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話題番組を多数手がけるテレビ東京プロデューサー・工藤里紗さんに聞く テレビというメディアで今こそ大事にしたいこととは……?

女性に役立つリアルな情報だけを集めた深夜バラエティ『極嬢ヂカラ』や、恋愛やセックスについて赤裸々に描いた原作マンガ『アラサーちゃん』を壇蜜主演でドラマ化した『アラサーちゃん 無修正』など、今までのテレビの常識から一歩踏み込んだ番組を多数手がけ常に注目を集めるテレビ東京プロデューサー・工藤里紗さん。決して“過激さ”をウリにするのではなく、“自分達が主体的にどうしたいか”を大事にした番組作りで視聴者からの共感を集めています。

現在は月〜金曜日の帯番組『昼めし旅〜あなたのご飯見せてください〜』やゴールデンタイムの情報バラエティ『ソレダメ! 〜あなたの常識は非常識!?〜』などを手がける工藤さんに、テレビ業界に入ったキッカケや番組制作にかける想い、クリエイターへのアドバイスなどを伺いました。

“悩んでるのは私だけじゃない”と思える番組を目指して

私がこの仕事に就いた最初の原点は、幼い頃からよく観ていた映画でした。特に好きだったのは小学生の時にレンタルビデオで見た『ダンス・ウィズ・ウルブス』。主演のケヴィン・コスナーが監督も務めたメイキングが収録されていて、「映画ってこうやって作ってるんだ、かっこいいな」と思い自分もやってみたくなったんですよね。
最初のキッカケは映画でしたが、とにかくまずは映像制作の現場に入りたいと思い、就職活動ではテレビ局、映画会社、広告系など幅広く受けました。最終的に映画会社から内定を頂いていたものの、営業や興行など制作とは離れた部署に配属される可能性があったので、最初からクリエイティブ採用で制作現場に携われて、社風も自分に合っていると感じたテレビ東京に入社しました。学生時代にいち視聴者として観ていたダンス番組『RAVE2001』やファッション情報に特化した『ファッション通信』をはじめ、テレ東の“ひとつの世界を掘り下げて向き合う”番組がとても好きだったんです。

入社後はADを経てディレクターとしてバラエティや歌番組などで経験を積み、初めて自分で通した企画が『極嬢ヂカラ』という女性向けの深夜情報バラエティでした。
番組ではセクシャルな内容を扱うことも多かったので、男性からは「エロいね」と言われることもあったけれど、“エロさ”を狙っていたわけではなかったんです。バラエティというエンターテインメントを通して人がちょっと生きやすくなったり、「悩んでるのは私だけじゃないんだ」と思える情報を発信したかった。例えば特番時代は東京に住むレズビアンカップルに密着し、「マイノリティ」と言うと堅くなりますが「こういう生き方もあって、いろんな人がいるよね」、という“自分と違うこと”を受け入れられる世の中になったらいいなという思いを込めて編集しました。
この思いを胸に番組作りを続けている中で、東日本大震災がありました。一斉に各メディアでは自主規制の雰囲気が強くなっていた時期に、被災した女性から「いつも楽しみに見ています」とお手紙を頂いたんですね。その中には「避難所の体育館に生理用ナプキンが足りなくて大変なんですよ」などとリアルな情報も書いて伝えてくれていて。すごく困っているんだけれども、極嬢ヂカラのような女性ならではの番組を楽しみにしてくれているのが伝わってきて本当に嬉しかったです。
また、現在はだいぶ定着してきた“ブラジリアンワックス”や“アンダーヘアケア”を当時おそらく日本で先駆けて特集しまくっていたのですが、昨年「極嬢ヂカラを見て感銘を受け可能性を感じ、ブラジリアンワックスのお店をオープンしました」という方に出会いました。番組が人を勇気づけ、人生に影響したんだと実感でき、番組作りへの思いが報われたような気持ちでしたね。

