テレビ朝日『激レアさんを連れてきた。』演出・舟橋政宏さん×フジテレビ『全力!脱力タイムズ』総合演出・名城ラリータさん対談 テレビを見てもらうのが大変な時代に、人気バラエティ番組を作り続ける苦労と情熱に迫る!

それぞれ人気バラエティ番組を手がけるお2人。以前ご登場いただいた舟橋さんは名城さんの制作手法に惹かれ、「是非色々聞いてみたい」ということで今回初対面での対談が実現! 番組作りの苦労や工夫について、それぞれの思いを語っていただきました。


舟橋 政宏(ふなはし・まさひろ)
1985年、愛知県生まれ。早稲田大学商学部卒業。2008年、テレビ朝日に入社。
以来バラエティ番組の制作を担当。ディレクターとして『マツコ&有吉の怒り新党』などに携わり、現在は『激レアさんを連れてきた。』の演出と『中居正広の身になる図書館』のチーフディレクターを担当。

 


名城 ラリータ (なしろ・らりいた)
1976年 沖縄県生まれ 日本大学芸術学部卒業。2004年フジクリエイティブコーポレーションに入社。以来バラエティ番組の制作を担当。
ディレクターとして『笑っていいとも!』、『SMAP×SMAP』などに携わり現在は『全力!脱力タイムズ』、BSフジ『冗談騎士』の総合演出を担当。

今の時代にコント番組をやるのは難しい

舟橋 今回名城さんにお会いしたかったのは『全力!脱力タイムズ』が好きで毎週見てるんですけど。どの局も幅広い層を狙った番組作りをしている中で、全編コント番組を作ってるのが凄いなと思っていて。

名城 光栄です。もともとやりたいことではあったんですけど、コント番組をただやりたいと言ったとて誰も賛成してくれないだろうなというところからスタートしてて。実は当初「脱力タイムズ」は全然違うスタイルの番組で、衝撃映像やYouTube映像を見て、有識者の人たちが自分の了見の話をするっていうシステムだったんです。でも途中からちょっとづつ誰からも気づかれないようにコントしてやろうと思って。コントってフリから見てもらわないとわからないので、「途中から見る人が多いのに大丈夫なのか」って言われがちなんですよね。でも僕はそういうことじゃなくても見てもらえるっていう自信があったので、報道番組にすることによって有田(哲平)さんのキャラクターも入れられるし誰にもバレないんじゃないかなということで。

舟橋 コント番組ってみんなやりたいんですけど全然企画書通らないんです。で、通りやすくするために「知識が学べるコント」とかにするとめちゃくちゃつまんなくなっちゃう。それをうまくすり抜けて作ってらっしゃったんで、どういう風に企画書出したのかなと思ってたんですよ。

名城 全然別ベクトルのものを出して、色んなものに応用がききますというようなニュアンスで編成マンと一緒に説明しましたね。その代わり、ただ面白映像だけ流すのもひねりがないので解説員の先生たちを呼んだんです。
で、先生たちに実際に映像を見せて、大喜利っぽい感じで「はい、おもしろいこと言ってください」って言って。そしたらみなさん意外と話せたんですね。コレは形になるかもな、っていう勝算を得てやったら1回目から反響があったんです。そしたら可能性があると思ってくれたのか、急にレギュラーに決まりました。嬉しかったですね。

――何故コントは企画が通りづらいんでしょう?

舟橋 理由は色々あると思います。セットを組む予算がかかるとか、基本的に興味がある人はそんなに多くないとか。制作側も絶対通らないって半ばあきらめちゃってる人もいるくらいのことだから、余計「脱力タイムズ」ってすごいと思うんですよ。

名城 今レギュラーで放送してるコント番組って言ったらNHKでやってる『LIFE!』ぐらいじゃないですかね。さっきも言ったみたいに導入から見てる人に集中力が必要なものになってしまうので。冒頭で種を植えて、それを後々回収するのに、その種の意味がわかってないと全く笑えないものになるし、見てもらうためにテレビ的な演出をかけてしまうと何となく野暮なものになる。かといってストレートにやっちゃうと見てもらえない。だから本当にコント番組にとっては大変な時代なんですよね。



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――それでもコント番組をやりたい理由っていうのは?

