――Mrs. GREEN APPLEの大森元貴とアイドルグループtimelesz(タイムレス)のメンバーであり、俳優としても活躍する菊池風磨。人気と注目を集めるふたりを主演に迎えた映画「#真相をお話しします」で、いまを生きる人間が抱く違和感、匿名の悪意はびこる現代の危機感や恐さを、監督・豊島圭介は極上のミステリーに昇華させた。「ホラーからラブコメ、青春ドラマ、妖怪ものに時代劇、実録ドキュメンタリーまで、こんなに幅広く手がけている監督って僕以外になかなかいないと思います(笑)」。ジャンルを超えて徹底的に追求してきたのは、「どうやって伝えたいことを正確に伝えるか」。いまという時代を映す大問題作にして超エンターテインメント作の真相を、まずはしっかりと見届けてほしい。――
大森元貴くんは“恐るべき子供が現れた”といった印象でした
僕が監督として映画「#真相をお話しします」に参加したのは、脚本はある程度まで進められていて、主演のひとり・鈴木役に大森元貴くんが決まり、映画として正式にGOが出たタイミングでした。2023年11月だったと思います。大森くんはMrs. GREEN APPLEとして、本作で企画・プロデュースを務める平野隆さんをはじめとするTBSのプロデューサー陣が手がけた、映画「青夏 きみに恋した30日」(18/主題歌「青と夏」、挿入歌「点描の唄」)と映画「ラーゲリより愛を込めて」(22/主題歌「Soranji」)に楽曲提供していて、数年にわたる関係性あっての抜擢だったようです。
Mrs. GREEN APPLEは2年連続で日本レコード大賞を受賞し、大森くんはいまもっとも注目を集めるスターですが、でもキャスティングされたのは受賞前だったんですよね。先ほども言いましたが、大森くんの出演が決まり、僕が監督として呼ばれたのが23年11月で、翌12月に最初の受賞(「ケセラセラ」)、24年末に2度目の受賞(「ライラック」)ですから、そういった意味ではプロデューサー陣に先見の明があった、素晴らしいキャスティングだったと思います。実は僕自身も、本作にも出演してくれている岡山天音くん主演のドラマ「I”s(アイズ)」(18)で、Mrs. GREEN APPLEにエンディング曲「Coffee」を提供していただいていて、以前からその存在は知っていました。監督を任され、改めてMrs. GREEN APPLEの映像やライブを拝見して、大森くんのスターとしての輝きには圧倒されたし、表現力も豊かで、“恐るべき子供が現れた”といった印象を持ちました。
菊池風磨くんを激推ししました
ミュージシャンで芝居がうまい人ってけっこういらっしゃるんですが、大森くんもそうで、自分の見せ方を知っているし、普段の動きがお芝居の中でもできちゃうんですね。大森くんはMrs. GREEN APPLEとして活動しているときも、打ち合わせや会議の様子をスマホでマネージャーに撮ってもらって、家に帰ってから自分の発言を見直して、ちゃんと思いが伝わっているか、言葉遣いや振る舞いを毎日チェックしているんだそうです。本作でもリハーサルを撮影して、家に帰ってずっと確認していたみたいで、リハーサルが進んでいったときに、「セリフに慣れてしまって、歌のような抑揚がついちゃってちょっと不自然かもしれません」「どこどこで吐息をもらす癖がありますよね」といったことを大森くんに伝えると、「僕も気づいてました」ってちゃんと返ってくる。バンド活動同様、お芝居についてもずっと自分でも研究して現場に臨んでくれて、本当に感心させられたし、とにかくすごい人です。
もうひとりの主役・桐山役は、キャスティングを進めていくなかで菊池風磨くんの名前があがり、僕からも激推ししました。桐山役に合うと思ったし、風磨くんとは、ドラマで何作かご一緒していて、僕にとって彼は戦友とも呼べる存在でしたし、一緒に挑む仲間もほしかった。まさか映画が公開されるこのタイミングで、timeleszのオーディションでこんなに話題になるなんて想像もしていませんでしたが、時の人である、大森くんと風磨くんをW主演に迎えられたことは、本当に幸運だったと思います。
