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ドキュメンタリー『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』の豊かさを松谷光絵監督と鈴木ゆかりプロデューサーに聞く

アメリカを代表する絵本作家の1人、ターシャ・テューダーをフィーチャーした生誕100年記念のドキュメンタリー『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』を手掛けた松谷光絵監督とプロデューサーの鈴木ゆかりさん。ターシャ・テューダーといえば、「コーギビルの村まつり」など数多くの児童書のベストセラー作家であり、野趣溢れる美しい庭と動物に囲まれた独自のライフスタイルを送った“スローライフの母”としても多くの人々に愛されてきました。テレビ番組製作時から映画化に至るまでの10年間、二人三脚でターシャを取材してきた松谷監督と鈴木プロデューサーにインタビューし、本作の撮影秘話や、今の時代だからこそ問いたいドキュメンタリーの魅力について話を伺いました。

魅力的な被写体を見つけたら果敢にアプローチ

鈴木ゆかりプロデューサー

鈴木ゆかりプロデューサー

鈴木 松谷監督といっしょに世界のガーデニングの企画をテレビでやっていて、みなさんがそれぞれの国の文化、個性に合った素敵なお庭を作っていらしたので、その流れでターシャさんの番組の企画を提案したのが始まりです。ただ、ターシャさんの庭は、今まで見たことのない独自のものでした。香りも独特だし広いし、人工的な目印がないので位置関係もつかめない。あそこだけは特別な空間でした。その時、暮らしていた人はターシャさんだけで、この方がひとりで作ったのかと思ってすごく感動しました。

松谷光絵監督

松谷光絵監督

松谷 精魂込めて庭を作っている人を取材すると、その庭には作り手の生き方や価値観みたいなものが直接反映されているのを感じます。もちろんターシャさんに限らず、これまで取材したみなさんも独特の世界を作り上げたアーティストで、お庭の完成度も高かったです。ただ、ターシャさんの場合は独自の道を行く方で、マスコミが嫌いという話だったので、アポイントメントを取ること自体が大変でしたし、こちらがやりたいこと、向こうがやりたくないことのせめぎ合いがかなりありましたよね。

鈴木 最初にターシャさんに会いに行った日の緊張感は忘れられないです。もしダメだったらどうしようかと。有名な方だったら他にも映像があって、そういう素材を使って何とか番組を作る方法もあったと思いますが、企画を通す段階で「私たちが撮らなかったら、日本でターシャさんを撮った映像はないです」と断言して始まったこともあったので。

初対面の日、よき撮影ができますように、と期待を抱いてカメラを持って行きましたが、コーディネーターの通訳の方もすごくシビアだったし、窓口となったセスさんという息子さんも無表情で、本当にぎくしゃくした感じでした。最初から「何時間も撮影なんて絶対にできない」と言われてしまったし。それでとりあえず庭へ行ったら、ターシャさんがジョーロをもってひょいと出てきて「今から水を撒くけど、撮影する?」と言われたんです。それで「します!」と即答しましたが、そこでいきなり撮影させてもらえたことが良かった感じです。

結局、午前中に少し撮影した後、ターシャさんから「午後はお友だちとお茶をするから」と言われたので、ランチを取ってからまた戻ったんです。そのお茶をする様子も撮れたらと思っていたんですが、実はそのお友だちというのが私たちのことだとわかって。午後に少し撮影してからおいしいお茶も出していただきました。

(c)2017 映画「ターシャ・テューダー」製作委員会

(c)2017 映画「ターシャ・テューダー」製作委員会

松谷 ターシャさんはすごく謙虚な方でした。素晴らしい言葉を残されていますが、実はカメラが回っていない時にポツリとおっしゃられることが多くて。「私は自分のやりたいように好きにやっているだけ。誰かにいいことを言うなんてことは私らしくない」とも言われていました。「みんながターシャさんのことを尊敬しているし、お話を聞きたがっています」と言っても「いやいや」と断られるばかりで。とてもナチュラルな感じの方で、だからこそああいう言葉が生まれてくるんだと思いました。

被写体へのリスペクトの念と距離感に対する葛藤について

(c)2017 映画「ターシャ・テューダー」製作委員会

(c)2017 映画「ターシャ・テューダー」製作委員会

松谷 ターシャさんの撮影に関しては、今でも自分の中でいろいろと思うところはあります。気難しいところがある方だったし、自分が作り上げた王国のような場所は、本来人に見せることを目的とはされていなくて、大事にしているプライベートな空間なわけです。私たちはそこに入れていただくのだから、彼女が嫌だということはやらないようにして、彼女の見せたいものを撮っていくという作業でした。それはドキュメンタリーを作る上で果たしていいのだろうか?ある種、もっと戦わないといけないんじゃないか?と思ったりもしました。

たとえば普通の撮影なら、奥からヒキの画を撮りたい時「もう少しその場所で立っていてほしい」といったお願いをすることもあるんです。でも、当時90歳くらいの方に、カメラの都合でこうしろああしろとは言えませんでした。たとえ彼女が嫌がってもその画が必要だったら説き伏せてやるべきだったのかというところでは、やっぱり葛藤もありました。私のやり方が本当に正解だったのかはいまだにわからないです。

ただ取材対象であるターシャさんが見せたいもののなかに、私たちが見るべきものがたくさんあったというか、正直、見切れないほどあったので、その中で番組を作っていこうと思いました。もちろん「あの瞬間、あそこに立ってもらって、あそこから撮れば良かった」と思うことは100も200もありますが。

