ゲストにとって、気になる学生時代の同級生の“今”を調査する『あいつ今何してる?』。卒業アルバムをめくり、学生時代のエピソードを話すうちに、意外な事実が判明したり、ゲストの素の部分が垣間見えてくる面白さで人気の番組です。同番組を企画から手掛けるのは、テレビ朝日の芦田太郎プロデューサー(演出兼務)。過去には『関ジャニの仕分け∞』内で話題となった「柔軟女王No.1決定戦」や「高卒認定試験」などの企画にディレクターとして携わり、そこで培われた“ドキュメンタリー要素”は、『あいつ今何してる?』にも存分に活かされているそうで…深夜からゴールデンの放送に変わって1年ほどが経過した同番組のこと、これから映像制作に関わりたいという方へのアドバイスなど…お話を伺いました。

転機となった『関ジャニの仕分け∞』内「柔軟女王No.1決定戦」と「高卒認定試験」

小さい頃からテレビが好きで、特にバラエティが好きでした。中でも『ダウンタウンのごっつええ感じ』と『めちゃ×2イケてるッ!』(以下、『めちゃイケ』)は、「面白いものを見ることは最高に面白い」という青春時代の自我の形成に大きな影響を与えています。
好きなものを仕事にできたら良いなと思いつつも、最初はそこまでテレビ局志望というわけではなくて、就職活動の選択肢の一つとして考えていました。なので、入社試験も『めちゃイケ』等の王道のバラエティ番組を持つフジテレビと、『アメトーーク!』や『内村プロデュース』『虎の門』等、自分が大学生当時、「深夜バラエティと言えばテレ朝」という勢いを感じられたテレビ朝日に絞って受けていました。

結果、2008年にテレビ朝日に入社してから、ずっとバラエティの制作に携わっています。今振り返ってみるとディレクターとして演出手法の転機となったのは『関ジャニの仕分け∞』という番組内の「柔軟女王No.1決定戦」と「高卒認定試験」でした。

「柔軟女王No.1決定戦」は身体を反ってリンボーダンスみたいにしてバーをくぐるという企画でした。最初は2時間スペシャル内のショートコーナーだったのですが、視聴率的に良い結果が出て、第2回、3回・・・と、徐々にコーナーのオンエア時間が伸びていきました。ここで学生時代の話に戻るんですが、もともと自分はなぜ『めちゃイケ』が最高に面白いと思っていたのかというと、個人的に『めちゃイケ』に出演しているナインティナインさんをはじめとした出演者の方々が『めちゃイケ』に出ている時が最も面白く、輝いているように見えたんです。じゃあなんで『めちゃイケ』の出演者達が輝いているように見えたかと、さらに理由を考えた時に『めちゃイケ』が出演者に用意している舞台装置が彼らの能力を引き出す機能として圧倒的なクオリティで成立していているからこそ出演者が最大限に輝いているんじゃないかって思ったんです。

そういう意味で「柔軟女王No.1決定戦」も「体が柔らかい」という特殊な能力に秀でた方が表舞台に出て、輝くことが出来る舞台装置=企画で、その中でも特に才能を開花させたのがSKE48の須田亜香里さんです。彼女の注目されるキッカケの一つになりました。そもそも須田さんに出演をお願いした経緯は、企画を任されたからには新しい子を探したいと思って、アイドルやタレントのプロフィールを片っ端から見ていき、その中の1人の須田さんの特技の欄に、クラシックバレエが得意で、身体の柔らかさには自信があると書いてあったので、お会いしてみると、想像以上のポテンシャルで、最終的には金メダリストやギネス記録保持者にも勝利するほどの圧倒的才能を発揮してもらうことに繋がりました。そして自分としては彼女の「舞台」を用意できてとてもやりがいを感じることが出来ました。

