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『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』など独自のエンターテインメントを送り出してきた矢口史靖監督が、新たに描くものとは?

『ウォーターボーイズ』『スウィングガールズ』のような青春物語から、『ハッピーフライト』『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常~』のようにお仕事にフォーカスした物語まで、常にユニークな題材に挑み、独自のエンターテインメント作品を送り出してきた矢口史靖監督。映画化に至るまでには、じっくりと取材を重ねるという矢口監督が、映画化する題材を選ぶポイントとは?そして、これまで成長する若者の姿を多く描いてきた矢口監督が、“パニック状態の中での家族の再生”を描いた最新作が『サバイバルファミリー』。ある日突然、電気がなくなった世界、という設定はどんなところから生まれたのか?その発想や、本作のオーディションでめぐり会った泉澤祐希さん、葵わかなさんの演技の引き出し方など…お話を伺いました。

大学で出会った8mm映画の衝撃

小さい頃からハリウッド映画などを観ていましたが、そこまで映画館に通い詰めるタイプではありませんでした。ハリウッドの明るくて、快活で、動きが多い、アクションものが好きで、よく観ていましたね。

でも、映画を自分で作るという発想はなくて、転機になったのは大学の映画研究会です。入学後に、サークルそれぞれの代表者が、1年生に向けてサークルのアピールをする会がありました。その時に、映画研究会だけ代表者が出て来ないで、突然会場が真っ暗になったんです。そして始まった8mm映画が面白かったのが、とても印象に残っています。

映画を作るという発想がなかったので、「自分で作れるんだ!」というのが発見でもありました。自主映画で小さい規模でも作れるというのがショックでもあり、夢を感じる部分でもあって、早速1年生の頃から撮り始めましたね。

もともと好きだったハリウッド映画と同じように、自分で作るのも、落ち着いた会話劇よりは、動きのあるものが好きです。そして、車や電車などの乗り物で移動するシーンが、気が付くと入っているような気がします。

映像を想定した時に面白い画が浮かぶか、が映画化の決め手

これまで様々な題材を映画化してきましたが、その決め手はざっくり言うと、映像を想定した時に面白いかどうか、です。
『ウォーターボーイズ』でいうと、映画制作会社のアルタミラピクチャーズから「男子のシンクロがあるんだけど、映画化してみない?」と声をかけられたのがきっかけでした。

でも、男のシンクロなんか誰も見ないでしょ??って思って一度、断ったんです。最初は、男子が化粧して、女性の水着を着て、洗濯バサミで鼻をつまんでいるような、おふざけを想像していたので。そしたら「そう言わないで映像を見てくれない?」と言われて見たのが川越高校のシンクロでした。その時は、僕の想像力のなさを恨みましたが(笑)こんな面白いことをやる奴らがいるんだ!と思って、すぐ「やりたいです」と返事をしました。そこから調べたり、脚本を書いたりしていくことになりました。

『スウィングガールズ』の時は、関西にジャズばかり演っている女子高生たちがいると聞きつけて、逆にアルタミラピクチャーズの皆さんに「一緒に取材に行きませんか?」と提案したことがきっかけでした。
ただ、そのように調べたり、取材に行ったりしても、実現しなかった企画や題材は多々あるので、映画化に至るまでの過程はかなりの“じっくり型”だと思います。じっくり考えて、映像を想定した時に面白くなるという確信がないとやらないですね。

小説やマンガの映像化の提案もたくさんいただきますが、小説やマンガとして完成されているものは、その表現媒体だから面白いというものがほとんどだと思います。そんな中で唯一魅かれたのが三浦しをんさんの「神去なあなあ日常」でした。都会の高校を卒業したばかりの主人公が、未知の林業の世界に飛び込む物語で、木を切るシーンや地域独特のお祭りのシーンは、活字だけじゃもったいない、僕ならこう映像化する!というワクワクがあり、『WOOD JOB!〜神去なあなあ日常~』として映画化しました。その時も、本物の森を見ないと、どういうスケール感の画が撮れるか分からないので9ヶ月ほど三重県の森へ取材に通いました。小説に書いてある以上の光景がたくさん見ることができて、これは映画にするべきだと確信が持てましたね。

