フリーランス白書 2019(社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会)によると「仕事の継続・成功に重要なもの」第1位は「セルフブランディング」。

また「パーソナルブランディングに関する意識調査2018(ファイナンシャルアカデミー)によると会社員でも30代男性の半数以上がセルフブランディングで「稼ぐ力」が変わると認識しています。

今回は上司がいないクリエイター向けオンラインコミュニティ「オンライン上司」の主宰やTwitterアカウント「上司ニシグチ」を通して複業系パラレルワーカー(参照:「進化するフリーランスの未来-フリーランス実態調査2018-」)として活躍されている上司ニシグチさんにインタビュー。

「SNSでのセルフブランディング」をテーマに1年前まで大手志向のインハウスデザイナーだったニシグチさんが独立・パラレルワークを選んだ理由、SNSを仕事へ繋げる方法について伺いました。

「今後は会社の枠を越えても活躍したい!」と考えているクリエイターの方はニシグチさんのキャリアを参考にしてみてください。

上司ニシグチ(じょうし・にしぐち)1979年大阪府生まれ、大阪府育ち。クリエイティブディレクター、グラフィックデザイナー。芸術大学卒業後、2002年大手百貨店に入社。その後、いくつかの会社を経て、2019年パラレルワーカーへと転身し複数の会社のクリエイティブに携わる。ゼロからのブランドづくりをはじめ、ロゴ制作、商品企画、販促ツールの企画制作、パッケージデザイン、コンテンツの設計、ブランディングまでをトータルに手掛ける。
Twitter:上司ニシグチ/Instagram:IDEAPOST

人の印象に残るSNS術は「ストレートを狙うよりジャブを打ち続ける」

上司ニシグチ
――Twitterの「上司ニシグチ」だけではなく、Instagramの「アイデアポスト」で発信したデザインが商品化されましたね。このアカウントはどのようなきっかけではじめたのですか。

アウトプットをして社会からの反応を見たいと思ったのです。目的があったわけではなく腕試しの感覚でした。佐藤ねじさんの『超ノート術』を参考に、毎日投稿を1年続けることを決めました。

『超ノート術』(日経BP/2016)
超ノート術文化庁メディア芸術祭、Yahoo!クリエイティブアワードほか各賞に輝き、面白法人カヤックでアート・ディレクターとして活躍した著者が、アウトプットを劇的に変え、アナログ・メモから「自分の強み」をつくる方法を伝授する著書紹介ページ:https://blue-puddle.com/works/supernote

佐藤ねじさんインタビュー記事

――Instagramの運用を始める前に準備したことはありますか。

1週間ほどかけてコンセプトを作りましたね。佐藤ねじさんはTwitterでアウトプットしていたのですが、僕は反応が瞬時に広がっていくTwitterを使うことに恐怖心があったので、ユーザーが優しいイメージがあるInstagramをまずは選びました。Instagramはカラフルな投稿が多いので、目を引くためにピンクとブルーの2色使いにするなど、一定のルールを作って投稿し続けましたね。

▲ニシグチさんのInstagramアカウント「IDEAPOST」より抜粋。商品アイディアをInstagramの基調色であるピンク・ブルーに統一して投稿している。

――振り返ってみて、Instagram・Twitterで発信するポイントは何だと思いますか。

継続して投稿し続けることです。気合いを入れて何千字の記事を一回投稿するよりも、70%のクオリティでいいので定期的に投稿した方がユーザーの印象に残ります。1発のストレートを狙うより、何発もジャブを打つイメージです。

――これからSNSを仕事に活かしたいと思っている方に伝えたいことはありますか。

周りへの感謝を忘れないことですね。SNSに限った話ではありませんが、人間一人では仕事も生きることもできません。僕はSNSのフォロワーやイベントに来てくれる方にとても感謝していますし、何かあれば応援して恩返しをしています。SNSで人に応援されたいなら、まずは自分からRTやリプライで人を応援することを始めるといいと思います。

クリエイターのSNS活用術
・アカウントのコンセプトを決める
・継続して投稿し続ける(70点のクオリティでも良い)
・リツイートやリプライで人を応援する

実は、大手志向だったサラリーマン時代

上司ニシグチ
――デザイナーとしてキャリアをスタートした経緯について教えて下さい。

小さいころから絵を描くのが好きで、大学でもデザインを学び、新卒で百貨店のインハウスデザイナーとして入社しました。百貨店ではあらゆるジャンルのデザインをすることができ、僕のデザイナーとしての基礎を築いた時期でもあります。

――初めての転職を考えたきっかけはなんだったのでしょうか?

