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「サラリーマンNEO」の企画・演出を手掛けた吉田照幸さんだからこそ描けたリアリティとは?

NHKで型破りな番組として人気を博した「サラリーマンNEO」を企画、以後全シリーズの演出を担当し、『サラリーマンNEO 劇場版(笑)』で映画初監督を務めた吉田照幸さん。「NHKでは特殊と言われますが、実際にはNHKでしかできないものを突き詰めていった結果です」と話す、その制作の舞台裏とは?そして、吉田さんが“組織の中で生きているからこそ描けるリアリティ”をキャラクターに取り入れた最新監督作が、東野圭吾さん原作の『疾風ロンド』。サスペンスとコメディが融合した本作の演出にあたり、心に留めていたこと、ものづくりについて等…お話を伺いました。

NHKでしかできないものを突き詰めた「サラリーマンNEO」

大学時代に見た「世界で一番過酷なマラソン」(TBSのドキュメンタリー番組)と「世界で一番くだらない番組」(三木聡さんが手がけたシュールな深夜番組・フジテレビ系列)に衝撃を受けて、テレビの仕事に興味を持ちました。

「世界で一番過酷なマラソン」ではオーストラリアを横断します。主人公は、刑務所の中からそのマラソンを眺めていた囚人で、自分が出所したら更生のためにそのマラソンに出場しようと決めるんです。でも、いざ出てみるとあまりの過酷さで足の皮も剥けてしまって、ボランティアの人にお風呂に入れてもらった時に、壮絶な痛さに絶叫するシーンがあります。その声が衝撃で、そういう強く印象に残るようなドキュメンタリーを作りたいと思いました。

insert_IMG_2353それから縁あってNHKに入局したのですが、30代前半には、ディレクターを辞めようかと悩んだ時期がありました。企画も通らず、向いていないんじゃないかと。

そんな時、飲み会で初めて「NHKで今どんな番組を見てみたいか?」周りに意見を聞いてみたんです。そしたら、昔フジテレビでやっていたようなシュールなコントが見たいという答えが返ってきて。まさに僕が好きだった「世界で一番くだらない番組」のような番組です。
とは言ってもNHKでコントって…と思ったのですが、自分の企画も通らない状態だったので、思い切ってそのまま企画書にして出したんです。そしたら、当時のプロデューサーが、ドキュメンタリーばかりの中でそういう新しいものを取り入れたかったようで、企画が通ったのが「サラリーマンNEO」でした。
始まりは、芝居が好きとか、笑いが好きというよりも、追い詰められて、人に聞いた意見を書いたという感じですが(笑)それが長く続くシリーズになりました。

「サラリーマンNEO」はNHKでは特殊と言われますが、実際にはNHKでしかできないものを突き詰めていった結果です。民放でサラリーマンを題材にコントをやるとしたら、地味だから無理ですよね。でもNHKの場合は地味さでNHKを担保して、その上で違うことをやった瞬間に面白くなります。そこで勇気を与えてくれたのが「世界の社食から」と「サラリーマン体操」です。特に「サラリーマン体操」はNHKでないと笑えないんです。コントでサラリーマンとなると、セリフが多くなってしまうので、動きだけで伝わるものができないかと思った時に局内を流れるテレビで体操を見て、これだ!と思い付いた時のことを、今でもよく覚えています。

人の話を聞くことに立ち戻った「あまちゃん」の現場

「サラリーマンNEO」の劇場版が公開された2011年、電話1本でシリーズの終了が決まったんです。自分ではNHKを変えたような気持ちになっていて、6シーズンも重ねて、映画化もされたのに電話1本で終わるんだ、と心に穴が開いたようになっていました。

そんな時、あまり話したこともないような同期から飲みに誘われまして。その席で朝ドラをやらないかと誘われました。朝ドラは伝統的な世界なので、人に相談しても「サラリーマンNEO」をやったのに、今さらそんな伝統的なことをやる意味あるの?と言われたりもしたのですが、決めたきっかけは、「サラリーマンNEO」も手掛けていた編集マンに“視聴率があるところで勝負しなよ”と言われたことです。

