ソーシャルメディアを通して個人が手軽に文章を発信でき、表現の場が広がっている昨今。

また、人生100年時代構想や働き方改革からも個人の市場価値を意識する機会が増えています。そんな時代を生き抜くWebライターへのキャリア指南を株式会社インクワイア代表・モリジュンヤさんにお伺いしました。

モリ ジュンヤ
1987年生まれ、岐阜県出身。ソーシャルデザインをテーマにした『greenz.jp』の副編集長、テクノロジー系スタートアップをテーマにした『THE BRIDGE』編集記者を経て、2015年に編集デザインファーム「inquire」を創業。しなやかな社会をつくるメディア『UNLEASH』や書くを学び合うコミュニティ「sentence」を運営しながら、社会変容の媒介となるべくパートナー企業の編集やブランディング、コンテンツ戦略を支援。NPO法人soar副代表、IDENTITY共同創業者、FastGrow CCOなど。

自分の市場価値を問う


――モリさんのキャリアは「greenz.jp」編集部から始まり、その後フリーランスの編集者・ライターとして独立されスタートアップ・テクノロジー系メディア「THE BRIDGE」などさまざま媒体に関わられてきました。Webライターの仕事を選ばれた理由は何だったのでしょうか?

ソーシャルメディア黎明期、2008年〜2009年の頃に個人の発信力に興味を持ったことがきっかけでした。
一人ひとりがメディアになっていく時代であれば、社会課題のようなこれまでカバーされにくかった領域の情報も発信されやすくなるのでは、と思ったんです。

ただ、ソーシャルメディアでは情報がフローになってしまう。どこかストックしておく場所として、ウェブメディアが機能することに期待しました。新聞や雑誌のようなメディアは、書き手の名前が意識されるのは稀です。

ウェブメディアは書き手のプロフィールが載っていることも珍しくなく、かつリンクでSNSのアカウントにも動線がある。「フォロワー」という形で個人にレピュテーション(評判)が溜まっていくと、スキルを活かして仕事をしやすいはずだと考えました。

インフォバーン創業者の小林弘人さんの「メディアの価値はコミュニティにある」という考えに触れたのも大きいですね。ウェブメディアとソーシャルメディアによって生み出されるコミュニティに関心を持ち、ウェブメディアの仕事に関わりたいと考えるようになったんです。

縁があって、2006年からエコやソーシャルな情報を発信していたウェブマガジン「greenz.jp」に拾ってもらいました。学生時代にNPO活動に関わるなど「環境・社会問題」には関心があって、そのテーマの発信に貢献したいと考えたからです。

今ではNPOになっているのですが、当時のgreenz.jpの運営母体は株式会社としてクライアントワークを行っていました。私は、greenz.jpの編集を担当しており、収益化に苦戦していて。「自分の仕事の価値はどれくらいなのだろう」と考えることもありました。

――そんな中で、フリーランスの道を考えられたと。

そうですね。ちょうど組織も変化するタイミングで、独立しました。フリーランスになれば、自分個人の市場価値を試すことができるんじゃないかと。

greenz.jpで編集や執筆を続ける中で、徐々に自らの関心領域が広がったのも独立した理由の一つですね。環境・社会問題以外にも、世の中にインパクトを与えるような出来事は数多くある。

一つのメディアにしか関わっていないと、その事象を紹介できないケースもあります。テーマに合う媒体に記事を書き分けられれば、自分という書き手を通じてより多くの価値ある事象を世の中に伝えられる。そう考えたんです。

独立後は、様々なメディアでの執筆やクライアントワークをしながら、メディアとして始動したばかりのスタートアップ・テクノロジー系メディア「THE BRIDGE」に携わっていました。

greenz.jpで編集を経験しながら、スタートアップのコミュニティと関わりができた私は、「ソーシャルセクターとスタートアップの間の距離」を課題に感じるようになりました。自分が間に立ち、ソーシャル領域とスタートアップ・テクノロジー領域をつないでいきたいと思い、「THE BRIDGE」を始め、複数のメディアでテクノロジーやビジネス領域の発信量を増やしていきました。

仕事に関係なく、追い続けたいテーマがあるか?


――現在は社会的マイノリティに焦点を当てたWebメディア「soar」や、自社メディア「UNLEASH」などで幅広いテーマで情報発信をされていますが、そのような背景があったのですね。そしてインクワイアを起業されたのが2015年。フリーランスの編集者やライターがチームとなってお仕事をされているなど、フラットな組織という印象ですが、どんな組織を目指していますか?

インクワイアは「生きるように働ける」チームにしたいと思っています。

そもそも、編集者やライターという職業は、「自らの興味や志向に基づいて動ける人」に向いていると思っています。なので、インクワイアでは会社と個人の目的やミッションを互いに共有して、重なる部分での仕事をするようにしています。

また、インクワイアでは仕事とプライベートを完全に分けるのではなく「仕事は生活・趣味と融合しているもの」という考え方を大事にしています。いわゆる“働きすぎ”は良くありませんが、ライターや編集者の仕事はプライベートと完全に切り分けるとやりづらいものだと思うのです。


――個人の市場価値が発揮できるライター、編集者になるために必要なことは何でしょうか?

