就職、結婚、子どもの誕生、引っ越しなど、ライフステージの変化はどんな人にもさまざまなタイミングで訪れるものです。そんなとき、より良い方向へ働き方や暮らしを柔軟に変える人が、今注目を集めています。
自分の理想のため、または家族のためなど理由はそれぞれですが、大切なものを守るため、一つの働き方に固執せずに新しい場所、仕事を選択した女性にインタビュー。
第3回目は新卒入社から編集一筋。転職、結婚、離婚を経て再就職のため上京した後再婚、3人のお子さんの産休・育休取得を経て、現在はフリーランスの編集者として活躍。どんなライフステージに身を置いても「働きたい」という思いが常にあると語る、しなやかさの中に意志の強さを感じさせる方をご紹介します。

疋田理矢子さん
東京の大学を卒業後、名古屋の出版社に就職。結婚、離婚を経て再就職のため上京。その後再婚し、産休育休、職場復帰と数々のライフステージの変化にも「編集者」でありたい思いを貫き続ける。現在もフリーランスの編集者として働き続ける9歳、7歳、4歳の3児の母。

目指すは“編集者”。転職を見越したUターン就職

――疋田さんは東京からの名古屋にUターン就職されますよね。
新卒の就職活動はどのように進められたのですか?

大学3年、就職を具体的にイメージするようになった頃、世間的にも有名な会社で働く先輩にOG訪問をしたところ、延々と自社製品について語られたんです。そのマニアックな内容にまったく興味を持てなかったんですよね(笑)。
学生だったので仕方のないことかもしれませんが、自分の生活圏外のニッチなものを扱う業務内容に親近感を持てなかったことや、とにかくいわゆるOLとして働く姿が思い浮かびませんでした。

それを機に「自分は何をしたいのだろう」と就職について本格的に考え、子どもの頃から絵を描くことが好きだったり、作文を書いて表彰された経験があったり、それから当時雑誌を読むのが好きだったということもあり、それに繋がるところは編集だと結び付け、編集者になろうと決めました。

―「なりたい職業」が先に定まったのですね。
そこから、地元に戻るという決断をされたのはどういうご理由でしたか?

大学が東京だったので、就職はそのまま東京で大手出版社を目指してみようかと思いましたが、そういったところは早い段階で試験対策をしないと受かることが難しく新卒で入れなかったので、とにかく一度「経験者」になって、お目当ての出版社には中途採用で入ろうと切り替え、地元に戻り名古屋で地域情報誌を発行している小さな出版社に入社しました。

――入社の先に続くキャリアまでイメージされていたのですね!
初めて編集者としてお仕事をしてみて、どのように感じられましたか。

編集の仕事はとてもハードでしたが、気の合う仲間も多かったので楽しかったですね。ですが、小さい会社ということもあり社員の待遇や保障に物足りなさを感じ、2年ほど働いたころから転職を考えるようになりました。そして次に転職した先は角川書店の東海ウォーカー編集部です。
業務委託としての入社でしたが、大きな会社だったので前社のような職場環境に対する不満もなく、編集者として充実した日々を送っていました。

――先ほどおっしゃられた通り、編集というとハードワークなイメージがありますが、プライベートとはどのようなバランスで過ごされていたのでしょう?

転職後2年ほど経ったころ結婚をしました。夫は転勤が多く、結婚後も東海エリアの中で何度か引っ越しましたが、変わらず仕事を続けることはできていました。

「でももし次の転勤先がこのエリアでなかったら、そのために私が仕事を辞めるの?」

結婚後半年ほどしたころから次第にそんなことを考えるようになりました。私はできる限り仕事は続けたいと思っていましたし、やるなら「編集」という仕事にこだわりたかった。けれど今のようにリモートワークの環境も整わない時代でしたから、子どももいなかったこともあり、お互いの進みたい道をもう一度それぞれが考えないかと夫に別居を申し出ました。

「編集職」の多い東京へ、単身で上京

――「編集」という仕事に向き合う強い決意を感じます。

別居後しばらくして離婚をすることになりました。そうなればこれからは自分一人で生計を立てなければと、業務委託だった東海ウォーカーを辞めて正社員になるため転職活動をしました。
転職エージェントに登録し、今までの経験もあるので、やはり「編集者」で転職先を探したところ、紹介されたのは東京のリクルートでした。

――そして、リクルートへの入社を機にまた上京されるんですよね。

はい。大学が東京だったということもあって、上京することにハードルの高さは感じませんでした。リクルートに入社するとゼクシィ編集部に配属され、ムックの編集を任されました。

それから半年後デスクに昇進するのですが、現在の夫と出会い結婚、1年後に長男を出産することになったんです。自立するためにと東京に出てきたのに、割と早く結婚することになりましたね(笑)。でも正社員という立場での出産だったので、業務委託やフリーランスと違い育休中も給与支給があるなど、手当が充実していてありがたかったです。

最近筋トレにハマっています。食事にも気を使って、ここ半年で7kg痩せました
最近筋トレにハマっています。食事にも気を使って、ここ半年で7kg痩せました

――ここでも、新卒就活時と同じく少し先の未来を見越した仕事に就く選択が功を奏したのですね。
育休復帰後はどのメディアを担当されたのですか?

