アニメーターの田中一真は強い精神力と根性を宿している。「現場ではコミュニケーション能力はあったほうがいいでしょうけど、なくても上がりがよければそれでいいと思います。僕は他人に無関心なほうなので。ただ、恐ろしくうまいヤツがいたら、『くそ、コイツ』って思いますけど(笑)」。だからアニメの新番組は必ず観て、そのクオリティと手がけた会社やスタッフをチェックする。いまより少しでも前に、上に行くためにどうすればいいか。それを考えるか、考えないか。そこで人は大きく差がついてくる。

■ 一度自分のやりたいことを

子どもの頃から絵を描くのが得意でした。あと家にあった木材を削って刀をつくったり、授業も図工と美術は大好きだったしクラスでもトップでした、勉強は全然でしたけど(笑)。アニメもよく観ていました。特に印象深いのは「らんま1/2」。いまだに好きなんですよ。小学1年生の頃から「らんま」や高学年になってからは少年ジャンプを買ってきては読んで、模写をしてました。お小遣いは、ほぼジャンプにつぎ込んでましたね。
中学生のときにノートパソコンをおさがりで親にもらい、それでお描きチャットを始め、そこからオリジナルの絵を描くようになりました。当時はリアルな絵が描けるってことがうまいってことなんだと思っていたので、「写真じゃん!?」ってぐらい写実的なものを描こうと頑張ってました。
高校は工業高校に行きました。高校受験のとき、デザイン方面に興味があるって先生に言ったんですけど、お前の学力じゃ無理だって。就活もして、卒業後は工場に内定をもらっていたんですけど、どうせ続かないだろうなって思って、高校時代もイラストはずっと描いてましたし、だったら一度自分のやりたいことやってみたい、絵を描く仕事に就けないかなと考えたんです。
ちょうどその頃、お絵描きチャットで知り合った友だちが日本工学院専門学校に行くと知って、彼は医療系だったんですけど、僕にも専門学校という道もあるかもしれないと思い始めました。絵の仕事なら東京のほうが間口が広いだろうと考え、上京して何校か体験入学に参加しました。親にはむちゃくちゃ反対されましたけど、頼み込んでなんとか折れてもらい、だったら2年制じゃなくて4年制にという親の意向もあって、日本工学院専門学校クリエイターズカレッジ マンガ・アニメーション科4年制へ入学を決めました。

■ まだ何もわかってない

クラスには絵がずば抜けてうまい人が何人もいて刺激的でした。入学してすぐに授業でアニメが一番仕事があると聞き、ならアニメーターを目指そうと決めました。上手くなるためにはとにかく描きまくれと先生に言われて、じゃあクラスで一番描いてやる!って、すべてアナログで、アニメの主流に合わせ可愛い系に画風も寄せて、1年間でポートフォリオを45冊ぐらい仕上げました。それを持って4年制なのに2年の秋の終わり頃から就活を始めました。2年制の人たちが就活しているのを見て、自分も力を試したくなった、というか負けたくないという変なライバル心が芽生えたんです。授業は楽しかったですけど、とにかく現場に入ってみたい、じゃないと何もわからないだろうと思ってました。それである制作会社に受かり、インターンとして現場に入ることになりました。
初めてテレビアニメ「聖痕のクェイサーⅡ」でスタッフロールに名前が載ったときは感動しました。ただ動画で入ったつもりが、しょっぱなからレイアウトを切らされ、1年後には作画監督もやってました。怒濤の毎日でした。ギャラが払われなかったり、会社が解散になったり、いろんな現場を経験しましたが、折れそうになったことはないです。まだ自分は何もわかってない、何も成し得てないのに、見切りをつけるのは早いだろうと感じてました。逆に手応えや自信もありませんでした。それはいまも同じです。25歳までに何もできなかったらそれまでだし、違う道に進めばいいと思ってやってきました。
2013年の夏から、現在所属しているホワイトフォックスに入りました。それまで仕事に対していい加減な人たちをたくさん見てきてげんなりしていたんですけど、ホワイトフォックスには、仕事への取り組み方、計画性、実行力ともに尊敬できる先輩がたくさんいるんです。そのぶん求められるクオリティも高く大変ですが、挑戦のしがいもありますし、すごくやりがいを感じています。

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©Koi・芳文社/ご注文は製作委員会ですか?

ご注文はうさぎですか?(1巻~6巻)
Blu-ray:各6,000円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント

 

■ 実力主義が合っている

ますます仕事に対する意欲は高まってます。周りには目指すべき先輩たちもいるし、普通の会社員より稼ごうと思ったら稼げる仕事だってこともわかってきたので。やったらやっただけ対価を得られるっていう実力主義なところが自分には合っているんです。
アニメ業界で働くために大切なのは負けん気じゃないですか。僕はもともと負けず嫌いな人間で、学生のときポートフィリオ45冊描いたのも、けっこう描いてんじゃんって自分で思ってたんですけど、もっと描いている奴がいて、猛烈に追いかけて抜かしてからは追いつかれたくない一心でひたすら描き続けた結果でしたから。この仕事はアニメが好きなだけでは続かない、アニメが好きで入ってきて、アニメの仕事が好きにならないと無理だと思います。だけどあの喜び、作画監督をやって、確かに「うゎ、しまった!」ってこともあるんですけど、それでも1本全部が自分の絵だっていうものが地上波で流れるっていうのは、けっこうなやりがいがあります。
いま一番くじけそうなのは自分の画力、「足んねーな」って思ってます。ずっと作画監督をやってきたんですが、あるキャラクターデザイナーの方に「お前、まだ作監じゃないな」って言われて、それは僕自身うすうす感じていたことでもあったんです。だから今年からは原画としてもっと経験を積んで自分を鍛え直すつもりです。とりあえず描かないと何も始まらないので。
僕は銃が好きなんです。だから将来はミリタリーアクションとか、ちゃんとしたアクション作品をやれたらいいなと思ってます。よく人気シリーズに参加したってことで得意気になっている若い人がいますけど、僕はあんまりそういうのは好きじゃない。作品の人気に乗っかっているだけのような気がして。逆に僕は、自分が参加したからには作品をいいものにしたい、参加した作品は全部人気作にしてやる!ってぐらいの気持ちでいるんです。

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©タカヒロ・田代哲也/スクウェアエニックス・「アカメが斬る!」製作委員会

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