「サラリーマンNEO」は特殊なことをやっているので、視聴率を獲らなくても意味がある、くらいに思っていたのですが、その笑いが大きなところでも通用するのかやってみなよと言われて…言った本人は覚えていないみたいですが(笑)その言葉が刺さって、やってみようと決心しました。

IMG_2459実際にドラマの撮影に入ってから一番苦しかったのは、ずっと自分が中心でやってきたので、セカンドという立場ですね。自分にとっては初めての現場で、その他の人たちは皆知り合いという環境でしたし、自分がセカンドの立場で、サードもいるので、間に挟まれている状態の苦しさもあり、本当に良い物が作れるのかと不安もありました。
自分を素通りして、スタッフがチーフに相談に行くところにもイライラしてしまうこともありました。そこで、瞑想するようになりましたね。無になることで、自分を客観視できるようになります。ものを作るにあたって、客観視することは大事なことで。

どうしても自分のセンスに頼ってしまって、だんだん周りが見えなくなって潰れていくんです。瞑想で自分を対象化して見た時に「サラリーマンNEO」が終わった時に残念がったのって僕だけだったんじゃないかと思いました。あの頃は暴君で、全部自分で決めて自分でやっていたので、そういう限界があったのかなぁと。

そこで、今回は人の話を聞いてみようと。よくよく考えたら「サラリーマンNEO」も人の意見を聞いてうまくいったので、立ち戻って人の話を聞いてやるようになったら、だんだん自分にも相談がくるようになって、信頼を寄せられるようになりました。するとドラマ作りも面白くなってきたんです。「サラリーマンNEO」も役者さん中心でしたし、シーンの繋ぎ繋ぎは違いますが、心情を繋ぐ、表現するという意味では基本的には一緒です。そういう意味で“ドラマって面白いんだ”と思いました。なので、瞑想が救ってくれましたね。身体は浮きませんけど(笑)。

サスペンスとコメディの融合を意識した演出

東野圭吾さんの原作「疾風ロンド」は心情が地の文で書いてあるので、映像化が難しい部分ではあったのですが、映像化したら面白いだろうな、とは思いました。テンポの良さ、展開の早さは映像として良いし、アクションも多いので。あと、昔の東野圭吾さんの作品に多い、ある種の軽さがあって、そこにも魅力を感じましたね。

演出面では、サスペンスとコメディの融合を意識しました。サスペンスものはシリアスなテイストだけ、コメディものはコミカルさだけになってしまう傾向があるんですよね。
「あまちゃん」の頃から見始めた アメリカのドラマは、どんなにシリアスでもどこか気を抜く笑いを入れてくるので、そういうことをやってみたいな、と思っていました。

(C)2016「疾風ロンド」製作委員会

(C)2016「疾風ロンド」製作委員会

今回もストーリーを追っていくとだんだん笑いが削られていくので、脚本に手を入れさせて欲しいとお願いして「サラリーマンNEO」でやっていたようなコントの小ネタ、笑いを入れていったんです。演出するには、緩急をつけなくてはいけなくて。シリアスな部分から笑いに行く時に、いかに自然に移行できるか、それは何かと言うと結局、ボケないで必死だということなんですよね。登場人物が全員必死であれば、悲劇が喜劇に変わる瞬間があるんです。そういうところを、強く意識しました。

スキー場で阿部寛さん演じる栗林が穴に落ちるシーンも、あんな穴あるのか?って思われるかもしれないですが、実際に助監督がああいう穴に落ちたんですよ(笑)。
落ちた後、栗林が驚いているカットを入れることが大事です。穴に落ちた時に、急に騒がずに「ん?」と状況が分からなくなっている様子を見せることで、リアリティが保てます。そういう細かなところが、自然に見せる演出の条件だと思います。