そしてそこで磨いた編集技術をまた別の形でより高いレベルに昇華させ、自信になったのが『関ジャニの仕分け∞』内で関ジャニ∞の横山裕さんと大倉忠義さんに「高卒認定試験」を受けてもらう企画でした。それは2人合わせて合計300時間を超える密着企画でした。
夏から冬場にかけてほぼ毎日、楽屋で勉強する2人を撮影して、300時間以上ある素材を最終的にオンエア尺の1時間程にする編集作業でした。彼らの努力の末、合格したのですが、合格するまでに費やした300時間以上ある素材をどう1時間にまとめて、多忙な中、死ぬ気で頑張ってくれた横山さんと大倉さんの頑張りや2人の良い部分を最大限に詰め込んで、かつ視聴者の方々にも楽しんで貰えて、ドラマチックに見せるか、なにせ素材は300時間以上あるので、編集作業はかつてないほどの試行錯誤となりました。しかし収録でメンバーがそのVTRをみて大笑いしたり、合格を真剣に祈ったり、一喜一憂する姿を見て、「もしかしたらこれは良いVTRになったのかもしれない」と思えて、結果的に彼らの合格はYahoo!ニュースのTOPでも取り上げられたり、世間的にも話題になったり社内外の色々な人に「面白かった」「感動した」と声をかけてもらえて、そして何よりも横山さんと大倉さんに「面白かったよ、ありがとうね」と言われたことが自分の中で大きな自信になった企画でした。

超試行錯誤しながら300時間を1時間にして、ゴールデンタイムである程度結果も出て、そこで「自分が脳みそをフル回転させた編集ってもしかしたらテレビで通用するのかも・・・」という感覚を掴め始めたところで『あいつ今何してる?』の立ち上げの時期に差し掛かっていきます。

小説やドラマには表現できない“ドキュメントバラエティ”として機能する

『あいつ今何してる?』の企画のきっかけは、高校のサッカー部メンバーの結婚式でした。“コダピー”というあだ名の同級生について、今何してるんだろう?という話になりまして。坊主で丸メガネをかけていて・・・非常に個性的で面白い同級生だったのですが、途中の点々とした目撃情報はあるんです。でも、結局分からなくて、家に帰って「誰か調べてくれないかなぁ。あ、じゃあこれを企画にしちゃえば良いのかも」と思ったことがきっかけです。誰でも、学生時代の同級生で一人くらいは今、何してるかな?と思う人がいて、サッカー部のメンバーで話しても盛り上がるので、それを少なくとも僕ら素人よりははるかに話術のある芸能人の方々にやってもらえたら番組になるかも・・・と思って企画書にしました。

番組作りは、まずゲストの卒業アルバムを見ながらの打ち合わせから始まります。
例えば前田敦子さんの回では、初恋の相手とのエピソードで「この話をしたの初めて」というような言葉が出て、素が垣間見えたことが、ネットのニュースでも取り上げられました。その時は、話しながら前田さんの顔が赤くなっていたので「顔、赤くなってますよ」と言ってみたら「この話したの初めですもん!」と言ってくれたんですね。もしかしたら自分の「顔、赤くなってますよ」っていう突っ込みがなければ出なかったかもしれない言葉なんですけど、そこで突っ込みを入れて良いものなのかは常に迷います。出演者の方とカメラが回っている所でお話しさせていただくのはただでさえ緊張しますし・・・でも卒業アルバムを見ながら昔の話をしていると、昔からの知り合いだったように感じてしまう瞬間があるんですよね。だから緊張感を持って「出演者と制作者」ギリギリのラインで「同じ気持ちで楽しんで話を聞く」ということがポイントなのかなと思ってます。「いましたよね~そういう奴!」みたいな(笑)でも、あまりそれを出してしまうと番組を見ている方にとって邪魔になってしまうかもしれないので、そこは気を付けるようにしていますね。

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そして番組を作っていて改めて思うのは、人の記憶ってとても面白くて、自分の思っていることと、相手の思っていることが全く違っていたりするんですよ。
例えば道端アンジェリカさんの回で、お互い「怖い」と思っていて当時避けるようにあまり交流していなかった男子同級生が、実は当時アンジェリカさんに憧れの気持ちがあって話しかけられず、卒業後は密かにずっと応援してくれていたことを知る…というような、当時は毎日同じ教室の中にいたのに、そんな意識や記憶のギャップを映像で表現できるのは自分でも発見でしたしとても新鮮でした。そんな風にして生まれるギャップが、笑いになったり感動になったり…そんなドキュメントバラエティとして機能することが小説やドラマにもないものとして、この番組の大事な根幹になっているのかなと思います。

