犬を怖がっていた赤ちゃんに訪れた小さな奇跡…心温まるAmazonのCM「変身する犬」篇や、ある家庭にやってきた猫のストーリーを、父親目線、猫目線の両方で描く「シーバとろ~りメルティ ウェブムービー」。これらの注目のCMを手掛けたのは、たじまなおこ監督。
ショートフィルムや長編映画の脚本・演出作品では、カンヌ映画祭、ハリウッド映画祭、ショートショート フィルムフェスティバル & アジア他、数々の海外映画祭で受賞、入賞経験を持つたじま監督が、新たに挑戦したブランデッドムービーについてもお伺いしました。

広告業界でのスタートは企画1000本ノック?!

18歳の夏、アメリカのホームステイ先での元映画プロデューサーとの出会いが、映像の仕事に興味を持ったきっかけでした。その方に、『キャスパー』の現場見学に連れて行ってもらいました。セットデザイナーやプロデューサー、ディレクターなど家族ぐるみの付き合いの中で、いろいろな方に話を聞いてみると、もともと建築に興味があって、セットデザイナーの仕事をしているとか、いろいろなことに興味があって、全部ができるからディレクターの仕事は面白いよ、とか、そういう生の声を聞いたことで、最初1日のつもりだった現場見学は、1ヶ月くらいになりました(笑)

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特定の作品に影響されて、というよりは現場を見たことで監督の仕事をやりたいと思うようになりました。『キャスパー』の監督が手掛けていたテレビ番組の現場にも見学に行かせてもらって、本格的なハリウッドの凄さを感じながらも、朝の8時~夜6時までと、きっちり労働時間の管理もされている“職場”を見せてもらった感覚もありました。

2003年には博報堂プロダクツに入社して、最初の3年は下積みで広告業界の勉強をしました。企画1000本ノックのようなイメージで、クリエイティブディレクターにアイディアをどんどん出していきました。クライアントも5社くらい抱えていて、時には翌日までに15個の企画を求められ、絵コンテを書いて出すなど、20代は企画ばかりの日々でした。企画を考える時間は通常業務のスケジュールに入っていないので、時間的にはハードでしたが、企画が通ると演出をさせてもらえるんです。その時は、入社前にショートフィルムや長編の制作を経験していたことが活きました。

広告ディレクターはクライアント、代理店など、大勢いるような現場で声を上げて皆を引っ張っていかなくてはいけないので、実際の演出以外の部分でのプレッシャーも大きいですね。その15秒には、大きなお金が動いているので、作品ではなくて、商品を売るための、クライアント主導のものです。その中で自分の力をどう出すか、個性を出すかが、CMならではのアプローチだと思います。

マルチタスクが求められるCMのプロデューサーは、女性に向いている仕事

実際のCM制作現場で経験を積んでいくと、日本ではプロデューサーの大半が男性なのに対して、アジアでは女性プロデューサーが多いことに、初めのうちは驚きました。

実際に私が携わったアジアでの仕事の大半は、女性プロデューサーが取り仕切っていました。女性ならではの気配り、マルチタスキング能力、細かさ、まとめる能力がとても活かされる仕事なので、皆活き活きしています。例えば、大勢の子供たちが出演するCMでは、長時間にわたる撮影でも、子供たちが飽きないように女性プロデューサーがピエロに扮したり、おもちゃを持って来たりして現場を和ませ、スムーズに進行していたこともありました。
私自身も1歳と3歳の子どもを持つ母親ですが、母親にとっては、いろいろなことを同時にこなしたり考えたりするのは当たり前のことなので、女性にプロデュース業は向いている気がします。

他にも、最近シーバのとろ~りメルティというキャットフードのウェブ広告を演出しました。これは、ある家庭にやってきた猫が家族に溶け込むまでを、父親目線、猫目線の両方で描くストーリーです。ウェブでは猫の目線、父の目線でそれぞれ再生することも、2つの目線を交互に再生することもできるようになっています。

お互いの目線となるカメラワークを絶妙なタイミングで合わせるために試行錯誤を重ねました。こだわった点は、猫も登場人物も自然体でいること。演技を撮っているというよりは、日常生活の一場面を切り取って、ストーリー仕立てで見せるような描き方ができたらいいなと思いました。

