲気で、みんなでものをつくるのって面白そうだなと感じたからで、それで日本大学芸術学部映画学科に迷い込んでしまった(笑)。大学では、映画づくりというより、撮影が終わったあとの打ち上げが楽しいといったノリでした。でも同時に、実際に自分で撮ってみると、自分が観ている映画と映像が全然違っていて、「なんでだろう?」って、レンズやフィルターを買ったり、うまくできないことが単純に悔しかった。大学の先輩だった藤井さんとはその頃から一緒なのですが、自分も周りもプロじゃないし、機材とかもいろいろない中で、あるように見せるにはどうしたらいいかって考えながらやっていくうちに、どんどん映画を撮ることが面白くなってのめり込んでいきました。

みんな絶対にサボってない

藤井さん以外にも何人か大学時代から一緒にやっているスタッフがいるのですが、あんなふうに自主制作をやっていたメンバーが、いまプロになってよくこんな作品撮っているよなって、ふとした瞬間に思うことがよくあります。でも全員に共通しているのは、絶対にサボってないということです。大学生のときから遊びのように撮っていたし、単純に楽しくてずっとやっていたのですが、いつもうまくいかないと思っていました。いまだに僕は何を撮ってもうまくいかないなってやっぱり思っています。それはひとつ、いまも撮っているみんなに共通していることだと思います。常に、何かあるんじゃないか、まだもっといいものがあるはずだって、諦めないで時間のある限りやるという気持ちは、大学生の頃からずっと変わらずみんな持っていると思います。

自分の中でカメラマンとしての意識が明確に変わったのは、中島哲也監督とコマーシャル(ゆうちょ銀行「ゆうちゃん。」シリーズ)を一緒にやらせてもらったときです。まだ僕は26歳ぐらい、カメラマンになったばかりでした。それまでは本当に「人を撮る」という考え方しかなかったのですが、中島さんに、人と背景や周りの画(え)とのバランスで撮ることを教わり、自分の中に新しい引き出しができた。それは以降の僕の多くの作品で、特に今回のように、台湾と日本、18年前と現在といった時間や場所の違いが明確な作品でとても活かされています。例えば、台湾パートは人で撮っていて、主人公のジミーだけを見て、ジミーだけを追っかけて撮影しています。元々僕の本質にある撮り方です。でも日本パートのジミーは背景で撮っています。周りの景色の中にジミーがいるという、中島さんと撮って教わった引き出しです。中島さんとの出会いは僕にとって転機でした。

挫折ってあまり感じたことはありません。自分のことを過大評価しないし、失敗しても、それがいまの自分の実力だなと。でも大体毎回落ち込みはします。あのカット、もうちょっとうまく撮れたのになーとかって思うんですが、次の日まで引きづらない。カメラマンとして1歩でも先に進みたいなら、「人それぞれなんですけど」という枕言葉を一度やめてみる。大体言いますよね、「人ぞれぞれだとは思いますが」って。でも人に何か伝えることを職業にするのなら、そんな当たり前の言葉は一回やめて、まず自分の好きをしっかり出してみる。自分の好きなものや、自分がいいと思ったものがみんなの好きなれば、もっと面白いものが撮れるとはずだと、僕は考えてやってきましたから。達成率は、50%です。増えも減りもしない(笑)、50%です。

今村圭佑(いまむら・けいすけ)
1988年富山県生まれ。日本大学芸術学部映画学科撮影・録音コース卒業。大学在学中より監督・藤井道人と自主映画を制作する。卒業後はKIYO(清川耕史)氏のもとで約2年アシスタントを務めたのち、24歳で撮影技師として独立。映画・CM・MVのカメラマン、撮影監督として活動。2020年には初長編監督作「燕 Yan」を手がける。主な作品に、映画「帝一の國」(監督:永井聡/17)、「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」(監督:湯浅弘章/18)、「デイアンドナイト」「新聞記者」(監督:藤井道人/19)、「約束のネバーランド」(監督:平川雄一朗/20)、「ヤクザと家族 The Family」(監督:藤井道人/21)、「余命10年」(監督:藤井道人/22)、「百花」(監督:川村元気/22)、「最後まで行く」(監督:藤井道人/23)、「リボルバー・リリー」(監督:行定勲/23)、「四月になれば彼女は」(監督:山田智和/24)、ドラマ「dele(ディーリー)」(テレビ朝日/18)、「新聞記者」(Netflix/22)、MVに、乃木坂46「気づいたら片想い」(14)、米津玄師「Lemon」(18)、あいみょん「さよならの今日に」(20)、宇多田ヒカル「Gold ~また逢う日まで~」(23)ほか。
映画「青春18×2 君へと続く道」 
台湾。36歳のジミー(シュー・グァンハン)は大学の同級生と立ち上げたゲーム会社の代表の座を解任される。失意の中、実家に戻ったジミーはしまいこんでおいた1枚のハガキを手に取る。それは高校生だった18歳の夏、日本からやってきた初恋相手のアミ(清原果耶)から送られてきたものだった。会社の代表として最後の仕事のために日本に向かったジミーはアミとの思い出を辿る旅に出る。そして18年前のアミの本当の想いを知る。
出演:シュー・グァンハン、清原果耶、ジョセフ・チャン、道枝駿佑、黒木華、松重豊、黒木瞳
監督:藤井道人、原作:ジミー・ライ「青春 18×2 日本慢車流浪記」
主題歌:Mr.Children「記憶の旅人」(TOY’S FACTORY)

エグゼクティブプロデューサー:チャン・チェン、脚本:藤井道人・林田浩川、音楽:大間々昂、プロデューサー:ロジャー・ファン・前田浩子・瀬崎秀人、
照明:平山達弥・シュー・チュンチュエン、録音:根本飛鳥・チュウ・シーイー、美術:宮守由衣・ヤオ・クオチェン、装飾:野村哲也・ジェニー・コー・チミン、衣裳:皆川美絵・エマ・ユーユン・リン・ゾーイ・スー、
台湾キャスティング:ルーシー・チェン、キャラクタースーパーバイザー:橋本申二、ヘアメイク:西田美香・ボール・ロー、ゾイ・リン、編集:古川達馬、CGプロデューサー:平野宏治・トミ・コー、VFXスーパーバイザー:高橋裕紀、カラリスト:石山将弘、スーパーヴァイジングサウンドエディター:勝俣まさとし、リレコーディングミキサー:浜田洋輔、助監督:戸祭朝美・ウー・ユハン、制作担当:柿本浩樹・リー・チーシュエン、ウー・チーヨー、製作幹事:JUMPBOYS FILMS・サイバーエージェント、制作プロダクション:JUMPBOYS FILMS・BABEL LABEL、配給:ハピネットファントム・スタジオ
Ⓒ2024「青春 18×2」Film Partners

TOHO シネマズ 日比谷ほか全国公開中

インタビュー・テキスト:永瀬由佳