映画をつくるうえで中心的な役割を担うのが「映画監督」です。監督は華やかなスポットライトを浴びる存在であると同時に、作品の成否を背負う責任の重い職業でもあります。
「映画監督って具体的にどんな仕事?」「年収はどのくらい?」「未経験から目指せるの?」といった疑問を持つ方も多いでしょう。
本記事では、映画監督の仕事内容や収入の実態、キャリアパスや求人情報をまとめてご紹介します。さらに当メディアで取材した現役映画監督のインタビュー記事もあわせて引用し、実際のキャリア体験談にも触れていきます。
映画監督を目指す方はもちろん、転職で映像業界に挑戦したい方も、ぜひ参考にしてください。
映画監督とは(役割と責任)
映画監督は、映画制作全体の芸術的・技術的な方向性を決定するリーダーです。脚本の解釈からキャスト選び、撮影現場での演出、編集段階での最終チェックまで、作品のすべてに関与します。
主な業務内容
脚本解釈と映像化プランの策定
脚本を詳細に読み込み、物語のテーマや登場人物の心理、シーンごとの雰囲気を分析します。
その上で、どのような映像表現やカメラアングルで物語を描くかを具体的に計画し、絵コンテや撮影スケジュールとしてまとめます。監督はこのプランを全スタッフに共有し、共通のイメージを持たせることで、撮影現場での意思疎通をスムーズにします。たとえば、緊張感を高めるシーンでは低めのカメラアングルや狭い構図を使うなど、演出意図を事前に伝えます。
キャスティングと演出
出演者の選定では、役柄の性格や年齢、雰囲気に合った俳優をオーディションや面談を通じて決定します。
リハーサルでは俳優の演技を細かくチェックし、必要に応じて演技指導やセリフのニュアンス調整を行います。本番撮影中も、俳優の表情や動きに微調整を加え、監督のイメージ通りの演技が映像に反映されるよう管理します。また、キャスト同士の呼吸や間合いも監督が調整し、シーンのリアリティや感情の流れを統一します。
自分が撮りたいと思っている場所をひとりロケハンしたり、一緒にやりたいと思うスタッフに直接連絡して、スケジュールをあけておいてくださいとお願いしたり……。スタッフにわかりやすいように、自分で撮影台本を書いたりもしました。
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撮影現場の指揮
撮影現場では、カメラマン、照明担当、音声担当など各スタッフに具体的な指示を出し、シーンを監督の意図通りに撮影します。
フレーミングやカメラの動き、光の当て方、音の拾い方など細部まで指示を出すことで、映像のクオリティを統一します。また、想定外のトラブルや天候変化にも柔軟に対応し、撮影スケジュールを守りつつ、演出の質を落とさない調整力が求められます。
編集・ポストプロダクションの監修
撮影後の編集段階では、映像素材をチェックし、シーンの順序やカット割りを調整して作品のテンポや物語の流れを整えます。
音響やBGM、効果音の配置、色彩補正や映像のトーン調整も監督が監修します。必要に応じて編集者と何度もやり取りを重ね、演出意図が最大限に反映された完成映像を作り上げます。最終的には、視覚・聴覚のバランスを整え、観客に最適な体験を届けることが目的です。
現場では「作品の方向性を示すクリエイター」であると同時に、「数十〜数百人規模のチームをまとめるマネージャー」でもあります。
1日に脚本何十ページも撮らないといけない現場で、みんなの意見をその場その場で聞いていては撮り切れない。こうやりますって言ってバッと撮らなきゃ終わらないわけです。だから、揺るがないものと柔軟性を条件によって組み合わせる、それが僕のやり方です。ひょっとしたら僕は、クリエイターというより、いろんなバランスを取って方向性を出しているだけなのかもしれません。
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映画監督の収入(年収・報酬体系)
映画監督の収入は一律ではなく、経験や作品の規模、評価によって大きく変動します。
新人から著名監督まで幅広いため、平均値だけでなく「キャリアごとの相場感」を理解しておくことが重要です。
年収の目安
- 新人監督(助監督からの昇格、インディーズ作品中心):300〜500万円前後
- 中堅監督(商業映画の経験あり):500〜800万円
- 著名監督(大作を手掛ける/映画祭で高評価):1,000万円〜数億円
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特にヒット作を出した監督は、次回作のギャラが一気に上昇する傾向があります。
収入源の種類
- 監督報酬:制作会社から支払われる基本報酬
- 二次利用収益:配信、DVD、テレビ放映によるロイヤリティ
