働き方の多様化・労働人口減少の対策として2019年4月1日から施行された「働き方改革」。

この時流に沿ってCREATIVE VILLAGEではクリエイティブ業界の「働き方」に関する記事を掲載しています。

今回は「リモートワークのメリット・デメリット」「ボーダレス組織と働き方の多様化」「理想の働き方」の3つをテーマに、働き方に関する企業経営に加え、ニュース番組「Live News α」コメンテーターなど働き方に関して様々な発信をされている株式会社キャスター取締役COO/株式会社bosyu代表取締役・石倉秀明さんにインタビュー。

株式会社キャスターはミッション「リモートワークを当たり前にする」・ビジョン「労働革命で、人をもっと自由に」を掲げ、全社的にリモートワークを行っていることが特徴です。

「働き方改革」でさらに注目されたこの「リモートワーク」ですが、実は日本企業の導入率は約10%(※1)

発祥の地・アメリカ(50%)の5分の1となっている背景には導入に対する不安と課題(※2)があるのではないでしょうか。

リモートワーク導入に課題を感じているマネジメント層の方、そして自分の働き方を見直したいと考えているクリエイターの方はぜひ参考にしてください。

石倉秀明(いしくら・ひであき)
リクルートHRマーケティング、リブセンス、DeNAを経て、2016年3月に株式会社働き方ファームを設立し代表に就任。スタートアップを中心とした企業の新規事業、採用支援などを行う。
2016年10月より株式会社キャスター取締役COOに就任。2018年8月より、「仕事」と「人」の出会いをカンタンにするコミュニケーションサービス「bosyu」の運営を開始。2019年7月には「bosyu」事業を株式会社キャスターから分社化し、株式会社bosyuの代表取締役に就任。

※1出典:Economic News「導入率、日本は11.5%・アメリカは50% リモートワークは推進すべき?」
※2参考:総務省「情報通信白書」(平成29年版)

リモートワークの誤解とホンネ

――まず、石倉さんが考える経営者にとってのリモートワークのメリットを教えてください

経営上のメリットは大きく2つあります。1つは圧倒的な「採用のしやすさ」。「都内勤務」という今までの採用ターゲットから外れていた人も対象になるからですね。

リモートワークの場合、東京で勤務する必要はないので単純に採用対象の方が多くなるし、リモートワークで社員として働ける環境はまだ少ないので、優秀な方に応募していただけます。

結果として、弊社は数名の社員採用募集枠に毎月1000件以上の応募があります。
採用市場においてブルーオーシャンなのは事実ですね。

2つ目は「情報の透明化」。
物理的に隣に人がいないから会社でのコミュニケーションは全てがチャットになる。チャットという基本オープンな場でやり取りをしていくので、実はオフィスにいるよりも会社・仕事の流れや情報が見えるようになるんです。

――リモートワーク導入の不安として「コミュニケーションの取りにくさ」つまり「情報の不透明性」があると思っていました

リモートワークに対する誤解の一つですね。
「コミュニケーションが取りづらくなる」という誤解はオフラインで働いている時と同じようなコミュニケーションをイメージするところから生まれていると思います。

オフラインで皆さんが見えていると思っていることは「情報」ではない。ただ「姿」が見えているだけ。マネジメント上重要な「その人が普段何やっているか、どのような考えで仕事をやっているか、何がどう進んでいるか」という「情報としてのコミュニケーション」はチャットに残ると透明化され、見えるようになります。

――業務効率や生産性に関するメリットはありますか?

組織全体の生産性は上がりやすいですね。会議室に移動してオフラインでミーティングをしなくても意思決定ができます。ただ、ここにもリモートワークに対する誤解が潜んでいます。

オンラインで業務を進めることで実力が変化するように捉えられがちですが個人のスキルが向上するわけではない。実力は変わらないけれど、同じ実力なら組織として生産性はあげられるイメージですね。

経営上のリモートワークのメリット

  • 情報の透明化
  • 情報としてのコミュニケーションが可能になる
  • 採用ターゲットが広がることで、採用がしやすくなる

―― 一方、デメリットはありますか?

働き過ぎてしまう可能性があることですね。プライベートとの境界が曖昧になるので、パソコンを開いた瞬間に家でも仕事ができてしまう。会社として各人の業務時間を管理し、コントロールする必要があります。

――SNSで簡単に求人募集ができる「bosyu」事業を運営する会社を設立されたばかりとのことですが、メンバーは全員リモートワークと伺っています。リモートワークのデメリット「働き過ぎてしまう可能性」に関して、どのような工夫をされていますか?

まず、勤怠管理は一般的なクラウドツールで行っています。出勤・退勤・1時間の休憩時間もクラウドサービス上で申請するシステムです。残業が多い社員には労務管理をしている人事からフォローを入れるような工夫もしています。

オフラインで勤務している企業とほとんど変わらないと思いますね。僕自身も「長く働く」ことよりも「結果を出すか否か」が重要だと思っているので、その考えがマネジメントに反映できているのではないか、と考えています。

経営上のリモートワークのデメリット・改善方法

  • プライベートとの境界線が曖昧になることで働き過ぎてしまう可能性が生まれる
  • 結果を出すか否かのマネジメント・残業が多い社員へのフォローで長時間労働を防止