ジャンルは関係なく最も伝わりやすい手法で柔軟に制作

その後もバラエティ、ドラマ、音楽と様々な番組に携っており、ジャンルは特に固定されていません。他局では制作内でもある程度ジャンルが固定されていることが多いので、人に話すと「おかしな会社だね」と言われることもあります(笑)。弊社はジャンルやセクションからスタートするよりも、“何をどう見せたいか”というコンセプトありきで動いている部分があるので、プロデューサーとしてもその時にいちばん伝えたいことを最も伝わりやすい手法で柔軟に制作することを心がけています。
現在手がけている番組のひとつは月〜金曜日のお昼に放送中の『昼めし旅〜あなたのご飯見せてください〜』。様々な場所へ旅に出て、その土地や人ならではのお昼ごはんを紹介しています。この番組の開発にあたり、そもそもは私の義母が「今日は500円のローストビーフランチがとてもおいしかった」などといつもランチの話をしているのが印象に残っていました。特に60代以降の世代の方の“ランチ”って心踊るものがあるんだなと感じていたんです。ただ、普通にニューオープンしたパンケーキ屋さんを特集しても他番組と同じようになってしまうから、ウチは飾らず、生活に密着したランチを紹介してみようと。素人の方の日常のランチを通して感じ取るものや、見えてくる人となりを描いたらおもしろいかなと思い試したら鉱脈があり、レギュラー化したという流れです。
飲食店のランチ紹介ではないので、グルメ番組のような情報性は薄いかもしれません。でも、30代を過ぎてくると特に、お昼ごはんを通して “人生いろいろあるな”というドラマが誰しも見えるんですよね。家族の問題や仕事でのトラブルなど、演出されたドラマではない“等身大の人のある1日のランチ”という人生の1ピースをみんなで見て、例えば「そうだよね、お母さんの介護をどうするかで兄弟バランスが変わっちゃったみたいなことってあるよね、自分の家だけじゃないんだ」とか、見た人の頑張れるキッカケになれたらと思ってやっています。取材でロケに行くと皆さん快くお家にあげてくださって、雨の日にロケをしていたら着替えやスタッフのごはんまで用意していただいたこともあり、いつも人の温かさをありがたく感じています。取材をしているとどうしても “(取材)する側”と“される側”で上下が生じやすいんですけれど、この番組ではみなさんとの交流を通してフラットに向き合えていることが喜びでもありますね。

また、もうひとつ手がけている『ソレダメ! 〜あなたの常識は非常識!?〜』は、日常生活に潜む意外と知らない間違いを、実証実験などを交えながら紹介する番組です。切り口は違いますが『昼めし旅』と同様、生活に身近なことを扱うというのを大事にしています。例えば「卵はこうやってむくと簡単だよ」という便利情報のような、生活動線の中で使えるネタですね。そして、他局の裏技番組やネットに溢れているそういった情報と差別化するために、導入や裏付け、検証をしっかりすることが念頭にあります。さらには、演出の武島義之さんの見せ方として、子どももお年寄りも見ている時間帯なのでVTRもテロップもできるだけ大きくシンプルにしています。ただ情報を紹介するだけでなくスタジオの出演者さん同士の仲良しな空気感も合間で伝えていけるようにすることで、この番組ならではのカラーが出る工夫もしています。

影響力が大きいメディアだからこそ大切にしたいこと

私が今まで作ってきた番組は見た目が全然違うんですけど(笑)、根本部分で大事にしたいことや苦労する点は同じなんですね。
『極嬢ヂカラ』や『アラサーちゃん 無修正』などは、エッジが効いていてヴィジュアル的には過激に見えるけれど決してエロい気分にさせたいわけではない画作りをしました。どの番組でも男性と女性の立場に上下があるような見せ方は必ず排除し“自分達が主体的にどうしたいか”を伝えることに重きを置いています。例えば極嬢だったら自分が生理に困っているから世界中の生理用品を集めてどれがいいか検証する。アラサーちゃんだったら“ヤる”“ヤラない”というワードではない言葉を使う、とかですね。

