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ロシアの国民的キャラクター、チェブラーシカに新たな息吹をもたらした中村誠監督に聞く

キャラクターグッズのデザインから始まり、ラジオ番組のプロデュースなど、幅広いキャリアを重ねてきた中村誠さん。2010年に劇場公開された『チェブラーシカ』では監督を務め、ロシア、韓国、日本の3か国のスタッフを取りまとめて制作を行いました。ロシアの国民的キャラクターでありながら、長きにわたって新作が生まれていなかったチェブラーシカをどのように作っていったのか?そして、国内では稀な長編人形アニメーション『ちえりとチェリー』に寄せた想いとは…?!

 

■ キャリアのスタートはキャラクターグッズのデザイナー

子どもの頃から「お話を作る」のが好きでした。映画監督になりたいな、とか監督は無理でも漫画家なら?と考えていた大学の頃に、舞台演劇を見てとても感動したんです。
それをきっかけに、舞台用にオリジナルのシナリオを書いたりしていました。そして、劇団の事務所に入団を直談判したこともありましたが、募集がないと言われてしまいまして。

演劇以外にも好きなラジオドラマに携われる会社を探す就職活動の中で、今の僕のボスでもある社長に「商品デザインに興味ある?」と聞かれて、「あります」と答えたことから、キャラクターグッズのデザインを手掛けることになりました。
入社後はデザインにずっと携わっていて、ある程度やり切ったと思っていた頃に、ラジオ番組などを立ち上げる部署に異動を打診されました。

その異動で、もともと興味のあったラジオ番組のプロデュースをするようになって、ラジオ番組の構成やラジオドラマのシナリオを書くうちに、部署が分社化してフロンティアワークスになりました。そのままラジオドラマの脚本を書くうちに、そこから派生してアニメーションのシナリオを書くようになり、演出もやるようになり2010年に劇場公開された『チェブラーシカ』の監督を依頼されたことでパペットアニメーションに触れて、今に至る感じです。

 

■ ロシア、韓国、日本の3か国をとりまとめて制作した『チェブラーシカ』

2010年に劇場公開された『チェブラーシカ』は、基本的に日本のプロジェクトとしてスタートし、僕が監督でロシア、韓国、日本の3か国のスタッフを取りまとめることになりました。

ベースとなるシナリオは日本で書いたものでしたが、それをロシア語に翻訳して、ロシアのスタッフに直してもらい、美術設定も作ってもらいました。そうして上がってきたものに対して「ここはこういう方が良いと思うんだけど、どう?」と話し合いながら、前段階を完成させました。アニメーション部分は韓国のスタジオから上がってきたものを僕の方で確認して、演出をして、編集してロシアでチェックという流れを行ったり来たりしながら作っていきました。

監督としては、まず全体の方向性を提示します。『チェブラーシカ』に関しては、ロマン・カチャーノフ(旧ソ連時代に活躍したアニメーション監督の巨匠)のスタイルを継承して作る、ロシアのお客さんが喜ぶように作る、という大方針は出していました。それに対して、3か国のスタッフ皆、少しずつ考えることが違うので、その都度調整していくというのは結構大変な作業でしたね。

ただ、一人でできることには限界があるので、いろいろな人のアイディアがあった方が良いし、シナリオ一つにしても、皆で顔を突き合わせて、「こんなシーンはどうだろう?」とぶつけ合うことで高まっていくことが実感できる現場でもありました。

(C)2010 CMP/CP

(C)2010 CMP/CP

今回の新作『チェブラーシカ 動物園へ行く』が生まれたきっかけは、モスクワの動物園に行ったことです。チェブラーシカは、ロシアで創られた最初のストーリーで、正体が不明だから動物園には入れないと言われて、電話ボックスに留まることになります。その後、ストーリーを重ねるごとにチェブラーシカの居場所は確立されていくのですが、そのチェブラーシカが今、動物園に行って働いたら面白いなと思いました。そこで風邪をひいたワニのゲーナの代わりに、チェブラーシカがワニとして動物園で働く…というエピソードができました。

初めに、僕が書いた第1稿のシナリオを原作者のエドゥアルド・ウスペンスキーに送りました。すると、「風邪をひくってどういうこと?」「ヤカンみたいになるんだよ」などのロシア独特の表現が書き加えられて戻ってきて…そういうやり取りを重ねて作っていきました。

2010年劇場公開の『チェブラーシカ』では、何コマで足を動かすと一番チェブラーシカらしく見えるのかとか、ワニのゲーナはどういう動きをつければカチャーノフらしく見えるのかというところからの模索でした。そこに使った時間が何か月もあって、そこからスタートしてコマ撮りをやる中で、もっとレンズの絞りをこうして欲しいとか、照明はこうして欲しいとやり取りしないと意思の疎通ができなかったのが、今回はその蓄積がある状態からスタートしているので、どういうカットを望んでいるのかも伝わりやすくて、そういう部分はスムーズに進めていくことができましたね。

 

■ 「光と影」を意識した長編人形アニメーション『ちえりとチェリー』

今回『チェブラーシカ 動物園へ行く』と一緒に上映する『ちえりとチェリー』には、被災地の未来を願う想いが込められています。
いのちの大切さと向き合い、そこから新たな未来に向けて旅立とうとする少女・ちえりの心の成長を描いた、国内では稀な長編人形アニメーションです。

劇中には、ちえりと父親との別れが描かれていますが、別れは、どんな人でも経験していることで。それは日本やアメリカ、ロシア、韓国という国にも関係なく普遍的な物語なので、どこの国の人が見ても共感できるように作っています。

