今、多様な分野で活用されている3D技術。こうした状況に合わせて、海外では3D教育に力を入れる動きがありますが、日本ではまだ本格的な動きがありません。今後、注目されるであろう3D教育に、いちはやく取り組んでいる3人の専門家に思いを語り合っていただきました。

佐藤浩平
クリーク・アンド・リバー社が運営する「C&R Creative Academy(以下アカデミー)」責任者。ゲーム業界を中心にキャリアアップサポートを行う。

戸田勝也
株式会社SonoSaki 代表取締役
3Dプログラミングスクール「みらいのおねんど」を運営。主に経営面、営業面を担当している。

戸田かえで
株式会社SonoSaki 取締役
3DCGアーティスト。夫の勝也氏とともに「みらいのおねんど」を運営。スクールの司会進行、レクチャーを担当。

3DCGをつくる教室と、完全無料のCGクリエイター養成講座

――まずは、株式会社SonoSakiの事業内容を教えてください。戸田勝也さん、戸田かえでさんのご夫妻で運営されているのですね。

戸田勝也(以下勝也)   はい。主に小学生を対象にした「みらいのおねんど教室」という、3D造形物をCGで制作しプログラミングも学べる教室を開いています。世界中のアニメやゲームの制作で使われる、Maxon Computer社の「ZBrush」(※直感的に粘土をこねるように造形物をつくることができるソフト)をメインで使用。BlenderやUnreal Engineも使用しています。定期的な教室開催のほか、イベントも開いています。指導を担当するのは妻のかえでで、以前は「かえでお姉さん」と言っていたのですが、子供たちが「先生、先生」と呼ぶので、最近は「かえで先生」になりました(笑)

――教室では、どんなことを指導してらっしゃるのでしょうか?

戸田かえで(以下かえで先生) ソフトを使う技術を身につけるだけでなく、空間認識能力や想像力、思考力などをつけられるように、完成までのプロセスで考えることを大切にしています。動物や恐竜、自分の好きなキャラクターや架空のキャラクターなど、子供がつくりたいと思うものをつくってもらって。つくったものは、3Dプリンターで出力してフィギュアにしたり、アニメーションをつくったり、AR化したりと、つくるだけでない楽しみも用意しています。

――一方で、アカデミーは18 歳以上の方向けの講座なんですよね?

佐藤 はい。18歳~34歳の方を対象に、プロのCGクリエイターを養成する講座で、初心者でも短期間で即戦力まで育てる環境が整っています。現役クリエイターとして活躍してきた講師を中心に数ヶ月?半年程度、直接生徒に指導しています。卒業後には、クリーク・アンド・リバー社(以下、C&R社)のエージェンシー事業を活かして就業支援も行います。また、受講料も完全無料で、違約金、退会金もかかりません。ツールの無償貸出なども行っており、本当に『完全無料』で提供しています。

半年前、共通のビジョンで意気投合

――SonoSakiのお二人と佐藤さんの出会いについて教えてください。

佐藤 去年の冬、私がTwitterでDMを送ったのが出会いです。「いつも応援しています。ぜひ東京でイベントを開いてくれませんか」というような。

かえで先生 C&R社といえば、CGクリエイターには有名な会社ですから、その会社の方がどうして突然連絡を?しかもTwitterのDMで…?と驚きました。

佐藤 怪しまれているなあとは思ったのですが……(笑)。

かえで先生 怪しいなんて思いませんでしたよ(笑)とにかくびっくりしたんです。

佐藤 兼ねてからTwitterで活動は拝見していて、素晴らしいことをしていらっしゃると注目していたので。DMを送ったときは、地元・名古屋のテレビで取り上げられたというツイートがあったところで、私の中で「何か一緒にやりたい!」と盛り上がってしまって、手が動いていたんですよね。

勝也 驚きましたが、こんなに大手の企業の方に注目していただけるのはありがたいことですから。初回の打ち合わせでは私たちのやっていることをしっかりアピールしたいと、事業内容はもちろん、目的やビジョンもお話ししました。佐藤 実際にお話ししたら、未来のビジョンや思いも重なるところがあると感じて、ぜひ何か一緒にやっていきたいと思いました。

世界では3D教育が浸透。しかし日本は…?

