自分の好きなことや、やりたいことを仕事のスタンスに据えている方は多いでしょう。しかし、なかにはコンプレックスをモチベーションにキャリアを形成してきた人もいます。

今回お話を伺った、女性向けの健康情報サービス「ルナルナ」の開発を担当するプロジェクトマネージャーの桂井理奈さんも、「キャリアスタートの遅れに対する焦りが仕事の原動力の一つです」と語る一人。リーダーとしてプロジェクトを推進するなど、精力的に仕事に取り組んでいる桂井さんが歩んできたキャリアとは?

株式会社エムティーアイ テクノロジー本部 SDI1部 スペシャリスト 桂井理奈
Web開発会社にてエンジニアとして自社Webサイトの運用・保守、自社SEOのためのツール開発、社内インフラ管理、自社メディア事業、自社SEO事業に関する開発業務を行う。2014年6月株式会社エムティーアイ入社。音楽・動画・書籍を配信する総合サイト「music.jp」のサイトやアプリ開発に携わる。2018年4月から、「ルナルナ」事業の開発を担当。

キャリアのハンデを克服するため必死だった20代後半。力不足に悶々とした日々もあった

――まず、桂井さんのキャリアのスタートから教えてください。

実は、ちょっと特殊でして……。大学で情報システムを学び、大学院に進んだのですが中退しました。その時点で大学卒業2年目と同じ扱いになり、いざ就職しようとした際に、どのように就職活動をすればいいかわからず、また正社員としての職歴もなかったことから、とても苦労しましたね。
結局、キャリアのスタートが遅れて、はじめて正社員で採用されたのが20代後半。すごく小さなベンチャー企業でしたが、どんなに大変でも3年以上は勤めて、できる仕事の幅を広げてやるぞと決めて入社しました。

――なるほど。ややハンデを抱えたスタートだったのですね。入社してからは、どのような業務を担われましたか?

Webエンジニアとして採用され、主にWebサイトを制作していました。ただ、スキルがある先輩たちは客先に常駐していたため会社にはおらず、未経験の私に仕事を教えてくれたのは大学生のアルバイトという環境。学生時代にプログラミングは学んでいましたが、仕事で使える知識はほぼゼロベースでした。何とか追いつこうと必死で独学しましたし、「自分にできることは何でもやります」というスタンスで仕事に向き合っていましたね。

Webサイトがどういう流れで作られているのか、どのように納品されているのかを仕事をこなしながらだんだん理解していく中で、「ようやく社会人の一員として社会に参画できた」という実感が持てたことは大きかったです。ただ、経験を積んだ先に、どのようなキャリアを歩んでいけばいいのかまでは、当時はまだイメージできていませんでした。

――何はともあれ、経験を積むことを優先されていたのですね。キャリアへの意識が変わったターニングポイントはありましたか?

その後会社が大手インターネット関連会社グループに参加することになり、これまで出会ったことがないくらい優秀なWebエンジニアと一緒に仕事をするようになったことが、ひとつのターニングポイントになりました。

その会社には、サーバーやネットワークなど、インフラに強いエンジニア部隊が組織されていたりと、とにかく専門能力が高い。仕事をお願いしたことがありましたが、自分の想像を超えるクオリティとスピードで仕上げてもらいました。そうした優秀な人たちの働きぶりを目の当たりにして、自分もこうありたいと、感化されていきました。とはいえ、自分はスタートも遅いし、そう簡単に理想は叶わないだろうという諦めもありながら、悶々としていましたね。

誰も歩んでいない道を進み、キャリアの遅れを払拭したかった

――転職は入社から6年目とのことですが、転職に際しては、どのようなことを重視されましたか?

社会貢献度の高いサービスを手掛けられるかどうかを重視しました。たくさんの人が利用しているサービスに携わりたいという気持ちが強かったです。
あとは、これまで我流で仕事を進めてきたので、しっかりした業務体制が構築されている会社で働いてみたいと思っていました。

――その意味では、「music.jp」「ルナルナ」などメジャーなサービスを運営するエムティーアイさんは、桂井さんが重視していたことを叶えられる企業ですよね。

そうですね。ただ、そうは思いつつも転職では自分が数年掛けて積み上げてきた経歴を評価して、自分を欲しいと思ってくれる企業にしようと思っていて、どちらかというと受け身でした。何社か受けたところ、エムティーアイは内定まで早かったので、それくらい自分を求めてくれているんだなと思い、即座に決めました。

実際に入社してみると、開発プロセスひとつとっても、想像以上にしっかり固められた体制だったので驚きましたね。それだけ品質担保の意識が高いということなので、勉強になると感じました。

――転職してからは、どのような業務を担当されたのでしょうか?

「music.jp」のシステム開発者たちの取りまとめや、企画担当者のアイデアをアウトプットして実装するまでを管理するプロジェクトマネージャーのポジションを担いました。音楽や動画、電子書籍などの配信だけでなく、「music.jp」から派生したサービスのアプリ開発などのプロジェクトに携わりました。
前職では自分が手を動かして開発していたのですが、プロジェクトマネージャーとしてはメンバーの心を一つにしてチームをまとめる経験があまりなかったので、最初はかなり苦労しました。

――具体的にどのようなご苦労が?