- 講演・授業料:映画祭や大学、専門学校での講演や授業
- 広告・CM監督業:映画の合間にCMやMVを手掛けることも多い
映画監督の収入は1本の映画制作だけではありません。
映画監督になるには
映画監督への道は一つではありません。代表的なルートを理解した上で、自分に合った道を選ぶことが大切です。
代表的なキャリアルート
映画監督を目指す際には、いくつかの典型的な進路があります。
主に「現場で助監督として経験を積むルート」「CMやドラマ、MVなど映像制作経験を活かすルート」「自主制作映画から映画祭で評価されるルート」「映画学校や大学で学ぶルート」の4つです。
各ルートにはそれぞれ特徴やメリット、必要なスキルがあり、自身の状況や目標に合わせて選択することが重要です。
代表的なキャリアルート
助監督ルート
撮影現場で助監督として経験を積むルートは、映画業界で最もオーソドックスなキャリアパスです。助監督は現場の進行管理や俳優・スタッフとの連絡調整、リハーサルのサポートなど、撮影全体を補佐する役割を担います。ここで培った演出補助の経験や現場運営能力、人脈は、監督昇格後に即戦力として活きます。新人監督が現場で遭遇する課題やトラブルへの対応力も、助監督経験があればスムーズです。
映像業界出身ルート(CM・ドラマ・MVなど)
CMやドラマ、ミュージックビデオ(MV)などの映像制作で演出経験を積んだ人が、映画監督に転身するケースです。短期間で複数の作品を制作する経験を通じて、カメラワーク、演出、編集など幅広いスキルが身につきます。また、映像表現の自由度が高いCMやMVで培った発想力や演出力は、映画制作においても新しいアイデアとして活用できます。ただし、長編映画特有のストーリーテリングやチームマネジメント能力は別途学ぶ必要があります。
僕は大学生時代にブライダルカメラマンを始めたところからスタートしてるんですが、そのとき師匠に、「カッコいい画(え)を撮るのがプロの仕事ちゃうぞ。お客さんが喜ぶ、ほしい画を撮るのがプロの仕事やからな」って教えていただいた。そこで、お客さんのニーズにフォーカスすることを学んだんです。その後のイベント演出やいろんな映像制作の仕事も、「これお客さん喜ぶかな」ってことばっかり考えてやってきました。
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インディーズ自主制作ルート
自主制作映画を作り、映画祭で受賞することで商業映画に進出するルートです。低予算であっても自分の作品をゼロから作り上げる経験は、監督としての表現力や問題解決力を大きく養います。近年はクラウドファンディングを活用して資金調達を行うケースも増えており、作品発表の機会も広がっています。注意点としては、資金や人材が限られるため、企画力だけでなくスケジュール管理やチームマネジメント力も必要です。
僕はセカンド監督に就いたのですが、予算や撮影日数の都合で、藤井監督から「お前、カメラできるじゃん。撮ってくれない?」って言われて、「全然いいですよ!」って、ちょっと自主映画みたいなノリで始まったんです。
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映画学校卒業ルート
映画専門学校や大学で学び、卒業制作や在学中のネットワークを通じて業界入りするルートです。映画制作の基礎から応用まで体系的に学べることが最大のメリットであり、同級生や講師との人脈が就職やプロジェクト参加に役立ちます。卒業制作作品が映画祭に選ばれると、デビューやプロデビューへの足がかりにもなります。ただし、学んだ知識を実務現場でどう活かすかは自分次第であり、積極的に現場経験を積むことが重要です。
とにかく映画を撮っていたいという思いが強く、高校卒業後は大阪芸術大学に進みました。(中略)阪本順治監督の『どついたるねん』(89)が大好きで、大阪にすごくあこがれていて、一度住んでみたかったんです。大阪芸大を選んだ一番の決め手はそこでした。
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未経験者が最初にやるべき5ステップ
- 映画現場でのアルバイト(制作進行、撮影助手など)
- 短編映画を自主制作し、映像作品として残す
- 助監督アシスタントとして経験を積む
- ポートフォリオを作成(映像作品+経歴まとめ)
- 映画祭や業界イベントで人脈を築く
いまは副業も自由な世の中になってきてるし、作品をYouTubeで公開することもできる。自分が本当にやりたいこと、諦められないことがあるなら、周囲に発信してみるのもいいと思います。それでもし理解ある人と巡り合えたら、それは大きな力になります。
