4月10日(水)、クリエイティブの考え方を学ぶ講座/千原徹也の『人も企業も街も変えるクリエイティブの裏技。』が東急プラザ原宿「ハラカド」にて開催された。

アートディレクター、株式会社れもんらいふ代表を務め、同所を拠点に、「Re: DESIGN SCHOOL」を開校する千原氏。講座の前半では、ゲストに株式会社 NASUの前田高志氏を迎え、2人のクリエイションにおける考え方や裏技について語られた。

本記事では、その中で話された、「AI」に関する話を抜粋。Vol,1では、おふたりが考える、“AIがもたらす変化”、“AIに勝つために必要なこと”についてお届けする。

登壇者

千原 徹也氏
アートディレクター

株式会社れもんらいふ 代表
株式会社Quwak CCO(Chief Culture Officer)
1975 年京都府生まれ。広告(H&M、日清カップヌードル×ラフォーレ原宿他)企業ブランディング(ウンナナクール他)、 CDジャケット(桑田佳祐 「がらくた」や、吉澤嘉代子他)ドラマ制作、CM制作など、さまざまなジャンルのデザインを手掛ける。またプロデューサーとして「勝手にサザンDAY」主催、東京応援ロゴ「KISS,TOKYO」発起人、 富士吉田市の活性化コミュニティ「喫茶檸檬」運営など、活動は多岐に渡る。そして、2023年7月に公開された初の監督作品「アイスクリームフィーバー」が大きな話題となった。2024年5月には一線で活躍するプロがクリエイティブの技術やカルチャーなどを教える、これまでにない専門学校「Re:DESIGN SCHOOL / リデザインスクール」を開校する。

【Re: DESIGN SCHOOL 専門学校を再デザインする】
https://www.redesignschool.jp/


前田 高志氏
クリエイティブディレクター/ デザイナー

株式会社NASU 代表取締役
クリエイターコミュニティ「マエデ(前田デザイン室)」室長
大阪芸術大学デザイン学科卒業後、任天堂株式会社へ入社。約15年間、広告販促用のグラフィックデザインに携わったのち、2016年に独立。株式会社NASUを設立。「デザインで成す」を掲げ、企業のデザイン経営に注力。クリエイターコミュニティ「前田デザイン室」主宰。2021年3月にビジネス書『勝てるデザイン』を幻冬舎から、同年9月にデザイン書『鬼フィードバック デザインのチカラは“ダメ出し”で育つ』をMdNから、2024年4月にデザイン書『デザイナーが最初の3年で身につけるチカラ』をソシムより出版。「遊び心」のあるデザインが強み。

「“売れる広告”はAIが考えるようになってきている」

――クリエイティブ業界において、AIの役割が拡大する中、マーケティング調査においてもAIが活躍し、ターゲットと商品を組み合わせるだけで売り上げを予測する能力を持つことが明らかに。これにより、千原氏の提案もAIのアルゴリズムに左右される状況に。そうした中、業界における人間の役割や必要性について再考を迫られる事態となっている。――

千原氏:こないだ、広告の打ち合わせに行ったらマーケティングの担当者から、「起用タレントは○○さん以外、考えられません」と言われて。

前田氏:どうしてですか?

千原氏:AIを使うことで、ある程度のマーケティング調査もできるようになっていて。「ターゲット」と「商品」を掛け合わせるだけで、誰に、どんな広告を打てば、どれだけ売り上げがたつのか予想できてしまうんです。

前田氏:そんなことまで出来るようになっているんですね。

千原氏:そう。だから、僕が「こういうものが面白い」と提案しても、結局AIに「売れる広告はこういうものですよ」って弾かれちゃう。こうなってくると、僕自身も、マーケティングをやる人も必要性があるのか、ちょっと考えちゃうんですけどね。そもそも、AIが考えるのはアルゴリズムに基づいた“売れる広告”だから、僕たちとは違う発想なんです。

AIに勝つためには?“領域”を広げることが大事

――アルゴリズムから“売れる広告”を考えるAI。一方で、千原氏は、「AIには10年、20年先のブランディングを考えさせるのは難しい」とし、SMAP10周年のロゴデザインを例に挙げながら、AIが当時の独創的なアートを生み出せたか?と疑問を呈する。そして、前田氏と共に、AIに勝つためには、クリエイティブな取り組みを通じて広がりを見出すことの重要性を強調した。――

千原氏:AIは、“売れる広告”を作れることができるけど、“10年、20年後のブランディングまで考える”ということは難しいと思っていて。例えば、佐藤可士和さんが考えた、※SMAP10周年のロゴ(https://kashiwasato.com/project/7580)。

前田氏:ありましたね。

千原氏:デザインというより、もはやアートなんですよね。おそらく当時、AIを使っていれば、「本人たちの写真を使ってビジュアルを作るべき」という答えが返ってきていたと思うんです。

