今回は、2022年7月7日にオンライン開催された、「Designer’s talking vol.1 デザイナーが第一線で活躍し続けるために必要なものとは? デザイナーのキャリア形成の今とこれから」のイベントレポートをお届けします。

この記事で得られる学び

  • キャリア形成をするうえで重要な考え方
  • 自分の価値の見出し方
  • “壁”にぶつかった際の切り替え方

1.Designer’s talking vol.1 デザイナーが第一線で活躍し続けるために必要なものとは? デザイナーのキャリア形成の今とこれから

「Designer’s talking」では、第一線で活躍するデザイナー同士が、クリエイティブに対する考え方やキャリアについて語り合います。第1回は、AlphaDrive/NewsPicks CreativeDirector/ArtDirector の村木淳之介氏と、株式会社コンセント 取締役/デザインマネージャー/サービスデザイナーの大崎優氏にご登壇いただきました。

2.登壇者プロフィール

村木 淳之介(むらき じゅんのすけ)氏
AlphaDrive/NewsPicks(ユーザベースグループ)
CreativeDirector/ArtDirector
東京造形大学卒業。広告制作会社にてデザイナーとしてキャリアをスタート。主にマス広告のグラフィックデザインを手掛ける。2019年9月よりNewsPicksに参画。2020年1月からはAlphaDriveにおけるクリエイティブも兼務。ビジネスにデザイン思想を組み込んだ、事業成長や組織活性に紐づくクリエイティブの創出に従事する。

大崎 優(おおさき ゆう)氏
株式会社コンセント
取締役/デザインマネージャー/サービスデザイナー
武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。2004年株式会社アレフ・ゼロ(現株式会社コンセント)に入社し、2015年より株式会社コンセント取締役を務める。デザイン経営支援、事業開発支援、ブランディング支援などを行う。2012年にサービスデザイン事業部を立ち上げ、デザイン人材の育成にも携わる。コンセント Design Leadershipメンバー。

3.キャリアアップと同時にステークホルダーも拡大 「考える領域」が広がりデザイナーとしても一気に成長

村木 今回は「Designer’s talking」ということで、私から大崎さんにラブコールを送る形で対談の機会を設けていただきました。本日はよろしくお願いします。

大崎 ラブコールありがとうございます。こちらこそ、よろしくお願いします。今回の対談はお互いのキャリアを見ながら進めるということで、それぞれライフチャートを作ってきました。せっかくなので村木さんからお話しいただけますか?

村木 ありがとうございます。下の図が私のライフチャートになります。

村木氏のライフチャート

村木 今回は私の肩書とステークホルダーをベースにして作成しました。これを見ると、大学を卒業してから「広告制作会社」→「スタートアップの事業会社」→「メガベンチャー」→「AlphaDrive/NewsPicks」と4つのキャリアを歩んでいることがわかると思います。

一つ目のキャリアはデザイナーとして始めました。その時のステークホルダーは「他社」「アートディレクター」となっています。その頃は大企業の優秀なアートディレクターから言われたものを、寝ずに作ることに徹していたからです。

一方、二つ目のキャリアに入ったときは、ステークホルダーがすごく増えました。今までは指示を受けてものを作っていたのですが、自社のブランディングをやり始めたときに、ビジネスサイドや自社のコーポレートチームなどと連携するようになったからです。キャリアを積むにつれ、自分の求められていることや視野はどんどん拡大していきました。

大崎 村木さんはステークホルダーを軸にライフチャートを作成していますよね。ステークホルダーが村木さんのキャリアやデザイン観に大きな影響を与えているのでしょうか?

