テレビ朝日で放送中の人気番組「フリースタイルダンジョン」。毎回激しいラップバトルが話題となり、著名人や芸能人の間でもファンの多いバラエティ番組です。

演出を手がける岡田純一さんは、フリーディレクターとして数々の人気バラエティを手がけてきたヒットメーカー。今回は番組制作秘話からテレビ業界を目指す人へのアドバイスなどを伺いました。

岡田 純一(おかだ・じゅんいち)
フリーディレクター
地元葛飾区亀有を拠点に様々な番組を手がけるフリーのテレビディレクター。
制作会社のADを経て、SPACESHOWERTVの番組内にて担当したコーナーで金剛地武志をエアギター世界3位に導いたドキュメントを手がけ、「オレっていけるかも」調子にのってフリーのディレクターに。
紆余曲折あって「SMAP×SMAP」などの様々なテレビ番組にディレクターとして携わった後、「東野有吉のどん底」「有田チルドレン」などの番組を演出。
現在は「フリースタイルダンジョン」「有田ジェネレーション」「ネタバレ」など、多くの番組を手がける。

無茶苦茶できるバラエティに憧れた学生時代

僕が小学生の頃はバラエティ黄金期で、『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』や『夢で逢えたら』などをかじりついて見るようなテレビっ子でした。そんな番組を作るテレビディレクターはカッコイイ=モテる、というイメージがあって憧れの職業になってました(笑)。
でも、正直いうと憧れとなったきっかけは、シンプルにアイドルと会えるのって羨ましい。だったかもしれません(笑)。

就職を考えた頃にはそのやましい気持ちもほとんどなくなり、純粋にテレビを作りたいという気持ち(笑)で制作会社のADとして入社し、ありがたいことに当時人気だったバラエティ番組をいくつか担当し、5年位働き一通り学んだところで独立。
フリーのディレクターとしてスタートを切りました。

トップスターと一緒に仕事をすることで成長できた

フリーになってからはスペースシャワーTVで音楽系の仕事もするようになりました。それと並行してフジテレビのバラエティ特番にディレクターとして携わったことが、現在の仕事にも続く流れの最初ですね。

僕の仕事を見てくれていた演出の方が別のバラエティ番組にレギュラーで呼んでくれて、そこからさらに色々な番組に携わることができるようになって。その中で『SMAP×SMAP』でディレクターをやらせていただいたことはターニングポイントになりました。

誰もが知ってる国民的番組ですし、プレッシャーもすごかった。最初は緊張しすぎて頭が真っ白になったこともあったけど、その経験のおかげで他の現場ではほとんど緊張しなくなりました(笑)。ディレクターとしてのメンタルとスキルを鍛えられ、成長できたと思います。感謝しかありません。

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予想以上の人気番組になった「フリースタイルダンジョン」

現在演出を担当している『フリースタイルダンジョン』は、フリースタイルのラップでチャレンジャーが“モンスター”と呼ばれる格闘技で言えばチャンピオンクラスのラッパーを倒していくある意味、格闘番組です。元々はテレビ朝日の深夜枠でサイバーエージェントの番組を担当していたことがキッカケで、同社の藤田晋社長から「(BSスカパー!の)高校生RAP選手権みたいな番組をやってほしい」というオーダーがあったんですね。

僕自身『高校生RAP選手権』は大ファンだったので、既にメインMCとして決まっていたZEEBRAさんと立ち上げから関わらせて頂きました。

当初は「高校生RAP選手権」との違いも出したいからと、張り切ってテレビっぽい演出をしてたんです。例えば登場するときは山車に乗って旗を持つとか。でもラッパーの方たちからは不評で(笑)すぐさま辞めて、普通に歩いて登場してもらうことにしました。
バトル自体ガチなのでこちらは何の手出しもできない。だからバトルの面白さを邪魔せずにおもしろく見せられるかを考えました。

そこでまずこだわっているのが編集の加工、そしてテロップ。バトル中のラップのテロップはマイクから言葉が出るような表現にしています。これをいくつか他の番組が真似してくれたときは嬉しかったですね。
あとはバトル前の出演者紹介VTR。モンスターの人達はHIPHOP界では有名だけど世間ではまだそこまで知名度も追いついてないし、ラッパー=怖くて悪い奴なんじゃないかみたいなイメージもある。

でも、皆さん話してみると本当に優しくておもしろいんです。なのでより人間的な魅力を伝えることで、視聴者がバトルにより感情移入できるように。そして、バトルの邪魔にならない程度を心がけてコーナーを作っています。

また、バトルの熱量を伝えるために、初のラスボス般若戦に関してはカットを極力割らずにあえての1カット推しで、熱量を逃さないようにということにも気を遣いました。
その熱量が伝わって、この回の放送をきっかけに世間に拡がりだしましたね。
収録の観覧者数も増えてきて、初回は70人程度だった観覧募集も1日で数千件の応募が来るようになったとき “これはキテるな”と手応えを感じました。
僕としては本当にラッパーのみなさんのおかげでしかないと思ってます。

現在はモンスターが入れ替わって二代目となったので、さらなる魅力を伝えなければといった感じです。

また、現在担当している番組にTBSの深夜で放送中の『有田ジェネレーション』というバラエティがあります。その名の通りネクストジェネレーションの芸人を有田さんが発掘していく番組なんですが、たまたまなんですけど、芸人同士が音楽に乗せてディスりあうコーナーがひそかに盛り上がってきてるので、そちらも楽しんでいただければと思います。

なんだかんだで努力は結構報われる

僕がフリーでやり続けていられるのは、本当にまわりの人に恵まれてたからだと思います。ラッキーだなって思ってます(笑)。運という言葉で片付けちゃうと身もフタも無い感じですが、地道な努力というか、しんどい経験を耐えたことの積み重ねで小さな運を稼いできたのかなって(笑)。
決して優秀なADではなかったですが、意外とマジメにやってきたのかなって。
ま、当たり前のことなんですけどね(笑)

今はパソコンがあればいつでもどこでも編集ができるんですけど、僕のAD時代はVHSの時代だったので、特定のオフライン機がある場所じゃないとその作業ができなかったんです。なので、仕事終わりや休憩時間を使ってこっそり素材を使って編集の真似事をしてみたりとか、映画の映像を勝手につないで音楽にのせてみたりして遊びながらもスキルアップのための時間をとってたんですね。そういう作業の積み重ねがディレクターになった時に編集できます。ってアピールに繋がれたんだと思います。ディレクターになったけど、編集やらせてみたら全然だめじゃん。みたいな話はよくあります。

AD時代は辛くておもしろくないことが多いというのも分かるけど、先を見据えて努力すること、ディレクター目線で物事を考えて行動するだけで、上からの評価も変わってきますよ。

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今僕が演出としてスタッフを集めるときも、“相手の立場で物事を考えられるか”という点は重視します。仕事への気合を見て“コイツやる気ないな”と思ったら次は呼ばないですし、現場の仕切りがうまい人、編集がうまい人、いろんなタイプを揃えてバランスを整えるんですね。
だから全部が完璧にできなくてもいいけど、自分の武器があれば必ず活躍できる場所があると思います。
今、テレビに夢見れないなんていわれたりしますけど、逆に夢見せてほしいですね。無責任ですけど夢見て頑張って欲しいです。
あぁ、僕もうおじさんですね(笑)

インタビュー・テキスト:上野 真由香/撮影:TAKASHI KISHINAMI/編集:CREATIVE VILLAGE編集部