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テレビディレクターから映画監督へ…岸善幸さんが描く「哲学的尾行」とは?

数々のドキュメンタリー番組を手がけてきた岸善幸さんは、綿密な取材に基づいた構成、演出に定評があり、各局から指名を受ける数少ないディレクターです。2012年元旦から放送されたNHK大型ドキュメンタリードラマ『開拓者たち』(全4話)や東日本大震災被災地でロケを敢行した『ラジオ』など、ドキュメンタリーで培った独自の演出方法は、俳優陣からも絶大な信頼を得ています。その岸さんにとって、初めての映画監督作となる『二重生活』。本作で描かれる「理由なき尾行」をどのような“視線”で捉えていったのか?そこには、ドキュメンタリーで培われた岸さんならではの手法がありました。

 

■ 「ニューヨークに行きたいです!」と答えたら大変なことに?!

IMG_0014もともと学生時代に8mm映画を制作していました。就職活動の頃に、何10年ぶりくらいに松竹の助監督の募集があったのですが、とても倍率が高くて採用はかなわず、他に商社などの内定はあったものの、この先どうしようか迷っていました。

そんな時に友達から制作会社テレビマンユニオンの募集があることを知らされて、深く業界について調べることもないままに、初任給が学生時代の1ヶ月の生活費の倍以上だったので、それを貰いながら休みの日に映画をたくさん観れたら良いなあ、くらいの感じで入社したのですが、それどころじゃなかったです(笑)『アメリカ横断ウルトラクイズ』が最初の現場で、当時の社長に「ニューヨークに行きたいですか?」って聞かれたので「行きたいです!」と答えたら、そこから9か月休みなしでした。一番下のADでしたから、本当に大変で、何度もトイレで泣きました(笑)一方で、ADながらも世の中の仕組みとか、人間関係の作り方とか、いろいろなことをそれなりに考えて学んだ現場でした。

その後、バラエティを経てドキュメンタリ―番組を作ってきて、自分の中で転機となったのが、NHK『少女たちの日記帳 ヒロシマ 昭和20年4月6日~8月6日』です。証言ドキュメンタリーとドラマを融合させた作品で、ここからドラマも作るようになりました。撮影スタッフはドラマ専門の人たちじゃなく、一緒にドキュメンタリーを撮ってきた仲間で、今回の映画『二重生活』も、そのスタッフが集まっています。

 

■ 役者が“そこにいる”という感覚を作るための長回し撮影

映画『二重生活』のストーリーは、大学院で哲学を専攻する白石珠(門脇麦)が、担当の篠原教授(リリー・フランキー)にひとりの対象を追いかけて生活や行動を記録する“哲学的尾行”の実践を持ちかけられ、その対象に石坂史郎(長谷川博己)を選んだことから始まります。

(C)2015『二重生活』フィルムパートナーズ

(C)2015『二重生活』フィルムパートナーズ

今回の作品作りにはいくつかのこだわりがあるのですが、その一つが“視線”の映像化です。
最初、珠はある距離を保って、石坂を見ています。でも、石坂に尾行を気づかれて、2人の視線が合ってからは、今度は石坂が珠に災いをもたらすようにストーリーが転調していきます。
やっぱり視線が重要で、尾行する珠の主観的な視線と、尾行している時の珠を含めた映画でいうところの客観的な視線は細かくレンズを変えながら撮影しました。

それからゴミ置き場の監視カメラの映像も加えました。この映画を観ている人に、誰かが見ている。誰かに見られている、そんな現代の空気を感じてもらいたかったからです。

もう一つのこだわりは、これまでのドラマ作りと変わらないんでけど、役者が“そこにいる”という感覚を作りだすことです。
実際の現場では、役者はスタートからカットがかかるまでの間しかその場にいないわけですが、以前からそこにいて、生活していたようなリアリティが欲しい。そういうこちらの意図を、今回は皆さんが実力派の役者たちなので、脚本の読解力も高くて、映像の中で役に対してかなりのリアリティをもって、呼吸して生きてくれたと思います。

(C)2015『二重生活』フィルムパートナーズ

(C)2015『二重生活』フィルムパートナーズ

長回しで撮影するのも、“そこにいる”という感覚を大切にするためです。
例えば珠と同棲中の卓也(菅田将暉)が会話するシーンは、二人の気持ちをあまり分断させたくないので、段取りもほどほどにして。段取りに時間をかけると、役者がいろいろと考え込んでしまうような気がするので、カメラ位置を決めたら、最低限のシチュエーションだけ説明して、一気に長回し、通し芝居でやってもらいます。気持ちが完結するところまで回します。菅田将暉さんは、最初、現場に入って驚いてもいましたけど、楽しんでもくれました(笑)

