今回は、「雌ガール」「おフェロ」など強烈なコピーで知られる女性誌ar編集部を直撃インタビュー。

2019年に新編集長として就任された足立春奈さん曰く、「おフェロ」ブームに乗った代償は大きく、無意識のうちに女性誌arの世界観が壊れてしまっていたとのこと。

ビジュアルでコンセプトを共有する斬新なチーム作り、紙媒体とWeb媒体の違い。気になるトピックスとともに激闘の1年を振り返って頂きました。

足立 春奈(あだち・はるな)


編集者
1985年、東京生まれ。早稲田大学を卒業後、2008年主婦と生活社に入社。
2012年ar編集部に異動し、2019年12月より社内最年少編集長に。

ar本誌のみならず、Web、SNSが“女の子が自分の可愛いを育てる”お手伝いになることが願い。3歳男児の母。

ar再起をかけた恐怖の「おフェロ」禁止令

――足立さんが編集長に就任されたのは2019年の12月とのことですが、arのような確固たる世界観のある雑誌を受け継ぐのは、かなりのプレッシャーだったのではないでしょうか?

ar 編集長

すっごいプレッシャーでした!やっぱり「おフェロ」ブームが5年前にあって、正直それ以降はar自体がよく分からない感じになってしまっていたので、長い歴史のあるarを引き継ぐ不安もありました。

――「おフェロ」ブームの影響で、arが良く分からない状態になった、とは?

何でもブームみたいに流行ると終わっちゃうんだなと感じました。

改めてarのことを見直すと、「こういうことしたら男子が喜ぶ」という視点のコンテンツが増えていて、明らかに時代と逆行している気がしたんです。

読者からの声にも「arって最近、変なお色気方向に行ってるよねー」って意見があったので、そこを直せる良いチャンスだと思いました。

――お色気部分に違和感を感じたという、読者の声というのは、女性読者からの声ですか?

女性読者ですね。

――もともとar読者の女性って、arが”ちょっとエロくて可愛い世界観の雑誌”であることは承知の上で読んでいたのかと思いますが、それでもズレてしまったのはどの辺りなんでしょうか?

当時、arが「おフェロ」を打ち出したときは、自分のための色気だったはずなんです。自分が良いと感じたらそれで良い。

ar

かつてのarは異性に対する媚びじゃなくて、「自分が好きだから着ている」の世界観がカッコ良かったはずなのに、いつの間にか「おフェロにしとけばモテるよね」みたいなメッセージになってしまっていた。

――「おフェロ」という言葉がブームで独り歩きしたせいで、編集部も気付かないうちにar本来のコンセプトを歪曲させてしまっていたんですね。1年前それに気づいた足立さんは、具体的にどう変えていくべきだと考えられたのでしょうか?

こうしたら男性に好かれる、という目線をいっさいなくしていこうと考えて、一年間、「おフェロ」禁止令を出しました。

「恋」って言葉も、「モテ」って表現も、全て禁止にしたんです。原稿チェックの際も「いまこの服がモテる!」みたいな表現には全て赤字を入れて(笑)なんか、本当に恐ろしい編集長だったと思います(笑)

ar

外部のライターさんにも「今はもうモテじゃないんで、これからは自分向けなので」って説明をして、ようやくスタッフにも編集者にも浸透してきたタイミング(3月号)で満を持して1年ぶりの恋企画を出しました。

もう媚びじゃないってことを、編集部や読者に定着したと思いまして。

“眺める幸せ“は雑誌でしか得られない

――徹底したコンセプト作りでarの世界観を取り戻すことに成功したんですね。

はい。お陰様でこの方針変更によって、発行部数も徐々に上がってきています。あとこれは顕著なのですが男性の読者がめちゃくちゃ減ったんですよ。

私が編集長になる前は、arのdマガジン読者は半分ぐらいが男性だったんです。

だから社内のdマガジンの担当者は「男性読者が減ったから、もう少し男性目線を…」というのですが、私としてはこのままで良いと思っています。

全体の読者数は変わっていないのに女性の割合が増えているって、ホントにarが届けたい読者に届くようになったということ。より男子禁制になったんだと思います。もちろん、arの世界観を楽しんでくださってる方であれば、男性でも大歓迎です!

――確かに、arに登場する女性の服装って男性目線だと、一緒に歩くとなるとこっちの服装が困るほど可愛すぎる世界観ですね。

そうですよね!(笑)

――読者はarをファッション誌の枠を超えた、ひとつのフィクションとして楽しんでいるのだと思うのですが、その辺りの意識はありますか?

