一口にデザイナーといっても、Web制作会社に所属して業務を受託したり、インハウスで自社のブランディングに携わったり、フリーランスなど働き方の選択肢はさまざま。

弁護士ドットコム株式会社の林奈実さんは、やりたいことを実現するため、インハウスデザイナーという選択をした一人。ちょっぴり異色の経歴を歩み、現在は登録社数5万社を突破した電子契約サービス「クラウドサイン」でインハウスデザイナーとして活躍している林さんに、インハウスデザイナーとして実現したいことや、インハウスだからこそのやりがいなどについて伺いました。

弁護士ドットコム株式会社 クラウドサイン事業部 デザイナー 林 奈実
アパレルでの販売、Web制作会社でデザイナーの経験を経て、2017年末弁護士ドットコムに入社。電子契約サービス「クラウドサイン」のUIを担当。

アルバイトでモノづくりに目覚め、NGO志望から未経験のWeb業界へ

――林さんがデザイナーになろうと思った経緯を教えてください。

実は、根っからのデザイナー志望というわけではありません。「誰かの幸せに繋がる仕事をしたい」「課題解決のお手伝いをしたい」という気持ちをもともと強く持っていて、専門学校では社会問題や国際ボランティアについて学んでいたんです。それで、ゆくゆくはそれらの解決に携わる仕事をしたいと思っていました。

デザイナーになろうと思いはじめたのはアパレルで販売をしていた頃です。服の接客販売をしている中で、「今私が販売しているものは、ユーザーが求めているものなのだろうか?私からこの商品を買った人は果たして幸せになっているだろうか?」と自問するようになって。その経験がきっかけで、ユーザーのことを考え、モノを作る仕事がしたいと思うようになりました。

専門性を身につけることで、私も誰かの幸せに繋がることや、課題解決のお手伝いができるのではないか。そんなことを考えていた折、Webデザイナーという職種があることを知りました。元々、学生時代にホームページを作成することが好きでしたし、どこの組織もデザイナーの需要があるのでは?と考え、半年ほどWeb制作のスクールに通いました。

――全く異なるWeb業界にほぼ未経験の状態で飛び込んだということに驚きました。その後、Webデザイナーとして基礎的なスキルを積まれたのでしょうか?

スクールでデザインツールの使い方やHTMLやCSSを学び、就職。約2年で2社経験しました。1社目では派遣先の会社で、企業や団体のWebサイトの更新作業、LP制作をしていました。

そこでは基本的に運用が中心でした。なので、新規で一から手掛ける案件がほとんどなくて、特に壁にぶつかることもなく、日々ルーティーンワークでした。次第に「私は本当にこの環境で成長できるのか?」と疑問を感じるようになりました。労働環境の良い会社ではありましたが、いろんなサイトや、クリエイティブを作る方がデザイナーとしての成長に繋がるのではないかと考えWeb制作会社に転職しました。

次の会社では、主にコーポレートサイトの新規デザインをたくさん手がけることができたのですが、サイトを制作しても公開してからサイトの改善がされなかったり、クライアントの満足するものを作っても、実際のユーザーには使ってもらえなかったということがあり、自分はユーザーに価値があるものを提供できているか?と疑問を感じるようになりました。そのため、次に転職するならユーザーとの距離が近く、サービスの成長に携われる会社が良いと思い、事業会社に転職したいと思うようになりました。

――そこでインハウスという選択肢が出てきたのですね。転職先として弁護士ドットコムを選んだ理由はなんでしょうか?

弁護士ドットコムについては、前職で当時のクライアントから「弁護士ドットコムのようなサイトを作りたい」という要望をいただいたことがあったので、知っていました。

転職先として選んだ理由は2つあります。ひとつ目は、社会貢献ができ、誰かの幸せに繋がるサービスだと思ったからです。学生時代に社会問題や国際協力を学んでいたので、やはり「誰かの幸せに繋がる」というのは必須条件でした。だからこそ、事業部の方から「クラウドサインが紙の契約書や押印文化の抱える問題を解決し、社会の「ふつう」を再定義したい」という話を聞いて、こういう事業に携わりたいと思いました。

ふたつ目は、面接に行った中で一番「ここの社員の人たちと一緒に働きたい」と思ったから。面接で会ったデザイナーマネージャーのデザインに関する知識の深さや事業に対する想いの強さに感銘を受けましたし、デザイナー同士の仲もすごくいい印象でした。それに、定期的に勉強会に参加するほど学習意欲も高くて「この会社なら自分も成長できる!」と思い、最終候補の3社の中から弁護士ドットコムに決めました。

