大人気リアリティ番組『テラスハウス』を手がけるテレビプロデューサー・松本彩夏さん。現在放送中の『セブンルール』では毎週さまざまな女性に密着し、それぞれの生き方を紹介することで話題を集めています。今回は松本さんにAD時代の苦悩や『テラスハウス』誕生裏話、『セブンルール』にかける思いなどについて伺いました。

松本 彩夏(まつもと・さやか)
株式会社イースト・エンタテインメント 執行役員第一制作本部チーフプロデューサー。
1977年生まれ。東京都出身。立教女学院中学・高等学校を経て、2000年慶應義塾大学卒業、株式会社イースト・エンタテインメントに入社。
プロデュース番組は「私の10のルール」(TBS)、「世界は言葉でできている」(フジテレビ)、「階段のうた」(TBS 第49回ギャラクシー賞選奨受賞)など。
現在は「ボクらの時代」(フジテレビ)、「テラスハウス」(Netflix・フジテレビ)、「セブンルール」(フジテレビ系)のプロデュースを手がけている。
2016年、放送ウーマン賞受賞。

ストッキングを履いて通勤したくなかったから…

小さい頃からタイツを履くのが不快で、就職活動のときは“ストッキングを履かなくていい会社”が絶対条件でした(笑)。当時は未だ世の中にどんな職種があるかもよく知らなかったし、ドラマが大好きなテレビっ子だったので「テレビ業界なら絶対ストッキング履かなくていいだろう」と思って安易にテレビ局や制作会社を受けていたんです。そのうちに局だと必ずしも最初から制作に行けるとは限らないと気付き、色々な制作会社を受けました。

ウチの会社は作ってる番組も品が良いものが多かったし、オフィスがすごくキレイで。実際に入社してみたら3ヶ月に1回くらい大掃除させられるのでなるほどと思ったんですけど(笑)。オフィスで寝られるようなスペースも、ADが夜中ぐーたら出来るようなふかふかのソファーも、絶対ない。あと、受付のお姉さんがとても美人で(笑)、総合的にすごく素敵な会社だなと思って入社を決めました。

入社後はもちろんADからのスタートで、「たぶんADなんて楽勝で出来るだろう」と驕っていたら全然何もできませんでした。業務内容はイメージしてたものと大差なかったけど、そこで働く自分自身のほうのイメージが全く違ってた。とにかく全てのことに気が利かなくて、たとえば飲み会でもADが率先してオーダー取らないといけないのに、みんなの中に混じって飲んでて怒られたり(笑)。◯◯やっとけとか、◯◯持って来いって言われても、全体の流れが把握できてないから、その「◯◯」が何のことか全然分からないんです。分かんないからつまんなくて、つまんないから眠くなって。ロケ中もAD1人しかいないのに立ったまま寝るほど眠くて、寝坊や会議中の居眠りも多めでした……(苦笑)。怒られることの9割は睡眠にまつわるエトセトラで、担当してた深夜番組で今まで私が立ったまま寝ていたところをカメラで撮られてたみたいで“寝るAD”として特集を組まれたことも。撮られてたことすら気付いてなかったんで、本当にクズでした。

でも、3年くらい経ったらなんとなく仕組みが分かってきて、責任感も芽生えてきて、「この現場は私いないと回らないな」みたいな仕事が増えるうちに眠気もさめてきて。眠気とモチベーションは比例(反比例?)してたみたいです、ちなみに今はほとんど眠くないです。

徐々にディレクターをやらせてもらえるようになり、続けていくうちに私以外のディレクターが担当したVTRの編集とかナレーションとかテロップとか音楽とか「私だったらこうするなあ」と、すごく気になって、全部に自分が関わって番組作りをしたいと思うようになりました。そんなことを考えているうちに『ボクらの時代』(フジテレビ系)をプロデューサーとして任されました。それと並行して初めて自分で企画して立ち上げたのは『私の10のルール』(TBS系)という現在担当している『セブンルール』(フジテレビ系)の系譜上にある番組です。私自身が学生の頃から「スカートは履かない」とか色々なルールを自分に課すタイプで、一流の人たちもルールやルーティンがたくさんあるだろうから、それをまとめて見ることが出来たら面白いのではないかと思って始めました。

私がせっかちだから、人物ドキュメンタリーを見ているともどかしくて、「いつ、いいこと言うの?」「で、この人はどういう人なの?」とか思ってしまうので、「いいこと」つまり名言っぽいことをいっぱい言えるフォーマットを作りたかったんですよね(笑)。調べるうちに、気になる方々にも、それぞれルールみたいなものがあることが分かって大変だったけど面白くて仕方ない番組でしたし、それが時を経てまた出来ていることは幸せです。

3年越しに実現した『テラスハウス』

私のルールに「ダサくない企画書を作る」っていうのがあって、毎回デザインとかフォントとかにすごくこだわって提出しています。そうしたらあるときフジテレビの太田大さんという方が編成にいて、私の企画書を見て「この企画書を書いた人に会いたい」って言ってくれたみたいなんです。で、紹介してもらって会って、フォントとかマニアックな話で仲良くなって(笑)。

その後何年か経った頃に太田さんから「アメリカのリアリティーショーのような番組って出来ないかな?」と言われて書いたのが『テラスハウス』(フジテレビ系)。でも実は企画書が通るまでに2〜3年かかってるんです。
企画書を書きながら「絶対おもしろいなこれ、企画通っちゃうじゃん、また忙しくなっちゃう♪」と思ってたのに(笑)。それでも諦めずに出し続けていたら、大多亮さんという、かの有名なドラマプロデューサーで当時の編成局長の目にとまって、太田さんと同じようにまた「この企画書を書いた子に会いたい」と言っていただきお会いし、直接プレゼンさせてもらってやっと通りました。