そして、全体を通して意識したのは「光と影」です。それはストーリー自体のテーマでもあるので、光の射している部分と暗いところを構成的にも意識して作っていますね。

(C)『ちえりとチェリー』製作委員会

(C)『ちえりとチェリー』製作委員会

例えば、日本家屋の中で光を受けて小さなホコリが舞っているような描写は、コマ撮りだと難しいところです。コマ撮りはセッティングして1枚撮って…の繰り返しなので、ホコリのような動いているものは撮れません。でも、子どもの頃に古い民家の廊下などで、仏間に光が射しているような光景が印象に残っていて、どうしてもそれを表現したかったんです。
なので、もとのコマ撮りの段階でも光と影を意識していたのですが、撮影処理を全カットにわたって入れています。全てのカットに「ここは黒くおとす」とか「ここから光を入れる」とか「ここにホコリ(チンダル現象)を入れる」と指示を出して作っていきました。

また、ストーリーでちえりと母親の関係性などを膨らませてくれたのは共同脚本の島田満さんです。大筋は僕のプロットから変わっていないのですが、細かいニュアンスや深い掘り下げは島田さんの脚本によるところが大きくて、共同脚本ならではの良さが出ていると思います。

 

■ 何かを最初から最後までやってエンドマークをつけることが重要

僕は子どもの頃から『世界名作劇場』等のアニメーションから生き方などを学んできました。アニメーションは子どもに対して何かを伝えるべきという気持ちが大きくて、そうすると大人にも伝わるものができるはずと信じています。

『ちえりとチェリー』の主人公ちえりは、設定が小学校6年生なので、そのくらいの子に加えて、お母さんが20代後半から30代の設定なので、その世代にも共感できる要素はあると思います。大人が見ても「子どもの頃こうだったな」と思えるように作っているつもりなので、そういう意味ではどの年代の人にも見てもらえると思いますが、まずは子どもに見てもらいたいと思って作っています。

最近の映画は全国のシネコンで同じ時期にかかって、上映が終わると直ぐにパッケージ化という流れが多いですが、シネコンは実は全国の市町村の1割にしかないんです。9割の市町村には存在していなくて、でも、そこにも多くの子どもたちがいるので、その子たちにも時間をかけてでも届けるために、スローシネマという映画館ではない、公民館などをお借りして上映するやり方を採っています。長い時間をかけた作品なので、全国のいろいろな場所を映画と一緒に回るという上映方法は合っているように思います。

これから映像制作に携わりたいという方にとって、今はハード面でもやりやすい環境が整っています。大変なものを最初から作ろうとすると挫折するので簡単な短いものでいいからシナリオを最初から最後まで書いてみるとか、絵コンテを完成させてみるとか、5分の短編を自分で撮って編集して音楽をつけてみるとか、何かを最初から最後までやってエンドマークをつけることが重要だと思います。そこがアマチュアとプロの差で、短くてもいいから完成まで作ったという経験を積み上げていくと武器になると思いますね。


■作品情報

『ちえりとチェリー』『チェブラーシカ 動物園へ行く』

7月30日(土)より、ユーロスペースにて夏休みロードショー

8月20日(土)より、シネマート心斎橋【大阪】
8月公開、シネマテーク【名古屋】

日本発!心温まる傑作パペットアニメーション二本立て!
『ちえりとチェリー』

(C)『ちえりとチェリー』製作委員会

(C)『ちえりとチェリー』製作委員会

声の出演:高森奈津美、星野源、尾野真千子、栗田貫一、田中敦子 
伊達みきお(サンドウィッチマン)、富澤たけし(サンドウィッチマン)ほか

原作・監督:中村誠
脚本:島田満、中村誠
キャラクターデザイン:レオニード・シュワルツマン、伊部由起子
音楽:大谷幸 主題歌:Salyu 「青空」(作詞&作曲 桜井和寿 編曲 小林武史 )(Courtesy of OORONG-SHA MUSIC PUBLISHER)
製作:『ちえりとチェリー』製作委員会
配給:協同組合ジャパン・スローシネマ・ネットワーク
配給協力・宣伝:マジックアワー

■オフィシャルサイト

http://www.chieriandcherry.com/

『チェブラーシカ 動物園へ行く』

(C)2010 CMP/CP

(C)2010 CMP/CP

【日本語吹替え版】声の出演:折笠富美子、土田大、チョー ほか
【ロシア語版日本語字幕】声の出演:ラリーサ・ブロフマン、ガリー・バルディン、ドミトリー・フィリモーノフ 
原作:エドゥアルド・ウスペンスキーによるチェブラーシカシリーズを元にしたオリジナルストーリー
監督:中村誠 / 脚本:中村誠、エドゥアルド・ウスペンスキー、ミハイル・アルダーシン
製作:株式会社フロンティアワークス
配給:協同組合ジャパン・スローシネマ・ネットワーク
配給協力・宣伝:マジックアワー

■オフィシャルサイト

http://www.cheb-project.com/gotozoo/

profile

中村誠(なかむら・まこと)

1970年、埼玉県生まれ。 これまで、数百本にも及ぶラジオドラマやアニメーションの脚本・演出・プロデュース・グラフィックデザイン等を手掛けマルチに活躍。劇場作品の監督デビュー作である、『劇場版 チェブラーシカ』(2010)では、国内外から好評を博した。本作品により、 ロシア・アニメーションの巨匠、ユーリ・ノルシュテインや「チェブラーシカ」の原作者であるウスペンスキーなどからも称賛を受けた。

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