 

■ “流れていく”テレビと“記憶される”映画

今回、初めて映画を監督して、テレビとの違いを聞かれることがあるのですが、テレビは、放送時間に流れると完結してしまうところがあって。一週間後には同じ時間に別のものが流れています。一過性で流れていく番組にも面白味はあります。一方で、作り手としては流れるだけでなく、視聴者の心の中にとどまってほしいという願望もあります。

IMG_0015例えば、2013年に、実話をもとに放送された宮城県女川町にの臨時災害放送局女川さいがいFMを舞台にしたドラマ『ラジオ』は、刈谷友衣子さんが演じてくれた少女がラジオやブログを通じて被災者の内側の声を語ることで成長するという青春ドラマでした。震災後マスコミの多くは、「被災地」に生きる人たちのことを「被災者」と呼び、ものすごく簡単なくくり方で報道し続けていました。そんな風潮に違和感を持っていた僕は、一色伸幸さんの脚本に出会って、「被災地」や「被災者」にもいろいろな表情があって、一人ひとりの思いが多様であることを表現しました。放送後の反響も大きくて、今も時々、いろいろな場所で『ラジオ』について聞かれることがあります。そういう、人の心に何かを残すような番組はドラマであれ、ドキュメンタリーであれ、ジャンルを問わず、これからも作り続けていきたいです。

映画を作ってみて、改めて感じたんですけど、映画は、長い間、観た人の記憶に残る感じがあるように思います。きっと作る側も売る側もすごくこだわりが強いからだと思うんです。
例えば音楽、音をつける時のダビングルームの作業で感じたんですけど、テレビ番組では小さなモニターで編集をして、音つけの時に少し大きい画面で見る。映画は大きなスクリーンをそのまま使って音つけをすると。スクリーンでは映像の奥行きや美術の細部も見えてしまう。ある意味でそれが映画の日常ですから、こだわらないわけにはいかないんですよね。そのこだわりが記憶に残る作品を生んできたんだと思いました。

 

■ 映像制作の仕事の変化に順応する

今、テレビはインターネットの登場以降、広告費の減少などで過渡期とも言われますが、やっぱり大きな器であることに変わりはないと思います。そこで表現することは、これからも職業としてあり続けると思います。ただ、ハードが進化すると映像表現も変わってくるので、そこは勉強し続けなければいけない。

スマホで見る縦長の映像も一つの表現で、今後映像のフレームも変わってくるかもしれない、そういう時は若い人よりも前に出て、作りたいと思いますけど。
これから映像制作に携わりたいという人に語ることがあるとすれば、結局個人の力を鍛えるしかないと思うので、勉強、研究は惜しまずに、と言いたいですね。周りを見ても、やっぱり勉強している人が一線で残るんです。そういうことも意識していった方が良いと思いますね。


■作品情報

『二重生活』

6月25日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー

(C)2015『二重生活』フィルムパートナーズ

(C)2015『二重生活』フィルムパートナーズ

監督・脚本:岸善幸『ラジオ』『開拓者たち』
音楽:岩代太郎
原作:小池真理子「二重生活」(角川文庫刊)
出演:門脇 麦 長谷川博己 菅田将暉 / 河井青葉 篠原ゆき子 西田尚美 烏丸せつこ / リリー・フランキー
製作・配給:スターサンズ
R-15

■オフィシャルサイト

http://nijuuseikatsu.jp/

profile

岸善幸(きし・よしゆき)

1986年、テレビマンユニオンに参加以降、数々のドキュメンタリー番組を手がける。演出の他プロデュースでも、多くの優れた映像作品を生み出す。綿密な取材に基づいた構成、演出には定評があり、各局から指名を受ける数少ないディレクターである。NHK「少女たちの日記帳 ヒロシマ 昭和2046日~86日」は放送後に多くの反響を呼び、サンダンス映画祭ではノミネートこそ逃すものの国内外の選考委員に高く評価された。2012年元旦から放送されたNHK大型ドキュメンタリードラマ「開拓者たち」(全4話)や東日本大震災被災地でロケを敢行した「ラジオ」など、ドキュメンタリーで培った独自の演出方法は、俳優陣からも絶大な信頼を得ている。

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