ゲーム好きな人はもちろん、バラエティーとしても楽しめるゲーム番組『勇者ああああ』。ネット上では数々の番組まとめができていたり、放送後のSNSがバズったりと話題になっています。演出とプロデュースを手がける板川侑右さんは、テレビ東京イチのゲーム好きであり、『ゴッドタン』や『モヤモヤさまぁ〜ず』などの人気バラエティーにも携わってきた方です。ゲームをしない人でも楽しめる「ゲーム番組」を作っている板川さんにお話を伺いました。

板川 侑右(いたがわ・ゆうすけ)
2008年入社【過去に担当した番組】
「所さんの学校では教えてくれないそこんトコロ」AD
「Hi!Hey!Say!」AD

「ピラメキーノ」D
「ゴッドタン」D
「トーキョーライブ24時」「トーキョーライブ22時」D

特番「ぽい図ん」初演出

【現在の仕事】
「勇者ああああ」演出P
「モヤモヤさまぁ〜ず2」D

辛いことも笑いに変えて過ごしたAD時代

――大学時代は落語研究会に所属されていたそうですね。
元々ずっとお笑いが好きだったので、落研もお笑い好きな人がいっぱいいるだろうと思って入ったんです。プレイヤーになりたいというよりも単純にお笑いやテレビが好きという感じで。その頃からうっすらテレビの仕事がやりたいなとは思ってました。

――特に印象に残っている番組や芸人さんはいらっしゃいますか?
一番最初に好きになったのが『ボキャブラ天国』で、それからあらゆるものを見るようになりました。同級生の中でもダントツで見てたと思います。今もずっと見てますし、録画を見返して「あの番組のあのシーンのあの企画よかったよね」とかずっと喋れるタイプです(笑)。好きになるとハマっちゃうのでずっと見ちゃうし、基本誰かにちゃんと説明できるまで知らないと気がすまないんですよね。僕はテレビとゲームと飯に関してはそんな感じでずっと好きで。

――テレビ東京に入社されてからはどのような番組をご担当されたんでしょうか。
AD時代は『所さんのそこんトコロ』、Hey! Say! JUMPの番組をやって、初めてディレクターになったのが『ピラメキーノ』でした。で、そのときのプロデューサーが佐久間宣行さんだったので、流れもあり『ゴッドタン』のディレクターもやって、現在は『モヤモヤさまぁ〜ず』のディレクターと『勇者ああああ』の演出・プロデューサーをやってます。

――AD時代の特に印象的なエピソードってありますか?
一番キツかったエピソードで言うと、ロケ当日の朝に新鮮な魚を用意しなきゃいけなかったんですけど、その仕込みを任せてた人がいなくなっちゃったんです。で、僕一人で何とかしなきゃいけないから、見知らぬ漁師さんの所に行って魚を売ってもらいました(笑)。突然で企画書も持ってなかったので、必死で信用に足るような説明をして……漁師さんも見知らぬ人が「魚くれ」って言ってんだから困ったと思うんですけど(笑)、僕も相当困った顔してたんでしょうね、魚くれましたよ。

――すごいですね、ロケって何が起こるかわからないですね。
概ね楽しかったですけどね。1年目のときはバミリ作ったり弁当配ったり「何なんだろうこの仕事?」っていうことが山ほどあったんですけど、この業界って周りにも「何でこの人こんなことしてんだろう?」っていう人が結構多いので。
業界の変なしきたりとかあるあるを知る度に「何だよこれ?」って思ってそれをいじってたりすると、上の先輩たちも同じように思ってることって結構あって。要は辛いことを「辛くね?w」って笑いあえる人が多かったんで、ゲラゲラ笑ってるうちに仕事が終わってましたね。

撮りながら頭の中でどう編集するか組み立てるスキルが身についた『モヤさま』

――現在ディレクターを担当されている『モヤモヤさまぁ〜ず』はテレ東さんの看板番組の一つだと思うんですけど、モヤさまならではのルールとかってありますか?
ルールというか、街ブラでカメラが2台しか回っていないので相当編集の腕が問われるんです。最初は「それ編集できないだろ」って思ったんですけど、いざ3年目になるとなんとか編集できるもんで。だからほんとに勉強になりますね。素人の人が何言うかもわかんないし、さまぁ〜ずさんは勿論用意もしてくれてるんでしょうけど、現場の瞬発力でおもしろくしてくれるから何を言うかわからない。ディレクターとしては現場もすごく楽しいんですけど、撮ったあと「さあどうする」って試されてる感じも楽しい。パズルゲームやってる感覚に近いです。

