映画『ALWAYS 三丁目の夕日』『探偵はBARにいる』、TVドラマ「相棒」、「リーガルハイ」シリーズ、「デート~恋とはどんなものかしら~」など脚本家として多くのヒット作を持つ古沢 良太さん。その古沢さんがファンを公言している野村萬斎さんをアテガキして書き下ろした最新作が『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』。本作での萬斎さんの役どころは、残留思念<物や場所に残った人間の記憶、感情>を読み取ることができる超能力者、仙石和彦。お笑いコンビ“マイティーズ”としての活動に神経をすり減らし、現在はマンションの管理人。そんな仙石を隠居生活から引きずり出す、元相方・丸山竜司を“雨上がり決死隊”の宮迫博之さんが演じます。この異色コンビが挑む連続殺人事件の捜査をスリリングに描いた本作の公開にあたり、“記憶”をテーマに物語を作り出した理由、脚本家というお仕事について等、お話を伺いました。

 

■ 脚本を書くことで、これまでの誤解を解いている

IMG_0005中学生くらいの頃は漫画家になりたいと思っていました。お笑いや落語、アメリカのシチュエーション・コメディも好きで、影響を受けていると思いますね。子どもの頃から面白いことを考えるのが好きだったのですが、人見知りなので心の中だけで思っていることも多くて。クラスで面白いことを言って、笑いをとっている子に対して「こう言ったらもっと面白いのに」と心の中で思っているような子でした(笑)

あと相手の突っ込みで初めて成立する笑いを期待して、言った言葉が相手に上手く伝わらず悪い空気になることもありました。こういう風に突っ込んでくれたら、こう返せるのに…という不満も、脚本を書けば2人分のセリフを自分の言葉で書けるので解消できます。僕のことを、嫌な発言をする人だと思っている人もいたかもしれないけれど、君がこう返してくれたらこんなに面白くなったんだぞ、と(笑)脚本を書くことで、これまでの誤解を解いているように思います。

そのような想いから、脚本を書く仕事が自分には向いているかもしれないという気持ちはありながらも、とても大変そうな仕事なので、できないだろうと思いながら10代、20代を過ごしていました。
そんな中、試しにコンクールに送ったものが受賞して(※2002年「アシ!」で第2回テレビ朝日21世紀新人シナリオ大賞を受賞しデビュー)やがて連続ドラマの仕事が決まって、意外と脚本家としての仕事ができているな、と思いながら今日に至っています(笑)。でも、今も自分の脚本を求めてもらえるというのは、あなたは脚本を書きなさいと言われているような…そういう気持ちにもなりますね。

 

■ 人はいろいろなことを思い込む

IMG_0027脚本家としてジャンルにこだわりはなくて、何でも書けるようになりたいと思っています。やったことのないジャンルならやってみようと思ってきた結果、「相棒」、「リーガルハイ」シリーズなどの刑事、弁護士ものから「デート~恋とはどんなものかしら~」のような異色と言われるラブストーリーにも挑戦することになりました。
それは変わりたい、常に変化していきたいという気持ちがあるからだと思います。あと、人がやっていないことをやりたいという気持ち、人より先にいきたいという気持ちです。

ただ、そういう想いとも関係なく、自分が普段の生活の中で得た感動や不思議な気持ちの動きを大事にして、たくさんの人に伝えたいと思って物語にすることが多いですね。それがたまたまラブストーリーだったり、事件ものだったりということだと思います。

(C) 2016 『スキャナー』製作委員会
(C) 2016 『スキャナー』製作委員会

今回、『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』で“記憶”をテーマにストーリーを作ったのは、 人はいろいろなことを思い込むと、常々感じていたからです。
僕自身が誤解されやすくて。怒っていないのに怒っていると思われたり、高校時代のアルバイトでも、クリスマスシーズンに七面鳥を売ることがありまして。声を出して呼び込みをして売ることも、僕、仕事だったら楽しんでできると思うんです。それで、呼び込みの係にいつ声が掛かるのかと思っていたら、お店の人たちが「これは彼にやらせちゃダメだろう、彼はこういうことできないから」と話しているのが聞こえてきたりとか(笑)人見知りではありましたが、仕事ならできるので楽しそうと思っていたのに(笑)