(c)2017 映画「ターシャ・テューダー」製作委員会

(c)2017 映画「ターシャ・テューダー」製作委員会

ドキュメンタリーということで私なりの視点が出ちゃいますが、今回はなるべくニュートラルに撮りたかったんです。今回「これがターシャさんのすべてです」とはとても言えない中で、ターシャさん自身が「答えは自分で見つけるしかないんだ」とおっしゃっていたとおり、この映像を観てひとりひとりが考えられることができる作品にしたいと思いました。それが私の一番の願いでしたね。ターシャさんの言葉を聞いたとき、それをどう受け止めるかということは、100人100通りであってほしかったです。

日常の中で輝く被写体を見つけること 信じていればいつかチャンスは訪れる

松谷 ドキュメンタリーといっても、私は緩いものばかりをやっているんです。社会を告発したり、問題点をクローズアップしたりして社会のひずみを見逃さないものは、確かにドキュメンタリーの主流です。でも私はそうではなくて、今回のターシャさんの庭もそうですが、実はとても良いものなのに自分たちが知らないことや、地味であまり脚光を浴びていないけど素晴らしいものをきちんと取り上げたいんです。その価値をちゃんと見つめ直したい。だから取材対象について対峙するとか、勝負するとかいうことではなく、もともと素敵だと思っているものの本質がどこにあるのか、なぜそこに惹かれているのかを自問自答するみたいな作業です。

でも、今から10何年か前は、テレビやドキュメンタリーはドラマティックなことや、普通の人が体験できないからこそ見せる価値があるという考え方でした。

鈴木ゆかりプロデューサー

鈴木ゆかりプロデューサー

鈴木 テレビはわかりやすいものを求めるんです。昔は特に、面白いか面白くないかの判断が、分かりやすいか分かりにくいかみたいなところにありました。私はそこに対して一石を投じたいというところがあったのかもしれない。でも、自分がいいと思ったものを信じてやっていくと、いつかそれが認められるチャンスがあるんだと今回改めて思いました。ターシャさんの映画も、10年間の時間の流れがあり、実際テレビを観てくださった方々の反響のおかげで映画化できたと思っているので、そこは心強かったです。

松谷 そうですね。以前やったテレビ番組が基になった映画を作ることができるような場が与えられたこと自体がすごいことだし、ありがたかったです。

監督とプロデューサーの出会いは大切 そして「記録」という本来の映像の力を信じること

松谷 監督をやっていて思うことは、とにかくいいプロデューサーを見つけることが大事かなと。現場の人間はがむしゃらに面白いことを信じてやっていけばいいけど、それが社会的になるかならないかについては、プロデューサーの手腕にかかっているので。

松谷光絵監督

松谷光絵監督

もちろん自分でプロデュースすることも大事だとは思います。やっぱり映像ってどんどん消費されちゃうので。今回、ターシャさんの作品は映画で復活できましたが、自分が伝えたいことや見せなくてはと思うものがずっと残っていくということが、本来映像で一番大事なところじゃないかと思っています。だから自分が消費物になってはダメです。

私はテレビという分野にいて、なかなか再放送もないし、通常1回限りのものを撮っていますが「もう1回観直してもらいたい」と思えるものをやっていかないといけないなと。今は世の中が近視眼的になっていると思います。明日結果が出ないことはもうやらないということではなくて、長いスパンで何を成すのかということを考えてやっていかないと。

映像とは本来そういうメディアであり、映像で記録することで時を経てももう一度問題提起ができるんだということを自分自身に言い聞かせています。もちろんそうなるために多角的な思考をしないといけないし、精査された時に強いものを作りたい。これからも映像の力を信じて頑張っていくということですね。

作品情報

『ターシャ・テューダー 静かな水の物語』
4月15日(土)、全国順次公開

Photo by Richard W. Brown

Photo by Richard W. Brown

【物語】
子育てを終えた56歳でアメリカのバーモント州の山奥に土地を購入し、そこに建てた18世紀風のコテージで92歳でこの世を去るまで自然に寄り添い暮らした、アメリカの人気絵本作家ターシャ・テューダー。“スローライフの母”として知られるターシャは、広大な庭で草木や花を育てながら、コーギ犬と共にここで静かに暮らしていた。このドキュメンタリーでは、これまでのターシャの足跡を振り返ると共に、おおらかでユーモラスな彼女のライフスタイルや、彼女が残した素晴らしい言葉を紹介していく。

監督:松谷光絵 企画・プロデュース:鈴木ゆかり
出演:ターシャ・テューダー他
配給:KADOKAWA

公式サイト:
http://tasha-movie.jp

松谷光絵(まつや・みつえ)

1983年に国際基督教大学卒業後、「わくわく動物ランド」や「世界まるごとHOWマッチ」など、テレビ番組の制作に携わる。その後、動物や自然のドキュメンタリーを数多く演出。鈴木ゆかりプロデューサーとは「素敵にガーデニングライフ 海外編」で出会い、その後「喜びは創りだすもの ~ターシャ・テューダー 四季の庭~」を手がけていく。2016年には映画『犬に名前をつける日』の構成を担当。現在、細川護煕氏、柚木沙弥郎氏のドキュメンタリー映画2作が進行中
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鈴木ゆかり(すずき・ゆかり)

1989年テレコムジャパン(現テレコムスタッフ)に入社。情報番組、紀行番組、スタジオバラエティー番組などさまざまなジャンルの番組を制作。主なプロデュース作品に「はじめはフツーの主婦でした~料理研究家の幸福のレシピ」、「喜びは創りだすもの~ターシャ・テューダー四季の庭」他ターシャシリーズ全作、「猫のしっぽカエルの手 ベニシアさんの京都・大原手づくり暮らし」(全てNHK)等。2013年には映画『ベニシアさんの四季の庭』(菅原和彦監督)をプロデュースし9万人を動員した

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