人工知能、ロボット、IoT、VR・ARなど、ここ数年のテクノロジーの進化は非常に発展的で、これらの中にはすでに、知らないうちに私たちの日常生活に存在し機能しているものも多数あります。こうした進化・発展とともに社会に浸透していくことにより、テクノロジーは、ゆくゆくは人々の生活を脅かすもの、仕事を奪うものという悲観的な意見を多く聞くようにもなりました。
テクノロジーの進化は、私たちの未来に暗い影を落とすものなのでしょうか?
人工知能やロボットは、人間の仕事を奪ってしまうのでしょうか?
リクルートワークス研究所では、独自のリサーチにより2030年に向けた“ワークモデル”を提唱。2月28日には『テクノロジーが日本の「働く」を変革する』と題したイベントを開催しました。
私たち日本人(または日本で働いている外国籍の方全般)の働き方に今後、大きなインパクトをもたらすであろうテクノロジーの進化をどう受け止め、どう活かしていけばよいのか、未来は開けているのか、登壇者のプレゼンテーションから紐解いてみます。

テクノロジーの進化はキャリア強化のチャンス。グローバルな課題は“富の偏在”―Tom Mitchell氏

_42A2259「人工知能の進化によって将来、タクシー運転手はいなくなるかもしれない。しかし一方で人工知能は働く人々の生産性を高めたり、新たな職業を創出することができるだろう」

そう語るのは、世界で最初に機械学習の学部を創設した人工知能の世界的権威でありカーネギーメロン大学教授のTom Mitchell氏。現在Recruit Institute of Technologyのアドバイザーも務めておられます。

タクシー運転手は自動運転技術の進化により、無くなってしまう職業の一つと予測されています。しかし、人工知能は仕事を奪ってしまうものではなく、仕事に含まれているタスクを自動化し、人間にとって代わるというのが、Tom氏の意見です。
人工知能がタスクの一部を担うとどうなるのでしょうか?その分、働く人々の仕事の生産性が高まるうえ、より高度な判断や創造性といったところに能力を発揮するボリュームが増えていくことになるでしょう。このように人工知能と人間の棲み分けによって、業務が最適化されていくと予想されています。
そのため、将来消失する職業もあるが、新たに創出される職業もあること、それに伴い新たな富も創出できるといった可能性についてTom氏は言及しました。

しかしながら一方で、その“富”は偏在するという懸念も示しました。人工知能やロボットなどの影響による生産性の向上は、新たな職業を生み出し、新しい富を創出できる可能性が広がります。しかし、その富を享受できる人もその分増えるのかというと、そうではなく、むしろ貧富の格差が広がっていく面もあるだろうと危惧しています。その理由の一つに、学歴の格差による賃金差の拡大が挙げられています。学歴が要因で高い所得を受けられない層は、業務のOA化によりさらなる所得低下のリスクを被りやすく、高所得者層へのステップアップが難しいとされています。

そこで重要な対策の一つは、教育体制の改善・向上を図ることだとTom氏は言います。
ここ数年で、通学せずにインターネットを通じたオンラインによる学習が無料で受けられるサービスが登場していることはご存知の方も多いと思います。こうした機会が増えることで、教育の改善・向上につなげていくとともに、政府が失業者に対しセーフティネットをきちんと構築していくといったフォローも合わせて必要であると訴えました。
これからは“リスクを先取りして働く人をフォローしていく”ことが重要だと言えます。

2030年、キャリアの大変革が巻き起こる―中村 天江氏

_42A2559「テクノロジーとどう共存し、自分の能力とどう結びつけてキャリアを切り拓いていくのかを真剣に考えること-それが将来消失する職業のことを心配するよりもまずは重要」と訴えるのは、リクルートワークス研究所 労働政策センター長の中村天江氏です。

中村氏によると今後、日本の中で働いている人は人生で一度は必ずキャリアチェンジという局面に遭遇することになるとのこと。その理由は、テクノロジーの進化で生産性が高まると、ビジネスのスピードが増したりM&Aも拡大するなどにより、企業寿命が短くなってくる可能性があるからと言います。実際に、2014年の日本の倒産企業の平均寿命が23.5年だったという報告もあります(※注)。一方で、人間の長寿命化が進んでおり、社会に出て働き、引退するまでの職業寿命が50年と試算すると、先に述べた企業寿命より職業寿命が2倍となり、1社で職業寿命を全うすることが非常に困難になってくると言えます。

※注 参照:東京商工リサーチ『2014年「倒産企業の平均寿命」調査』2015年2月9日
http://www.tsr-net.co.jp/news/analysis/20150209_05.html

では日本の雇用の現状はどうなのでしょうか?海外と比較すると日本は長期雇用が根付き、社外にキャリアチェンジして能力を発揮するというステージはほとんど発達していないと中村氏は指摘します。
一体「働く未来」をどのように捉え、リスクを受け入れ、変化に対応していけばよいのでしょうか?その解決策としてリクルートが提示するのが『WorkModel2030』です。

いわゆる職種や雇用形態で区分する従来型ではなく、“テクノロジーの活用”によって実現される未来の働き方を定義した『WorkModel2030』。「2つのステージ」と「4つのプロフェッショナルタイプ」にて構成するというもので「2つのステージ」とは、雇用されているか否かで区分し、「4つのプロフェッショナル」とはプロデューサー(専門性開発)とテクノロジスト(専門性活用)、グローバル型とローカル型と区分してこれらの組み合わせで、その人ならではの仕事の付加価値を高めていくというものです。

ここでいうプロデューサーとは、知識力や調整力に長けた従来のゼネラリスト以上に、多様な人々を結びつけて収益を生み出す力を有するプロフェッショナルで、テクノロジストとは特定の専門性を狭く深く持ち、仕事に必要なテクノロジーを使いこなすというプロフェッショナル。
このように新たな職業の概念を組み込んだ『WorkModel2030』が実現するならば、“まだまだポテンシャルを発揮できない”日本人のこれまでの働き方を変え、もっと自由に、もっと創造性高く働けるキャリアステージを創り上げることで、一人ひとりが今よりももっとポジティブに活躍できる、そんな社会が期待できそうです。

テクノロジーによって強化された働き方が実現し、プロデューサーやテクノロジストが活躍する社会では、個人のキャリア継続と企業の収益力向上・生産性改善を達成できると予測されます。そして現状、グローバル化などの影響で労働生産性の上昇ほどには実質賃金が伸びない現状に対して、テクノロジーの活用がその突破口の一つとなるとも考えられます。

テクノロジーの進化は、働き方を変えるだけでなく進化させる

こうしたテーマはまだまだ議論される余地も大いにあると思います。しかし今回のプレゼンテーションから、テクノロジーの進化は、今後も加速されていくことが予想され、私たちはテクノロジーといかに共存していくか、ということが求められていくことになると痛感しました。
“テクノロジーに対する脅威を課題に変え、それを克服するために十数年かけて改革していくのが良い”と提唱されているだけに、私たちは今から、まずはこの問題について真剣に考え始めていくべきではないでしょうか?

(2017年4月7日 CREATIVE VILLAGE編集部)