――どんなところで思いが重なったのでしょうか。

勝也 今や車、建築物、衣類等、世界にある物は、天然物以外ほとんどが3DCADを使って設計・製作されていて、ゲーム、映画、アニメなど、映像作品の大半で3DCGが使用されているということになるんです。この状況もあり、世界の国々を見渡すと、3Dの教育がはじまっていて、イギリス、アメリカ、オーストラリア、中国は教育現場に積極的に3Dプリンターを導入しているんです。一方、日本も導入の動きはありますが、実際に教育現場で活かされている例は多くありません。この状況を何とかして変えたいと思っています。

佐藤 私が子供の頃と今とでは、ゲームや3DCGの世界は全く違っていて。今後、メタバースの発展によって3次元の仮想空間がより身近になり、3Dのスキルも重要になると思います。しかし、現在の教育では、その点になかなか目が向けられませんよね。

勝也 そうですよね。日本では主要5科目を重視し、暗記する教育が主体になりますが、今実際に世の中で使われている3Dに、小さい頃から触れておくことが大切だと思います。

佐藤 こういった状況は、ゆくゆく、私が指導している方たちにも影響のあることです。小中学生に向けて、こうした先進的な教育をされているお二人の活動は応援したいし、一緒にやれることをどんどんやっていきたいと思っています。

かえで先生 私も以前は事務の仕事をしていましたが、手に職をつけたいと思いCGを勉強しはじめました。でも、CGをはじめたのは25歳くらい。やっぱり遅いんです。もっと小さいときに知っていたら、関連の職業に就かないとしても、映画やアニメをつくる職業を頭に描いて成長することができたかもしれません。子供たちには、小さいときから視野を広げて、行きたい世界に行ってほしいと思います。

佐藤 私は、ゲームや映像業界を志望するたくさんの学生と接してきた経験があるのですが、「惜しい」と思う方が多くいました。「もう少しCG制作に関する土台部分を学習していたら」「早い段階でCG制作に対する思考を変えられていたら」などと思う人たちです。子供の頃から3Dに触れる機会があれば今よりさらにクオリティの高いクリエイターが育つと思います。

多角的な視点を持つことができる、3D教育

――「みらいのおねんど」教室では、思考力や想像力の育成を重視しているということですが、実際に教えていて、どんなところに思考力の伸びを感じますか。

勝也 自分の頭の中に描いているものを3Dで具現化するには、正面だけを見るのではなく、上から、裏から、いろいろな角度から見て確かめる必要があります。映像だけでなく、文章の資料も必要になるかもしれません。制作を通して、多角的な調べ方を意識するようになります。

かえで先生 教室に通っている小学校1年生の子が、恐竜展へ行って同級生に「いろいろな方角から観察した方がいいよ」と言っていたそうです。3Dで恐竜を作る過程で、自然とそういう思考ができるようになるんですね。また、細かい部分に興味を持つようになる子供も多いです。たとえば、キツネの色は何となくオレンジ一色だと思っていたけれど、資料を見て、もっと多くのがあることに気づいてよりリアルな色合いを考えたり。

勝也 保護者の方からは、教室が終わった後に、CGについて自分で本を読んだりYoutubeなどで自主的に調べていると聞いたことがあります。3DCADを使ったものづくりに興味を持つ子もいて嬉しいですね。

佐藤 アカデミーに来てから伸びる学生は皆、思考力が高いと感じます。恐竜を3DCGで描くことになったとして、どのくらいの脚の太さがあれば体重を支えられるのか、狩りのためにはどんな爪、歯の形、大きさが必要か等、細かいところまで思考できる人は伸びるんです。そしてそれができる人は「センスがある」と呼ばれますが、私は「センスは回数」だと思っていて。小さい頃から、どれだけ思考することを繰り返してきたか。それは3DCGの世界だけでなく、どんな世界に進んでも活きるはずです。

