日本の100円グッズを通して海外の生活や家族の物語を知ることができる、バラエティ番組『ヒャッキン!〜世界で100円グッズ使ってみると?〜』。総合演出を手がける福本俊二さんは、出演者に頼らないバラエティ番組にこだわり、ヒットを生み出しています。
テレビ東京入社前後から、『ヒャッキン!〜世界で100円グッズ使ってみると?〜』が生まれるまでの過程、番組制作の裏側についてお話を伺いました。

福本 俊二(ふくもと・しゅんじ)
株式会社テレビ東京 制作局CP制作チーム 主任
入社後、『ありえへん∞世界』『トーキョーライブ』『Youは何しに日本へ?』などのバラエティ番組のディレクターを担当。演出・プロデューサーとして『ドレミファさまぁ〜ず』、『吉木りさに怒られたい』などの企画に携わる。音楽番組では、『テレ東音楽祭』の立ち上げから演歌の『日本作詩大賞』まで、幅広いジャンルの歌の演出を手がける。現在は、『ヒャッキン!』の総合演出の他に、『プレミアMelodiX!』の総合演出も務める。

一人三役をこなす海外ロケで鍛えられたAD時代

僕がテレビ業界を目指したキッカケは、両親が地元のテレビ局で働いていたことかもしれません。テレビ局に就職すれば親孝行にもなるかな、という思いも少しあって。学生時代はバンド活動に明け暮れていたのですが、いざ就職活動の時期になると、両親の影響から制作に近しいという範囲でレコード会社とテレビ局、広告系に絞りました。

見ていたテレビ番組の中で、テレビ東京の『HANG-OUT』という音楽番組は特に印象が強かったものの1つでしたね。深夜番組でしたがバンドブームのキッカケとなる程の影響力がありました。

それ以前では『ASAYAN』などもオーディション番組として様々な社会現象を起こしたように、テレビ東京の番組はニッチだけれども何かを発掘してブームを作るものが多かったと思います。そういった社風に惹かれて入社を決めました。

入社後は音楽バラエティ『むちゃ∞ブリ!』のADからスタート。半年後くらいにはカメラだけ渡されて「これ、撮っといて」と言われ、とにかく実務で学ぶ事が多かったです。その後『むちゃ∞ブリ!』がリニューアルされて『ありえへん∞世界』になり、そのままADを続けてディレクター、演出と長い間携わりました。

『ありえへん∞世界』は自分の基礎を作ってくれた番組で、色々なことを勉強させてもらいましたね。特に最初の頃は一人で“AD兼カメラマン兼ディレクター”の三役をこなしながら数え切れないほど海外ロケに行っていました。

周りからはよく「海外ロケ、たくさん行けていいね」と言われていたのですが、実際は現地で通訳さんと合流して、あとは全部一人でやるので、大変なんですよ。さらに、一人だからこそより緊張感や責任感があるし、全然楽しくなかったです(笑)。一方で、一人で撮影も編集もできて20〜30分のVTRを作れることに対するやりがいはありました。

撮影から編集まで自分でやることで根性が鍛えられましたし、ここで学んだことが他の番組にも活かされていると思います。特に『ヒャッキン!~世界で100円グッズ使ってみると?~』で海外を舞台としたのも、この頃の経験から海外に抵抗がなかったからかもしれません。

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100円グッズで”驚き”ではなく”家族の物語”を演出

そして現在メインで担当しているのはバラエティ番組『ヒャッキン!〜世界で100円グッズ使ってみると?〜』の総合演出です。この番組は企画から担当しました。

『ヒャッキン!』が生まれた要素は大きく分けて二つあります。一つ目は「視聴率を獲りたかった」から。海外や外国人を紹介する番組が増えていたので、時流に乗りたいと考えていたんです。

二つ目は「100円グッズを使った番組をつくりたかった」からです。以前別の番組で”100円グッズマニアが教えるベスト10”という企画をやったら、ずば抜けて評判が良かったんですよ。

この二つの要素を掛け合わせて「100円グッズで外国人のおもしろいリアクションを撮る」というコンセプトで番組はスタートしました。

初回はとにかくリアクションを撮ることにこだわり、「これは何に使うものでしょう?」と100円グッズを渡して外国人が全く違う使い方をするのを面白がっていたのですが、思ったより視聴率の反応は良くなかったんです。

そこで次からはただリアクションを撮るだけじゃなく、日本の100円グッズを使って、外国人を少しだけお助けし家族のストーリーも見せるという構成に変えました。それ以降、世界の人々の生活やちょっとした悩みに寄り添う、現在の『ヒャッキン!』スタイルが出来上がったんです。