警備室のシーンが映画の命だと思っていた
原作は先に拝読していたのですが、脚本を読んで、短編集を1本の映画にする挑戦ってかつていろんな人がやっている気がするんですけど、「この手があったか!」っていうね。脚本の杉原憲明さんの素晴らしいアイデアと仕かけで、これなら面白い映画になるとワクワクしました。僕が脚本を広げていった点を強いてあげるなら、映画の冒頭、シーン1で、鈴木が「ふるはうす⭐︎デイズ」のまとめ動画を観たり、買い物をしたりしているシーンを入れたことです。この物語は鈴木の話なんだよってことを、観客のみなさんにちゃんと伝えたかった。あと、生配信チャンネル「#真相をお話しします」管理人の岡山天音くんが登場するバーチャルスタジアムにカメラがドーンと突入していくというのは僕のアイデア。構造的に重要なのはそのふたつです。僕は脚本を読んで、とにかくラストに感動したので、僕が感動した通りの映画をつくればいいんだと思っていました。
撮影は2024年の7月、8月でした。とても順調でした、暑かったですけどね。先に「#真相をお話しします」チャンネルに登場するエピソードを撮影し、最後に大森くんと風磨くんの警備室でのシーンをセットで撮りました。そこが映画の命だと思っていました。この長い密室のシーンをどう組み立てていくかってことを、セットをつくるところからずっと考えていました。ふたりの人間の芝居って、人をどこに置くかで決まるっていうか、それが演出の第一歩だと思っていて、どこに座るか、どこに立つかでふたりの関係性も見える。セットに入って10日ぐらいかけて順撮りしたのですが、例えば次の次の次のシーンで、この場所で水を飲みながら大森くんにセリフを言わせたいとなると、その5シーン前にはその場所の近くにペットボトルを置かなきゃいけないとか。ひとつ間違えると次の動きに進めなかったり、ものすごく緻密なパズルを組んでいくような計算が必要で、頭がパンパンでずっと興奮状態だったし、ある意味とても濃密な時間を経験しました。ただ、僕自身緊張していてあまり意識してなかったのですが、めちゃくちゃピリついていたみたいで、本来僕の現場は和やかなはずなのですが、助監督さんたちから話しかけづらかったって言われちゃって、そこはちょっと申し訳なかったです。
大森くんに素晴らしい贈り物をもらった気がした
警備室のシーンのプランを考え抜いたのは僕ですが、演技としてどう表現するは大森くんと風磨くんによるものです。僕が感動したのは、会話劇のように見える台本だったので、肉体のぶつかり合い、アクションみたいなものがあったほうが面白いだろうと考えて、大森くんに、風磨くんの手を押さえて無理強いするような動きをリクエストしたら、大森くんが、「おい! 早く選べ、このヤロウ!」とかって言ってもいいですか?って聞いてきて、「うゎ、それ面白い!」って。その一言で、大森くん演じる鈴木がどんな人生を送ってきたのか、ひょうひょうとして見えるけど、どれだけ苦渋を味わってきたのか、抱えた闇のようなものも想像できて、鈴木という人間の奥行きが深まったように感じた。大森くんにとても素晴らしい贈り物をもらった気がして、感激しました。
風磨くんにも新たな発見がありました。やっぱり、悲しそう、嬉しそう、切なそうといった言葉に翻訳できるようなお芝居って、わかりやすいんだけど感動しないときってあるんですよね。本作では、風磨くんの目の動きや笑顔とか、ちょっと言葉では言い表せないような表情を何度もしていて、風磨くんのそんな面って見たことがなかったから、そこにも感動しました。風磨くんは、作品によっては菊池風磨流を前面に出してやってくださいって要求されることもあるんだと思いますが、僕はそういう感じにはしたくなかった。風磨くんからある意味自然に新たな顔を引き出すことができて、とてもよかったと思っています。
どうやって正確に伝えたいことを伝えるか