――石倉さんが提唱されている「ボーダレス組織」と「リモートワーク」の意味は異なるのですね

まったく違います。「ボーダレス」は「境界がない、または曖昧である」ということ。

雇用形態や勤務時間・勤務場所によって仕事内容や給与に差をつくるのではなく、これら、あらゆる境界を取り払って役割やミッションにフォーカスした組織のことです。

ボーダレス組織と採用の実情

――石倉さん個人が提唱されている「ボーダレス組織」。提唱されている理由について教えてください。

2つの事実から提唱しています。

1つ目は今後の労働人口減少に伴う採用の難航。2つ目はフリーランス人口の増加です。

採用の難航については、2020年卒・大卒の有効求人倍率は統合すると約1.8倍(※3)。これを分解すると、5,000名以上の大企業は0.4倍(※3)。つまり、買い手市場で人が余っている。一方で、日本企業の99%以上を占める従業員300名以下の中小企業(※4)の有効求人倍率は約8.6倍と高倍率(※1)なんです。

フリーランス人口の増加については「広義のフリーランスのうち、副業(本業・副業を区別しない労働者を含む)フリーランスの数は744万人、経済規模は7兆8280億円となり8兆円近い規模」で今後も増加が見込まれる(※5)といわれています。

この「労働人口に伴う採用の難航」と「フリーランス人口の増加」という2つの事実は不可逆な流れです。つまり正社員でフルタイムの人だけを集めてチームをつくる、という今までやってきたことが不可能になりつつあるんですね。

そうなると、正規・非正規などの雇用形態や勤務場所、勤務時間に縛られず、色々な立場の人を集めて仕事をする必要がある、という課題が「ボーダレス組織」提唱の根幹にあります。

一方で「能力で年収が決まっていないことに対する憤り」という感情的な理由もあります。現在の平均年収見ても正社員よりも非正規の方が低いし、男性よりも女性の方が低いし、東京よりも地方の方が低いんです。

ある意味、身分制度みたいなもので決まっているんですよ。男性・正社員・東京に住んでいる人がマジョリティの前提として制度設計されているからですね。

ボーダレス組織提唱の理由

  • 日本企業の99%以上を占める従業員300名以下の中小企業の有効求人倍率は約8.6倍と高倍率
  • 今後の労働人口減少に伴う採用の難航とフリーランス人口の増加から、色々な立場の人を採用する必要がある

――人材不足の解決方法となる「ボーダレス組織」の導入には何が必要でしょうか?

価値観や仕事観の擦りあわせだと思います。労働人口の減少から「ボーダレス組織」を遅かれ早かれ、意識せざるを得なくなると思うんです。テクノロジーを使って自動化するのか色々考え方はありますが「いつやるか」が大事だと思います。

※3:出典「第36回 ワークス大卒求人倍率調査」/※4:出典「中小企業白書」(2017年版)/※5:出典「ランサーズ フリーランス実態調査」 (2018年版)

理想は「仕事の歯磨き化」


――ここまで伺ってきたように個人が多様な働き方で長期的に働く可能性が高い現代、石倉さんのように「仕事が好きだ」と言い続けられるために何が必要でしょうか?

僕は仕事が好きだから仕事をするだけです。働きたいと思う人は働いて、働きたくない人は働かなくて良い社会をつくっていくことが大事だと思いますね。

「働き方改革」の根幹には労働人口の減少がある。基本的な方針はおじいさんおばあさんになっても働いてくださいということ。しかし、それは果たして幸せなのでしょうか…

そのために「好きなことを見つけて、長く働こう!」という風潮しかない社会を幸福だとは思わないんですよ。働き続けたいのか否かも含め、個々人の働き方に対する考えに合わせた働き方ができる社会の方が健全だと思っています。

少なくとも好きじゃなくてもやっていることが苦じゃないくらいの人が増えたらいいな、と思いますね。

――「好きとまではいかないけれども、苦しくもない働き方」…

「仕事が歯磨きのようになる」イメージでしょうか。歯磨きは毎日の習慣であって、好きも嫌いもない。それと同じように「習慣として毎日やること」のような感覚になった方が幸せかもしれないですよね。あまり仕事を特別なものだと捉えないほうが良いと思っているんです。

皆人生の中で仕事を特別だと捉えているから「楽しい」のか「やりがい」なのか「苦しい」のかという話なんです。でも、歯磨きは「苦」でも「楽」でも「やりがい」でもない。

これは人生の中で特別ではなく、生活の一部で習慣だからそう思うだけじゃないですか。

このような立ち位置に個人の人生の中で仕事がくるといいなと思います。

そうすると、何が大事かというと生活や仕事以外の時間の充実だと思うんです。例えば、趣味や子育てや遊び。

そうすれば相対的に自分の中の仕事の比率は「歯磨き化」していき、理想的な働き方に繋がるのではないでしょうか。

インタビュー・テキスト:大沢 愛/撮影:SYN.PRODUCT

会社プロフィール

株式会社キャスター


「労働革命で、人をもっと自由に」をビジョンに掲げ、2014年の創業時から「リモートワーク」という働き方を全社的に取り入れ、日本が抱える労働者不足の解決やリモートワーカー及びこれから新しく働き方を変えようとチャレンジする方々のための様々なサービスを展開しています。

■社名:株式会社キャスター

■所在地:キャスタースクエア東京(本社)東京都渋谷区神宮前6-12-18 WeWork Iceberg内

■ 設立:2014年9月

■ 代表者 :中川祥太

■ 事業内容:オンラインアシスタントをはじめとした人材事業運営

■ URL:https://caster.co.jp/

株式会社bosyu


「仕事」と「人」の出会いをカンタンにするコミュニケーションサービス「bosyu」の企画、開発、運営を行い、個人同士が気負いなく、そしてカンタンに仕事との出会いを体験できる世界の実現を目指しています。

■社名:株式会社bosyu

■所在地:東京都渋谷区桜丘町4-17

■設立:2019年7月1日

■代表者:石倉 秀明

■事業内容:「bosyu」事業の企画、開発、運営

■URL:https://bosyu.me