最初の育休から復帰したときはムックの編集部ではなくゼクシィnetに配属になり、2年後に次男出産のため2回目の育休を取得した際にはいったんゼクシィnetに戻りました。
誌面の編集はクリエイティブな仕事でしたが、ゼクシィnetの仕事はネットの専門知識を必要とし、エンハンスをするような業務内容になりました。
一から作り上げることが好きだったのが、すでに出来上がっているものをつぎはぎで改良改善していくような業務内容が性に合わず、1年後にはゼクシィ本誌の編集に異動となりました。

3人の子どもを授かった私たちの、これからの働き方

――3人のお子さんの育児と並行してお仕事をしていくにあたり、心境に何か変化はありましたか?

ゼクシィ本誌に異動してまた2年ほど経ったころ、3人目の子どもを授かりました。編集部には当時出産後も産休や育休を取って働いている女性がほとんどだったので、休むことにはとても寛大で、心強い環境ではありました。でもその反面、リクルートでは長く働く人がとても少なく、30代後半になると3年ごとに退職金制度が設定されているので、自分の年齢とやりたいことに合わせ、退職金に新しい仕事への支度金が追加されるそのタイミングで退職する人が多数います。私も3人目の育休を終えて復帰した年度がそのタイミングに当たっていました。
復帰してすぐの退職に悩みはしましたが、これから始まる3人の育児を考えると、社員でバリバリ働くよりも、子どもたちのために時間的な余裕を持った働き方をしたいと思い、復帰後半年が経ったころ、その対象年度内で辞めることにしました。

――ワークライフバランスを重視したいと考えた時期に、ちょうど社員として一つの節目が重なったのですね。

退社後は営業活動かと思っていましたが、退職する前に最後に所属していたゼクシィアプリの編集長から、今後フリーランスの立場で新しくデスクの仕事をやらないかと話をいただき、現在に至ります。

――ご自身の業務にしっかりと向き合ってこられたことが、次のキャリアに繋がっていったのですね。現在のお仕事内容について、もう少し詳しくお伺いできますでしょうか。

ゼクシィアプリでは月に50~60本の記事を上げていますが、そのうちの20本くらいを私が担当することになり、ラインナップごとに外部編集者さんに振り分け、それらの進行管理をしたり、編集長と会議で企画をブラッシュアップしたりしています。

16時にはオフィスを出て、夕食は必ず3品以上を手作りするのがモットーです
16時にはオフィスを出て、夕食は必ず3品以上を手作りするのがモットーです

社員の時は記事まで自分で書いていましたが、外部デスクとなった今は、ほかの人が作った記事を管理、マネジメントするようになりました。

――業務委託でお仕事をされているとのことですが、
実際そうすることでワークライフバランスはとりやすくなったのでしょうか?

今の仕事は自分の裁量で決めさせてもらえるので、週5日、時間は10時~16時と緩やかにしています。会社を出ると保育園のお迎え前に一度帰宅し、洗濯物を取り込んで、おかず3品ほどの下ごしらえができています。また、自宅で仕事をすることもできるので、都合によっては自宅勤務にとフレキシブルに切り替えられ、それもとても助かっています。

――仕事と家事、両輪でまわせるサイクルが出来ているのですね。
少し先をみて、柔軟に働き方を変えてこられた疋田さん。
今後はどのようなことを目標にされていらっしゃいますでしょうか?

今後のことを特に決めているわけではありませんが、末っ子が小学生になった頃には現在仕事と家庭の割合を5:5でしていますが、もう少し仕事を増やして、6:4くらいにしたいとは思っています。
また、夫はサラリーマンですが、副業で執筆活動をし書籍なども発行しています。正社員だから、フリーランスだからと働き方を決めず、お互いに好きなスタイルで仕事をしている夫婦ですね。
もしかしたら編集者として将来夫の執筆活動をサポートやマネジメントする……、なんてこともアリかもしれませんね。

<合わせて、聞きたい!>

  • 子どもがいても仕事を辞めなかった理由は何ですか?
    それはやっぱり編集という仕事が楽しくて、好きということですね。後は、誰かのお母さんとか奥さんという、人の人生を借りているだけという状況にはなりたくなかったという思いがあります。
  • 仕事はこれから先どのように続けていきたいですか?
    今はゼクシィでのディレクション業務が9割で、別の媒体にライターとして記事を書くのが1割くらいとなっています。編集が好きなので、ライター一本でという思いは持っていません。
    でも、ゼクシィに常駐していてもやはり今はフリーランスの身。会社の方針変更などでいちばん先に影響を受けるのはこの立場なので、依頼元はいくつか持っていようとバランスを取っています。
    その先のことについては、フリーランスは定年がないので、需要があればずっと仕事を続けていきたいです。ずっとゼクシィをやってきましたが、自分の年齢が上がれば媒体の年齢も上げて……とやっていくのも楽しそうですね。

今につながる1枚
オフィスに出勤しない日は近所のお気に入りのカフェでゲラ読み。コーヒーを飲むのは好きじゃないけれど、コーヒーの香りに包まれているのは好きです 。


▼ 関連記事 ▼
Vol.1 デザイナー 市川 可奈子さん
Vol.2 映像プロデューサー 市川 マミさん
Vol.3 編集者 疋田 理矢子さん