※SMAP10周年に合わせて、街中のポスターやOOH、自動販売機などを赤青黄の異なる組み合わせロゴデザインでジャックした取り組み。既存の枠組みにとらわれない広告キャンペーンのやり方そのものを刷新していくことに挑戦し、話題になった。(引用:https://mag.sendenkaigi.com/brain/202107/60th-anniversary-2021/021642.php 一部抜粋)

前田氏:そっちの方がファンは喜ぶだろう、売れるだろう、という予想が立ちますもんね。

千原氏:そう。領域を飛び出して考えを広げていくことは、まだAIには辿り着けないと思うんです。だから、そこまでの領域に行けるか?ということこそ、「AIに勝てるかどうか」という基準になってくるのかもしれない。だって、多分、AIはハラカドに事務所を出そう!なんて言わないんですよ。反対すると思う。「リスクでしかないです」って……(笑)

前田氏:確かにそうですね(笑)

千原氏:でも、あえてここ(ハラカド)に出したんです。それは、ここに出すことによって生まれるものがあるから。それこそ数字だけの話をし始めると、“売れる広告”を作るAIの登場によって、僕の必要性もなくなってくるんですけど、「原宿に事務所を持っていて、そこにいろんなクリエイターが遊びに来るんですよ」とか、そういうことで広がりが出始める。そういったことをビジネスポイントにしたプロジェクトが4月1日に始動した、※Tokyo Culture Lab(https://tokyoculturelab.com/)でもありますね。前田さんも色々と面白い取り組みをされていますよね?
※DX(デジタル・トランスフォーメーション)からCX(カルチャートランスフォーメーション)という発想で社内にカルチャーをインストールするプロジェクト。千原氏と様々なジャンルのクリエイター陣が企業をサポートする。

前田氏:はい。色々とやっていて。「デザインが上手くなるカードゲーム」を作りました。

千原氏:デザインが上手くなるカード……すごく面白そう。どんなカードなんですか?

前田氏:1枚1枚のカードにデザインの必殺技名がついているんです。グラフィックデザインを、ちゃんと頑張っている人からしたら「おい!」って思われるかもしれないけど、全部“グラフィックデザイン鉄板あるある“なんです(笑)“フォントを全面に敷き詰めるデザイン”に「フォントウォール」っていう技名をつけたり。全部に名前をつけることによって引き出しやすくなるというものです。


※デザインの必殺技® カードゲーム『Desig-win(デザウィン)』。書籍『勝てるデザイン』を元にしたデザインを遊んで学べるカードゲーム。デザイナーだけでなく、すべての人にとってデザインが身近に感じられる学びを届けたい」という思いから企画された。

千原氏:それ、めちゃくちゃいいですね。でも、それってある種のデザインに対する批判めいたところもありますよね?(笑)“あるある”という目線では。

前田氏:若干……(笑)でも、僕なりのデザインを広げるための活動としてやっているんです。

千原氏:デザインを突き詰めていく方向じゃなくて、デザインを広めていく方向ということですよね。僕もよくインタビューを受ける時に、“突き詰める”というより、“広める”ことを目指しているよっていう話をするんですけど。

前田氏:こういった企画は、まだAIには考え出せない考え方なのかなと思います。

この後も、“AIとの上手な付き合い方”の話や来場者からの質問に答えるパネルディスカッションが続き、熱のこもった議論が繰り広げられた。この様子をレポートした記事は、近日公開予定。

一線で活躍するプロが教える「Re: DESIGN SCHOOL」

今回、登壇した千原氏は、講座を開催したハラカドで「Re: DESIGN SCHOOL」を5月27日より開校。一線で活躍するプロがその場でクリエイティブの技術やカルチャーを教える、これまでにない専門学校となっている。

クリエイターが行き来する原宿という場所で、専門知識・技術を学べるだけでなく、カルチャーのインプット、講師陣とのコミュニティにも参加できるため、未経験者からスキルアップしたい人、プロとして実践的に働きたい人まで幅広いクリエイターに参加を呼びかけ。さらに、クリエイターのキャリア支援としてクリーク・アンド・リバー社が参画。就職先の紹介、相談などのバックアップを行っている。説明会は、4/23(火)まで受付中。講義の内容や、施設について、千原氏が直々に紹介しているので、気になる方はぜひ、参加してみてほしい。

説明会日程

•4/17(水)18時
•4/18(木)18時
•4/19(金)18時
•4/20(土)18時
•4/21(日)18時
•4/22(月)18時
•4/23(火)18時
お申し込みはこちら(https://redesignschool-setsumeikai2.peatix.com/

<Vol.2「AIとの上手い付き合い方〜これから指標にすべきもの」はこちら>