注目企業の中の人によるコラム
BtoCのスマートフォンアプリから、BtoBのWebアプリまで様々なツールのUXデザインから開発までを行うオーストラリア発祥のITカンパニー、Tigerspikeの佐藤さんによるプロジェクト事例紹介です。
【前編】ではプロジェクトの概要や初期段階でのエピソードなどを紹介いただいています。

はじめまして。Tigerspikeの佐藤麻衣子です。
今回は弊社とクライアントである「Infostellar」さんとで取り組んだプロジェクトの事例について前編と後編に分けてご紹介させていただきます。

ご紹介と言ったものの、私自身はこのプロジェクトに参加しておりません。プロジェクトに参加したメンバーに私が取材するという形式を取っております。なるべくこの記事の読者の皆様と同じ目線で、UXデザインのプロジェクトの成功の鍵を探るべく、様々な情報を引き出し、紐解いてここにご紹介していければと思っております。


Tigerspikeとは?
その前に少しだけ弊社(Tigerspike)についての紹介をさせて下さい。Tigerspikeはオーストラリア発祥のITカンパニーです。BtoCのスマートフォンアプリから、BtoBのWebアプリまで様々なツールのUXデザインから開発までを行なっています。会社の設立からは16年。Tokyo Officeは今年で5年目を迎えます。世界12拠点に展開し、グローバル全体で人数は300人程度と規模は大きくないですが、その分密度の濃い、少数精鋭部隊で世界中の人々の生活をテクノロジーの力でより良いものにすることを目指しております。グローバル共通での会社のスローガンは「Improve people’s life through technorogy」です!

前段が長くなりました。早速プロジェクトについての話に移りたいと思います。


Infostellar とは?
今回、ご一緒させていただいたパートナー、Infostellarさんはどんな会社かと言いますと、衛星の地上通信アンテナのサービスを提供するスタートアップ企業です。(https://www.infostellar.net/ja/)日本発の、日本に拠点を置く企業ですが、事業もメンバーも様々な国の、母語も異なるメンバーから構成されているそうです。
現在提供中のサービスに新しい大規模な機能を載せるというプロジェクトを一緒に進めていくこととなりました。


本プロジェクトについて

ここで簡単にプロジェクトの概要についてお話しします。

プロジェクト概要

StellarStation への大規模な機能追加
StellarStation(StellarStationの詳細は後述)を通じ、最終的にサポートしたい全3フェーズ(Plan、Deploy、Operate)において、まだ機能として提供できていない「Plan」フェーズにフォーカスしたプロジェクト。
最も困難かつわかりにくい「Plan」フェーズをよりわかりやすくサポートすることにより、Prospectsをleadへと変えていくことが今回のプロジェクトの目的。(「Operate」については機能提供中)

  • Plan : 小型衛星打ち上げ検討・企画段階(適合する地上局の検討・通信量の検討)
  • Deploy : 小型衛星の開発・ライセンスの取得・衛星打ち上げまでの段階
  • Operate : 小型衛星打ち上げ後の運用段階

Tigerspikeとのプロジェクト実施期間は3ヵ月。予定されるアクティビティは「Ideation」「Indormation Architecture」「Wireframes」「Key Visual Design」。本プロジェクト後にInfostellarさんで実装し、ローンチするというもの。

StellarStationのトップ画面
現在公開中のものは、Tigerspikeとのプロジェクトを経て機能追加されたものです。
StellarStation: https://www.stellarstation.com/groundstationplanning/

少しわかりやすい言葉に変換すると…

と、言っても私もなかなか理解が追いつかなかったため、もう少し前提知識がない人でもわかるような説明に挑戦してみます。

近頃、小型の衛星を個人、もしくは小さな組織レベルで打ち上げるという例が増えてきたそうです。そのプロセスをInfostellarがサポートするためのサービスがStellarStation。今回のターゲットは、顧客が小型衛星の打ち上げ前に地上通信アンテナの準備を検討する段階の機能追加にあたり、プロジェクトチームメンバーのアイデア出しをする場のファシリテーションを実施し、ワイヤーフレームと一部のビジュアルデザインを作成するというもの。

衛星は小型なもので個人レベルで打ちあげられるのですが、地上アンテナというのは国が運営していることも多いような非常に大規模なもの。その地上アンテナが使われていない時間帯に、地上局を広く様々な人に使ってもらえるようにマッチングする。StellarStationは「衛星界のAirbnb的サービス」なのです。

いかがでしたでしょうか。面白そうですが、すごく難しそうです。

InfostellarさんがTigerspikeを選んだ理由

TigerspikeのUXに対する取り組み方に興味を抱いていただいたというところがきっかけになるかと思いますが、一つ大きかったのが「英語への対応力」であったと伺いました。

Infostellarさんは先ほど述べたように多国籍メンバーによるチームであることや、Infostellarさんの先にいらっしゃるお客様がメインで使う言語が「英語」であることから、

 

  • 英語による納品物の提出
  • 英語による会議のファシリテーション

 

 

この2つが求められました。Tigerspike Tokyo officeには英語が得意なメンバーが何人もおり、対応が可能そうであるというところが決め手となったとのことです。

このプロジェクトのTigerspike側からの参加者は3名。UX Lead, UX Designer, Project Manager(以下PM)でした。今回アサインされたメンバーの3人はそれぞれ海外経験があり、UX Leadの堀口は人生の半分は海外で過ごしてきた帰国子女。PMの木下もオランダでの就業経験がありますし、UX Designerの田屋もアメリカやイタリアで学んできた国際派。このようなメンバーが万全の体制でお受けいたしますというところからこのプロジェクトは始まりました。

