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「アイデアは現場で生まれる」売上2倍以上を実現しつづけたEC哲学とは?メガネスーパー 川添 隆さん

ECサイトが台頭し始めるよりもはやく、EC業界に飛び込んだ、株式会社メガネスーパー デジタル・コマースグループ ジェネラルマネジャーの川添隆さん。アパレルブランドのECを経て、今は異なる土俵である“メガネ・コンタクトレンズ”のECを担当し、その両方で売り上げを2倍以上にしてきました。その経験から、「一口に“ECサイト”とは言え、業種によってその運営方法や注力する部分は異なる。ただし、共通するメソッドはある。」と言います。
今、国内の物販においてECのシェアは5%未満。「EC業界を盛り上げていきたい」と臨む川添さんに、業種によるECの役割の違いと、EC業界で求める人材についてお伺いしました。

建築から、アパレル、そしてECへ

「自分が死んでも残るような物を造りたい」と、大学では建築を学んでいました。けれど、当時の私にとって、建築の世界は年功序列で遅咲きだと感じました。もっと早く成長できる業界はないかと考えたところ、好きなアパレルやファッションの仕事に就きたいという思いが強くなり、サンエー・インターナショナルに入社しました。その後、インターネットのベンチャー企業が勢いを増していたことに興味を惹かれて、ブランド古着のECサイトを運営するクラウンジュエルに転職します。当時はサイバーエージェントの子会社で、10人弱のスタッフ数だったので、「この商品の状態や特徴は……」といった説明文を一日数十個書いていました。今で言うECのささげ(撮影・採寸・原稿)ですね。中古の場合は、1品1品が1点ものなので、全ての商品の説明文を書く必要がありました。ほか、メルマガも全て書いていました。
その後、新規事業のブランドの営業や企画・PRなどいろいろ経験できたことが、ECに関わる今にも活きています。他社とコラボして商品を企画したり、版権のライセンスの提案や卸営業をしたり、さらに経理情報をまとめたり、PRをしたりと、ECというよりは事業に関わる一通りの業務を担当していきました。

「これからインターネットは絶対に“来る”、そしてECというチャネルは今後延びていく」……可能性を感じると同時に、大好きなアパレル業界が落ち込んでいるという感覚がありました。そして最も活躍しているはずの販売スタッフの社会的地位はなかなか上がらない。それをECで何かしら改善できるんじゃないかと奮起したことで、2010年にクレッジといういわゆるマルキュー系のアパレル会社に入社し、本格的にECに関わることになります。
経営陣はECを伸ばしたいということで入社したものの、ブランド事業部はECに対してネガティブという状況でした。既存のECチームの中で、「権限は少なくてもどんどんアタックして売上を上げよう」とEC運用代行業者のコントロールや、Web広告やメルマガの精度向上と効果検証などの細かいことを積み重ねつつ、ブランドの担当者と飲みにいったりと社内営業もやってましたね。その後、社長が交代になった時に「君がECの事業を全てやっていいので、売上を2倍にしてください。その代り、必要な武器は全て用意する」と言われ、新しい戦いが始まりました。そこでいろいろとやりたいように挑戦する背景ができて、部門の売上2倍を達成。その後、分散していたEC事業を統合し、最終的に約1年半でEC全体も売上2倍以上にできました。
その時の僕は、せっかくのチャンスだからトップを目指そうと「業界No.1のアパレルECチームを作ります」と社内で公言をしていたんですよ(笑)。それに向けて、大手に負けない取組みや、自社ECの内製やLINE@などに取り組みました。面白いと思ってもらったのか取材や他企業の方との対談をセッティングしてもらったりと、今にも繋がる関係を築く出会いがありました。

そしてある日、そのクレッジを再生させた社長がメガネスーパーの再生に取り組むことになったのです。その話を聞いて、僕もそれにチャレンジすることを選択しました。それは、自分がECで売上を伸ばせたのは全面的にお互いに信頼関係がある経営者がいたおかげだ、と気づいていたからです。自由を与えてくれる経営者とのパートナーシップがあれば、もっとECの可能性に挑戦できる。そうなると、アパレルという業界にこだわる必要はないなと思い、メガネスーパーへ入社しました。

アパレルのECと、メガネ・コンタクトレンズのECの違い

アパレルとメガネ・コンタクトレンズ……同じ“EC”でも業種が違えば、お客様の購買行動や商品特性が異なるので、入社当初は悩んだこともありしました。前職のガールズブランドでは、お客様とブランドとの関係が明確で、新作をアップするとすぐに売れました。そうなると、新作発売のタイミングを店頭とECが揃えることによって、欲しい商品が市場に出るタイミングで買えるため、ECの売り上げは飛躍的に上がったりするんです。また、メルマガが届かないと「なぜ登録したのにメルマガが届かないんだ」とクレームが来ることもありました。一般的には「メルマガが多すぎて解約したい」と言われるのに、当時のブランドは真逆だったんです。ある意味、自分たち企業側として考えている常識は、全く通用しませんでした。おかげで、お客様が何を考えているのかを追及し、その気持ちにどう応えるかにフォーカスをすることが大事なのだと学びました。
しかしメガネスーパーの場合は、アパレルと違って「好き」という情熱ではなく、「必要」があって購入されます。だから店頭とECでは売れる商品の内容が違っていて、店頭でシェアが高いメガネがECではなかなか売れずに、ECではコンタクトレンズがをECで手に入れる傾向があります。全社ではメガネが約56%、コンタクトレンズが約37%、補聴器が約5%ですが、ECでは約95%がコンタクトレンズ・カラコンです。ある意味、どこでも買える商品をECで販売するという状況の中、どうやってECの売り上げを伸ばしていくかと悩みました。