名城 単純に好きだからですね。コントやりたくてテレビの世界に入ったんで。僕『笑っていいとも!』『SMAP×SMAP』『ココリコミラクルタイプ』とやってきていて、あまりコントから離れたことがなくて。もちろん離れて情報をベースにした番組もやったことあるし、それはそれですごく勉強になったんですけど。自分でやるならそういう演出を入れたいと思って考えてます。

舟橋 「脱力タイムズ」ってフジテレビの他の番組とも全然毛色が違うじゃないですか。ちょっと調子悪くなったりしたら色々言われるんじゃないかなと思ったんですけどどうですか?

名城 めちゃめちゃ言われたいんですけど「数字(視聴率)のためにこうしろよ」みたいに言われたことって1回もないんです。フジテレビの編成が面白い事には寛容なんですよ。最近は新入社員の面接で「脱力タイムズ好きです」って言う人がすごい増えたって聞いたりもするので、そういう意味では局のカラーの1つの番組として認めていただけたのかな?と感じていますね。

舟橋 そうですよね。もう何年も続いてますもんね。

名城 調子悪くなったらすぐ言われると思いますけどね。今はいつも「コレ報道番組なんだよな」っていう意識に原点回帰するようにはしてます。内容であんまりボケ過ぎるとその次その次も面白くないといけなくなっちゃうんで。だからニュース性とか情報性とか、そういうものを1個消化してボケるようにしてて。

舟橋 確かに1個消化してからボケてますよね。

名城 そうですね。だから、メインキャスターの有田さんとも毎回事前に打ち合わせして、「こういうベクトルでやりたいんです」「でもこのゲストさん『しゃべくり007』に来たときこういう人だったから多分こっちいかないよ」「じゃあこうしましょうか」みたいなことを話すんです。コントって本人がキャラクターを背負うので、台本作って渡したら終わりじゃなくて、出演者の意見も入れて一緒に作ってる感じがすごくあるんですよ。僕らが構築したものを有田さんと話して、有田さんの素敵なアイディアがめちゃめちゃ入ってます。

舟橋 そうなんですね。有田さんがどれくらい関わってらっしゃるのかすごく聞きたかったです。

名城 ガッツリ関わってます。だからエンドロールにも有田さんの名前載せてるんですよ。舟橋さんは「激レアさん」どうやって作ってるんですか?

舟橋 僕は若林(正恭)さんが何も知らない状態で収録するんです。こっちが作った台本を弘中(綾香)アナが3日前くらいから読み込んで、自分なりに言い回しを変えたりして磨いて、それを話すことで若林さんに突っ込んでもらって、即興感のある漫才みたいな形式になればいいなと思っていて。だから名城さんとは全然逆ですね。終わった後に若林さんにどうだったか聞きます。

名城 弘中さん自身がやってみて疑問に思ったりしたら直したりするんですか?

舟橋 弘中さんに対してはリハやるときに、疑問が生じた部分だけは説明しますね。それ以外は、台本を1つの物語としてなるべく緻密に作って、それを弘中さんが、自由に崩して語ってくれればいいと。でも基本的には、言葉足らずな部分や現場で生じた問題点は彼女が自分で対応しちゃうんですよ。

名城 すごいですね、タレント性が。

舟橋 普通の若手アナウンサーさんがやると情報番組のような雰囲気になりがちなので、その辺の対応力とバラエティセンスはすごいなと思いますね。

名城 おもしろいですよね「激レアさん」。僕、富士そばの創業者の方の回が好きなんですよ。スタッフの方が何回も人生をストーリーにしようとして努力されてるのがわかるので、ああいうのを見ると素晴らしいなと思ってキュンとします。なかなかあのスタイルでずっとやるってできないですよ。でも視聴者もそれを期待してますしね。

舟橋 毎回苦しんでます。話の展開や伏線の張り方とかを同じパターンにしちゃうと以前のものを下回っちゃうんで、同じ形もあんまりできなかったりとか。

名城 すごい大変ですよね。じゃあ毎回「今回はどんな風にやってやろう?」みたいな感じから始めるんですか?

