賛否両論ある「働き方改革法案」が成立し、多くの企業で働き方に対する見直しもされつつある昨今。そんな中、以前よりダイバーシティ推進に力を入れており、入社希望者が増加しているのが「freee株式会社」です。

任意団体work with Prideが2016年より策定している、日本初の職場におけるLGBTなどのセクシャル・マイノリティへの取組みの評価指標「PRIDE指標」では最高ランクを獲得。東京・五反田にある開放的な本社オフィスでは、メンバーの皆さんも来客の方もアットホームな雰囲気の中で伸び伸び働いている姿が印象的です。

今回は、採用マネージャーでありダイバーシティ推進室の室長でもある吉村美音さんと、主にサポート対応メンバーの人材育成を担当されている生田奈々子さんにご登場いただき、働きやすさや会社としての取組みについてお話を伺いました。


吉村 美音(よしむら・みお)
freee株式会社 ダイバーシティ推進室 室長/人事採用本部Recruiting Manager
経営者向けにwebコンサルティングや人材ビジネスを行った後、組織作りに未来を感じてfreeeにjoin。2016年12月から採用に。freeeのダイバーシティを進めるため、2018年2月よりダイバーシティ推進室室長を務める。

 


生田 奈々子(いくた・ななこ)
freee株式会社 ミッドユーザー事業本部/ユーザーサポート部/Support Product Specialist・トレーナー
スポーツ業界にてライフガードやインストラクター、体育施設の管理運営に従事したのち、2014年佐藤卓デザイン事務所(現・TSDO)入社。経理・総務などコーポレート業務全般およびデザイナーサポート業務を担当。
2018年1月にfreee株式会社入社。現在はSupport Product Specialistチームのトレーナーとして、freeeに入社したサポート対応メンバー全員のトレーニングを務める。

「経理で悩むクリエイターにもっとfreeeを知ってもらいたい!」と入社を決意

――生田さんがfreeeに入社されたキッカケは、吉村さんだとお伺いしました。

生田 そうです、この人です(笑)。

吉村 元々は友人で、お互い「東京レインボープライド」のボランティアをやっていたことから仲良くなりました。あるとき一緒に旅行に行った際、私がfreeeのTシャツを着ていたのがキッカケで、生田もfreeeユーザーだという話になりまして。

生田 前職はデザイン事務所でバックオフィス全般を担当する中で、経理業務をはじめ色々効率化したいと思いfreeeを導入して使っていたんです。

吉村 それから旅行の帰り道2時間、質問されるがままに「クラウド会計ソフト freee」(以下、会計freee)の使い方を車中で私がレクチャーしました(笑)。

生田 レクチャーを受ける前は会計freeeの登録が全く進んでいなくて、わからないことがあってもチャットなどで問い合わせをしたことが一度もなかったんです。でも吉村のレクチャー後、今まで3時間くらいかかっていたものが一瞬で終わったんですよ。それからは会計freeeを触るのが楽しくて仕方なくなって。

吉村 その後もプライベートで仲良くしていて、1年後位に突然「真剣な相談がある」と言われて。ついにパートナーと別れたのかと思い即日食事にに行ったら「freeeに入りたいんだけどどうしたらいいか」と(笑)。

生田 前の職場を辞めたいというマインドではなかったんです。でも、事務所からフリーランスになっていくメンバーをたくさん見送っていく中で、「デザインはできるけど他のことは何もわからないし確定申告ってどうやるの?」っていうメンバーひとりひとりに「会計はこうやってやるんだよ」と教えているうちに、世の中にはもっと困っているクリエイターがたくさんいるんだなと思うようになって。freeeを使えば一瞬で終わるのに、バックオフィスの作業のために時間を失わないで欲しい。たくさんの人にもっとfreeeを知ってもらってクリエイティブなことに時間を使って欲しいという思いが募った結果「そうだ、freeeの中の人になろう」と(笑)。あとは何よりオープンな社風に惹かれて入社したいと思うようになりました。

面接時から多様性を大事にしている社風が伝わってきた

――オープンな社風であることが「働きやすさ」にもつながっていると思うのですが、以前の会社と決定的に違う点ってどのようなところですか?

