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【Trend of Tech_VR】Vol.4 YouTube動画に見るVR映像の可能性と課題

2017/11/30 VRコラム

VR映像はYouTubeの動画で多数観ることができます。まだVR自体が発展途上なので「イマイチ」と感じる人も一部いるでしょう。しかし、荒削りな中にも今後のVRの可能性を感じさせる映像が多くあります。ここでは、話題になったYouTubeのVR映像から何を学ぶべきかを、クリエイティブとビジネスの視点から解説します。

企業CMにYouTubeのVR動画をどう活用する?「Panasonic×Perfume」のケーススタディ

映像を進化させる分野の1つに「企業CM」があります。娯楽作品と違い、時間やテーマに制限がある分、その制限の中からしばしば光るアイディアが出て来るのです。ここでは企業CMに導入されたVR映像から得られるヒントをご紹介します。

大企業のYouTubeCMにもVRの導入が始まった

この動画は2017年11月に公開されたPanasonicの洗濯機シリーズ「泡洗浄」をPerfumeが宣伝するVRムービーです。CMにVRが導入されるとクリエイターにとってどんな変化が起きるのか、さまざまな切り口で考察してみました。

映像の美しさが制作に影響を与える

映像が美しいのは普通のCMやPVでは当たり前ですが、VRではまだ珍しいことです。クリエイターの多くが「何をどう撮ったらいいかわからない」状態なので「スタジオや自然の中で360度カメラを回してみただけ」というイメージの作品が多いのです。一般人がカメラを初めて買った直後、とりあえず室内や家の周辺を適当に撮るでしょうが、そのイメージに近いともいえます。
一方、この「Panasonic×Perfume」の映像は、一般の音楽PVのように洗練されています。360度映像を高画質にするとデータが重くなるため画質を荒くしていますが、もしこれが高画質になったらさらに美しい映像になるでしょう。ここから「ネット回線の速度がさらに上がればVRの制作にも影響を与える」という可能性が見えてきます。

VRコンテンツでの表現のヒントがある

このCMはもともと通常の2D映像で制作・放送されていました。「泡ダンス」として一部で話題になったものです。(※1)この2D版と3D版(VR)を比較すると「ダンスをどうやってVRで撮影するか」というヒントを得られます。また、ダンスの振付師であれば「どんなダンスがVRだと映えるか」というヒントも得られるでしょう。
※1【YouTube】Perfume x Panasonic 泡ダンス メイキング他、新曲「Everyday」 (2017.6.13)

VRの特性を活かした演出手法とは何かを考える

この映像はグルグル回してメンバーのダンスを楽しむという、いわば“ダンスを魅せるコンテンツ”に特化している作品。その他のギミックが盛り込まれていないため、インタラクティブ的な観点からすると物足りなさを感じるかも知れません。
例えば3人ががそれぞれ別のダンスを踊る、まったく違う行動をしている、ダンスとは全く違う要素を絡めるなど工夫点はいろいろあるでしょう。
今自分が見ている角度以外が気になる映像にすることで、VRの特性を活かした、他のコンテンツと差別化を図る作品になる可能性が上がりそうです。商品の知名度を上げる効果として、VRの特性を活かした演出は重要性が高いと考えられます。

CMにVRを導入する難しさとチャンス

CMはもともと「視聴者に見せたいものが決まっている」映像です。一方、VRは「視聴者が勝手に観たいものを観る」ことができます。このため、従来のCMの手法はVRでは通じにくいと考えられます。その分、VRにおける表現手法はまだまだ開拓の余地が十分あり、TVCMでは味わえない面白さを追求したクリエイティブを実現できる、クリエイターにとって可能性に満ちた分野とも言えるでしょう。

ホラー映画への導入 ~VRは「驚かせる映像」に向いている~

VRの導入が特に進んでいるジャンルの1つが「ホラー」です。ここではYouTubeで注目されているホラーのVR動画から学べる点をまとめます。

ホラー映画とVRの相性がいい理由

VRの特徴の1つは「自分で好きな場所をグルグル見られる」ことです。ホラーのVRではこれを活かして「どこから出るかわからないお化け」を視聴者に自ら発見させることができます。無理やり見せられたお化けより、自分で発見したお化けの方が怖いでしょう。特に「振り向いたら後ろにいた」ときの恐怖は、これまでの映像より圧倒的にVRの方が怖いはずです。

