テレビ朝日のバラエティ番組『激レアさんを連れてきた。』。オードリーの若林正恭さん・弘中アナウンサー・激レアな体験をした“激レアさん”の掛け合わせが「面白過ぎる!」と話題になっています。

演出を手がける舟橋政宏さんは、お笑いが大好きでテレビ業界に入ったものの、AD時代は人見知り過ぎて「ヤバい奴」と思われるほどコミュニケーションが苦手だったと言います。

今回は今までのキャリアからターニングポイントとなった出来事、『激レアさんを連れてきた。』にかける思いについて伺いました。

舟橋 政宏(ふなはし・まさひろ)
1985年、愛知県生まれ。早稲田大学商学部卒業。2008年、テレビ朝日に入社。
以来バラエティ番組の制作を担当。ディレクターとして『マツコ&有吉の怒り新党』などに携わり、
現在は『激レアさんを連れてきた。』の演出と『中居正広の身になる図書館』のチーフディレクターを担当。

ダウンタウンに憧れてテレビの世界へ

小5くらいのときに「ダウンタウンさんの『ごっつええ感じ』を見て笑い過ぎ、過呼吸で運ばれた」という“激レア体験”があるくらい、ダウンタウンさんが好きでした(笑)。

特に、松本人志さんの『遺書』という本は、小学生だった僕の人間形成に影響を与えていますね。“暗い奴のほうが面白い”みたいなことが書いてあったので、その影響か一気に自分から暗いほうに寄っていっちゃって。それぐらい僕にとって松本さんはカリスマでした。

なので、高校ではお笑いに近いことがやりたいと思い、演劇部に入部。内容的にはお笑いと全然関係なかったのですが、演者・脚本・演出を見よう見まねでやりました。

大学に入ってからはサークル内で漫才コンビを組んで活動をしていました。僕はネタも書いていたのですが、お客さんの反応を見ながら回ごとに改善していって段々笑いが増えるのが嬉しくて。

楽しいからずっとやっていられるし、プロに憧れたこともあったのですが、ズバ抜けたオリジナリティや人間味がないと勝負できない世界だということも感じていました。だったらテレビ局で制作するのが一番やりたいことに近いと考え、就活を始めたんです。

就活の途中で留年してしまったものの、受かると想定していなかったテレビ朝日に入ることができました。

当時、テレビ朝日に惹かれた理由は大きく分けて2つ。お笑い番組を王道ではなくひねった視点で作っていることと、深夜バラエティ番組の『虎の門』が大好きだったこと。お笑いにストイックな土壌があると思っていたので、入社できたのはすごく嬉しかったです。

人見知り過ぎて周りから“ヤバい奴”だと思われた

最初にADとして配属されたのはバラエティ番組『ナニコレ珍百景』。一般の方から投稿された珍しい風景を現地に聞き込み調査をしつつ撮影しました。

ADは“報・連・相”が必須なのですが、僕、尋常じゃなく人見知りなんです。だから、どうかしてたとしか思えませんけど、「いかに人と話す回数を少なくするか」ばかり考えていたんです(笑)。「この人としゃべるとまた新たな仕事が増える」とか「皆と話す大変さを考えたら、何もせず次の日怒られたほうがいいな」と思いながら仕事をしていました(笑)。

当然次の日に「何でやってなかったの?」と聞かれますよね。でも、「話す回数を減らしたかったから」とは言えないじゃないですか。だから、ただ「すみません!」の一点張りで謝るしかなくて、周りから当然“ヤバい奴”だと思われちゃって(笑)。

何度もミスをして、何度も坊主にしましたね。でも“大人しくて無口な坊主”だから本物の僧みたいで周りもさぞ話しかけづらかったと思います。

因みに、今まで自分よりできないADさんは見たことがありません。ミスしても「わかる!」って共感しちゃって怒れないです(笑)。AD時代も僕は“デキない奴”だったから、デキる・デキないという価値観で測らないようにしたいと思っています。

そんな僕でもこの仕事を辞めなかった理由は、「自分の性格がこの仕事に向いてないことはわかってスタートしていた」から。そして、ある方が仰っていた「優秀なADが優秀なディレクターになるとは限らない」という言葉を信じていたからです。

大先輩の一言で仕事への情熱が発火!

そして、ある教養系番組のAD時代、上司の方が見るに見かねて「新しく始まるトーク番組の方に行ったらどうだ」と言ってくれて、『マツコ&有吉の怒り新党』に引き取られることになりました。

今思えばクビ同然での異動でしたが、「初めてゴリゴリの笑いに触れられる!」という高揚感がありました。とは言え、番組初期は超シンプルなトーク番組だったので何の仕事もなく、収録前におやつを買うのが主な役目。

何に使うわけでもないのに収録したトークを書き起こしたりもしていました。それでも「失うモノがない」感じで赤裸々にトークを展開される、マツコさん、有吉さん、夏目さんの話術を目の当たりにするだけで楽しかったです。

そんなマツコさんと有吉さんは放送できないような、際どいトークをすることもありました。それを放送できるようにするため、ある日ディレクターさんがデータを“ピー音”をつけて処理していたんです。編集チェックで僕はADとして立ち会っていました。

その時に衝撃的な出来事があって、演出をされていた大先輩がピー音を全部外していかれたんです。そして僕を見て「ウチはこういう風に番組作ってるんだよ」と仰られたんですね。

その先輩が「本当に面白いと思うものを放送するべき」と腹を括られてるのを感じました。そして「僕もこういう気持ちで番組を作りたい!」と、そこから仕事に対する姿勢が変わっていったように思います。

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どんなマニアックなことでもやらせてくれた『怒り新党』がターニングポイントに