村木 それはありますね。先ほども少し触れたように、ステークホルダーが広がったことで自分の「考える領域」はどんどん拡大してきました。

たとえば、CFOが私の上長になったことがありました。CFOはいわば財務などを「数字で追っている」というタイプの方だったので、感性重視のクリエイターとは”真逆”のタイプだったんですね。なので、「デザインにこれだけ予算がかかる」という問題についても、ちゃんと説明しないとまったく響かないんですよ(笑)

でも、「真逆の考えを持っている方にデザインの価値を伝えることが、デザイナーとしての価値を上げることなんじゃないかな」という思いも同時に芽生えました。なので、デザインについて説明するときは、その人に刺さりそうな言葉を選ぶように努力しました。その結果「考える領域」が広がって、大きく成長できましたね。

4.デザイナーと経営者。両方のキャリアにより迷いが消え、「デザイン×経営」という自分の市場価値も明確に

大崎 続いて、私のライフチャートをご覧いただければと思います。私は、武蔵野美術大学卒業後、アレフ・ゼロ(現コンセント)に入社。エディトリアルデザイナー、グラフィックデザイナーとして下積み時代を過ごしました。

大崎氏のライフチャート

大崎 その後プロジェクト責任者になり裁量を持ってから、それまで以上に毎日成長を実感しながら仕事ができるように。費用の見積もりやクライアントとの交渉事をするうちにデザインビジネスの限界を感じることもありましたが、サービスデザイン事業部の立ち上げ、役員就任などを経て経営者としての覚悟がついてきました。また、それと同時にデザイン×経営」という、自分の市場価値が明確になってくる……という経歴をたどっています。

村木 チャートの縦軸が「充実度」となっていますが、デザインビジネスの限界を感じてから取締役になるまでの情緒の波がすごいですよね(笑)

大崎 この時期は、エディトリアルデザイナー、グラフィックデザイナー、Webデザイナー、プロデューサー、サービスデザイナーと、複数の職種を兼任している時期でしたからね。特に、サービスデザイナーの職種を経験する際には、ビジネスへの理解が必要でした。私達の仕事は事業開発に関するものが多かったので、とりわけ「事業開発とは何か」という理解は欠かせませんでした。

さらに、2010年代初頭はデザイン業界の変革期で、当時はまだデザイナーが事業開発を支援するのは珍しかったんですね。そのため、社員に仕事の流れを教える必要もあり、この時期は本当に混とんとしていました。

村木 でもコンセントの取締役になってからは、情緒の波が穏やかですね。これは、自分の社会的な役割を理解できるようになったから、ということでしょうか。

大崎 そうですね。この時期はデザイナーでもあり取締役でもあったので、自分の中では「会社の経営をしっかりしなきゃいけない」と意識していました。経営者としての意識を第一としていたため情緒が安定していたのかもしれません(笑)

しかし、決してデザイナーとしての自分をなくしたわけではなく、経営者としての意識を持つがゆえに、デザイナーとしてのキャリアも見えてきました。つまり、“迷い”が消えて吹っ切れたのがこの時期だと思いますね。

5.質問コーナー

Q.仕事をするうえで大切にしていることは何ですか?

村木 私は「自由」です。
たとえば何かプロジェクトを始めるとき、決まった型の延長線上で新しいことができないかを考えたり、提案したりできるかをすごく大切にしていますね。

大崎 私は「自分が学びたいことを基軸に置く」ということですね。
現在は「デザイン経営」が日本の社会において重要なテーマだと考えていて、そこを自分がやりたい、追求したいと思うからこそ仕事にしているところがあります。
学びたいテーマに関する発信を増やし、それに共感してくださった方と仕事をするという感覚を大事にしています。

Q.クライアント様との飲み会といった仕事上のお付き合いと、自分や家族との時間のバランスに悩んでいます。

大崎 私はクライアントと飲みに行くのが好きなので、機会があれば行くようにしています。
社外の方やデザイナーではない方との交流は勉強になりますし、これまでを振り返ってみてもクライアントに育てていただいたという実感があるので、断ることはほぼないですね。

ただあまりに頻繁だとさすがにきついので、その場合は時期をずらすようにしています。
1~2か月先で調整したりしながら、バランスをとっていますね。

村木 私の場合は自分の意志を貫くことにしているので、自分が行きたければ行きますし、家族の時間を大事にしたければはっきり断ります。

どちらを選ぶにしても、「自分の中で何が大事か」を理解することが大切だと思います。
自分の価値観は案外自分だけで考えてもよくわからないものだと思うので、試しにチームメンバーと一緒に「それぞれの大事にしている価値観」を確かめ合うワークショップを行ってみるのはどうでしょうか。
他者と比較したりエピソードを交えて伝え合ったりしてみると、本当に大切にしているものが見えてくると思います。

Q.デザイナーの方向性は、「マネジメント」か「スペシャリスト」選択するべきですか?