生田 前職はシェアオフィスのような雰囲気で、良くも悪くも干渉しないところでした。それ以前はとにかく体育会系で、全く毛色の違うところで。で、freee入社前に何度か「asobiba」と呼ばれる社内のフリースペースにお邪魔したときに、メンバーどの方に会っても明るくて気さくでオープンなので、「きっとこの会社は1人1人がのびのび楽しんで働いてるんだな」ということがすごく印象に残ったんですね。今までいた会社の雰囲気と全然違いました。

吉村 私の前職は比較的同一化していることを良しとする社風でした。対してfreeeは同一化よりも多様性を大事にしている社風だなというのを面接で感じたんですね。1人1人の考え方を非常によく見る会社で、それが「良い・悪い」ではなくその人がユーザーに対してどういう価値を届けようと思っているのかをすごく重要視していた。併せて元々freeeの考え方として「迷ったときにはこれに立ち戻って考えて意識決定するといいよ」という5つの価値基準(メンバーの行動指針)があり、それが明文化され社内にも浸透している組織はすごく素敵だなと。そういった会社の考え方やミッションに共感して入社したんです。

生田 私もその価値基準の話を吉村から聞いたときに、大げさだけど「この会社は世界を変えるかもしれない」と思いました。こんなに便利なものは今までなかったから、これは日本を変えるぞと。一緒に日本を変えてみたい!という情熱で今に至ります(笑)。

――それは人生の中でもターニングポイントですよね。

生田 本当にそうです。

吉村 freeeで一緒になってからは生田が毎日楽しそうに働いてるなと感じることが多いです。前職で働いてるときには、とにかく「大変だけど頑張る」というスタンスだったんですよね。でも今は「楽しいからやりたい!」っていうのが強く伝わってきて。今までは気合いと根性で何とかしてきたけど、今は頭を使って動くという違う課題にチャレンジしてる感じはありますね。

――freeeを紹介した吉村さんとしては生田さんのそういう姿を見られて嬉しいですよね。

吉村 すごく嬉しいですね。紹介してよかったなと思いますし、彼女の生き生きした姿を見て私も安心するところがあります。

「プライベートと仕事は両立して当たり前」だから働きやすい

――働きやすさという点で、freeeに入社されてから感じたことは他にありますか?

生田 私はLGBT当事者なのですが、もう最近ではわざわざオープンにしたり隠したりっていうことをしてなくて。そんな中、freeeに入社して初日に本当に驚いたことがありました。マネージャーがランチに連れて行ってくれたときのこと。ポロっと「うちのパートナーがインフルエンザになっちゃって」って言ったんですね。私びっくりして。「この人もゲイなのかな?」と思ったくらい、当事者じゃない方が自分の彼女や彼氏をパートナーと言うんです。噂には聞いていたけれど、ここまで配慮があるのかと。むしろ当時者である自分自身のリテラシーの低さに愕然としました。結果的に彼はストレートだったんですけど、いろんな方がいるということを本質的に理解していて配慮があるというのが日常生活の中に垣間見れるので鳥肌が立ちました。

あとはLGBTとか関係なくここまでみんなのリテラシーが高いと、そういうことを一切会社の中で意識することなく個として仕事に向き合えるので、人間関係もそうですしセクシャリティもそうですし、いわゆる余計なことに時間を全く割かなくなりました。マネージャーもチームのメンバーも本当に建設的な相談ができたり、さりげなく気にかけてくれたり。人の目が良い意味であるという環境に毎日温かみを感じています。

吉村 LGBTに限らず、ひとりひとりの考え方を尊重するような社風なんですよね。例えば「飲み会全員必須参加」みたいなことが一切ない。パートナーや家族を尊重してもいい雰囲気っていうのは非常にありがたいです。みんなもそれを大事にしてることが伝わってくるので、自然に自分がそういうふうに振る舞うことができますし、そうすることが抵抗なくできる会社だと感じています。「プライベートと仕事は両立するのが当たり前だよね」という考え方が革新的でした。その分生産性を上げなきゃとも思いますし、働きやすい環境だなと思います。

――同一化されている会社だと帰るにも帰りづらい雰囲気ってあるじゃないですか。それがないだけでも違いますよね。

吉村 そうですね。男性の育休取得率も非常に高いですし、そのあたりはかなり柔軟性が高いなと思っています。

頑張っている人を応援する社風がダイバーシティに繋がった

――そういったダイバーシティに対する取り組みは、どのようなところからスタートされたのでしょうか?

吉村 弊社には、MSG(Member Success Group)という、従業員がより会社の中で活躍していきやすいような土台を作る、他社でいう人事総務のようなグループがあります。そのグループのマネージャーが2年前、就業規則の見直しを考えていく中で、LGBT対応や育休に関しても拡充していきたいということを社内で発表しました。freeeは制度や仕組みがボトムアップで作られていく社風なのですが、「そのような規定を作るのであれば是非私も協力したい」と提案して、そこから全社的な取り組みが始まりました。

その後は制度改定についての相談を受けたり、全社的な研修もやったりしています。他にも当時の採用マネージャーが「レインボーステッカー、作ったらいいんじゃない?」と提案してくれて、freeeのレインボーロゴと共に社内のデザイン担当者が有志ですぐに作ってくれました。レインボーステッカーはアライ(自分はLGBTでは無いけれど、LGBTの人たちの活動を支持・支援する人たち)の証で、メンバーの大半がパソコンや身の回りに貼ってくれています。元々ボランティア活動をしていた「東京レインボープライド」にも会社として出ることができ、メンバーのボランティアも増えました。そういった一連の取り組みで「PRIDE指標」のゴールドランクをいただきました。freeeはメンバー皆が「頑張ってる人を応援したい」と思ってくれているので、ひとつひとつの協力から現在のような形になったなと感謝しています。