子供の頃から映画は大好きでたくさん観ていたのですが、監督になろうと思ったのは大学に入ってからです。自主映画がぴあフィルムフェスティバルに入選して、これは監督として才能あるんじゃないかと思ってしまい(笑)。大学卒業後は、ロサンゼルスにあるアメリカン・フィルム・インスティテュート(AFI)に留学しました。当時はジム・ジャームッシュ監督とかインディペンデント的なアプローチの作品に憧れていたので、本当はニューヨークの大学で学びたかったのですが、予算や年数のこともあって、結果的にAFIに進んだら、ゴリゴリのハリウッド志向で、徹底的にその教えを受けることになるという。
とにかくハリウッドでは、映画はストーリーテリングの道具でしかなくて、「映画づくりは物語をどう語るか」なんです。例えば、「これはだれの話ですか?——これはAさんの話です。AさんがBさんと出会って、こんな障害を乗り越えて最後こうなる、みたいな。——Aさんの話だったら、Aさんで始めるべきじゃないですか? Aさんがだれそれを見たとか、AさんナメでBさんを見ることはあっても、BさんがAさんを見るカットから入るのはおかしいでしょ。だってAさんの話なんだから」と、極端に言うとそういう感じです。僕はそれをけっこう信じていて、本作「#真相をお話しします」の冒頭シーンに鈴木を登場させたのも、まさにハリウッドの教えです。先ほども言いましたが、この映画は鈴木が仕かけた話だから、そのつもりで観てくださいねっていう。ただそれにあまり縛られると窮屈だしつまらないんですけど。留学した当初はハリウッドに対する反発心もあって、「特別な瞬間が映ってしまったりとか、何かと何かを繋いだときに物語では語り切れない感動を覚えたりするのが映画じゃん。物語を語るだけが映画じゃないよ」みたいなことを思っていたのですが、ハリウッド流エンターテインメントの特訓を受け、「どうやって正確に伝えたいことを伝えるか」ということを、コメディー作品も含め約20年間ひたすらやってきました。
「当てたい!」と切実に願ってきた
僕の初監督作のドラマ「怪談新耳袋」シリーズ(03ほか)は、清水崇監督に声をかけてもらっての参加でした。原作も清水監督の紹介だったのですが、ホラー映画に関してもあと追いで必死に浴びるように観ました。映画の生配信チャンネル「#真相をお話しします」に登場するエピソードにはそれぞれ世界観のリファレンスがあって、最初のエピソードのテーマはJホラーです。ホラーをやったことで、監督としての意図がしっかり伝わる作品づくりの技術は磨かれましたし、これだけ職人として仕事をしてくると、突出した作家性はないかもしれないけど、大概どんな台本でも面白く撮れる気はしています。ただホラーってあくまでもジャンルで、作品づくりにおけるすべては、「どういうふうにこちらが見ているか」ってことに尽きると思います。僕がかつて、ドキュメンタリー映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」(20)をつくったときに、ここで三島に関するこの解説を入れると、証言者の方が引き立つな、でもここで入れると今度は三島が惨めに見えるなとか、同じ情報なのに入れる場所やコメントでまったく伝わり方が違う。恐ろしいなと思いました。
かつては年収50万円なんて年もありました。大きめの仕事が決まり、浮かれて12万円のイスを買ったんです。これに座って書いたら、絶対にいい脚本が書けるに違いないと思って(笑)。けど企画が頓挫して12万のイスだけが残ったっていう。いまでもそのイス使ってますよ。費用対効果としてはよかったかもしれません(笑)。実は、ドキュメンタリー映画「三島由紀夫vs東大全共闘」をやっていた40代最後の頃が、一番仕事がなかったんです。三島に半年以上関わっていたのですが、全然プロデューサーからの電話が鳴らなくて。やっぱり壁ってあって、「40歳の壁を超えた、よしやった!」と思ったら一気に停滞期に突入し、でもテレビ朝日さんに出会いコロナ禍で仕事をもらうようになって、また50歳の壁を超えてみたいな。ずっと「早く映画を当てたい!」と切実に願ってきました。ヒットメーカーという肩書きがあれば、もっとスムーズに出資を得て映画制作を進めることができるかもしれない、いまとは違った地平が見えるかもしれないと。映画「#真相をお話しします」はとにかく多くの人に観てもらいたい作品ですし、その先にどんな新しい景色が広がっているのか、いま期待でいっぱいです。