私はただ企画をしただけで、本当に台本がないのでひたすら毎日みんなが延々と日常を撮り続けていくというスタッフの努力の上に成り立ってる番組です。例えば一週間撮り続けても、金曜日まで何も起こらなかったとしたら、金曜日まではカットして、土曜日の様子だけを世の中にお届けする、ということもよくあります。「ボクらの時代」もそうですが、台本を作ってその通りやってもらうよりも、そこで起こったことを撮影して、編集で作りこむほうが好みなんだと思います。
出演者の方の能力に最大限、乗っかる…といいますか。
あとは細かいところまで全部ダサくならないように作りたい。音楽も環境音楽的なものをVTRにのせるのがすごく嫌で、当初はDVD化されたりネット配信されたりすると思ってなかったので「ガンガン好きな曲かけちゃおうよ」ってディレクターや音効さんとあれこれ言いながらダサくない選曲に気を配りました。劇伴を作った方が、あとあと権利処理はラクなのですが笑

インスタ映え写真がその人の全てじゃないってことを伝えたい

現在プロデューサーとして担当しているのは『ボクらの時代』『テラスハウス』『セブンルール』(全てフジテレビ系)です。『セブンルール』は今年の4月からスタートしたドキュメンタリーで、先程お話したように『私の10のルール』のDNAを継いだ番組で、様々な女性に密着し7つのルールを探っていきます。有名な人も出るけれど、世に未だそんなに知られてない“途中の人”を紹介したいという気持ちがあって、職業図鑑としても面白くって、なおかつ、出演したことによって、取材対象者に何かいい風が吹くようなものにしたいな、と。

©カンテレ/イースト・エンタテインメント

でも、きれいな人のキラキラしたところや、綺麗事を言っているところだけを見せる、という番組にはしたくなくて、VTRを見ながらスタジオキャストの皆さんにツッコんでもらったり本音を言ってもらうっていうのがすごく大事なんです。純粋に、取材対象者の生き方に感銘を受けたり、刺激を受けたりしたい、と思っている人たちからは、スタジオパートへのネガティブな御意見もありますが、出来るだけ多くの視点を提供して、どう感じるかは、視聴者に選んでいただきたいと思っているので。

今の女性たちはインスタでキラキラしたモデルさんや女優さんたちが四角く切り取った素敵な写真に慣れすぎていて、実際にその方たちがアップしてるイケてるインスタの裏にどれだけイケてない瞬間があるか想像出来ていないまま、憧れたり、嫉妬したりしているかもしれない。もし、そういう素敵な四角い写真だけを見て日本の女のコが育っていったらみんなバカになっちゃうって、おせっかいだけど思っていて。

だから、テレビで30分かけて誰かの人生をちゃんと見せて“ちゃんと辛いことも、歯を食いしばるようなこともあっての、本当の輝きだぞ”っていうこと、今見えている表層のキラキラした部分だけが、輝く人の全てじゃないってことを伝えていけるといいなあ、というのは意識してます。
とは言っても、努力してキラキラ輝いているかっこいい人を見て、「私は、こんなに頑張れない…」と思う人の心を軽くするために、YOUさんや本谷有希子さん、オードリー若林正恭さん、青木崇高さんにツッコんでもらったりあーだこーだ言ってもらったりもしています。私もVTR見て、「こんなに頑張れないよ!」と思うことが多いので。笑

©カンテレ/イースト・エンタテインメント

何をしてきたかよりも、何を考えてきたか

最近では採用面接を担当することも多くて「合唱部でコンクール2位でした」とか「世界何カ国旅してきました」というようなことを言う人がいっぱいいるんですけど、私はそういう目に見える結果はあんまり重要じゃないと思っていて。何をしてきたかよりも、何をしててもしてなくても、何を考えてきたか、なんじゃないかと。

例えば「大学4年間ずっと横たわってました」みたいな子が来たとしても、横たわってる間にすごく大事なことをいっぱい考えてたかもしれない。実績が伴いやすいから何カ国旅してきたとか行動だけで見せようとしすぎる人が多いけれど、一緒に仕事をするときにそれだけだと足りないような気がして。もちろん行動に起こすことや実績を残したことはとても価値のあることだと思いますが、大学生は何も残せてなくて当たり前だし、極端なことを言えば、なにかで表彰された子より、ずっと寝そべってた子のほうがいろんなことを考えてるかもしれない。だから、リア充である必要はないし、何をしてきたか?だけでなく、何を考えてきたか?を、わたしは大事にしたいし、自分の考えを、自分の言葉で言える人と一緒に働きたいと思っています。

今はネットを含めたくさんのメディアがある中で、せっかくテレビを選んだのなら、「この番組、俺(私)がやってるんだ」って、自分の大事な人に胸を張れるような番組を作ってほしいし、私もスタッフがそう思えるようなテレビ番組を作り続けていきたいです。

たとえば、スタッフが飲み会に行って「テラスハウス作ってるんだ」とか「セブンルール作ってるんだ」って言ってモテたとしたらすごく嬉しい。視聴者の方々に愛される番組を作りたいというのはもちろんですが、スタッフに愛される番組であることも同じくらい大事だと思っています。番組を愛せないと頑張れないので。スタッフは私にとって財産なので、みんなと働き続けられるように、というのが、私が働く大きな原動力でもあります。

インタビュー・テキスト:上野 真由香/撮影:古林 洋平/編集:CREATIVE VILLAGE編集部