多様性を認め合うことは大事だけれど、受け入れられなくてもいい

――取り組みが形になったことで社外からも評価されたりと、会社がどのように変化したかを教えていただけますでしょうか。

吉村 大きな変化は特になかったかなと思います。それは背景としてメンバー皆が「多様性があって当たり前だよね」ともともと認識してくれていたからかもしれません。ただ、こちらからの発信もなるべくすぐに使えるようなものを積極的に伝えることを意識しています。例えば「彼氏」「彼女」を「パートナー」と言い換えることはそんなに難しいことではないのですが当事者を追い詰めないためには非常に重要です。そういうことを浸透させていくことでLGBTの人たちに対しても親和性が高い、過ごしやすい会社を今後も目指しています。

生田 多様性を認めてくれる会社だということは私も強く感じます。私のチームは50人、確定申告時には100人超えの大きなチームなのですが、本当に個性豊かな面々がまとまりながらも個性を失っていなくて。周りも個性を活かそう、潰しちゃいけないというのを意識して触れ合っているんですよね。

――同一化するよりも認め合ったほうがお互い楽でもありますよね。

生田 そうですね。LGBTも個性の一つですし、育ってきた環境もあくまで個性の一つ。吉村がよく「別に受け入れられなくてもいいんです」って言うのですが、当事者が発信してるのはすごいことだなと思っていて。中には受け入れられない人もいるでしょうけれども、そういう人がいるんだっていうことをお互い知っていて、それをわかっているっていうことが大事なんだろうなとは感じますね。

吉村 組織としては珍しいことなんですが、freeeではLGBTのアライであることがマジョリティなんですよ。だからこそ余計にそういう考え方が受け入れられない人が今度はマイノリティになってしまう。結局私たちが一般社会で味わう息苦しさを逆の立場で感じさせてしまうのは本末転倒ですよね。そういうことも含めて「多様性」は重要で、LGBTが受け入れられない人には「受け入れられないことで悩まなくていいんですよ」と思うところが強いです。

相手を尊重するための「想像力」を持つことで良い人間関係を築く

――多様性を認め合える会社にするには、どのようなことを意識すればいいでしょうか。

吉村 小さいことだと思われるかもしれませんが、“今、目の前にいる人をいかに尊重できるか”だと思います。尊重というのは、自分と目の前の人とは違うんだということを認識すること。これがダイバーシティーの基本的な考えかなと。自分と相手が同じだと思うから同一化された組織になる。違うと認識するだけでアクションが変わってくると思います。

生田 想像力が大事ですね。

吉村 LGBTのことで考えるなら、自分以外の相手に対して性別の軸を取っ払って考えるようにしてみるといいのかもしれません。例えば、言葉ひとつとっても、「彼氏」「彼女」だと性別があるけれど、「パートナー」は性別がないですよね。自分以外の他人に関して性別的な役割を求めないことは、結果的にみんなにとって生きやすさに繋がるのかなと思います。「女性らしく振る舞ったほうがいいよ」とか、「男なんだから何とかしなさい」っていうのもそう。ちょっと発言を変えてみると良い人間関係が築けるし、自分自身も楽になると思います。

――全ての人間関係に通じることですよね。

吉村 本当にそうだと思います。

――では最後に今後お2人が取り組んでいきたいことを教えていただきたいです。

生田 今は人材育成に力を注いでいるので、今後色々なメンバーに出会っていく中で、一人ひとりの個性や伸び代を潰さないように、先入観を持たずに向き合っていきたいなと思っています。真摯に向き合うということは、お客様に対しても同じですね。

吉村 ダイバーシティ推進室としては、freeeのすべての従業員が自分らしく、最大のパフォーマンスを発揮できる組織にしていきたいです。採用担当としては、より多くの人たちにfreeeの考え方を知ってもらい、考え方や理念に共感してfreeeを選んでいただけるような情報発信を積極的にやっていきたいなと思っています。

――ありがとうございました。

インタビュー・テキスト:上野 真由香/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:CREATIVE VILLAGE編集部

企業プロフィール

freee 株式会社は2012年7月に創業。「スモールビジネスを、世界の主役に。」というミッションを掲げ、中小企業や個人事業主を中心に有効事業所数100万超の「クラウド会計ソフト freee」、「人事労務 freee」、「会社設立 freee」等を提供。ビジネスの開始から成長期の上場企業までを幅広くサポートし、バックオフィス業務の最適化に尽力しています。