注目企業の中の人によるコラム
株式会社ディー・エヌ・エーの第2回目は、『Anyca』の元アートディレクター飯島さんによる、サービスの課題を解決するためのデザインとはどうあるべきか、についてのお話です。

新規プロジェクトが立ち上がる際、開発が進んでいく渦中でデザイン迷子にならぬよう、プロジェクト開発の初期段階から、事業担当者を巻き込んだチーム内でサービスやデザインの共通認識を持つことが重要だと思っています。

このコラムでは、株式会社ディー・エヌ・エーが運営するCtoCのカーシェアリングサービス『Anyca』で、過去にアートディレクター兼デザイナーを担当した私、飯島征士(いいじま・こうじ)が『Anyca』立ち上げ期に大切にしてきたことをお話します。

「お客さまにどんな印象でサービスをお届けしたいか」を言語化する

『Anyca』初期フェーズの頃のお話をします。
『Anyca』は、“CtoCのクルマのシェアリングサービス”というサービス内容が決まっている以外、具体的なことは決まっていませんでした。
まずは、事業責任者とエンジニアと私ともう一人のデザイナーで「お客さまにどんなサービスをお届けしたいか」を言語化していきました。具体的には、メンバー同士でディスカッションをして、その中でもっとも重要だと思うものを単語レベルで抽出し、最終的には以下の5つのキーワードを決めました。

1つ目は「クルマのサービス」

2つ目は「男性寄りのサービス」
サービスの特性上、メインターゲットは男性、ただし、女性を排除するのではなく。どちらかというと男性寄りであるというニュアンスを大切に。

3つ目は「新しいサービス」
CtoCのカーシェアリングは当時の日本では馴染みの薄い存在。新しい体験ができる印象を届ける。

4つ目は「品質のよいサービス」
馴染みの薄いサービスだけに、お客さまが利用を検討する際に不安を抱く可能性は高い。だからこそ、その印象を払拭するためにもいい加減なサービスに見えないように。

5つ目は「今までよりも安く使えるサービス」
レンタカーやBtoCのカーシェアリングサービスと比べて、安心感はそのままに、より手軽にご利用いただけるという印象を浸透させる。

つまり全体の方向性としては、手頃な値段だけれど、チープではなく、安心感のあるサービスであること。この方向性からブレないように、デザインを決めていきました。

お客さまの不安をデザインでいかに払拭するか

出典:https://anyca.net/

5つのキーワードの中でも特に「品質のよいサービス」という印象をお客さまに持っていただくにはどうすればいいのかは、慎重に検討しました。

CtoCのシェアリングサービスは、「トラブルの際、安心して利用できるのか?」というような、他人のクルマを使用することに対しての不安がある。いい加減な運用をしているという印象を持たれると、瞬時に使われないサービスになってしまいます。

お客さまの不安をデザインでいかに払拭できるか。事業メンバーでいろいろと議論した結果のひとつのが、“お客さまにご登録いただくクルマの写真の質を担保する”ことでした。

『Anyca』では、お客さまが所有されているクルマの写真がアプリやWebサイト上にずらっと並びます。つまりは、そのクルマがサービスにおいての顔になります。

そこでお客さまのクルマをご登録いただくときに、お客さま自身のクルマをプロのカメラマンが無料で撮影するようにしました。そうすることで、アプリやWebサイトを見ていただいた時、お客さまが感じる最初の印象が「品質の良いサービス」になる可能性があると考えました。

当然、サービスの開発時期ですので、リソースは潤沢ではありません。しかし、「品質のよいサービス」という印象をお客さまに届けるという、プロジェクト全体の共通認識を開発当初に決めたおかげで、実現できたことのひとつだと思います。

アートディレクターがデザインの水準を下げてはいけない


プロジェクト内で質の高いデザインを担保するという点で、心掛けていたことがあります。
デザインの最終責任者である私自身がデザインの水準を下げないことです。

これは、単にデザインに対して妥協しないということではなく、「チーム内でプロジェクトを“スケジュールに沿って円滑に進めることだけ”を最優先にしてデザインを判断しない」ことを意味します。

仮に、自分では「なんだかしっくりきていない」「もう少しやればよくなりそう」という状態でチーム内での合意が取れてしまった時、これをそのままの状態で進めてしまわないよう、その基準はデザイナーがしっかりと担保しなければならないと思っています。

デザインについて、チームの中で最も高い基準を持っているデザイナーがその基準を下げてしまうと、結果的に質の低いものが世の中に出てしまいます。それは誰にとっても幸せなことではないので、その”基準”をしっかりと磨き、崩さないことがデザイナーにとって重要な役割だと考えます。

そうして私自身の意識をつねに高い水準に保つと同時に、チーム内のデザイナーの水準も私が持っている水準に引き上げることを意識しました。

『Anyca』のデザイナーは、初期段階では私ともう一名の二人のチームでした。二人は同じタイミングでプロジェクトに参加しているので、プロジェクトやデザインの方向性が決まっていくプロセスも知っています。そのおかげでデザインの共通認識は持てていました。

しかし、共通認識を持っていてもアウトプットのズレは発生します。その際は、必ず意図を沿えてフィードバックを返していました。最終的に互いが納得するまで丁寧なフィードバックを繰り返したことで、アウトプットのズレは減っていき、『Anyca』のデザインが完成していったように思います。

デザイナーの役割は、デザインによってサービスを成功させること


デザインの水準を下げないという一方でリソースは有限であり、事業として、制作物の重要度によって優先順位をつけなければいけないことも当然あります。例えば、「(一概ではありませんが)ごく限られたお客さまの目にしか触れない」ものは、事業への貢献度という点では相対的に優先度は下がります。それは、イコール使う時間をコントロールするということでもあります。そこで「理想のサービスを体現する上で妥協してはいけない」ものは何かを考え、それを追及するためにも、各制作物に優先順位をつけていきました。

サービスを担うデザイナーとしては、全ての制作物に対して全力を尽くしたいし、そうすべきだと思っています。ですので優先順位をつけることへのもどかしさを感じることもあります。しかし、同時に事業におけるデザイナーの役割は、“デザインによってサービスを成功させること”だと思うんです。

「なんとなくいいデザインができて良かった」と考えるのではなく、この制作物は「誰に向けたものなのか」「何を訴求したいのか」を理解し、どのようなデザインであれば、その目的を達成できる最短距離を取れるのかを考え続ける。『Anyca』のチーム内では、この視点を大切にしてきました。

こうした視点や認識を、開発にかかわるすべての人で共有することが、サービスを成功へと導く鍵になるのだと思っています。


1999年創業。ゲームやエンターテインメント、Eコマース事業を始め、近年ではオートモーティブやヘルスケア事業、野球やバスケットボールといったスポーツビジネスまで幅広く展開する。
“インターネットやAIを活用し、永久ベンチャーとして世の中にデライトを届ける”を長期の経営指針として掲げる。
http://dena.com/jp/