1通の招待状を手に観客が迷い込んだのは、不思議の国の帽子屋マッドハッターの主催するお茶会。物語にそって次々と運ばれてくるデザートには、華やかなプロジェクションマッピングが投影され、観客は眼と耳と舌で「物語」を体感する──。

この企画を率いるのは、22歳という若さで2.5次元舞台からテレビ、CM、イベントなど様々なジャンルで挑戦し続ける映像クリエイター堀真弓さん。
今回、演出・映像を担当した堀さんと、堀さんが所属する会社であり本企画『Alice in マッドティーパーティー ~歪んだ愛が溶けだす不思議なお茶会へようこそ~』を主催する(株)Planet Kids Entertainmentの代表、伊藤秀隆さんにお話を伺いました。

映像×料理×演劇!不思議なアリスの世界で“食べる”物語を体験!?

※音声付

──見事に3つの要素が合わさった公演でした。企画の経緯は?

 料理×映像の企画はいろんなお店がやっていて、憧れていたんです。プロジェクションマッピングは建物に投影することが多いですが、レストランの料理だと間近で魔法みたいな世界を味わえるのがすごく魅力だなと思っていました。

でも、いくつかのレストランをリサーチしても、マッピングというよりは映像投影であまり動きがないんです。そのため今回に自分がやる時には、お皿に合わせてネコが動いたりする仕掛けをたくさん入れました。
せっかくやるならみんなと同じことはしたくないし、ふだん接している演劇を組み合わせたら今までにないことができるんじゃないかと思ったんです。

伊藤 堀は2年ほど前でから「やりたい」と言っていたんですが、タイミングがなかなか合わなかったんです。コロナで仕事のスケジュールが空いたので、この機会に堀のクリエイターとしての魅力を発揮できる場を作ろうと、実現しました。

──料理×映像、料理×演劇、演劇×映像の組み合わせの企画はほかでもありますが、3つが融合しているものはなかなかない気がします。実現するのは大変ではなかったですか?

伊藤 うちの会社は万事屋さんのようなところがあって、映画、テレビ、舞台、脱出ゲームなどいろいろ手掛けているんです。
社内では担当がわかれているのですが、この『Alice in マッドティーパーティー』では映像・演出を担う堀をはじめ、脚本担当の常泉、制作やキャスティング担当の幸音と、入社2年目の女性3人が主体となって取り組んでいます。

若手プロジェクトチーム(映像:堀氏、構成:常泉氏、キャスティング&制作:幸音氏)
▲若手プロジェクトチーム(映像:堀氏、構成:常泉氏、キャスティング&制作:幸音氏)

全員22~23歳と若いですが、それぞれが責任者としてクリエイティブな現場で働いているメンバーです。いつもは大きなプロジェクトに参加する形ですが、今回は堀の世界観にとことんこだわってもらい、クリエイターとして作品をつくってもらいました。

ベースにあるのは、2.5次元舞台での経験

──『不思議の国のアリス』をモチーフにしたストーリーに合わせ、料理と映像が融合するのは迫力がありました。
花のダンスと共に現れるクレームダンジュ 料理については、パティシエの細川さんに知恵をお借りしました。私はストーリーを作って、
「食べられるお花があるといいな」
「このシーンは白いケーキがいいな」といった
要望を出しただけです。

涼し気なゼリー「冷たくて透明感のあるデザートがいいな」と言ったら緑と青のゼリーを作ってくださいました。
料理を出すタイミングがある程度決まっている中、観客16人ぶんを同時に作らないといけないので、どのくらいの量でどのくらいの手間の料理なら一度に作れるかを考えてもらうのが大変でしたね。

炎に包まれるクレープ伊藤 一番悩んでいたのは、料理の仕掛けじゃない?
堀の映像は派手だから、映像が消えて明るくなった時に、どうしても料理が地味に見えてしまう。
だから細川さんには「映像に負けない変化が欲しい」とお願いしました。

ティーパーティー そうなんです。その結果、お茶かと思わせて実はコンソメスープだったり、伏せたティーカップの中からシュークリームが出てきて、さらに中身はツナとピクルスだったり…
お料理の面でも意外性をもたせる仕掛けで応えてくださいました。

──最後のデザートは『歪んだ愛』という名前でしたが、チョコドームを熱いベリーソースで溶かすと中からフルーツが出てくるアイデアは、まさに公演のサブタイトルにもある“歪んだ愛が溶けだす”というシーンでした。

熱いベリーソースで溶け出すチョコドーム伊藤 あれも難しくて。どのくらいのソースの熱さだとチョコが上手に溶けるのか、つかめるようになったのは公演の中盤を越えたくらいからです。ソースの濃度やチョコレートを冷蔵庫から出すタイミングなどを調整しながら、最終日にはちょうど良くなりました。