もう1つVRとホラーの相性がいい理由は、現状ではVRは実写よりCGの方が制作しやすいという点にあります。CG作品は現実にあるものより「現実にないもの」を見せる方が、視聴者がリアルに感じやすいという傾向があります。ホラーだけでなくSFも同様です。VRのゲームでホラー・SFのヒット作が多く出ているのはそのためです。

VRホラー映像作品の紹介

作品1… CGホラー映像「後ろの正面だあれ…?」

夜の学校を用務員の男性が歩く短編ホラーです。「後ろの正面」というタイトルが、まさに「360度動画」のメリットを象徴しています。また、この動画では「主人公の足元にいきなりランドセルが現れる」という演出がありますが、これもVRの特性を活かしています。「下を向く」という動作が加わるからです。

このように「お化けがさまざまな方向から登場する」というのは、VRでできる演出の代表です。これは今後も有力な演出の1つになるでしょうが、同時に「別の切り口」も考える必要があります。

作品2… VRホラードラマ「怨みの家」

CGではなく実写のホラーです。VRの実写映像はデータの重さからどうしても低画質になるのですが、この映像は高画質で配信できている点が特長です。また「立体音響」も導入しているため、対応ヘッドフォンなどで視聴するとさらに臨場感が増します。

これはメリットである反面、デメリットでもあります。「視聴者の環境によって映像の魅力が伝わらないことがある」からです。この動画や立体音響に限らず、VR全般が「視聴者の環境に左右される」ものであり、この壁をどう超えるかが今後の課題です。

ホラーの演出としては「11分25秒」のあたりで「後ろから追ってきていたおばけがいつの間にか逆方向にいた」というシーンがあります。これは普通のホラーでは定番ですが、VRにすることで臨場感が増しています。先の「後ろの正面だあれ…?」と同様、この作品も「方向」によって恐怖を演出するスタイルです。これは有効なスタイルですが、やはり今後のホラーは新しい切り口も必要でしょう。その切り口次第で大ヒット作が生まれる可能性もあります。

動物学が劇的に進化する?野生動物の定点観察にVR(360度カメラ)を導入すると?

VRには学術的な貢献も期待できます。貢献できる可能性があるジャンルの1つが「動物行動学」です。映像とともにこの分野でのVRの可能性を探ります。

何が学べるか ~これまでの動物観察との違い~


ドキュメンタリーで有名なディスカバリーチャンネルによるVR映像です。象の群れが水を飲む姿や歩いて移動する姿を撮影しています。象がカメラを殴るシーンも数回あり、臨場感と笑いを誘います。

この映像はVRというより「360度動画」の可能性を示しています。「野生動物の定点観察」で多くの発見を生み出す可能性です。定点観察はこれまで文字通り「点」しか撮影できませんでした。しかし、360度カメラなら「今まで撮影できなかった周囲の状況」も撮影できます。

たとえば「急に動物が逃げ出した」というとき、今までの動物番組だと「逃げてしまいました」とナレーターが呟くだけでした。しかし、360度動画なら「そのときに反対側からどんな動物が来ていたのか」などがわかります。これまで発見されなかった「動物同士の関係」が次々発見される可能性があるのです。また、細かい点ですが「象が殴っても壊れない堅牢なガード」を、VR用のカメラでもできることがわかります。

YouTubeで見られるVR映像は、この象の映像にしてもCMやホラーの映像にしても、まだ完成品というよりヒントというべき段階にあります。クリエイターやビジネスパーソンであれば「VRとはこういうものらしい」と単純に受け止めない方がいいでしょう。「こういう使い方はどうか?」「モバイル通信の速度が上がればこんなこともできそうだ」など、あらゆる視点から貪欲に「素材」として眺めるべきです。それが大きなビジネスや創作の種になる可能性もあるでしょう。

(CREATIVE VILLAGE編集部)