仰る通りでして、今はファッションに関する実用的な情報はインスタなどのSNSで手に入る時代なので、雑誌は少し現実離れしたコンテンツといいますか、可愛いモノを眺める幸せをもう一度、伝えられるようこの1年間は追求しました。

足立春奈

「誌面を開いて眺める幸せ」って、雑誌にしかできないことだと思うんですよね。

何故、Webコンテンツは簡単に炎上するのか?

――雑誌arのような尖った世界観をWebの世界で作り上げることは可能なのでしょうか?
arのような強烈な世界観を表現できているWeb媒体は少なく、世界観が読者に十分伝わっていない状態で尖ったコンテンツを発信しようとするので、炎上してしまいしがちです

私も副編集長時代はWeb版arのWebディレクターもしていたので分かるのですが、Webで世界観を作るのってすごく難しい。テキストと写真が交互に出てきて、人の目に入ってくる情報がどちらか1つしかないんです。

ar

この1年間、Web版の担当者から「どうやったらWebにarの世界観を出せますか?」って聞かれてきたので、今みたいなことを考えた結果、「あ、そういうことか。(Webでは)無理なのかー」と辿り着きました。

一方、雑誌は開くと両開きで、テキストと写真が同時に情報が入ってくるじゃないですか。

ar

だから全体のレイアウトだったり、ここに入る言葉だったり、色だったり、全部を通じて伝えられるから世界観って作りやすいんですけど。

だから例えば、「おフェロ」みたいな言葉にしても、写真とくっ付いているから納得するけど、「おフェロ」ってテキストだけが目に入って、そのあと写真があって、そのあと「モテるためには…」みたいな文字が出てくると、絶対に炎上すると思います。

それは、テキストや写真の1つ1つに着目されてしまうから。

雑誌だと、注目を分散させているというか、1つのページにいろんなものがあるから、(世界観が伝わって)受けて入れてもらいやすいのかなって思います。

――なるほど!すごく分かりやすいです(笑)世界観を構成する要素と一緒に文字が飛び込んでくると、すんなりいけるというか、「おフェロ」が全体から浮かないんですね。

そうなんです!そうなんです!

無料コンテンツは“読者”と“外野”の区別ができない

――ということは、雑誌のノウハウをそのままWebコンテンツ作りに持っていても上手くいかないってことなんでしょうか。

そう思います!よく雑誌のメディアがWebに進出して上手くいかないのって、それが理由だと思います。Webでも同じようにやろうとするから上手くいかないんだろうなぁって思います。

――それでもarを始めとした雑誌業界のコンテンツは、検閲され過ぎた他業界のコンテンツと比較すると今もなお尖っていると感じます。

他業界のクリエイターにとって、紙媒体でのコンテンツ作りが羨ましく映っている時代かもしれません。足立さんにはどう映っていますか?

(紙媒体とその他との違いについては)やっぱり、有料コンテンツという点は大きいなと思っていて。

雑誌は、古くから云われてきた「見たい人だけが見ればよい」を体現しているので、「お金を払ってでも読みたい!」と思ってくれた読者さんに届くのがほとんど。

文句を言うために買う人はそんなにいないというか。

コンセプトを言語化せずに共有する

――時代を意識しつつも買ってくれる読者に楽しんでもらえるコンテンツ作りは一筋縄ではいかず、沢山の苦労があるかと思います。arの編集部の本誌専属は9名体制とのことですが、編集部では企画について、どのようなディスカッションをされるのでしょうか?

いちばん最初にarとして「何を大切にすべきで何を大切にすべきじゃないか」を徹底的に叩き込みますね。

同じ「モテ」ってワードについても、「このモテは良くて、このモテはダメ」とか、そういうレギュレーションのようなものを感覚に叩き込む感じですね。

ar
ar(主婦と生活社)は昨年10月号で創刊25周年を迎えた。

それが共通認識としてあったうえで、毎月の企画のテーマについても「こういうメイクはarっぽい」という方向性を私から出した上で、みんなから企画が出てくる、という流れですね。

――ルールを言語化せずにみんなで共有するってどうやったんですか?クリエイティブな仕事ほど、感覚で共有した方が最もパフォーマンスが上がるのは確かですが、曖昧な判断基準やコンセプトを感覚レベルで共有するのは一筋縄ではいかないのではないでしょうか。