作って終わりではなく、常に改善提案することで“使う人のためになる”モノづくりを実感

――まずは、現在携わっておられる「クラウドサイン」について教えてください。

一言でいえば「Web上で契約が完結できるサービス」です。

契約を交わすとなると、まず契約書を印刷して製本し、押印して郵送して…とそれだけで何週間もかかりますし、印紙代も発生します。それを全てWeb上で完結させることができるんです。押印もしなくていいし、印紙代もかからない。契約を締結するのに従来の形でなくてはならないという法律はどこにも存在しませんから。「クラウドで契約をかんたんに」というコンセンプトで開発されたのが「クラウドサイン」です。

2015年10月にローンチされたサービスですが、2017年8月に導入社数1万社を突破し、順調に成長を続けています。私が入社したのは、ちょうど急激に伸び始めた2017年末頃です。

――書面でのやりとりだと煩雑になることもあった契約業務がクラウドサインによって効率化されることで、誰かのためになっている、と考えると、林さんのやりたかったことが実現できていそうですね。実際に入社してみて働き方は変わりましたか?

前職とは全然違いました。前職はいわば完全分業制で、仕様やワイヤーはディレクターが考えて、デザイナーはデザインだけをやっていました。

ですが、現職では上流のところからディレクター、デザイナー、エンジニア全員で考えて決めていきます。前職ではとにかく手を動かす時間が多かったのですが、今はミーティングに時間を費やすことの方が多いです。

それに、前職では「公開してからサイトの改善がされなかった」ということもありましたが、現在はリリースした後もお客様にヒアリングしてその結果を元にどんどん改善していくため、働き方・業務内容は大きく変わりました。

――働き方の変化に伴い、林さん自身の中で変わったことはありますか?

今までは、何か壁にぶち当たった時に、自分の能力を高めて1人で解決しなければいけないと思い込んでいました。しかし、マネージャーから「どうやったら解決できるかを初めに考えるべき。そしてそのためには周りを巻き込む力が必要」と言われて「そういうやり方もあるんだ!」とハッとしました。

同時に、課題も見つかりました。それは「伝える力」です。
異なる職種や価値観をもったメンバーとプロジェクトを進めるというのは、初めての経験で壁にぶつかったこともありました。
そのため、チーム間の共通言語を整えることや、なぜこの考えに至ったかなどの経緯を相手にどう伝えたらわかりやすいかを考え、論理的に説明するよう意識しています。

専門学校時代もこれからも、「誰かの幸せに繋がる仕事をしたい」という想いは変わらない

――インハウスデザイナーとして働き始めたことで、多くの発見があったということですね。林さんの今後の目標についても教えてください。

今年の抱負は「主体的に動く」こと。ユーザーのためにやった方が良いと思ったことは、周囲の人を巻き込んでどんどん挑戦していきたいです。

また、根本的に「誰かが幸せになるためのお手伝いをしたい」という気持ちがあるので、そのために、「デザイナーだからこそできること」をやっていきたいです。Web上で契約書を作成・締結・管理することに慣れていないユーザーもいるので、そんな方でも「使いやすい」と思っていただけるよう改善していくこと。それと、クラウドサインの魅力をもっとデザインの力でユーザーに届けることも目標のひとつです。

キャリア面での将来像としては、デザインのスキルを誰かに伝えることで、その人の人生の選択肢を増やすきっかけ作りが出来ればと思っています。

――お話を伺っていると、林さんの「誰かの幸せに繋がる仕事をしたい」という芯の部分は、一貫してブレていないように感じます。

誰かの課題を解決するサービスに関われて、しかもそれが成長していく過程に携われるのはワクワクしますし、できることが増えていくのは楽しいです。今後も誰かの幸せにつながるサービスを作り続けられるよう頑張っていきたいです。

インタビュー・テキスト: 小泉 ちはる(YOSCA)/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:岩淵留美子(CREATIVEVILLAGE編集部)

会社プロフィール


「専門家をもっと身近に」を理念として、世界中の人々が「より良く生きる知恵=知的情報」を自由に活用でき、幸せに暮らせる社会を創造することを目指しています。提供しているサービスは、人々と専門家をつなぐポータルサイト「弁護士ドットコム」「税理士ドットコム」「BUSINESS LAWYERS(ビジネスロイヤーズ)」、電子契約サービス「クラウドサイン」など多岐にわたります。

■ 社名  :弁護士ドットコム株式会社
■ 所在地 :東京都港区六本木四丁目1番4号 黒崎ビル6階
■ 設立  :2005年7月4日
■ 代表者 :代表取締役社長 内田 陽介
■ 事業内容:弁護士ドットコムの開発・運営、クラウドサインの開発・提供ほか
■ URL:https://corporate.bengo4.com/