舟橋 そうですね。「脱力タイムズ」もそうだと思うんですけど、制作が頑張りすぎて出しゃばっちゃうと変な感じになるんですよ。見てる人がちょっと寒くなっちゃうというか。

名城 めちゃめちゃありますね。

舟橋 その辺のさじ加減ってどうしてますか?

名城 自分が納得する流れに直しますね。コントはストーリーも大切なので躓いてるところを探せれば、そこを直すだけなんですけど。

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舟橋 「激レアさん」って起承転結があるんで途中から視聴しても流れが分からない時があるから、ザッピングに弱い面もあるんですけど、名城さんは何か対策してますか?

名城 ウチもそれが一番の弱点なんですよ。だから舟橋さんと基本一緒で毎回同じような流れにしないように気をつけてます。「今週こいつら何するんだろう?」って思ってもらうことがやっぱり大事かなと。途中でもう1度振るとかセオリーはあるんですけど、それをやると「俺こんなことしたかったんだっけな?」って思うし、見てる人も「お前らこんなことがしたいのか」ってなる。もちろんそういうことをする番組を否定してるわけではなくて、それはそれできちんと視聴者の人と向き合ってやることも大事だと思うんですけど、一番端っこにそういう番組があってもいいかな、その代わり次は違うパターンでやろうっていうふうになるべくしようとは思ってます。だからしょうがないですね。

舟橋 しょうがないですよね。

名城 どこかで作品を抱きしめてあげないといけないんで、そうなると信じるしかないですよね。齋藤孝先生がこの前アドリブで良いこと言ってて「放送した後はもう作った人のものじゃねえ」と。そんな感じですね。舟橋さんはザッピング対策どうしてるんですか?

舟橋 何にもできなくて困ってるから聞きました(笑)。

名城 あはははは。何も持ってない。

舟橋 一応サイドテロップで今何をやってるかをしっかり書くようにしてて。長すぎると見にくいから避けたいんですけど、1時間を起承転結で見せるっていう特殊なことをしてる以上、そこはちゃんとやろうと。あとはもうしょうがないなっていう感じで。どこから見始めても楽しめるように、話のドラマチックさを丁寧に描くことと、笑いのパターンや数を増やす工夫をして、話の面白さ勝負で見てもらうしかないと。

――2番組とも熱烈なファンが多いですよね。

名城 ありがたいです。ほんと。

舟橋 毎回同じ方が見てくれてるんじゃないかなと思ってます。

名城 ありえますね。

――番組の反響をSNSでチェックしたりはしますか?

名城 積極的にはないですけど、気になってた回の後はチェックしますね。
伝わったかなっていうのが心配なときがあって。伏線のためにこれ蒔いてたんだけどわかってくれたかなみたいなことがあると無性に見たくなります。見ます?

舟橋 僕はチェックしますね。出てくださる素人の方を調べていくうちに、ほんとにすごいなと思って尊敬した状態で作ってるので、その人のすごさが伝わったかなってTwitterとかめちゃめちゃ見ちゃいます。でも次の日の朝に視聴率が出ると、その瞬間嬉しい時間が終わっちゃうので、放送後から朝まではめっちゃ見ます(笑)。

名城 なるほど、オンエアのときに見てるってことですか?

