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映画「トモシビ」監督 杉山泰一さんの映画作りとは…助監督出身の映画監督として

2017年5月公開の映画「トモシビ」。関東の最東端を走るローカル線「銚子電鉄」にまつわる人々の奇跡を描いた、吉野翠の小説「トモシビ-銚子電鉄6.4kmの軌跡-」の映画化です。主人公の16歳の女子高生・杏子を演じるのは、今注目の若手女優、松風理咲。今作で日常の中に宿る人々の温かな思いを描いた杉山泰一監督に、映画づくりについて伺いました。

僕がつくるからには、こんな『トモシビ』に

原作者の吉野翠さんが、僕が監督した『の・ようなもの のようなもの』を観て推薦してくださったのが今作の始まりです。お話をお受けした時は、舞台は千葉の銚子電鉄で主人公は高校生の女の子……ということしか聞かされていませんでした。
後に原作を読ませていただくと3話のオムニバスで、主人公の一人は吹奏楽部。映画化するとなると、吹奏楽部と電車の組み合わせは画的に難しくて、もっと電車と高校生が密接になれる設定はないかと吉野さんと相談を重ねました。でもなかなか良い案が出ない。苦し紛れに「駅伝だったら走っている電車と高校生を同時に撮れるけど、どうです?」とポロッと口にしたら、「いいんじゃないですか!」とみんなが賛同してくれたので、高校生が電車と駅伝競争するストーリーになりました。
それを筋として、さらに “2014年に高校生たちがクラウドファンディングでお金を集め、脱線した銚子電鉄の車両を修復した”という実際のエピソードを背景に組み込んだんです。脚本の佐野さんが、原作の登場人物を彷彿とさせるキャラクターを散りばめて、一本の物語にしてくれました。

『トモシビ』は原作のある話だから、原作の空気感が大切です。そのうえで、僕がつくるのなら、日常どこにでもある風景を切りとることを大事にしたい。主人公と同じ高校生だけでなく、20代でも50代でもそれ以上でも……幅広い層の人に観てもらえる映画にしたかったので、それぞれの世代で経験する“思い通りにいかない恋愛”や“家族関係”などが描かれています。
とはいえ、日常のニュアンスだけを大事にしていると、いくらなんでも退屈です。だから“駅伝”というアクティブな要素で日常にドラマを作り、人間って本当は面白いんだなという面が見える映画を目指しました。

僕が映画をつくる時に日常を大事にしているのは、やっぱりそういう映画が好きだからでしょうね。好きな作品は、沖田修一監督の『南極料理人』や『滝を見にいく』、石井克人監督の『茶の味』といった、登場人物にとっての日常を描いたものなんです。実は今回の『トモシビ』で、夜の真っ暗な中を電車が走っていくシーンは『茶の味』から拝借しちゃったんですよ。

キャストの“今しかない魅力”を活かす

 © 2017 トモシビパートナーズ

© 2017 トモシビパートナーズ

主人公の杏子は16歳。まだ大人でも子供でもない微妙な年頃だということを一番大事にしたかった。演じた松風理咲ちゃんはまさに16歳で、今の彼女じゃないとできないシーンがたくさん詰まっています。映画って制約が多くて、たとえばフレームからはみ出しちゃダメというようなことは役者さんのストレスになってしまう。だから僕からは「このシーンではこんな気持ちだよね」という話だけして、テストもあまり重ねずに、自由に演じてもらいました。ちょっとした仕草や走る姿は、彼女が無意識にやったことが多いですよ。

© 2017 トモシビパートナーズ

© 2017 トモシビパートナーズ

ミュージシャンの植田真梨恵ちゃんも、良かったですね。実は、出演オファーをした段階では、彼女の演技は見たことはなかったんですよ。本人も芝居経験も1回しかないから、起用するにはすごく勇気がいりました。けれど本人が「新しい事にチャレンジしたい」とすごく前向きな姿勢だったので、「こういう子なら絶対芝居できる」と勘が働きました。初めは彼女の曲を歌うシーンはなかったんですけど、彼女のライブに行って「良い曲だな」「この曲はあのシーンで歌えるな」と想像が広がって、劇中で歌ってもらうことにしたんです。きっとお客さんも登場人物と同じように彼女の歌に心を奪われていくと思いますよ。
エンディング曲は、彼女が『トモシビ』のために作ってくれた書き下ろし曲です。詞も彼女なりにこの映画をイメージして書いてくれている。すごく独特な詞の才能がありますよね。

理咲ちゃんも真梨恵ちゃんも、よゐこの有野さんもあまり芝居経験がない。だけど周りはそれをカバーできる役者さんたちを揃えて、逆にその3人が立つように狙ってキャスティングしました。

映画における情景カットの効果

シーンが変わると、その終わりや始まりに情景カットを多数はさんでいます。夕日、線路、海……そんな情景カットって、映画やドラマでとても重要なんですよ。たとえば芝居のシーンでは撮影日の都合で曇っていたとしても、前後にすごく晴れた情景カットを挟むと、どんよりとした印象が残らず、明るい雰囲気になる。そうやって登場人物の心象風景を表現しているんです。
この情景カットを多用する手法は、僕の師匠ともいえる森田芳光監督(『の・ようなもの』『(ハル)』『失楽園』など)が得意としています。それをずっと傍で見ていたので、「こういうシーンでこういう画を入れると効果的だなあ」と感じていたんですね。