最初は、企画担当者の意図を汲み取りきれないなど、コミュニケーションの部分でつまづいてしまいました。その結果、失敗を重ねてしまったこともあり、当時は本当に凹みました。でも、そのおかげで、それまで自分になかった視点を持つことができたのは、成長につながったと思います。皆さんに鍛えていただいた結果、要所で認識の擦り合わせを細かくするようになりました。

――挫折せず、乗り越えられたのですね。「music.jp」に3年携わられたのち、半年間ベトナムに出張されたとのことですが、どんな経緯があったのでしょうか。

やはり自分のキャリアスタートがイレギュラーだったので、他のエンジニアと同じ道を辿っても、追いつけそうにないという認識は変わりませんでした。それが前提にあったので、何か人と違うことをしたいと思っていたとき、ちょうどベトナムで開発チームを立ち上げるという話が社内で上がり、現地でアジャイル開発体制を構築するスクラムマスターをやってみないかと打診され、即決で行くことにしました。

――思い切った決断だったのですね。現地に赴いてみて、いかがでしたか?

私は、チームの意識を一つにまとめてプロダクトに対する理解度を高め、プロジェクトをリードしていく役割を担っていたのですが、これが大変でして……。言葉の壁もあり、チームの心をひとつにするという点では、ハードルが高かったですね。自分の計画通りに現場を回すとまではいきませんでした。最後の送別会ではとにかく悔しくて涙が込み上げてきましたね。でも、この失敗を糧にしようという気持ちは強かったです。

変化を怖れずに突き進んで行けばステージは拓かれる

――日本に戻られてから現在までの約1年半は、どのような業務を担われていたのですか?

「ルナルナ」事業部で、サービスの構築に携わっています。生理日・排卵日予測のツールとして認知されているルナルナですが、現在は生理日管理から妊活サポートまで、ライフステージごとに女性の健康をサポートできるサービスとして、母子手帳アプリ『母子モ』や病院との連携システムの構築を進めています。

――まさに、桂井さんが希望されていた、社会貢献度の高いお仕事ですね。

はい。ユーザーが愛してくれているサービスなので、裏切らないようにしないといけないなと。

たとえば、昨年パートナーに生理日や体調の変化をお知らせできる共有機能をリリースしたのですが、SNSでたくさんの反響がありました。それくらいユーザーとの距離が近いため、自分の手掛けた仕事の反応がしっかり見えますし、ユーザーとつながっている感覚も持てるので、すごくやりがいがありますね。

このプロジェクトではベトナム出張で得た課題をしっかり踏まえ、意識の擦り合わせを積極的に行うようになりました。自分が「ルナルナ」というプロダクトにどんな思い入れがあって、チームのメンバーに何を求めているのかを、意識して伝えるようにしていますね。ベトナムの現場経験から、まずは想いを共有しなければ全員が同じ方向を向き、一体感のあるチームにはならないと気づいたので、コミュニケーションの取り方は変わりましたね。

――キャリアのスタートは遅れたかもしれませんが、現在やりがいある仕事ができているのは、桂井さんのたゆまぬ努力と挑戦がもとにあって、失敗しても自分なりにPDCAを回しているからこそなんですね。

まだまだ未熟なので、自分のダメなところばかり目についてしまうのですが、でも「自分、よく頑張ったな」と労いの言葉をかけますね。先輩が常にいたわけではなく、失敗もしながら、よく諦めずにやってこられたなと。やはり、たとえ失敗しても、それを糧にしようと覚悟を決めて、手を挙げ続けたことがよかったのかもしれません。

――では最後にこれからのキャリアビジョンをお聞かせいただけますか?

もう少し規模の大きいエンジニアチームのマネジメントをしてみたいなと思っています。そのうえで、培ってきた知識と技術をもとに、企画チームのアイデアをしっかりと形にしたいです。そして、既存の枠組みに囚われることなく、テクノロジーのトレンドもきちんとキャッチアップして技術力を高めることを目指したいです。そうすることで、一生涯愛着を持って「ルナルナ」を利用し続けていただけるサービスの一翼を担えたらと思います。

インタビュー・テキスト: 末吉 陽子(YOSCA)/撮影:SYN.PRODUCT/編集:岩淵留美子(CREATIVEVILLAGE編集部)

会社プロフィール


エムティーアイは、豊富な実績とノウハウを活かし、『music.jp』『ルナルナ』をはじめ、「音楽」「ヘルスケア」「電子書籍」「生活情報」などモバイルサイトやアプリを通じて、毎日の暮らしを豊かにそして便利にするサービスを提供しています。

2012年にはヘルスケア事業本部を立ち上げ、ICTを活用したサービスを通じてより多くの人が健康で豊かな生活を実現できるよう、幅広い世代の健康をサポートしています。

■ 社名  :株式会社エムティーアイ
■ 所在地 :東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティタワー35F
■ 設立  :1996年8月12日
■ 代表者 :代表取締役社長 前多 俊宏
■ 事業内容:コンテンツ配信事業
■ URL:https://www.mti.co.jp