「見たくないなら見なくて良いです」って言ったらテレビマンとして終わり

insert_IMG_9131深夜からゴールデンに放送時間が変わったことで、ネプチューンさんをMCに迎え、3人の柔らかさ、仲の良さが番組の雰囲気作りに大きくプラスに働いていると感じます。そして、VTRについて、よりドキュメンタリーの要素は強くなったかもしれません。

「普通の人生」なんてあり得なくて、誰もが世界にひとつしか無い人生を歩んでいて、その中で決断や転機があり、それをゴールデンではよりしっかり掘り下げて伝えていく意識でVTRを制作しています。
でもこの方針には最初は葛藤がありました。ゲストの同級生は、番組を見ている方からしたら全く知らない方なので、知らない人同士が楽しんでいる番組って「関係ないじゃん?」と思われるかな、と。それは企画書の時点から懸念点でもあって、番組が回り始めた今でも、当事者同士しか分からないことを放送し続けていたら、視聴者は離れるんじゃないか?という危機感というか不安は常にあります。「知らない人の人生を、何でこんなに長く見ないといけないんですか?」っていう批判を受けたとして、そこで「見たくないなら見なくて良いです」って言ったらテレビマンとして終わりだと思っていて、やっぱりそういう人にも見て欲しいんですよね。だからこそ、そういう批判的な観点であえて番組を客観的に見て葛藤することはしょっちゅうあります。でも、卒業以来疎遠になった同級生の人生をしっかり丁寧に興味深く描くことは、出演者がより前のめりにVTRを見ることに繋がるんですよね。その前のめり感っていうのは「素のリアクション」になって、「素」になった出演者の感情(感動や喜びや笑い)は自然と視聴者にも伝染していくというか・・・そうなっていると信じて作っています。でもやっぱり常に葛藤はあります。

「なんで?」を3回繰り返してみると…

今は、僕が就職活動をしていた頃に比べると、「テレビがメディアの中心」という時代ではなくて、一つの選択肢に過ぎないのではないのかなと感じています。AbemaTVもYouTubeもニコニコ動画もCSもBSもある中で、テレビをやりたいのかそれ以外の媒体の動画を作りたいのかによって、就職活動のアプローチは違ってくるし、映像に関わる仕事を目指すにも、幅のある時代だと思うんです。

そんな時代の中で「テレビの仕事をしたい」と言う就活生に「なんでテレビが良いんですか?」って、よく聞くんです。「「なんで?」を3回繰り返してすんなり答えられたら第一段階クリアだよ」って。「テレビをやりたい」「なんで?」「○○な番組が好きで・・・」「なんで?」ともう1回聞いて詰まるようだと、「それって、本当に好きじゃないんじゃないですか?」って、そうやって論破していくめちゃ嫌な先輩に見えますけど(笑)

それぐらい今テレビ局って映像業界のマストじゃないし、いろいろな映像コンテンツがある中で、徹底的にこだわってまで「テレビが良い!」って思う理由は?と思ってしまうというか、そこを突き詰めないと就職してから後悔しない?って思うんです。中途半端な気持ちで来ちゃうと、思ったより地味なAD業務に忙殺された時点で「あれ、これ俺の思ったのと違う!」ってなりやすい業界だと思うので。「『めちゃイケ』が好きで目指したんです」「なんで好きなの?」「こういう理由で好きです」「どうして好きなの?」「●●だから好きです」とすんなりセリフっぽくなく答えられたら、割と本気で好きなんだと思います。でも、散々偉そうに言って来ましたけど、これ自分が就職活動をしていた頃に、謀大手企業のOB訪問した時に先輩に言われた言葉の受け売りなんですよね(笑)「なんで?って3回繰り返すのは某企業の基本思考だ」って(笑)。でも冗談ではなく、これって就活に限らず全ての行動や決断に有用な思考方法だと思うので今でも忘れずに自分も使っています。

番組情報

『あいつ今何してる?』
テレビ朝日系列
毎週水曜日よる7時~

公式サイト:
http://www.tv-asahi.co.jp/aitsuima/