このコンセプトにしたことで、「100円グッズの便利さを知った子供が、お母さんのために使う姿を見て感動した」など大きな反響を頂きました。ただ100円グッズを使っていた頃から、VTRも何倍も深みのあるものになり、視聴率の結果も伴いました。

今までたくさんの国で日本の100円グッズを使ってもらい、そこから垣間見える、家族の心温まるストーリーにいつも感動してきました。中でも特に印象に残っているのは、ブラジルの7人家族です。

その家族はシングルマザーのお母さんと6人兄弟で暮らしているのですが、一番上のお兄ちゃんは19歳ながら中学生。数年前に突如リストラされてしまったお母さんの代わりに、中学校に通えないまま家族のために働いています。

仕事の合間に家へ戻って家事をして、さらに「将来は人を助けられる消防士になりたい」と言って夜遅くまで勉強に励んでいるような純粋な子なんですよ。すごくさわやかに、楽しく生きてるんですね。

そんな彼が少しでも楽になるように、ブラジルではインスタントの袋麺がポピュラーなので、火を使わずに電子レンジでインスタントラーメンが作れる容器をプレゼントしました。そうすると、「この容器があれば料理ができない弟妹たちだけでごはんが作れる」と大喜び。

また、彼が「夜に家で勉強をすると家族を起こしてしまうから」といって街灯の下で本を読んでいたので、本につけられる小さなライトや暗記ペンなどの勉強グッズもプレゼント。本人はもちろん、弟妹たちもいつも自分たちのために頑張ってくれているお兄ちゃんが喜んでいる姿を見て嬉しそうでした。

番組を続けるうちに“家庭内の身近な悩みを解決する”というストーリーを見せていくようになったのは自分でも想定外でしたが、元々出演者に頼らない番組を作りたかった僕自身の目標ともリンクしているのかな、と思います。

ちなみに、番組内で紹介する数々の100円グッズは毎回若手の構成作家さんがリサーチして買ってきてくれたものです。それを僕が会議でチェックをしています。毎週スタッフみんなでたくさんの商品を見るうちに、100円ショップのグッズには相当詳しくなりましたよ。

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視聴者目線のクリエイティブ

『ヒャッキン!』のような視聴者目線のゴールデン番組をこれからも作り続けるには、派手なアイデアをひねり出すのではなくどれだけ“日常の中からネタになりそうなもの” に気づけるかが大事だと思います。つまり、番組から視聴者へインプットを仕掛けるよりも、視聴者のみなさんが興味を持ってくれそうな話題を引き揚げる番組づくりを心がけることですね。

日常で使用頻度が高いキッチン周りや掃除用グッズが視聴者の皆さんからは人気なので、番組で紹介する機会も多いです。なので、普段の生活から自主的に100円グッズをリサーチしたり、使ってみたりしていますね。

その中でも特に、昨年末の放送でも紹介した「油汚れクリーナー」には感動しました。ウエットティッシュのような形状になっていて、換気扇やコンロ周りの油汚れを拭くだけで落ちるんです。もちろん使い捨てなので掃除がラクでした。

あとは、今日僕が履いている、伸びる靴紐もすごく便利ですよ。ハイカットのスニーカーは脱ぎにくいですが、これは靴紐がゴムになっているので、伸びてすぐ脱げるんです。

これも放送で紹介したのですが、ドイツで骨折してしまった子どもに使ってもらったら「これなら片手で履ける」と喜んでくれました。

日本の100円グッズは他の国にはないクオリティの高さで、さらに日本人ならではの“かゆいところに手が届く”商品ばかりを企画していますよね。これからもそんな100円グッズの力を借りて、色々な国の家族と出会って、彼らの助けに少しでもなれたらと思います。

影響力の強さをやりがいに

何よりもテレビというメディアの凄いところは、個人視聴率1%でも40万人が見ているという影響力です。

僕の学生時代のバンド活動とは比較にもならないですけど、自分が作ったものを多くの人へ届けることは大変だと思います。でもテレビ番組の制作に関われば、自分の作品をたくさんの人に見てもらえるんですね。

放映日の次の日には自分の作品が話題になっているような、影響力のあるコンテンツを作ることができるのはテレビならでは。そこにやりがいを見出せて、立ち止まっていることが嫌いな人はテレビ業界に向いていると思います。好奇心旺盛な人はこれからもテレビ業界に来て欲しいですね。

インタビュー・テキスト:上野 真由香/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:大沢愛(CREATIVE VILLAGE編集部)

番組情報

『ヒャッキン!〜世界で100円グッズ使ってみると?〜』
(毎週火曜日 夜6時55分~放送)
公式サイト:http://www.tv-tokyo.co.jp/100kin/
ヒャッキン!