『昼めし旅』であれば、突然お家にお邪魔してお昼ごはんを見せてもらうという不躾な番組ではあるんだけれど、放送では見えないところでどうフォローするか、取材させて頂いた方たちとどう向き合うかというデリケートな部分をスタッフに徹底しています。私達にそういうつもりがなくても、取材した相手が失礼と感じたり、テレビが高圧的だと感じられてしまう応答をしているスタッフがいたら、厳しく注意しますね。
大前提として、誰かを傷つけるようなことはしない。誰かの立場がすごく下に見えるような演出もしない。一瞬過激には見えても、密かにこういったことをとても大切にしています。
特にテレビをやっていると「だからテレビは」とネットで批判されることがたくさんあって。それはどうしても何かのフィルターを通された意見のみを発信しているように見えてしまったり、テレビ局側もいろんな角度からの見られ方を気にしすぎて発信している部分があるからなんです。でも、私は会社として負う責任が大きいからこそ今まで取材や編集でカットしていた側面を見せていくことにチャレンジしたいなと思うんです。

6/19-23は「昼めし旅 この夏行きた~いニッポンの離島SP」を放送。 フィギュアスケーター村上佳菜子は父島へ。

6/19-23は「昼めし旅 この夏行きた~いニッポンの離島SP」を放送。フィギュアスケーター村上佳菜子は父島へ。

自分で番組制作を始めてから、特に「多様性」というテーマとずっと向き合ってきました。多様性といっても男女、子ども、人種、宗教などだけじゃなくて「意見の多様性」を重視していかないと、という危機感を持っていて。今後は今以上にテレビが世間に与える影響力にあぐらをかかずに、いろんな角度からのものの見方の多様性を見やすい形で発信していきたいですね。そうしないとテレビの未来の可能性が減ったり、逆に国民全体のリテラシーも育っていかないなという責任も感じます。だから誰かが勝負をしなくちゃいけないと思っていますね。

6/19-23は「昼めし旅 この夏行きた~いニッポンの離島SP」を放送。フィギュアスケーター村上佳菜子は父島へ。

6/19-23は「昼めし旅 この夏行きた~いニッポンの離島SP」を放送。フィギュアスケーター村上佳菜子は父島へ。

クリエイターはスタートダッシュの時期が勝負

クリエイターってすごく面白い仕事だと思うんですよ。お酒を飲みに行っても恋愛をしても、仕事でクビになるくらい失敗をしたとしても全部ネタにできる。なので、いつもの生活やルーティーンからさらにもう一歩だけ外に出て自分の枠を拡げると、それが必ず制作に活きてくるはずです。いつも同じ人と飲みに行ってるならもっといろんな人と接するようにしたり、お家デートばかりじゃなくて行ったことのない場所に出かけてみたり。私自身もそういうことを意識して生活しています。

そして、これからクリエイターを目指す方は特に、スタートダッシュで頑張ったほうがいいです。1年目が一番辛いと思いますし、私自身もそうでした。上から指示されたことをやってるだけなのに、慣れなかったり緊張し過ぎてストレスがたまったりして。でも、最初に頑張っておけば早めに自分のやりたいことに辿り着けるんです。今はますます機材の技術も進化しているので、最初にぼーっとしていると進化に追いつけなくもなる。だからなるべく最初から積極的に手を挙げて、仕事を掴みにいく姿勢を見せていけば、そのうち収入にも反映されていくはずなんですよね。ハードワークで寝られなかったり帰れないのが辛いからといって、ただ言われたことを平均点くらいにこなして怒られないように働いていると、同じ状態が何年続くかわからない。だから独り立ちできるまでは早めに一歩抜ける努力をしておくと、後々自分の選択肢も拡がっていくと思います。

番組情報

『昼めし旅〜あなたのご飯見せてください〜』

テレビ東京系列
月曜日~金曜日 11:40
公式サイト:
http://www.tv-tokyo.co.jp/official/hirumeshi/


『ソレダメ! 〜あなたの常識は非常識!?〜』
公式サイト:
http://www.tv-tokyo.co.jp/sore_dame/

工藤 里紗(くどう・りさ)

株式会社テレビ東京 制作局CP制作チーム主事
慶應義塾大学環境情報学部卒。2003年に入社後、バラエティ、音楽番組、ドラマと幅広いジャンルで活躍し、『極嬢ヂカラ』『アラサーちゃん 無修正』などヒット番組を多数手がける。映画『ぼくが命をいただいた3日間』では監督を務める。現在は『昼めし旅〜あなたのご飯見せてください〜』や『ソレダメ! 〜あなたの常識は非常識!?〜』などの演出・プロデューサーを務める。

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