パニック状態の中での家族の再生

“ある日突然、電気がなくなった世界”を舞台にした今回の『サバイバルファミリー』は、『ウォーターボーイズ』公開時にはアイディアがあった、15年越しの企画です。ちょうどその頃、パソコンが各家庭に1台、携帯は1人1台と普及してきた頃でした。それが苦手な僕みたいな人間からすると「いっそ全部なくなってしまえばいいのに!」と(笑)。

そうすれば逆に、豊かな暮らしが手に入るのではないかと、電気をなくしてしまう話を考えました。その15年の間にますますネットやパソコンは僕たちの生活で重要になっていますが、僕はいまだにスマホは使っていません。建前では、使えなくなった時の準備と言っていますが(笑)本当は使えないんです。

(C)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

(C)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

映画の中では、電気が止まる前は、同じ家の中にいても親と目も合わせずにスマホばかり見ている年頃の子供たちの描写があります。でも、サバイバル生活に突入してからは、ふとしたことでも笑いあえるような変化があって…目指したのはパニックムービーではなく、パニック状態の中での家族の再生物語です。便利なものがなくなると、実は人間的な生命力が発揮されて元気になっていくことを描きたいと思っていました。

田舎に行けば、音楽や騒音が聞こえない静けさはありますが、都市の中での静けさを作るのには苦心しました。撮影の時は実際には街の音が入ってしまいます。画面に映る範囲の車には止まってもらっても、カメラの後ろ側では電車も車もどんどん通っているし、周りには人もいるので騒音も聞こえます。そういう時は後からの加工で音を減らしたり足したりしていきました。誰も経験したことがないので、嘘の世界ではありますが、本当にこういう世界になったら、どういう音が聞こえてくるのか録音部や効果音の担当の方と相談しながら、人の足音や鳥の声などをクリアに表現していきました。

(C)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

(C)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

さらに、主人公一家が自転車で走る高速道路での撮影は大きなポイントでした。
日本国内で撮影許可が出る高速道路を見つけるまでが大変でしたね。ロケ地を探すスタッフからは何度も「見つからないです」という報告があって「合成じゃダメなんですか?」と度々聞かれたんです。そこは譲らずに「もし見つからなかったら、この映画はなし」ぐらいの気持ちで粘りました。それは、東名高速道路上を人が歩いたり自転車で通ったりすることで、世界のルールが崩壊したということがとても分かりやすい。しかも解放感があって気持ち良いという、マイナスばかりじゃないということが表現できる映画のヘソともいうべきシーンです。なのでCG、合成は使わずに撮りたかったんです。

“まっさら”から絞り出す自然な演技

僕の作品では必ずオーディションを行っています。そのせいか、若い俳優さんを発掘したいという気持ちがあるのですか?と聞かれることも多いのですが、脚本に合った役者さんを探しているだけ、というのが正直なところです。今回のお父さん役の小日向文世さんや、お母さん役の深津絵里さんみたいに、既に何度か一緒に現場をやっている役者さんの中に、「この人しかいない!」という方がいれば、すぐに声を掛けますが、見つからない場合もあるので、そういう時はオーディションをします。

(C)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

(C)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

今回も長男役の泉澤祐希さん、長女役の葵わかなさんとの出会いはオーディションでした。2人を選んだ一番の理由は、“まっさら”ということです。経験値も慣れも何もないんです。お芝居は、こうすれば上手くいくとか、こうすれば監督のOKが出るというのを知っていると、経験則で演技をしてしまいがちで、それを削ぎ取るのは大変なこと。そこで「見たことがあるような芝居をしないで、普段みたいにして」とリクエストしても、そういう癖がついているとなかなかできません。でも、この2人には癖が全くないんです。「家でやってるみたいにお父さんに対してウザいっていう感じ、やってみてくれる?」と言うと、ちゃんとやれる。他の誰かがやったことがあるような教科書的なお芝居ではなくて、一生懸命絞り出すと、自然な演技になる。そういうことができる2人を選びました。