© 2017 トモシビパートナーズ

© 2017 トモシビパートナーズ

今回は銚子電鉄という地域に密着した場所ですので、「こういう画が撮れるだろうな」というイメージが事前にありました。しかも銚子電鉄の方々はとても協力的で、天候の都合で予定になかった臨時列車を急に出して欲しいとお願いしても快くOKしてくれて、とても臨機応変に対応してくれたんです。
フィクションですから電車ファンの方からすると突っ込みどころも多いでしょうけれど、僕自身がSL好きの“撮り鉄”なので、現実との違和感はあまり感じさせないように工夫しましたし、電車の撮影にはこだわりましたよ。

助監督出身の監督として

僕は、助監督時代がとても長い映画監督です。助監督と監督の役割はまったく違っていて、助監督は現場をまとめていかなきゃいけないので、経験やスキルが必要な職人なんです。けれど、監督はクリエイターだから、現場をまわすための知識は必要ないんですよ。
ずっと助監督として監督の仕事を傍で見てきたので、「こうすれば撮れる」というやり方は分かるんです。でも、監督としてクリエイティブな事をするためのモチベーションを常に上げ続けるのは、とても難しい。スピルバーク監督なんかは撮影に入る直前に黒澤明の映画を観てモチベーションを上げると言いますけれど、僕は本(脚本)をつくる時からゆっくりとモチベーションを育てるようにしています。「作品の切り口はこうしよう」「こういうテイストでやれば話が成立するかな」と本とのキャッチボールを繰り返し、企画が進行していったあるタイミングで、一気に集中して作りあげています。

助監督が長かった経験は、僕なりの監督業に繋がっていますね。『トモシビ』でも、予算と時間が決まっている中で、自分でスケジュールを組んだりカット割りを考えました。「この日の撮影には電車とランナーの入れ込みカットがいくつ必要だから、この電車のダイヤなら1日に何回チャレンジできる」……と自ら決めていくのは、助監督をやってきた性なんでしょうね。
クリエイター肌の監督の現場では、監督が粘りに粘るけど本当にお金が無くて、「監督、もう今日はこれで終わりですよ」と言わなきゃいけないことは山ほどある。でも僕は自分で予算と時間が計算できるから、後で自分の首を絞めないで済むかな。
もちろん、もっと時間があればやってみたい思いはありますよ。けれど、制約があるからできる事もあるし、制約の中からアイデアが生まれる事もある。決まった条件のなかで「こうすれば良くなるかも」とポジティブに考える姿勢の大事さは、森田監督の現場で学びました。たとえば、撮影中に急に雨が降ってきたので「ここのシーンは雨の中にしようか」と役者に傘を持たせることはどこの現場でもある。そんな時に森田さんは、「雨で良かった!これで雨を降らすための予算が浮いたな!」と言うんです。そうやって監督が前向きな発想をすることで、現場も明るくなるし、良い作品づくりの環境になるんですよ。
そんなふうに、予算規模が小さくてすでに台本が決まっている現場の場合でも、「いや待てよ……設定を少し変えたら、この小道具は必要ないし、しかももっと効率がいいじゃん!」という事はよくあります。角度を変えれば違って見えますから、『常識に囚われるな』という戒めはいつも心の中に持っています。

これからの映画創作現場

今活躍しているほとんどの若手監督は、自主映画からいきなり商業映画を撮ることが多い。それはそれなりに才能があって認められた作品を撮る人だからステップアップできるんだけど、監督以外の映画スタッフはものすごく人材不足なんですよ。昔は会社で人材を育成していたけれど、今の映画界はほとんどがフリーランスだから、同じチームでやっていけない。しかも人手が足りないから、次々と新しい仕事があっていくつもの現場を渡り歩いていくんです。
そんな状況ですから、現場に入りさえすれば仕事はあるし、場数を踏んでスキルアップできる。一度ネットワークができると、映画やテレビといった横の繋がりのなかで新たに引き抜きを受けたりと幅が広がっていく。だから、映画作りに関わりたい人は、あまり恐れないでまずは現場に飛び込んで欲しいな。
現場経験を重ねて、人の仕事も目にしていくうちに、映画作りのなかでも自分のやりたい仕事や向いているポジションがおのずと分かってくると思いますよ。監督がやりたくてこの業界に飛び込んでも、「俺はひょっとしたらこっちの方が向いているかもしれないな」という方向転換はいくらでもある。とにかく現場に入り込むことが始まりです。
映画業界は厳しい、というイメージもあるかもしませんが、たとえば理不尽なことを言われるなんてどこの世界でもあるでしょう。それを楽しんだり遣りがいを見いだすポジティブさや忍耐力、そして映画を作りたいという思いがあれば、きっと続けていけますよ。

作品情報

トモシビ〜銚子電鉄6.4kmの軌跡〜

© 2017 トモシビパートナーズ

© 2017 トモシビパートナーズ

5月20日(土)新宿武蔵野館 ほか全国順次ロードショー
5月6日(土)イオンシネマ銚子 先行ロードショー

出演:松風理咲、前野朋哉、植田真梨恵、有野晋哉、富田靖子/井上順
監督:杉山泰一

公式サイト:http://tomoshibi-choshi.jp/

杉山 泰一(すぎやま・やすかず)

1959年生まれ。81年に『の・ようなもの』で森田芳光監督と出会って以降、『僕達急行 A列車で行こう』まで16の森田監督作品に助監督として携わる。 『少年H』(13/降旗康男監督)『KT』(02/阪本順治監督)『沈まぬ太陽』(09/若松節朗監督)などにも助監督として参加するほか、 2008年にはTVドラマ「誰も守れない」を監督するなど、映画・TVを問わず活躍。 2016年には、森田監督の『の・ようなもの』の続編にあたる『の・ようなもの のようなもの』で映画初監督。

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