――通常のロケだとカメラは何台くらいなんですか?
番組によりますが、1台のカメラで回し続けるものもあります。ドキュメンタリーなんかは1台で撮ってるのありきなんで同じカットがずっと続いてても気にならないと思うんですけど……モヤさまは一応バラエティーなので編集点で首の位置が変わってたりいきなり誰かが別の場所に移動してたりするとやっぱり気になるんでできるだけそういう事がないように編集します。これって、結構テクニック要る…まあ自分で言うのも恥ずかしいんですけど、よっぽど気遣ってやんないとできない。ユルそうに見えるけどすごく繊細に計算されてる番組でいつも勉強させてもらってます。

――具体的にどのような編集テクニックが必要なんでしょうか。
モヤさまは基本的に段取りが存在しないんですよ。さまぁ〜ずさん達と一般の方とのやりとりなので、「これ言ってください」とは言えない。だから今撮れたものの中でどう編集するかっていうのを撮りながら頭の中で組み立てていかないと、無駄なものを撮影してどんどんロケが伸びることになっちゃいます。

――効率的にできるようになったっていうことですね。
そうですね。なんとなくどの現場に行っても「こんだけしゃべってこんだけ笑いがとれたから1分半はできた、あともうひと落ちあれば尺できるな」っていうのは頭の中で計算できるようになってきました。ディレクターさんはみんなやってることだと思うんですけど。

――じゃあその段取りができてしまえば他の番組にも活かせると?
『勇者ああああ』なんかは特にそれが活かせてますね。若手の芸人さんがわちゃわちゃやってて、何となく現場がわっと盛り上がったらそこを主軸にして、台本で用意してきたことの半分くらいすっ飛ばしてやめちゃうこともありますし。それは『ゴッドタン』とかで勉強したことでもあるんですけど、何でもかんでもやればいいっていうもんじゃないっていう。

――当初思い描いたものをちゃんとやるよりも、想定外に起きたおもしろいことを活かすと。
最低限のことは考えときますけど、それがなくなっちゃったときに「でもウケてるからいっか」とはなります。お笑いってそういうものだと思ってるんで。

若手の発掘がネタ番組しかない現状を変えたい

――『勇者ああああ』に関しても、ゲーム番組でありながらバラエティーの要素もあって。ゲームを全くやらない私でも所々爆笑しました。板川さんは立ち上げから携わられているんですよね。
eスポーツを発展させようという命題から、まずゲームの番組をやろうということになって。社内で一番ゲーム好きなのが僕だったので、企画を出したら通ったんです。

基本はゲーム番組なんで、全企画ゲームにからめたものはやろうっていう大前提で。とはいえただのゲーム紹介バラエティだったとしたらインターネットで調べたほうが早いし、ゲーム実況だと大先輩の『ゲームセンターCX』には勝てないと。『ゲームセンターCX』の構成作家をやってる岐部昌幸さんに『勇者ああああ」にも入ってもらってるんですけど、僕らのイメージで言うと『ゲームセンターCX』は上品な名門私立高校なんですよ。で、岐部さんいわくウチの番組は結構下衆なこともやるんで「ゲーム番組界の男子工業高校」だと。多少粗野な所もあるけど、誰かしらゲーム好きの愛がある奴がスタッフにいるぞっていうことを匂わせるパッケージにしたかったんです。『ゴッドタン』もやってたんであの番組の人が見てゲラゲラ笑えるものには絶対したかったし、ゲームに興味ない人が見ても“なんかよく意味はわからないけど”腹抱えて笑ってくれたらいいなっていうのが最初のコンセプトですね。

――出演者の芸人さんたちも、他の番組ではあまり見かけないような方が多くて「この人知らないけどおもしろい!」っていう新鮮さを感じました。
知らない奴しか出てこないっていうのが売りのひとつでもあるんで(笑)。僕、視聴者の方の「どの番組見ても同じ芸人さんが出てる」っていう批判が一番嫌なんですよ。別に同じ人でもおもしろいんだからいいじゃんかと思いつつも「テレビに出てないけどおもしろい芸人さんもいっぱいいる」事は伝えたい。

どんな人かわからないけどおもしろい人っているじゃないですか。僕の経験で言うと『水曜どうでしょう』の大泉洋さんを初めて見たときの感覚がそんな感じで。大泉さんが当時まだ北海道でしか知られてない頃、「得体の知れないとんでもないおもしろいスターが知らない番組に出てる!」って見つけたときの「俺がこの人を応援してあげないと!」っていう感覚ってあると思うんですよね。変な話ですけどいろんな番組で活躍してる芸人さんが実力発揮してしゃべってるのって、もう応援する気がしないというか。この人別に俺が応援しなくても食っていけるしって思えちゃう(笑)。