 本番期間中に調整しなければいけないことが多かったですね。というのも、初めて料理、映像、演劇が合わさったのがゲネ(リハーサル)なんです。
「実際にレストランでやるとこんなふうに見えるんだ!」というのは大きい衝撃でした。

それから明かりの強さを調整したり、映像の色味を変えたり、フランベの音と俳優の声が重なったら聞き取りづらいので演出を変えたりしました。

プロジェクションマッピングは映像を作れば完成だと思われることもあるんですけれど、やっぱり、現場で映像を投影してみないとどうなるかわからない。赤色のものに映したらぜんぜん違う色になったりするし、俳優さんの動きと合わせないといけないので、現場で調整をしてやっと完成です。

──映像に合わせて俳優さんが物語の進行を行い、料理のサーブをしていきます。そして映像は、堀さん自身が本番でオペレーションもしていますね。人と映像が合わさる演出は、2.5次元舞台を手掛けられてきたからこそ実現できたのでは?

 そうですね。普段からプロの舞台に関わっているので、そこでの経験が100%活かされている公演になっています。俳優さんに対する演出方法や、なにか裏でトラブルがあって料理を出すのが遅れた時の対策などは、舞台の現場を参考にしました。今回も自分で映像の操作をしていて思ったのですが、やっぱり、現場が好きなんですよね。

笑みがこぼれる堀さん

ジャンルを横断する現代のクリエイター

──堀さんご自身は、どのようにキャリアを積まれたんですか?

 もともとはボーカロイドが好きで映像を勉強しはじめたんです。そのあと2.5次元舞台が大好きになって、専門学校の先生が『ダンスライブ「ツキウタ。」ステージ(通称:ツキステ。)』の映像に関わっていたことをきっかけに現場に入れていただいたのがスタートです。実際に舞台の映像を作ってみると「楽しい!ずっとやりたい!」という思いで、いろんな場所でアルバイトやインターンをし、卒業と同時に今の会社に入社しました。

伊藤 うちは、最初から一人でも立てる人しか採用しないんですよ。クリエイターには年齢はあまり関係ない。とくに今はデジタルが発達しているので、知識とセンスとコミュニケーション能力があれば、下積み期間は昔ほど必要ないのかもしれません。

──しかし堀さんのように、演劇の知識と、映像の知識の両方を持っているクリエイターは数少ないのではないでしょうか。

 たしかにプロジェクションマッピングだと、舞台の現場で詳しい方はあまりいないんです。「これできないの?」と言われてもできないことがたくさんあるので、その時は「映像は魔法じゃないんだぞ」と思ったりもします(笑)でも、魔法のように思えるくらい不思議がってもらえるのは嬉しいですね。作り甲斐があります。

──今後はクリエイターもジャンルを横断した方がいいと思いますか?

伊藤 ええ。今はエンターテイメントの垣根がなくなってきていると思うんですよね。しかもデジタルの技術サポートによってできることが増えてきています。
これからのクリエイターは、「これが専門だ」というものももちろんあって良いですが、いろんなことに挑戦するのは必要だと思いますね。僕自身も、やりたいことの核は映画だけど、フジテレビの『逃走中』という番組での経験が、脱出ゲームに活かされていたりもします。そんなボーダーレスな感覚が、これからのクリエイターには重要なのかなと。

──では、これからのクリエイターに必要なことはなんでしょう?

伊藤さん語り伊藤 優秀なクリエイターは、受けたお仕事のなかでも自分の個性を出せる。堀も、
自分の世界観を持ちつつクライアントの意向も聞けるので、若くても責任者として仕事ができます。

 でも私の場合は、誰かとお仕事をする中で自己主張はけっこう強いと思います。オリジナリティを持って発信しないと消えてしまう。自分の輝く部分を出せないのはもったいないです。

伊藤 あとは、いろんなジャンルの人とコミュニケーションをとれること。クリエイティブなセンスと技術に加えて、みんなに「また一緒に仕事がしたいね」と思ってもらえるクリエイターであればなんでもできる。自分がその専門分野に弱くても、「この人を助けたいな」と思ったらみんな助けてくれますからね。

──今後も“体感型レストラン”の企画は続いていきますか?

伊藤 そうですね。もっと本格的にバージョンアップしていきたいですね。『Alice in マッドティーパーティー』をやってみて、ふだんうちの会社が手掛けている仕事では会えないお客さんに出会えたことが面白く、もっとやりたい思いが募っています。体感型レストランは海外にもまだ少ないですから、いずれ海外展開もしたいですね。

 私自身も、今回やってみていろいろな課題があったので、改善しながらまた取り組みたいです。現場が好きなので、もっと自分の現場を手掛けたいですね。

インタビュー・テキスト:河野 桃子/撮影:SYN.PRODUCT/編集:CREATIVE VILLAGE編集部

あわせて読みたい


あわせて読みたい