大崎 必ずしも、「マネジメントかスペシャリストか」の二元論で考えなくてもよいのではないでしょうか。なぜならデザインする対象が複雑になった現在では、人の動きを方向づけ、集団でデザインの成果を上げる行為そのものが、デザイン技術の一部であると言えるからです。さらに、専門職として突き詰める価値が時代の流れで変わってくることもあり、キャリア形成の上でリスクが高くなってしまいます。ですので、マネジメント“かつ”スペシャリストであることが大事だと思っています。

村木 私も基本的には同じ考えです。NewsPicksでは、違った個性、違った価値観の人が集まって唯一無二のブランドを作り上げることを目指しています。「スペシャリストはこういうもの」と一軸で決めるのではなく、それぞれの「エッジを伸ばす」ことを非常に大事にしています。

6.テーマで議論

ものづくりへのこだわり

村木 私は「最高のメンバーと最高のものを作りたい」という気持ちが強いです。なので、インハウスデザイナーとしては珍しいのですが、外部のディレクターなど、できるだけ外の人と仕事をしたり、企画に合った人を探して一緒にものづくりをしたりして、新しい創造性を育むことが多いですね。これまでの成功体験を捨てて、つねに「さらに成長してもっとすごいものを作るぞ!」という気持ちでいます。

大崎 私は「デザインは目的ではなく手段」と考えています。「誰かの行動を変える」「誰かを幸せにする」という目的を第一にしているため、ものづくりそのものには自分のこだわりは持たないようにしています。一方で、ものづくりをする中でどうしても出てしまう自分の色や考え方、というのがありますよね。それが個性だと思いますし、武器にもなりうると思います。そういう武器は大事にして、ものづくりをしていくことを心掛けています。

デザイン組織の「在り方」

大崎 経営者としてコンセントの経営を考える上でも、クライアント企業への支援の上でも、求める結果が出せるよう組織を設計していくことを重要視しています。なので、属人性よりはベースとなる技術を大事にしたり、デザイナーがキャリアを設計できる組織を作ったり、ということを大事にしています。

一方、自分の価値観を出すこともこれからは大事になってくると思います。デザインの対象が、社会の中でどんな意味・意義を持つのか自分個人の主観で規定されることもあるからです。なので、属人性を標準化することと、属人性を強化することのバランスを、組織の中で作っていくことを大事にしたいですね。

村木 私はコンセントの考え方はいつも参考にしています(笑) セミナーに参加されている方には、ぜひコンセントさんが経済産業省と出している、「高度デザイン人材育成研究会 ガイドライン及び報告書」をご一読いただきたいと思います。

こちらには、デザイナーとしての一人ひとりの価値として必要なスキルや、組織の中に入ったときに必要なことがまとめられています。自分のキャリアはもちろん、チームメンバーとの関係を築くうえでも役立ちますよ。

これからの時代におけるデザイナーのキャリア

村木 デザイナーとしての一番の強みは、思考力・発想力だと思うので、大切にしてほしいです。創造性のあるサービスを生み出すとき、新しい思考力・発想力のある人は重宝されます。自分なりの思考・発想ができるようなトレーニングをして、ほかとの差別化を図りながらキャリアを積んでほしいです。

大崎 デザイナーのキャリアでは、自分が何であるかをつねに「自己点検」し、補正をかけていくことが大事だと思います。世の中の要請をキャッチし、柔軟に向き合うことも必要でしょう。それを踏まえ、社会のために何ができるかを考えながら、自己を表現していってほしいです。

7.まとめ

デザイナーは、ただ「デザインする」だけでなく、時代のニーズに向き合うことや、自身の思考と向き合うことが非常に大事であることが、お二人の対談でわかりました。今回のセミナーが、デザイナーとして何ができ、何をしていくべきか見極めるための道しるべとなれば幸いです。