今のテレビバラエティってそんなに平場で挑戦する場所を与えないじゃないですか。ネタ番組でおもしろいっていう人は結構いるんですけど。でもネタ番組でおもしろかったことって平場ではあんまり意味がなかったりするので、若手の発掘がネタ番組しかないっていう現状はちょっと気持ち悪いなと思うんですよ。ネタって芸人さん達が作ってきた作品であるし、番組スタッフの実力とは関係なかったりするから。

だから足を使ったり周りから常に情報収集したりして、あえてまだ知られてない人をキャスティングして、いわゆるバラエティの現場に放り込んだときにどうなるんだろうっていう化学反応が見たいっていうのはあります。新しい芸人さんの発掘は、若手ディレクターやプロデューサーがもっとやるべきなんじゃないかなと僕は思いますね。

テレビ界が引きずってる“懐かしさ”を更新するためにしてること

――その他に『勇者ああああ』でこだわっている部分を教えてください。
いくつかあって、まずゲーム用語に関してはあえて説明しすぎないようにしてます。なんでもかんでもテレビで説明する必要ないかなと思ってて。みなさん同時実況でSNSで見てることも多いので、自分で調べるっていう作業を意外と苦に思わない人も結構いるので。分かり易すぎると意外と僕は冷めちゃうので、匂わせてぞわぞわさせて終わるっていう番組があってもいいのかなと。

あとはオープニングでテレビ東京のロゴから入るんですけど、愛社精神があるわけじゃなく(笑)、プレイステーションを立ち上げたときにロゴが出てくるのをそのまんまやってるんですよ。尺の長さも同じに作ってて。これは僕の中で「“懐かしい”とされてるものを更新したい」というテーマがあって、それに基づいてやってるんですけど。

昔、伊集院光さんがラジオで言ってたことだと思うんですけど、『ALWAYS三丁目の夕日』を見たときに、懐かしいって思うじゃないですか。だけど実際にあの風景見た人なんて、若い世代にはないはずなんですよ。ってことは、あれを見て懐かしいって実は嘘じゃないですか。知らないんだから。

そうなったときに、ファミコンが未だにレトロゲームとして紹介される事が多いんですけど僕今33歳で、僕が“懐かしい”のはプレイステーションやセガサターンの90年代のゲームカルチャーなんですね。だからテレビ界はいつまでオジさん達の“懐かしい”を引きずってるんだろうと。懐かしいのレベルを更新したいと思って。

――今後どういう番組にしていきたいか、目標などはありますか?
ライブにしたら面白そうな企画を立ち上げて、イベントが作れたらなっていうのは常日頃思ってます。日本ではまだそこまで普及してないですけど、ゲーム自体は完全な競技として認定されてるんですよね。海外では野球観戦くらいの感覚になってきていると思うので、eスポーツを発展させるための番組としても家族連れとか友達同士で気軽に来て、腹抱えて笑ってもらえるようなイベントはやりたいです。

――では最後にテレビ業界を目指す方へメッセージをお願いします。
今僕は割と好きなことを仕事にさせてもらってるんですが、別に興味ないジャンルの番組でも意外と楽しくできるものです。番組の作り方とか編集自体は、どの番組に配属されてもあんまり変わんないと思うんですよね。
ただ下っ端だとしても番組を作りながら「絶対口には出さないけどここは俺おもしろくないと思う、俺だったらこう作るのに」みたいなことは、常に頭の中に入れとくといいです。いざ自分にチャンスが回ってきたときに、それが正解かは置いといて自分の思いとしてぶつけられるんで。

今のADさんを見てて思うのは、最初ゴリゴリのお笑いがやりたいって入ってきたのに、やりたい番組に配属されるまで時間がかかっちゃうから、なんとなく配属された番組での優等生になっちゃう人が多い気がします。お前最初そんな話してなかったじゃん、っていう人が結構いるので。それはそれで仕事としてやっていく上ではサラリーマンなのでいいんですけど、八方美人しつつ心の中では多少性格悪く「ここ面白くないんだよな」って思うことは忘れないほうがいいんじゃないって、僕は思います。

インタビュー・テキスト:上野 真由香/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:CREATIVE VILLAGE編集部

番組情報

勇者ああああ
(毎週木曜日 深夜1時35分~放送)
公式サイト:http://www.tv-tokyo.co.jp/aaaa/

©テレビ東京

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