そうやって人はいろいろ思い込むなぁと感じていて。同じ出来事でも、人と違う風に覚えていることもありますよね。そういう時は、相手に対して「何で自分の都合の良いように…」と思うこともありますが、俺もそうなのかなと思うと相手に指摘もできないですよね。でも、人はそれぞれ自分が正しいと思っているから、俺もそうかもしれない、とあまり思わない…そういうことを書きたいと思いました。

 

■ 人物を作り上げていくことは、自分の血や肉を分け与えていくこと

脚本を書くにあたっては、ストーリー以上に「この人が見たい」と思えるような人物像を作りたいと思っています。そのキャラクターをなるべく面白く描こうとした時に、突拍子のない行動や発言をするにしても、自分が全然共感できない行動は取らせることができません。なので、多分このキャラクターはこういう気持ちなんだろう、俺の中にもこういうところはあると、そこを繋いで描いていきます。だから人物を作り上げていくことは、自分の血や肉を分け与えていくことなのだと思います。

(C) 2016 『スキャナー』製作委員会
(C) 2016 『スキャナー』製作委員会

ただ、そうして人物を掘り下げて作っていくと、気が付いたら変人になっていることが多くて(笑)パートナーがいて突っ込んであげないと成立しない感じになることも多いので、今回でいう萬斎さん演じる仙石と宮迫さん扮する丸山のように、バディという形を採ることが多いです。

今回、脚本を作り始めた時点でキャストが決まっていたのは萬斎さんだけなので、アテガキと言えるのは萬斎さんだけですが、他の方も脚本のイメージに沿ってキャスティングしてもらっているので、他の方がむしろイメージ通りで、萬斎さんの方が「そうやるんだ?!」という感じがあって、改めて面白い俳優さんだと思いました。ご本人も、自分は明るい人間だから暗い人間をどうやって演じて良いのか分からないとおっしゃっていましたが、本質的に明るい部分が漏れているところが面白かったですね。

作り上げたキャラクターを動かしてのストーリー展開には毎回悩みます。ですが、見ている人の気持ちを考えながら書いていると、ちょっとしたセリフでも、普通こうだろうというところをちょっと違うセリフにするだけでも心に引っかかって見てくれると思うので、それは常に心がけているところです。

 

■ 制約の中でも楽しむ

IMG_0018これから、ものづくりに携わりたいという方に対しては、どうせ死を迎えるんだから好き勝手やった方が良いよ、という気持ちもあります。思う存分生きた方が良いと。あと、何かものを作って、世の中の人が喜んでくれるという、そのことに喜びを見出せると良いなと思います。
脚本家に関して言えば、予算やスケジュール、スポンサー等いろいろな制約があって、好き勝手にできるわけではないですが、その制約の中で楽しんで、さらに面白いものを作るきっかけにするぐらいの気持ちで書くと、良い脚本ができるのではないかと思います。
脚本家は、日々の暮らしの中で自分が感動したことや気持ちの動きを取り出して物語にして、皆に同じ気持ちを感じてもらう仕事なので、嫌なことや辛いことも「これは使える!」と思って、それを大事に生きていって欲しいですね。


■作品情報

『スキャナー 記憶のカケラをよむ男』
4月29日(金) 全国ロードショー

(C) 2016 『スキャナー』製作委員会
(C) 2016 『スキャナー』製作委員会

野村萬斎 宮迫博之
安田章大 杉咲 花 木村文乃 ちすん 梶原 善
福本愛菜 岩田さゆり 北島美香 峯村リエ 嶋田久作
風間杜夫 高畑淳子

脚本:古沢良太
音楽:池 頼広
監督:金子修介
配給:東映

■オフィシャルサイト

http://www.scanner-movie.jp/