オーディションへの想いの他に、これから映像制作をしたい方へのアドバイスも聞かれることがあるのですが、映像を作ってみたいと思っている方がいれば、スマホでも何でも撮り始めてみればいいと思います。技術は後からついてきますし、面白い作品を作れる人は予算や技術に関係なく、何を作っても面白いものが作れます。なので物怖じしないで作ってYoutubeでも何でも発表すれば、放っておけないほどの才能なら、見つけてくれる人は必ずいるはずです。…なんて言うと、ライバルが増えて僕の仕事が減るのでやっぱり止めてください(笑)。


作品情報

『サバイバルファミリー』
2月11日(土)全国ロードショー

【物語】
ある日、突然サバイバルが始まった…!?

東京に暮らす平凡な一家、鈴木家。さえないお父さん(小日向文世)、天然なお母さん(深津絵里)、無口な息子(泉澤祐希)、スマホがすべての娘(葵わかな)。一緒にいるのになんだかバラバラな、ありふれた家族…。

そんな鈴木家に、ある朝突然、緊急事態発生! テレビや冷蔵庫、スマホにパソコンといった電化製品ばかりか、電車、自動車、ガス、水道、乾電池にいたるまで電気を必要とするすべてのものが完全にストップ!
ただの停電かと思っていたけれど、どうもそうじゃない。次の日も、その次の日も、1週間たっても電気は戻らない…。情報も断絶された中、突然訪れた超不自由生活。そんな中、父が一世一代の大決断を下す。

≪東京から脱出する≫

家族を待ち受けていたのは、減っていく食料、1本2,500円まで高騰する水、慣れない野宿。高速道路は車ではなく徒歩で移動する人でいっぱい、トンネルは真っ暗すぎて、一歩も進めない。しまいには食糧確保のために、必死で野ブタを追いかけることに…!?
一家は時にぶつかり合いながらも、必死で前へと進むが、さらなる困難が次々と襲いかかる!!

果たして、サバイバル能力ゼロの平凡一家は電気がなくなった世界で生き延びることができるのか!?今、鈴木家のサバイバルライフの幕があがる!!

(C)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

(C)2017フジテレビジョン 東宝 電通 アルタミラピクチャーズ

原案・脚本・監督:矢口史靖

【キャスト・スタッフ】
小日向文世 深津絵里 泉澤祐希  葵わかな
菅原大吉 徳井 優 桂 雀々 森下能幸 田中要次
有福正志 左 時枝 ミッキー・カーチス
時任三郎(友情出演) 藤原紀香 大野拓朗 志尊 淳/
渡辺えり 宅麻 伸(友情出演) 柄本 明/大地康雄

配給:東宝

http://www.survivalfamily.jp/


矢口史靖(やぐち・しのぶ)

1967年5月30日生まれ。
大学で自主映画を撮り始め『裸足のピクニック』(93)で劇場監督デビュー。オリジナル脚本をもとに絵コンテを書いて撮影するという独自のスタイルで、常にユニークな題材に挑み、ユーモアと感動にあふれる作品を生み出す日本を代表する映画監督。青春映画の金字塔となった『ウォーターボーイズ』(01)『スウィングガールズ』(04)をはじめ、成長する若者の姿を描いてきた矢口監督が、本作では困難に立ち向かう「家族」を壮大なスケールで描き、新たなる矢口ワールドを切り拓いた。その他の主な作品に『ひみつの花園』(97)、『ハッピーフライト』(08)、『ロボジー』(12)、『WOOD JOB!~神去なあなあ日常~』(14)などがある。