株式会社帝国データバンクが実施した2025年度の「新卒社員の初任給」に関する調査によると、2025年4月入社の新卒社員に対して初任給を引き上げる企業の割合は71.0%に達した。物価高騰や最低賃金の上昇を背景に、多くの企業が人材確保のための賃上げに踏み切った。平均引き上げ額は9,114円だった。
今回の調査では、初任給を「1万~2万円未満」引き上げる企業が41.3%と最も多く、次いで「5千~1万円未満」(30.7%)が続いた。初任給の金額は「20万~25万円未満」が62.1%でトップとなり、一方で「20万円未満」の企業割合は24.6%と前年度から10.4ポイント減少した。全体として、初任給の上昇傾向がうかがえる。
企業からは「物価上昇による社員の生活を守るため」「最低賃金の上昇に合わせて」といった理由が挙げられた。また、「応募が来ないため引き上げるが、中小企業には固定費の増加が死活問題」との声もあり、人材確保のために苦渋の選択を迫られている実態が浮かび上がった。
規模別に見ると、中小企業の71.4%が初任給を引き上げており、大企業(69.6%)を上回った。しかし、「小規模企業」は62.2%にとどまり、全体平均を8.8ポイント下回った。資金余力が乏しい小規模企業ほど賃上げが難しく、規模間での格差が拡大している。
「物価上昇やコストアップで収益が圧迫されている」「賃上げをしたいが資金の確保が難しい」との声が多く、特に小規模企業においては経営環境の厳しさが際立っている。
初任給の引き上げに伴い、既存社員との給与バランスを保つために全体の賃上げを実施する企業も多い。大企業では「既存社員の生活水準を守るためにベースアップを行う」との声がある一方、中小企業では「利益が出ない中での賃上げは持続可能性が危ぶまれる」という懸念も聞かれた。
物価高騰が続く中、新卒初任給の引き上げは企業にとって人材確保のための必要な施策であるが、既存社員とのバランスや固定費の増加に対する対応が求められる。特に中小企業においては、価格転嫁の進展や政府の支援策が重要なカギとなるだろう。
今回の調査結果は、企業が人材確保と経営の持続可能性を両立させるために、複雑な判断を迫られている現状を浮き彫りにしている。