日本工学院専門学校在学中からデビューし、イラストレーターとして活動を続ける加藤いつわ。
「尊敬している方、活躍している友人は研究熱心というか、好奇心旺盛で、すごい知識量なんです」。引き上げてくれる人たち、素晴しい作品や新しいものとの出会いを自分の中に取り込む。抜群の吸収力と”運”に支えられ、着実に磨かれてきた実力は、加藤いつわの未来に無限の広がりを感じさせてくれる。

■ 転機をくれたゲーム

両親ともにマンガ好きで、幼少期よりマンガに親しんで育ちました。母は少女マンガ、父は手塚治虫さん、石ノ森章太郎さん、ちばてつやさんや水島新司さんらの作品を集めていました。当時からマンガは読んでいましたが、絵を描きたいという気はなく、外でやんちゃして家に帰ってきたら「さぁ、マンガ読むか!」みたいな生活を送ってました。また、いまでこそインドア派ですが、小、中学校時は運動部やクラブに所属し、わりと活発な子どもだったように思います。
高校は地元の進学校に進んだんですが、部活もせずに当時流行っていたPSPゲーム「モンスターハンター」ばかりやっていた思い出しかありません。両親の意向で小、中学校の9年間塾通いをしていたのですが、自発的に行っていた訳でもなかったので、高校生になったからには好きにさせてもらうぞとマンガとゲーム三昧の毎日を過ごしていました。
高校3年時に卒業後の進路で悶々としていた際に、友人が気晴らしにと「ToHeart2 XRATED」というビジュアルノベルゲームを貸してくれたんです。その時にビジュアルノベルゲームというものに初めて触れたということもあり何もかもが新鮮でした。いま思えば、このゲームとの出会いが大きな転機になっていたように感じます。
小さい頃からマンガ家を目指している、ふたつ違いの兄がいます。僕自身、兄を見て育ってきたので心の底では”絵を描くこと”に興味はあったのですが、あえてその思いを封印してきました。父はかつて画家を志していましたが筆をおいてしまい、それにより母が絵を描くことに対して含む気持ちを抱えていたのを察していたのかもしれません。でも、ゲーム制作に関わりたいという気持ちが大きくなるにつれ、ゲームを構成する要素の中で自分なら何ができるかを考えた時に、絵なら行けるんじゃないか、と思ったんです。それで絵描きの道に進むことを決めました。

第21回電撃大賞 イラスト部門 金賞受賞作

 

■ 夢と力をくれた人たち

美術系の大学を受験するには既に時間が足りず、兄が日本工学院専門学校に通っていたので、様子を尋ねたんです。話を聞いてみると面白そうで、試しに体験入学に参加したら思いのほか楽しくて、早い段階でマンガ・アニメーション科4年制に入学を決めました。4年制を選んだのは、2年制では時間が足りないだろうなと思っていたからです。
入学後は好きなだけ絵を描ける環境に居ることがすごく嬉しくて、毎日ガリガリ描いてました。上手い人はたくさんいましたし、自分の下手さも自覚していましたけど、批判や否定される辛さより、描ける喜びのほうが大きかったんです。
2年になった時に、現在も活躍を続けるイラストレーターのアカバネと知り合えたのも僕にはとても大きな出来事でした。彼は2年制だったので、卒業までの1年間いろいろな話を聞いたり、技術を教えてもらいました。彼を通じて同人誌の存在を知り、「こんな上手い人たちがいるのか!」と衝撃を受けました。アカバネの知識や経験が僕の意識を引き上げ、イラストの世界観を広げてくれたように思います。
イラストSNS「pixiv(ピクシブ)」に、月に1枚程度ですが作品をアップしていたら、3年に上がる頃にはお仕事の依頼をいただくようになっていました。自分の絵が評価されたことはもちろん嬉しかったですが、当時はプロとして活躍してやろうという気持ちはありませんでした。僕には「ToHeart2 XRATED」で原画を手がけたカワタヒサシ先生がいるアクアプラスで働きたいという初志があったためです。それで、4年生の夏に一度仕事をストップさせていただき、アクアプラスに就活し、グラフィッカーとして内定をいただきました。グラフィッカーを志望したのは、色を塗る技術を身につけたかったのと、カワタ先生の線画を見る機会が多そうだと思ったからでした。

© ひびき遊 KADOKAWA ファミ通文

『千年戦争アイギス 月下の花嫁II』(ファミ通文庫)

 

■ ケモミミのご利益!?

憧れのカワタ先生のもとで楽しく働いていたのですが、とある事情で「モチベーションが保てない」という私情により、1年で退職しました。会社に骨を埋める覚悟で就職していたのですごく落ち込みましたが、一方で自分の絵を描くことに飢えていた部分もあり、「これで絵が描ける」という思いに助けられ、なんとか平常心でいられた気がします。
現在フリーとなって1年と数カ月。夢のひとつだったライトノベルの挿絵も描かせていただき、次々と新しい作品にも携わらせていただいています。なぜここまでやってこられたのか? 僕自身、突出した画力はないと思っているんですが、恐らくいままで見てきたマンガ、イラストの良いなと思った部分を、自分の絵柄に溶け込ませるのが得意だということが大きいのかなと思います。また、すごく飽き症なので案件をひとつ終えるたびに「次は○○な感じでいこう」とコロコロ描き方を変えてしまうんです。そういった部分も編集者の方に興味を持っていただけていることに影響しているのかもしれません。
あとはやはり”運”でしょうか。昔から運が良いほうで、懸賞もよく当たります(笑)。高校3年時に絵描きを目指すことを決めた際、夢のひとつということもあり、書店にライトノベルのイラストの偵察に行ったんです。その時にすごく惹かれたイラストがケモミミ(獣耳)の生えた女の子の絵で、そこからケモミミを描くようになりました。中でも狐耳が好きで、専門学校の3年時に京都の伏見稲荷に初めて参拝して、それ以降毎年元旦にはお参りしています。なので、お狐様のご利益もあるのかなと……(笑)。
よく上手い人の絵を見てへこむ、という話を聞くんですが、僕はそう感じたことがなくて、「凄い! どう描いてんだろう!」ってなる。憧れ、覚悟を決めて入った会社を1年で辞めてしまった……入社前には想像すらしてなかったことです。人生何があるかわからないんだから、人の絵を見てへこんでいる時間なんて僕にはないです。

『ギルティ・アームズ1 遺物の少女』(GA文庫)

この記事に関するお問合せは、こちらまで
pec_info@hq.cri.co.jp

こちらもおすすめ