小さい頃からビジョンを持って、将来を夢見てほしい

――「みらいのおねんど」教室は、小さい頃から思考力を高めることに貢献しそうですね。

かえで先生 さらに、将来について思考することも大切です。今、多くの子供たちは自分のしたいことが何かよく考えず、ビジョンを持てないまま成長する現実があると思っていて。実際に、今、専門学校でCGのクラスを担当していますが、18歳の子に「何をしたいのかわからない」と言われるんです。「なぜ専門学校に来たの?」と尋ねると「何となく好きだから…」と。専門学校は職業に直結する学校なのに、その状況は深刻だと思っていて。なんとなく進学して、やりたいこともわからないままに途中でドロップアウトしてしまう人、関連の業界に就職できない人も少なくありません。

佐藤 深刻ですよね。CGクリエイターは人気職種ですが、業界では人材不足。企業側は、良い人材がいれば採用したいのですが、求められるレベルに達している人が見つけられないから困っている、という実情があるんです。そうなってしまうひとつの理由に、学校には入ったけれど「これを目指したい」というものがなくて”ボーッと過ごしてしまう人がいる“という事があると思っています。小さい頃からクリエイターという職業について思考する機会を持てないことが数ある要因の中の一つだと思うんです。アカデミーでは、クリエイターになりたいというやる気さえあれば、企業が求める水準の力を持てるように教育しています。

勝也 正直に言うと佐藤さんから「社会貢献を考えて無料で」という話を聞いた時は「なんだか嘘くさいな」と思ったんです(笑)。でも、何度かお話をするうちに佐藤さんの純粋な思いが伝わってきて。本気だということが今はよく理解できます。子供たちには私たちの教室を通じて、将来への夢を描いてもらいたいですね。ディズニーやハリウッド映画、大好きなゲームの世界で働くことは、今から準備すればなれるし、十分お金も稼いでやっていける世界だということを知ってほしいのです。実際、イベントで3Dを体験した小学校6年生は、自分の好きなゲームの会社がモデラーを募集している知り、夢ができて、クオリティもぐんと上がりました。

佐藤 それは将来が楽しみですね。

3Dキャラを作ってキーホルダー&AR化。東京でイベントを開催!

勝也 もうひとつ大切なのが、保護者の方への理解促進です。実際に仕事として触れた経験がないと、子供がゲームの業界に行きたいといっても「そんな仕事じゃ食えない」とか「無理」と拒絶してしまったりするんですよね。保護者の方にも、今3Dが世の中で広く使われていること、3DCGを仕事にできることを訴えていきたいと思います。

――そういった目的もあって、今度C&R社でイベントを開催されるのですね。

かえで先生 はい。C&R社のようなクリエイターの就業に関わる企業とコラボレーションすることで、保護者の方にも「そういう道があるよ」とわかっていただけたらと思います。佐藤さんにもご登壇いただいて、職業やアカデミーの紹介をしていただきます。

佐藤 アカデミー受講生の作品や卒業生の仕事ぶりなどを紹介して、ゆくゆくはこういう作品がつくれるよ、というところも見せられるといいなと考えています。

勝也 イベントでは、各自自由な発想で3Dキャラクターをつくってもらいます。後日そのキャラクターをキーホルダーにして、キャラクターはAR化します。キーホルダーのQRコードを読み取ると、つくったキャラクターが現実世界に浮かんで見えるという趣向です。お子さんも保護者の方も楽しめるイベントにします。是非いらしてください。

――イベント、楽しみにしております。今日はありがとうございました。

株式会社SonoSaki(本社:愛知県名古屋市、代表取締役:戸田 勝也)が運営する3Dプログラミングキッズスクール「みらいのおねんど教室」と株式会社クリーク・アンド・リバー社(本社:東京都港区、代表取締役社長:井川 幸広)が展開する「C&R Creative Academy」は、2022年8月21日(日)に小学生対象の特別教室をC&R社本社にて開催いたしました。
https://www.cr-ca.com/lp/onendo/

インタビュー・テキスト:あんどう ちよ/撮影:SYN.PRODUCT

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