『怒り新党』は僕の中で完全にターニングポイントですし、今も制作のベースにありますね。ターニングポイントになった理由のひとつは、「どんなにマニアックなことをやっても怒られなかった」ことです。

『怒り新党』がスタートした際は深夜1時台からの放送でトークのみだったのですが、後にネオバラの時間(23:15〜)に移動することになりました。その時に「日本人が知っておくべき3大くくり」を紹介する、「新・3大〇〇調査会」のコーナーができました。

「マニアックなもの=面白い」というコンセプトが合っていたのか、この頃からディレクターとしてひたすらVTRを作っていましたね。

だから、コーナーを作るとき、普通は視聴者の方が興味を持ちやすそうなネタを探すのですが、「3大」に関しては、単に面白さ優先でネタを探してました。それが『激レアさんを連れてきた。』にもつながっています。

「どういうこと!?」と笑ってもらって、「見て良かった!」で終わらせたい

現在、演出を担当している『激レアさんを連れてきた。』の前身は『アップデート大学』という深夜2時台のバラエティでした。

既に放送していたクイズ形式の番組を、番組名は変えずに “レアな体験をした素人さんを呼んで体験談を学ぶ”という形にしたのが始まりです。また、弘中綾香アナウンサーの面白さを世間に知ってほしいという気持ちがあったので、進行役をお願いしました。

視聴者のみなさんは弘中アナウンサーに対して『ミュージックステーション』のイメージが強いと思いますが、すごく勘が良いし、面白いんです。仕事面もとてもキッチリしています。

だから番組内で使用する、人物紹介のホワイトボードは弘中さんに書いてもらうことにしました。「くだらないことを説明するために女性アナウンサーが手書きの小道具を用意する」ということ自体が既にくだらなくて良いなとも思いました(笑)。

そして、番組最大の狙いとしては人物紹介をした時に、「どういうこと?」という疑問とともに、笑って欲しい、ということでした。紹介する人たちがレア過ぎて得た知識はほぼ役に立たないのですが、だからこそ“情報性がありそうでないお笑い番組”ができるんじゃないかと思ったんですよね。

内容的には納得のいくものができていたのですが、深夜2時半からの放送なので反響があまりなくて(苦笑)。僕たちの番組にかける熱意があまり皆さんに伝わっていないままでした。

そんな中、あるとき急に「(アップデート大学の)放送時間帯が上がるよ」と言われて。きっとテレビ朝日内のどなたかが推薦してくださったのだと思います。そして放送時間帯変更にあわせて、タイトルもわかりやすく『激レアさんを連れてきた。』にしました。

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『激レアさんを連れてきた。』は“情報バラエティ”ではなく“お笑い番組”

『激レアさんを連れてきた。』で大事にしているのは、“情報バラエティ”ではなく、ちゃんと“お笑い番組”にするということ。

情報番組のコーナーみたいに女性アナウンサーが進行していても、あくまで“お笑い番組”。さらに大喜利の要素があって、会話の中で漫才の形式になっているところもある。

純粋なお笑い番組はずっとやりたかったことなので、言葉のチョイスも細かいところまでこだわって作っていますね。弘中さんの台本は、彼女の面白さが伝わるよう、スタッフたちで毎回10回以上は直していると思います。

それと、『激レアさんを連れてきた。』になるタイミングで若林正恭さんにレギュラー出演していただくことが出来たのは一番のポイントです。若林さんは僕みたいな人見知りの人間が一番共感して尊敬している方で、いつかお仕事させてもらいたかった。

人に対する興味もすごく持っている方ですし、『激レアさんを連れてきた。』の内容にも合うと思いました。さらに、弘中さんに対して若林さんがツッコむ、という漫才の形が見たい、という気持ちもありましたね。

この番組は「弘中ショーだ」とよく言われていますが、それ以上に若林ショーだと僕は思っています。

『アップデート大学』以上に制作面での手応えはあるのですが、視聴者の皆さんの反応については、実はまだ手応えがないんです(笑)。SNSでは「誰も知らないだろうけど激レアさん見てくれ!」のような感想が放送開始から続いていて。もちろん嬉しいですが、もっと大きく反響があったらいいなぁ、と思っています。

僕みたいに暗くても、自分自身のクセを持っていればなんとかなる

僕が思う良いディレクターの条件は“クセがある”こと。例えば、書くナレーションが皮肉っぽいテイストで個性があるとか、再現ドラマを演技指導して、面白く撮るとかでもいい。最終的には、その人が作ったとわかるVTRを作ることが理想ですね。

VTRで伝えたいことが明確だとナレーションも変わる気がします。明確であればあるほど、ちゃんと熱が入ったものになる。例えば、ただ単に「この後衝撃の展開が!」という、つまらないナレーションではなくて、「彼が30年来込めた思いが、これから解き放たれる!」とか。

僕みたいに暗い就活生がOB訪問に来てくれたら、伝えたいことがたくさんあるんですけど、お互い社交性が無いので一向に出会えません(笑)。

僕は欠点を補うより、好きなことを突き詰めるほうがこの業界では役に立つと思っています。暗いのに面接で元気なフリをしてもバレるし、だったら一番暗いことで目立ったほうがいいんじゃないでしょうか。

それに、こんな“人見知りテレビマン”でも面白がってくれたり、期待してくれる人がちゃんといるのがテレビ業界の良いところだと思っています。

インタビュー・テキスト:上野 真由香/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:大沢愛(CREATIVE VILLAGE編集部)

番組情報

『激レアさんを連れてきた。』
(毎週月曜日 夜11時15分~放送)
公式サイト:http://www.tv-asahi.co.jp/geki_rare/#/?category=variety

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