助監督を経て、初の劇場用長編監督作『月とキャベツ』で注目され、その後、『はつ恋』『深呼吸の必要』といった人間ドラマから、『真夏のオリオン』などの戦争映画、『小川の辺』などの時代劇まで、さまざまなジャンルの映画を手掛けてきた篠原哲雄監督。最新監督作『起終点駅 ターミナル』は、第28回東京国際映画祭のクロージング作品に選ばれました。篠原監督にインタビューし、これまでのキャリアや、若手を育てるワークショップ、映画監督としてのこだわりについて、お話を伺いました。

■ 映画監督になりたいと思ったきっかけは『タクシードライバー』

_MAN4346きっかけは、高校時代に観た『タクシードライバー』です。ロバート・デ・ニーロのたたずまいがカッコ良くて、非常にインパクトを受けました。映画がこんなに人の心を動かせるのかと思い、そこから映画を観るようになりました。ちょうど80年代で、森田芳光監督の『家族ゲーム』の松田優作さんや、『太陽を盗んだ男』の沢田研二さん、菅原文太さんなどの映画を観ていくうちに、役者に憧れるのではなく、監督がやりたくなっていったんです。

監督になるには、自主映画から監督になる方法と、助監督から監督になる方法がありましたが、当時、撮影所が助監督を募集していることを知らなくて、僕はフリーでいくしかないと思いました。それでまず、新藤兼人さんのシナリオ講座へ行ったのですが、そこの受講生に、たまたまプロの助監督さんがいらして、その方に頼んで映画の現場に連れて行ってもらったんです。

『想い出のアン』という戦中の映画で、長野県の小布施で、2ヶ月間くらいロケをしていました。僕は、誘ってくれた助監督の下についたんですが、途中でベテランの衣裳さんが抜けて現場にいないこともあり、そこから僕が衣裳の管理を始めたんです。洗濯したり、着物をたたんだり、戦時訓練のシーンとかもあったので、ゲートルの巻き方を覚えたりして。一応、演出見習いでの衣裳助手でしたが、それがすごく面白かったんです。映画は監督だけじゃなくていろんなパートがあり、総合力でできていくものなんだと、初めて実感しました。

シナリオ講座で僕の担任だったのが、大島渚監督作などで脚本を書かれていた石堂淑朗さんです。僕が最初に書いた脚本は、生意気にも起承転結から逸脱しようとしたものだったのですが「デタラメをやるにしてもまずは基本があってそれから崩していかないと」と言われ、すごく勉強になりました。また、(映画評論家の)大久保賢一さんは最初に撮った自主映画を観てくださり、「発想は面白いけど、ちゃんと編集して、ちゃんと音を録らなきゃダメだよ」と言ってくれまして。そこから助監督を真剣にやるようになり、結局9年くらいやっていきました。僕はプロとして映画作りを学びながら、時間を作って自主映画を撮っていった感じです。

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■ 映画監督としてのこだわりは、俳優の反応とたたずまいを撮ること

(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会
(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会

『起終点駅 ターミナル』は、佐藤浩市さんと初めてご一緒しましたが、見ていてワクワクする瞬間がたくさんありました。たとえば、クライマックスに近い部分なのであまり詳しくは言えないのですが、イクラを食べる場面で、浩市さんは台本では、「一口目を頬張りうまそうに飲み込むと黙々とかきこんでいく」とあるのですが、そこでの食べながらの表情がとても印象的で、ある感情をきちんと示してくれました。黙々と食べながらの気持ちの高揚感、これをどうカメラの前で示していくのか、そこも含めてひとつの芝居を見せていくという俳優としての佇まいに感動しました。

映画を撮ることの醍醐味は作品によっても違うけど、決定的な瞬間、その映画を決めるような場面をちゃんと撮れた時に、感じるものかなとも思います。それは俳優さんが作り出す瞬間ではあるけれど、スタッフみんなでそのシーンをどう撮るかを考えた結果でもあり、僕らが用意したステージでグッとくる芝居が成立したときに醍醐味を感じますね。