(C)2016「疾風ロンド」製作委員会

(C)2016「疾風ロンド」製作委員会

それに加えて、いろいろな人生を描かないといけないので、その人が何を欲求しているのかを明確にして演出したいと思っていました。こういう面もあるけれど、こういう人間でもある、という裏表を演技で出さないで欲しいと。医科学研究所所長役の柄本明さんに言ったのは、とにかく自己保身に徹して欲しいと。自分の身を守ることを目的としてくれと。それで「わしは知らん!」を連発する所長のキャラクターが出来上がったのですが、基本的にはそうなんですよ。僕もサラリーマンとして生きているので、組織の中では問題が起きたら「わしは知らん!」で、功績があったら「俺がやった!」なんですよ(笑)。20年以上、そういう組織の中で生きているので、これはフリーの監督には描けないリアリティかもしれません。

未知の世界に挑戦すること

(C)2016「疾風ロンド」製作委員会

(C)2016「疾風ロンド」製作委員会

ものづくりは恐怖との闘いです。恐ろしいという感覚を楽しみに変えられることが大切だと思います。僕は人のやっていないことに挑戦したくて、サスペンスとコメディの融合を目指しました。そういう未知の世界に挑戦することがものづくりで、自分の知識などを披露することがものづくりではないと思います。その未知の部分に行く時に感じる恐怖を越えて進むべきだと思います。

「サラリーマンNEO」の時もニュースのパロディをやりたいと言ったら抵抗がありました。でも、その時にニュースそのものをバカにしない、サラリーマンのネタで成立させると押し切りました。もし、そこで報道のチームを怒らせてしまったら次はありません。でも、面白いと思ったことをやることによって新しいことが生まれます。

「サラリーマンNEO」はただ、笑いとして面白いだけでなくて、NHKがよくここまでやった!勇気をもらった!と、こちらの立場で見てくれるサラリーマンの方も多かったんです。その結果、僕がドラマから映画までやれるようになった、その土壌になったのだと思っています。

怖いという気持ちは、今でもあります。だけど、結局先のことを考えても意味はないと思います。夢や目標を持つ人が、起こってもいない未来のことを考えて恐怖を抱くんですよね。今のことだったら苦痛として感じるので…基本的に2~3日先のことしか考えていないです(笑)。基本的に目の前のことをやる人が面白いものを作っているような気がします。


作品情報

『疾風ロンド』
11月26日(土)全国ロードショー

(C)2016「疾風ロンド」製作委員会

(C)2016「疾風ロンド」製作委員会

阿部 寛
大倉忠義 大島優子
ムロツヨシ 堀内敬子 戸次重幸 濱田龍臣 志尊 淳 野間口 徹 麻生祐未 生瀬勝久
望月 歩 前田旺志郎 久保田紗友 鼓太郎 堀部圭亮 中村靖日 田中要次 菅原大吉 でんでん
柄本 明

原作:東野圭吾「疾風ロンド」(実業之日本社刊)
監督:吉田照幸 脚本:ハセベバクシンオー 吉田照幸
主題歌:「フキアレナサイ」B’z

配給:東映

http://www.shippu-rondo-movie.jp/


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吉田照幸(よしだ・てるゆき)

1969年12月13日生まれ、福岡県出身。93年NHK入局。「のど自慢」「小朝が参りました」などエンターテインメント系の番組に携わる。04年に「サラリーマンNEO」を企画、以後全シリーズの演出を担当し、NHKとして型破りな番組として人気を博す。11年には『サラリーマンNEO 劇場版(笑)』で映画初監督を務める。さらに2013年春からは、日本中にブームを巻き起こした連続テレビ小説「あまちゃん」の演出を担当。現在NHKエンタープライズ所属。近作では、「となりのシムラ」といったコント番組や、ドラマ「洞窟おじさん」(第70回文化庁芸術祭テレビ・ドラマ部門優秀賞受賞)、「富士ファミリー」「獄門島」を演出。

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