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必要スキルと学習ロードマップ
映画監督には大きく分けて「映像の専門知識」と「現場統率力」の両方が求められます。映像の専門知識とは、脚本の理解や演出力、カメラ・照明・音響・編集に関する幅広い技術力を指します。一方で現場統率力は、数十人規模のスタッフやキャストをまとめ、予算やスケジュールを管理しながら、作品の方向性をブレずに実現する能力です。
これらのスキルは一朝一夕で身につくものではなく、段階的に経験を積むことが重要です。まずは短編や自主制作を通じて映像制作の基本を理解し、次に助監督や現場補佐としてチーム運営の経験を積むことが推奨されます。
さらに、映画学校やワークショップで理論を学びつつ、現場での実践経験を組み合わせることで、監督としての総合力を養うことができます。
このロードマップを意識することで、未経験からでも着実に映画監督を目指すことが可能です。
制作者として生き残っていくために必要なものは、圧倒的な勉強量ではないでしょうか。大前提として、映画を観るのも、本を読むのも、量をこなせる人しか最終的に残れないと感じています。
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技術スキル
- 脚本分析・演出力
- 撮影・照明・音響に関する基礎知識
- 編集やカラーグレーディングの理解
マネジメントスキル
- 数十人規模のスタッフをまとめる力
- 制作費やスケジュールの管理能力
- スポンサーや配給会社との調整力
映画監督のキャリアに関するインタビューまとめ
ひと口に映画監督と言っても、さまざまな出自がありますよね。CMやテレビドラマ、ミュージックビデオとか、ほかにも多岐に渡ります。それに、いまは配信ドラマ全盛で、映像のジャンルも多様化して垣根がありません。ただ、「映画を監督する」ことにおいて差異があるとすれば、「何を撮りたいのか、なぜつくりたいのか」を監督はダイレクトに問われます。なので、どんな道をたどろうが、自分の中に芽生えたものを指標にして、映画を目指せばいいと思います。
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映像制作を仕事とするなら、まず心がけるのは、「人より1本でも多く観る」ということ、それを自分に課すことです。そして自分以外の人間が関わった作品を観るときは、やっぱり良いところを探すべきだと思います。否定することはとても簡単なのだけど、相手を尊重しない限り学ぶことはできないし、リスペクトがないものからは何も得られない。つまり、自分にインプットしようという気持ちがとても大切で、インプットがない人は当然アウトプットできないわけです。
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なんとか映像ディレクターになれないかと毎日転職サイトを見ていました。26歳のときに、いま所属しているTHE DIRECTORS GUILDが、給料は出ないけれど先輩ディレクターについてプロの現場を知れるというファーム(THE DIRECTORS FARM)という師弟制度を設けていて、「本気でCMディレクターを目指したい人募集」という言葉に惹かれ応募しました。それが大きな転機になりました。
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「いい企画だけど3年かかりますが、覚悟ありますか?」って言われて「大丈夫です」と。僕が恵まれていたのは、CMの世界に縁があったことです。食えないときに、ありがたくCMの仕事が巡ってきて、ギリギリやっていけました。
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映画監督を目指すあなたに贈る、今日やるべき3つの挑戦
- 映画監督の仕事内容やキャリアパスを理解する
- 短編や自主制作を始め、ポートフォリオを整える
- 求人や映画祭に積極的に応募し、人脈を広げる
映画界でも、優秀な監督さんがたくさんいる中で、どうすれば自分に仕事が来るか、自分の企画で撮れるようになるのかを考えたときに、やっぱりみんなと同じことをやっていたのでは道は開けないと思います。やりたいことがあるのなら待ってないで、とにかく動くしかない。
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映画監督は決して簡単な道ではありません。しかし、情熱を持ち、実績を積み重ねることで誰にでもチャンスは開かれています。
あなたも今日から一歩踏み出し、映画監督としてのキャリアを築いていきましょう。

