働き初めて約8年が経った頃、百貨店業界は盛んに統合が行われるようになりました。この業界に長くいても大きなチャンスはないと思い、入社して10年目を節目に転職活動をしました。

――転職先を選ぶ際に意識したことはありますか。

業界にこだわりはありませんでしたが、百貨店時代は幅広いデザインをしたので、今度は一つの分野に絞って自分の武器を作りたいと考えていました。加えて当時は結婚もしていたので、大手企業に絞って会社を探しました。そして、新卒入社10年目のタイミングで大手ペットの商社に転職しました。

――百貨店からペット業界へ…入社のきっかけはペットが好きだったからでしょうか?

ペットは飼っていましたが、特別好きではありませんでしたね(笑)。
そのため、デザインをしていてもお客さんの気持ちが分からないときがあったのです。「好きじゃないといいデザインが作れない」という学びを得られました。

――ペットの商社ではデザイン以外の仕事も経験されたのですか。

デザイン業務に加えて、ディレクションやマネジメントも行っていました。入社当初は残業が比較的多かったのですが、「残業したら評価を下げる」と部下にも伝えて残業しない文化を作りましたね。生産性を上げるだけでなく、仕事以外で様々なことを見聞きすることがクリエイターには大事だからです。

――SNSを通じて次のキャリアを広げるプランはあったのでしょうか。

当時はありませんでした。僕にとってSNSはデザインのアウトプット手段でしかなかったので。しかし、会社の方針が変わったため転職を考えるタイミングではありましたね。

40歳の転職は難しい―その解決策がパラレルワーク

上司ニシグチ
――ペットの商社を退職した後の転職活動はどのように行ったのですか。

転職活動を始めようと思ったタイミングで転機があったんですよ。トゥモローゲート株式会社の社長・西崎康平さんがTwitterで投稿していた週刊誌の広告を模した名刺に興味を持って、連絡をくれたんです。

▲Twitterと自身でデザインした名刺がきっかけで転職した経緯が書かれているnote

会社と自宅が近かったので、会社に伺うことがありました。食事にお誘いいただいた際に転職を考えていることを伝えると、会社に誘ってくれたので数ヶ月後の2019年4月にトゥモローゲート株式会社へ転職することになりました。

――それからどのような経緯で独立されたのでしょうか。

家庭の事情により会社に出勤する働き方が難しくなり、6月に退職をしました。

その後の転職活動では「スキルはばっちりだけど、年齢と年収がマッチしない」と言われるケースが続きました。そんな時に、現在もお世話になっているTEAMKIT(株式会社Lbose)から、Twitter経由で業務委託の提案を受けました。転職活動で年収などの条件が合わなかった会社も業務委託で働いて、さらにオンラインコミュニティでの収入を合算すれば希望の収入を超えたため、パラレルワークをすることを決意しました。

クリエイターに伝えたい、パラレルワーカーの”ホンネ”

――パラレルワークをしていて感じるメリットはありますか。

僕の場合は在宅で仕事をするので、子供たちに「いってらっしゃい」と「おかえりなさい」が言えることです。夜もしっかり子供たちとコミュニケーションをとる時間がある生活はいいですね。

加えてパラレルワーカーであれば複数の収入源があるので、仮にどれか一つの仕事を続けられなくなったとしても、他の仕事で補填できることは大きなメリットだと思います。

――逆にデメリットはなにか感じていますか。

テキストでのコミュニケーションが増えることですね。メールやチャットツールの通知が入る度に集中力が途切れます。

――仕事とプライベートの切り替えはどのように行っているのですか。

正直、切り替えていないんです。パラレルワーカーとして働く以上、無理をして切り替える必要はないと考えているからです。ただし、自分が休んでいる時も、周り人が成長して置い抜かれてしまうのでは、という不安に駆られることはありますね…。

――パラレルワークを視野に入れているクリエイターにアドバイスはありますか。

一つのプロジェクトで得た学びや気付きを別のプロジェクトにも活かすことを意識すると、成長を加速させられます。

また、全てのリソースを目の前の仕事に集中するのではなく、20%は未来に投資する時間をとってください。成長の機会になるだけでなく、リスクヘッジになるはずです。

未来のパラレルワーカーへアドバイス
プロジェクト内で得た学びを他のプロジェクトでも活かすことで成長速度を上げる
20%は未来に投資する時間をとる

このインタビューが同年代(40代)クリエイターの新たな一歩を踏み出すきっかけになれば嬉しいです。

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上司ニシグチ

取材・ライティング:鈴木光平/撮影:SYN.PRODUCT/編集:大沢 愛(CREATIVE VILLAGE編集部)