ブランデッドムービーで、伝えたいこと

最近、商品やブランドを直接的に訴求するのではなくて、企業が社会に伝えたいことを映像化するブランデッドムービーが注目を集めています。
例えばターゲット層をお母さんたちに定めているP&Gでは、母の日にあわせて、大規模にブランデッドムービーを作るんです。それがお母さんたちの共感を得て、バイラルで世界中に広がって…企業理念に共感して、買うならP&Gにしようと考えるお母さんが増える。そういう流れは今後も広がっていくと思います。
作り手としても、FROGLOUD(企業のブランデッドムービーを専門に企画、プロデュースする会社)と共に、観てくれる方々へ一方的な広告表現だけでなく、背景にあるストーリーやブランドメッセージをいかにストーリーとして伝える事が出来るか?共感性を得られるか?という事まで考えてより多くの人の目に触れることができる、評価してもらえるというのは次に繋がりますし、映像を通して世の中に良いメッセージを伝えられる広告表現は大事だなぁと思います。

s_sub6そのような流れの中で今回、化粧品会社ランクアップのブランデッドムービーを作ることになりました。ランクアップ自体、ワーキングマザーを応援していて、女性が活き活きと活躍できる社会を作りたいと考えている会社です。社員数50人のうち47人が女性、半数がワーキングマザーです。その人たちが活躍できる社会を目指すことを表現するブランデッドムービーとして『ママが働いちゃダメなの?』は生まれました。

子どもと向かい合う時間の確保に悩みながらも、仕事に奮闘する女性に寄り添う物語で、「女性がフルタイムで働いてもいいんじゃないか?」ということを表現したくて作りました。
批判は浴びるだろうなと思いつつ、がんばっていることが次世代を作ることにもなると思ったので、何をメッセージにするかというのは大事にしました。
子育ては人それぞれで答えもないので、この映像ではちょっとした瞬間や、小さなところにフォーカスを当てて、絞っていきました。

もう一つ気を付けたのは、あまり子どもにいろいろ言わず、その子の力に任せる演出にするということです。例えば今回の主役の中田葵月くんは、オーディションの時に「お父さんとケンカするシーンをやってみて」とお願いしたら、「なんで?」と聞いてきたんです。そういう細かいところも受け止めて、考えてやろうとしてくれる、多面的な子が2人いました。その2人で迷って、結果、中田葵月くんに決めたのですが、できるだけ演出しない演出を心がけました。是枝裕和監督の子どもの演出にはインスピレーションを受けています。その子自身が持っているものをフルに出す、そういう風になっていけたらなぁと思っています。

とにかく作り続けることが大切

クリエイターへのアドバイスを時々聞かれることもありますが、どうやって?ではなくて、ものづくりしたければ作る、というだけだと思うんです。まさに「Just Do It」ですね。今はiPhoneでも充分撮れて練習もできますし、本当にやるのみだと思います。

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私自身がショートショートフィルムフェスティバルなどに作品を出していたのも、ロンドンの映画学校で、そう教え込まれたからです(笑)授業でも座学よりも、次は何を作ってきて、と言われる学校でした。練習作品も発表しなくてはいけないので、クオリティーより、まずはやることが大事なんです。とにかく携わる、作る、生み出すが大事で、周りに作っている人がいたら関わっていく、顔を広めていけば運もついてくる気がします。そうして今回のブランデットムービーの話もいただくことができました。作っていないと忘れられてしまうと思うので、継続も大事だと思います。

シーバ とろ~りメルティ ウェブムービー

それでもネコに愛されたい「2つの目線」

http://sheba.jp/gallery/index.html

Branded Shortsとは

企業や行政がブランドメッセージを映像によって発信するブランデッドムービーの制作増加や日本の動画マーケティング市場の拡大を受け、2016年にスタートしたプロジェクト。日本がアジアにおけるブランデッドムービーの発信地となることを目指しています。ショートショート フィルムフェスティバル & アジア 2017の開催にむけて Branded Shortsではブランドコミュニケーションのために制作されたブランデッドムービーを国内外から広く募集しています。
応募締切:2017年3月31日(金)

http://brandedshorts.jp/

ブランデッドムービー『ママが働いちゃダメなの?』

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https://youtu.be/uN92CTM8vc8
仕事も子育ても頑張りすぎるワーキングマザーの春子は、思春期の息子・純の不審な行動に対して、自分が仕事をしすぎなのではないか?と心配になっていた。ある日、仕事を早退して家に帰る事を決意した春子が見た純の姿は…。
<台本・演出・編集>たじまなおこ