仕事に関係なく、人生を通して追い続けられるようなテーマを見つけることです。誰にも頼まれることなく、継続してそのテーマを追えられたら、競争優位につながります。

価値が顕在化しているテーマのインプットや発信をするのは普通のこと。ですが、価値が潜在的なうちからテーマを追いかけられたら、価値が顕在化する頃には周囲の認知も獲得できているし、知識のインプットも増えている状態になります。ブルーオーシャン戦略に近いかもしれません。

――「書く」について学び合うコミュニティ「sentence」の立ち上げも、「個の時代」を生き抜けるライターを支援する意図があるのでしょうか。

「良いライターいませんか?」ってよく相談されるんですが、ライターが育つための仕組みって多くないんです。僕はたまたま仕事でお世話になった方が紙の編集経験者だったこともあり、仕事を通じてスキルを学んでいきました。ただ、良い編集者に出会えるかどうかって運だなぁと思ったんです。

雑誌でライターを始めた人は良い編集に巡り合う可能性も高いかもしれませんが、Webでライティングを始めた人は編集に巡り合う可能性が低い。そもそも、きちんと編集がいる媒体がまだ少ないですから。しかも、Webライティングは環境の変化が早い。一度、スキルを習得したら終わりではなく、常にアップデートし続けないといけません。

sentenceは、こうした環境の中で、成長していきたいライターの人たちにとって学び合いができる環境を作りたいと思って始めました。講座やコミュニティを通じて、ナレッジの交換を行っています。

「書く」だけではない、ライターの価値とキャリア

――キャリアアップのためにコミュニティ内での学び以外で編集者・ライター個人ができることはありますか?

まずは、ライターとして媒体・社会に提供できる価値を「テーマ」と「スキル」に分けて棚卸しすることかなと思います。

周囲に認知されている自分が得意な「テーマ」は何か、それに対してどのようなインタビューや文章が書けるか、といった「スキル」。この2つを組み合わせて考え、自分自身がどのような強みをもつライターなのか認識することが大切です。

――自分自身の市場価値を把握することが重要なんですね。

何事もそうですよね。あとは、ライターという仕事のビジネスモデルをアップデートできないか、と考えています。

ライターの仕事は、リサーチ、インタビュー、文字起こし、執筆等の工程を踏んで原稿が仕上がります。各工程において価値が存在しているはずなのですが、現状は最終的なクリエイティブである「原稿」を納品するタイミングだけが換金するタイミングになっている。

1本の原稿を作り出すのに必要なスキルセットは、他にも価値を見いだせるはずなんです。例えば、リサーチやインタビュー。具体的事実を聞き出すインタビューではなく、取材対象者自身が「私はこう考えているのだ」という気づきをあぶり出すような、コーチングやカウンセリングに近いインタビューができれば、新たな価値を発掘できるかもしれません。

ライターを志す人は、スキルアップのみならず、ビジネスモデルのアップデートも合わせて心がけない限り、市場価値が認識されにくい状況なのだと考えています。

――最終的なクリエイティブである原稿だけに市場価値を付与するのではなく、ライターの仕事を細分化して考えたとき、それぞれ価値を発揮する、仕事を作る必要がある、ということでしょうか。

そうですね。あとは、ビジネスの上流から関わる力を身につけられるかどうか。今後必要とされるライターは、決まった仕様に合わせてライティングができるだけではなく、媒体自体の設計等を行うスキルが必要だと思っています。

現状では、ライターは企画や媒体のルールが決まった段階から仕事に関わることが多い。作るものと予算がある程度決まってから依頼が来る。ですが、この仕事の受け方では単価は上がりにくいし、個人の市場価値を高めづらいです。

一方で、企業ブランディングの一翼をライターが担う流れもあります。

この時流に乗り、ブランディング、マーケティングなど他領域のスキルセットを磨いて横断的に動くライターが個人の価値を高めることができると考えています。

――最後に、人生100年時代構想や働き方改革を含めて、個人の市場価値について考える機会が増える中、もし今モリさんが20代の駆け出しライターとして経験を積むならどのような道を選ぶか、お伺いしたいです。

大きく2つの道が考えられると思います。1つ目はいわゆる“師弟関係”に近いような形。自分が考えるライターの理想像に重なるような個人の近くで、その人の仕事の仕方やスキルを学び、経験を蓄積することができます。

2つ目は先ほどお話ししたように、自分の志向性に合うビジネスをやっている企業で仕事をして経験を積む、というやり方。余力があれば、副業でライターとして仕事をしてもいいかもしれません。

本業での仕事はマーケティングだったり、広報だったりすると、ライティングと相性がいいかもしれませんね。企業で経験を積んでいたり、専門性を身に着けていたりすると、ライターで仕事をする際の武器になりやすい。実際に、企業での勤務経験を活かしながらフリーライターとして活躍している人もたくさんいらっしゃいますから。

どちらの道を取るにせよ、ライティングは「個」にレピュテーション(評判)を貯めやすいスキルです。将来、ライターとして仕事をしていきたいのであれば、「個としての価値」をいかにストックしていけるかという観点がとても重要だと考えています。

ーー「個の時代」を生きるライターに必要なのは「書く」スキルだけではない。このチャンスを掴むことが、ライターのキャリアアップにとって重要な鍵なのですね。
はっとさせられたと共に、ライターである私自身の仕事のあり方も見直さなくてはと思いました。

企業プロフィール

inquire Inc.
「社会OSをアップデートする」がミッションの編集デザインファーム。よりよい社会を目指してメディアやコミュニティを編集する他、社会変容の媒介となるべくパートナー企業とメディアコンテンツの共創を行っている。

ブランド

UNLEASH
「しなやかな社会をつくる」をテーマに、ビジネス、テクノロジー、デザイン、文化、持続可能性など領域を横断しながら小さな革命の瞬間を伝えていくメディアプロジェクト。
sentence
「書く」と共に生きる人たちのためのコミュニティ。ライティングや編集などをテーマに、オンラインでの交流やイベント、講座の開催などを行っている。

取材・ライティング:佐藤由佳/撮影:TAKASHI KISHINAMI/企画・編集:大沢愛(CREATIVE VILLAGE編集部)