確かに!編集部内でも物議を醸しました(笑)でもそこはあえて(ルールを)厳格には決めずにボカシている側面もあるんです。

コンセプトを一切文章で書かずに、全部写真で示したことがあるんです。

「この中から伝わることでやってください」って言った時に「分かりました!」って声が半分、「全然、わかりません」って声が半分。

分かったメンバーにはそのままやってもらって、分かりませんってメンバーには、もう一段階噛み砕いた説明をしましたね。

この1年間でarをリブランディングしたので、最初の半年間は混沌としていました。掴める人と掴めない人がいるみたいな。

でも、誌面にしていくうちに、キャッチコピーの付け方とかリードの書き方とかが具体的になっていき、みんなが分かっていくようになりましたね。

(コンセプトを理解する速さが)人によって全然違った。だからすごい大変でした(笑)

ar

――なるほど、あえて少しコンセプトをボカしながら伝えることで、メンバーに考えさせる余白というか、企画を創造する余地も生まれるんですね。

そうですね。しっかりと言語化してレギュレーション化している雑誌も多いと思うのですが、arはなるべく感覚で伝わった方が良いと思いました。

だから、まずはビジュアルだけでコンセプトを共有するというやり方をやりましたね。

“言葉狩り”のジェンダー観はいつか収束する

――2020年末に、ファミマの「お母さん食堂」という商品が炎上して署名運動にまで発展したのですが、

ああ!はいはいはい!ありましたね!

――当時、様々な議論が展開されて “ご飯を作る=女性”というイメージの押し付けは時代錯誤である、しかし一方、この広告は現在の消費者(お母さんの料理を食べてきた)に向けて売り出しているので、マーケティングの観点では正しいのではないかという意見もありました。商品のキャッチコピーが世間の感覚とズレていたら、商品が売れないのだから制裁としては十分であり、ジェンダーレスの話は、現状のマーケティングにまで持ち込まなくても良いという意見もあります。

えーと…性別に関しては、生物学的に向いていることと向いていないことはあると思っていて。

オリンピックでも競技は男女に別れているじゃないですか。それは当たり前のことであって、だから出来ることと出来ないことには抗わなくて良いんじゃないかなって思いますよね。

先程の「お母さん食堂」の例でも、ごく少数の意見が大きくなって窮屈になっていることは問題だと思うんだけど。一方、その声で救われている人もいらっしゃるのも事実だと思うので。

私も子供がいるのですが、これだけずっと仕事をやっていると、結婚したときに「足立さんって、ホントにご飯とか作れんの?」とか言ってくる男の人が周囲に多くて。

ar

なんで「女性は結婚すると、料理を作らないと一人前じゃない」って言う人がいっぱいいるんだろうとか、それはあるけど、ある程度は正しいところに改善している気はするんですよね。

今はいろんな(ジェンダー蔑視)が淘汰されている最中、中には行き過ぎていることもあるけど、やがては収束していくのかなと思っています。

本当の読者“だけ”に耳を傾ける

――最後に、今回は取材を快諾して頂いてとても感激でした!ただ何故、取材を受けて下さったのでしょうか?冒頭にもあったように、世界観を構築して届けたい人に届け続けてきた「ar」という雑誌を、全く別世界であるWebメディアが取り上げることは、arを知り得なかった人たちの目に止まります。それはメリットもあれば、(世界観が誤解される、批判等の)デメリットもあると思うのですが。

あー、確かに言われてみたら…言われてみて初めてそう思ったぐらいの感じです(笑)

確かにWeb媒体の方々のほうが、幅広いお客さんを相手にされているから、リスク管理が徹底されていると思うんです。

でも紙媒体って町工場のような現場というか、すごく限られた人数で作っていて、職人芸のようなところがあるので、そこまでリスク管理に意識を割くことが少ないのは事実なんです。

ar

だから炎上に関しては、WEB業界の方ほどはナーバスになっていないというか。

あと買って読んでくださる方は、文句を言う権利があると思っていて、読者の意見はかなり取り入れているんです。

ただ一方では、明らかに買って読んでいない方からの意見は全く聞かないんです。「だって買ってないじゃん!」って感じで。

――逆にいうと、読者以外の圧力には負けずにコンセプトを貫いたことが、いまのarの人気再建に繋がってるんですね。

はい!arを買った人の意見はめちゃくちゃ聞きます。「この企画つまらなかった」とか「最近、arつまんなくなったから読まなくなった」とか、すごい気にするけど。

確かに言われてみて、このインタビュー記事が炎上したらどうしよう!とは思います。

でも、買ってくれた人たちに向けて真摯にコンテンツ作りしてきたのが、この1年間のarであり、リニューアルしたのもarを読んでもらえる方々に楽しんでもらえることに向き合った結果の決断だったので、そこは伝わって欲しいなと思います!

取材・ライティング:小川 翔太/撮影:SYN.PRODUCT/編集:田中 祥子(CREATIVE VILLAGE編集部)