いまを生きる全員に関わる問題
僕自身は、YouTubeのライブ配信や「投げ銭」といったことにはあまり馴染みがなく、ベテランのスタッフ陣としてもそこが弱点だったのですが、助監督の安河内瑠美さんの頑張りで、生配信のバーチャルスタジアムもいい感じに仕上がっていると思います。関係者の小学6年生の男の子が初号を観て、めちゃくちゃ感動してくれたらしいんです。本作はネット世界のリテラシーの話でもあって、「こんなことをすると人が傷つくんだ」ってことをエンタメにして観せているという。文部科学省選定作品にしてもらってもいいんじゃないかってぐらいです(笑)。子供たちにも十分楽しんでもらえると思うし、ショックも反発もあるかもですが、ネットへの向き合い方を考えるきっかけになるんじゃないかなと思っています。
SNSが人を殺す道具になっている現状、そしてそれが日常になっていることには恐怖を覚えています。それは発信者と受け手の距離感も含めてです。最初に脚本を読んだとき、匿名の無責任な発言の罪の重さを問う物語だと感じました。それは映画の登場人物たちだけにではなく、映画を観ているあなた、それ以外の人たち全員にも関わる問題なんだってことがテーマだと思っているのですが、そこにすごく既視感があった。実は、僕が撮ったドキュメンタリー映画「三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実」がそうだったんです。SNSのコミュニケーションがはびこっている現在に比べて、三島由紀夫と東大全共闘の学生たちは、1000人の聴衆を前に壇上で名乗り合い、ちゃんと対面して、全身全霊で言葉を交わし合っている。あの熱と敬意と言葉と、そういったものこそ、いま我々が受け取る意味があるのではないか、という思いでつくった作品だったから、本作とまるで裏表で同じ話じゃないかと。ただ僕としては、警告や啓発ということより、映画って時代のリアルを切り取るものでもあると思っているので、いまを生きている世界中の人間が日常的に抱えている危機感や不安みたいなもの、そういう時代を描くことこそが重要だったような気がしています。
一流商社マンだった桐山(菊池風磨)はある事件をきっかけに借金を抱え、以来、人と関わりを持たずビルの警備員として暮らしている。不思議な雰囲気の男・鈴木(大森元貴)は3年ぶりにできた友人だった。鈴木は桐山に、多額の報酬をかけた暴露系チャンネル「#真相をお話しします」への出演を提案、期せずしてスピーカーに選ばれた桐山は、自身の壮絶な物語の真相を語り、巨額の投げ銭を手にする。借金地獄から救われ、鈴木への感謝の気持ちでいっぱいの桐山。突然鈴木が声をはりあげる。「次のスピーカーは僕です」。唖然とする桐山を横目に鈴木が語る、すべてを覆す「真相」とは———。

出演:大森元貴、菊池風磨/中条あやみ、岡山天音/福本莉子、伊藤健太郎、栁俊太郎、綱啓永、田中美久、齊藤京子、原嘉孝/桜井ユキ/山中崇、秋元才加、大水洋介/伊藤英明
主題歌:「天国」Mrs. GREEN APPLE (ユニバーサル ミュージック / EMI Records)
原作:結城真一郎『#真相をお話しします』(新潮文庫刊)
脚本:杉原憲明
企画・プロデュース:平野隆、エグゼクティブプロデューサー:大脇拓郎、音楽:江﨑文武
制作:ツインズジャパン、配給:東宝
Ⓒ2025 映画「#真相をお話しします」製作委員会
4月25日(金)よりロードショー
インタビュー・テキスト:永瀬由佳