今回はその中でも一番密にプロジェクトに関わっていたUX Designerの田屋へのインタビューをベースに記事化しております。

今回取材に答えてくれたのは

田屋 和美
制作会社やスタートアップ立ち上げ、事業会社などを経て2016年10月にTigerspike Tokyoにジョイン。Tigerspikeのファッションリーダー。

資料を読んでもわからない

「高い専門性を必要とする」と書きましたが、実際に田屋がプロジェクトにアサインされ、サブジェクトイマージョン(所謂、資料読み込みフェーズを弊社内ではそう読んでいます。その業界の、会社の、プロジェクトの情報にどっぷり浸かる=Immersionという意味です)を実施した際に「大変戸惑った」ということでした。

細かいことを見ていっても「わからないことが多すぎる」という状態。BtoBのプロジェクトであればそのようなことは多いと思いますが、ただでさえ英語であり、舞台が宇宙です。初めて聞くような専門用語も多くちりばめられた資料の数々に大変戸惑ったそうです。実際に私も少し資料を拝見しましたが、英語として一般的な単語が、このサービスの中では違う意味を持っていたり、独特な略語なども多く、これを一つ一つ解読しながら機能を理解していくのは難しい作業だったであろうと感じました。

田屋が理解を深めるために作成したメモ クリックして画像を拡大

成功要因1:「わからない」から「わかり合う」

でも、こんな課題にこそ成功要因が隠れていると感じました。Infostellarさんは、我々TigerspikeをUXのプロ集団として全幅の信頼を置いてくださり、特にワークショップファシリテーションに関してはとても満足をいただき、委ねていただきました。

逆に我々が「わからない」と伝えたことに対しては丁寧に説明を繰り返してくださりました。お互いの専門性を尊重しあい、「わからない」という状況を受け入れ、わかり合おうと関係性を築いていく。このようなお互いの尊敬の姿勢があったからこそプロジェクトは無事に進行できたと思います。当たり障りない、当たり前のことを言っているかのように思われるかもしれませんが、これはものすごく大切なことであると感じます。互いに敬意を持てるかどうか。その信頼関係は特にクライアントワークにおいて重要です。我々はお客様に敬意を持ちつつ、また一方でUXのプロフェッショナル集団としての信頼を得るために日々精進し続けなければならないなと思います。このように真摯にプロジェクトに取り組む同僚の姿は本当に刺激になります。

具体的なエピソードを一つ。このプロジェクトでは、言葉の意味がわからないことも多々ありましたが、一般的な用語集で片付かないような「概念」自体を理解する必要があるシーンがたくさんあったそうです。そんな時はホワイトボードに図を描きながらその概念について丁寧に回答していただいたそうです。このように議論の最中でも聞くことを繰り返していったことが、理解を深めることにつながったのではないかと田屋は振り返っておりました。

アイディエーションの様子。壁一面に様々なアイディアが並んだ。

認識の齟齬

プロジェクト進行に必要な最低限の知識を持ちつつ、アイデア出しのワークショップを開催しました。Infostellarの皆様の頭の中にはたくさんのイメージがあると伺っていた通り、Ideationの場ではやはりたくさんのアイデアが溢れ出てきたそうです。

そのアイデアをまとめ、整理し、実際に実装するものを選び取る作業を我々はMVP(Minimum vaiable product) Sessionと読んでいます。

Tigerspike Tokyo Officeで実施される多くのプロジェクトでは、このMVP SessionをTigerspike主導でお客様と一緒に実施することが多いのですが、今回は、Infostellarさんの中でMVPを決めるというところまでやってきていただくというプロジェクトの組み立てとなっておりました。

しかし、Infostellarさんから上がってきたMVPとTigerspikeが考えていたMVPのイメージとの間に大きなギャップがあるという問題が発生してしまいました。そこには両者間の「MVPを決める」というアクティビティに対する認識の齟齬があったのでした。

まず、Tigerspikeがプロジェクトの最初に設定した日程ではなかなかMVPのリストが出てきませんでした。なぜだろうと思いつつ待ち続けると、Infostellarさんは通常の開発時のような、仕様書レベルのかなり細かいものを書き上げてきてくださったのでした。Tigerspikeとしてはもう少し粒度が粗いシナリオベースのようなものをイメージしており、それであればこれくらいの日程でできるだろうという見立てでスケジュールを組んでいたため、全体のスケジュールも大幅に遅延。また、ここで生まれたギャップをどのように埋めていくかで少し意見が割れ、議論が停滞してしまい、Infostellarさまからは「聞いていた話と違う」とお叱りを受けるという事態に陥ってしまったそうです。ピンチです。

後編につづく

会社プロフィール

Tigerspikeは、デジタル・トランスフォーメーションにおけるグローバル・リーダーカンパニーです。
アップル社と正式なモビリティ・パートナー契約を結ぶ数少ない開発事業者であり、かつ世界でまだ数十社しかないGoogle社の公認開発パートナーです。
イノベーションを誘発させるための洗練されたUX設計アプローチと、モバイル分野における先進的な開発力を用いて、ターゲットユーザーに最適化されたデジタル・プロダクトを、世界12拠点で開発しています。主なクライアントは、Shell/7eleven/Emirates Airline/American Express他、世界の主たる銀行、国連、各国政府などで、日本でもメガバンク、航空会社、自動車メーカーなど、日本を代表する企業のデジタルイノベーション・デジタルストラテジーのサポートを行なっています。

https://tigerspike.com/contact/tokyo/