今回でいえば、浩市さんのたたずまいがいちばん大事でした。釧路で尾野真千子さん演じる冴子の店に入っていくまでの後ろ姿などもそうです。後ろ姿で行くというのは、最初から決めていました。空間と人間の関係をすごく重視しているので、ロケハンの時からその場所での佇まいを想起して決めたりもします。

また、本作では、佐藤さん演じる完治の家は、オープンセットを建てました。制作部と美術部が連携しながら、でき上がったものです。どんな映画でも、たたずまいを撮ることは、非常に大事だと思っています。

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■ ワークショップで見出せる、新人俳優の個性

(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会
(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会

今の映画やテレビの世界って売れていくことは非常に重要で、ぼくらも普段そういう方々と仕事をさせて頂いてとても力を与えられます。一方でまだまだ世に出る手前の方々も沢山いる。作品にもいろいろ種類があってインディペンデント映画を自分の領域にしている方々だって沢山いる。ワークショップをやってみると、こんなに実力がある人がいるのか!という発見があります。面白い個性をもった人と出会いたいと常に思っています。時にいい人がいれば、自分の作品に起用したくもなります。

たとえば今回、北海道のキャスティングで、尾野真千子さん演じる冴子が学生運動の最中にいる場面に、札幌出身の俳優たちが参加しています。実は以前、札幌の俳優事務所からワークショップを頼まれたことがあり、そこで出会った人達もオーディションに現れた。すべての人を起用できたわけではありませんが、何人かは現場で再会することができたわけです。

 

■ 映画監督を目指す上で一番大切なのは、人との関わり

_MAN4374これから、映画監督を目指す人にまず言いたいのは、絶対に諦めない!ということです。いいアイデアを思いついたら、しっかりと形にしてみるまで頭を働かせてみようと。そして、一緒に作る人との関係を大事にしてやっていってほしいです。映画は自分ひとりじゃできないから、一緒に組む仲間を見つけられたら、自分の想いだけでなくスタッフの意見も聞きながらそれを取り入れる態度も忘れてはならないと僕は思います。

映画監督って、多分1本は誰でも撮れるんです。大事なのはそこから先で、何よりも続けることが大事です。僕はたまたま(監督デビュー作の)『草の上の仕事』から『月とキャベツ』まで3年かかりましたが、撮ったものを観てもらえたから、次の仕事がいただけたわけで、その繰り返しで今に至っています。

やっぱり自分の作品を観てくれた人を大事にしなきゃいけないと思いながら、映画監督をやり続けています。そう思うと、人との関わりが一番大事です。小説家にも編集者がいてその人たちと二人三脚で書かれる場合もあると聞いたことがありますが、書いている瞬間は一人だと思います。監督にも孤独な瞬間はありますが、映画の現場ではいろいろな力が働いて成り立っていきます。その中で自分が活かされていくわけでもあり、映画は人とのセッションでできるんだとも言えますね。


■作品情報

『起終点駅 ターミナル』
11月7日(土)、全国ロードショー

(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会
(C)2015 桜木紫乃・小学館/「起終点駅 ターミナル」製作委員会

【物語】
北海道の旭川で裁判官を務めていた鷲田完治(佐藤浩市)は、学生時代の恋人・結城冴子(尾野真千子)と再会し、逢瀬を重ねる。2年の北海道勤務を終えた後、東京にいる妻子を捨てて冴子と一緒になろうとするが、彼女はそこで命を断ってしまう。それから25年、完治は釧路で、国選弁護人をしながらひっそりと1人で生きていたが、弁護を担当した若い女性・椎名敦子(本田 翼)と交流することで、改めて人生と向き合っていく。

原作:桜木紫乃「起終点駅 ターミナル」(小学館刊)
監督:篠原哲雄
出演:佐藤浩市 本田翼 中村獅童 和田正人 音尾琢真 泉谷しげる 尾野真千子
配給:東映

■オフィシャルサイト

http://www.terminal-movie.com/