舟橋 そうですそうです。

名城 僕は次の日とかに見てました。でも今度リアルタイムで見てみよう。

舟橋 そこだけが成果が報われる時間帯で。数字が出たら終わりです(笑)。

出演者のスゴさがちゃんと伝わると嬉しい

――「激レアさん」は弘中さん、「脱力タイムズ」は滝沢(カレン)さんの面白さを一番引き出してると思うんですけど、ああいう方達の面白さをどうやって引き出してるんでしょうか。

名城 弘中さんもそうだと思うんですけど、世の中にはスゲー奴がいるんですよ。滝沢さんの「美食遺産」のコーナーは、元々ナレーションが進まないで終わるっていうのをやりたくて企画自体はあったんですけど、やってくれる人がいなかったんですよ。そしたらたまたま作家さんから「滝沢カレンがおもしろかった」って聞いて。で、1回テストで撮って、優秀なディレクターさんがパッケージしてくれたら、面白すぎてそのまま放送しました。試写したときになにやってんのかなってわかんなくなるのがおもしろくなっちゃってゲラゲラ笑って。最初は「絶景遺産」っていうコーナーで、ゲストはサンドウィッチマンの伊達(みきお)さんだったんですよ。だから多少ガタガタしても大丈夫だろうと思いつつ、伊達さん見たあと何てツッコんでくれるのかなと思ったらなんとただ笑うっていう(笑)。有田さんからも「このコーナーはもう1回やります」と言ってもらって。正直、勝ったなと思いましたね。全て彼女のポテンシャルですね。とにかく滝沢さんは天才です。

舟橋 僕は弘中さんが面白いのは知ってて、それがあってお願いして始めたんですけど。簡単に言うと弘中さんが言わなそうなことを言ってもらうっていうことだけなんです。あのヴィジュアルの感じでMステではちゃんとやってるけど、弘中さんがこんなこと言ったらおもしろいなっていうののベースを入れていくっていう。それを僕らが想定してたより面白い言い方を思いついて言ってくれるから凄いっていうことなんですけど。

名城 弘中さんのイメージがすでにフリになってるんですね。

舟橋 そうですね。ヴィジュアル含め。

名城 弘中さんもそれを自覚してるんですかね?

舟橋 わかってると思います。でも「やるなら思いっきりやらないとダメでしょ」っていうテンションだと思うんで、そこがまたすごいなと。

――番組作りでやりがいを感じるときってどんなときですか?

名城 たくさんあるんですけど、ゲストにお越しいただく女優さんや俳優さんが台本にあるふざけたセリフを演じてくれて、「面白かったです。」って言って帰ってくれると嬉しいですね。反対に芸人さんたちには毎回ニセ台本を入れてるんですよ、大体バレてるんですけど(笑)。その芸人さん達にも面白かったって言われると嬉しいですし、さっきも出たけどSNSの反響も。出演者の人たちがこんなにすごいんだってことを、コント自体そういうことを言いたい側面もあるので、それが伝わることが一番ですね。

滝沢さんさんのコーナーも放送自体は3分くらいなんですけど、毎週やってほしいとか言われると嬉しい。あとはゲストで何回も出てくれること。広瀬すずさんや蒼井優さん、オダギリジョーさんって3回出てるんですよ。他のバラエティではほとんど見かけない方達なので、やっぱり嬉しいです。

舟橋 「激レアさん」はまだ始まったばっかりですけど、何度も出てくれるとやっぱり嬉しいですね。僕も名城さんと同じで、番組の弘中さんや若林さん、ゲストの素人の方が「すごく面白い人達」だということが伝わってるっていう反響を見ると嬉しいです。

――最後になりますが、聞き残したことなどありますか?

名城 いつもテレビ何見てます?

舟橋 『水曜日のダウンタウン』、『全力!脱力タイムズ』、『ワイドナショー』、『アメトーク』、『ゴッドタン』……

名城 お笑い好きなんですね。

舟橋 そうなんです。でもお笑いばっかり見ちゃうんで、他のジャンルがおろそかになるんですよ。

名城 僕も同じです。あとは裏番組ですね。おもしろくて困るんです。テレビってよくできてますね(笑)。

――お二方ありがとうございました!

インタビュー・テキスト:上野 真由香/撮影:TAKASHI KISHINAMI/企画・編集:市村武彦(CREATIVE VILLAGE編集部)

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