今のところ、僕は視力矯正が必要ではないので、コンタクトレンズを使っていません。ただし前職を通じて、「ユーザー目線で考える」ことはできるようになっていたので、まずはチームメンバーに運用の現状を聞きました。「コンタクトレンズって早く欲しいんじゃないんですか?」「そういうニーズはないんですか?」「どんなタイミングで発送しているんですか?」と質問してまわりました。お客様に関すること以外にも、「どういう運用をしていて、このチームはどういう変遷をたどってきたんですか?」「なぜ売上げがなかなか上がらないんですか?」と、とにかくわからないことヒアリングし、実態を把握していきました。
それを基に、お客様にとってメリットのある情報……『5,000円以上送料無料』や『即日配送』といった情報を大きく目立つところに打ち出したり、バナーに掲載する価格は一目でわかるようにしました。するとすぐに成果が出て、月商600万円が 800万円ほどに上がったのです。それで、お客様はECサイトをきちんと見ているんだということがわかりました。その後もメルマガを増やすなど改善を重ねていき、売上が増えたのでサイトをecbeingというECシステムにリニューアルし、スマホ全対応にしました。すると、スマホ利用の比率も25%ほどだったものが40%ほどに上がり、単月の売上げもさらに1.5倍になりました。

またデザイン面では、サイトのどこに引っ掛かりを作り、どれほど分かりやすくするかにを配慮しました。特にスマートフォンサイトに重きを置いています。今の時代はスマホ経由の方が売上シェアが高いので、スマホファーストで作らないと、ECの売上げに関わります。とはいえ当社の場合は約30%はPC経由の売上があるので、常に両方で見てバランスをとるようにしています。実際にサイトを見ていただくと、かなりにぎやかな感じです(笑)。情報を多くしているのは、メガネスーパーのECが「結果を出さなければならないフェーズ」にあるからです。「ブランディングをするフェーズ」の時にはまたデザインは異なりますし、今後はデザインの引き算も少しずつ取り組んでいきたいと思っていますよ。

EC担当はどこからアイデアを得るか

やっぱり実店舗を持っている小売りの企業の中で戦略を考えるには、本社だけにいて「こうした方がいいんじゃない?」という発想ではいけない。会社としてはいろんな取り組みをしているので、僕たちも現場に行くことで新しいアイデアが生まれます。
具体的には、『キャラバン隊』という社長を隊長とし、店舗の売上アップの為に、役職・部署・地域を超越して活動・支援する有志の集団があります。社長自ら毎週末に大型車を運転し、社員40~50名、多い時は80名くらいで店舗を回って、「最新の店」に変えているんです。社員は店内、店外のそれぞれの役割に分かれます。僕は今はポスティング担当ですね。その他、周辺の老人介護施設や個人宅での出張販売に出かけたりもします。キャラバンに参加している中で、例えば「出張販売とWebを組み合わせたらどうだろう」とか「ポスティングとデジタルの広告を連動させたらどうだろう」という案が生まれたりしたんです。

Webを運営する側は、オムニチャネルのように店舗でもネットでもお客様と繋がるイメージを強く抱いていることが多いです。でもそれが通用するのは、物が溢れている大都市だけじゃないですかね。ショールーミングでECで購入するのは、そもそも商品を見れる店舗ないとダメですし、ウェブルーミングも好きなブランドなどが特定していないとできない。単純に、自分が店舗に行けないからネットで買うだけではなく、ショッピングを楽しむ感覚でお店で購入したい人もいる。アパレルでもメガネでも、店舗がある地域のお客様に対してブランド認知が広まって、ネットを利用していただける傾向にある。実店舗があってこそのECサイトです。
メガネスーパーの場合は、40年培ってきた知名度があるし、実店舗とそこに専門性の高いスタッフがいることで、お客様に安心感を抱いていただけていたことがとても良かったです。全国約330店舗あって、スタッフが実在していることが目に見えて、ほとんどの人に知っていただいているのは大きな信頼感につながっています。それによってネットでも安心して購入していただけるという結果が、アンケートでも出ています。
メガネは実店舗ありきの商売だということが分かってきたことで、ECで購入を完結させようという発想よりも、店頭との併用を想定した注文方法をつくったり、店頭の在庫を表示したりと、ECで購入を完結させる必要はないというふうに発想が切り替わっていきました。

EC業界に向いている人材

insert_IMG_5924どの仕事でも同じですが「そこで何やりたいの?」ということがとても重要です。採用面接でも、「あなたは何をやりたいんですか?」と必ず聞きますよ。それは弊社を通して何がやりたいかではなく、「あなた自身が何を実現したいのか」という答えに違和感がないかを確認します。また、よく聞かれるのは「マーケティングや分析ができた方がいいですか?」という質問なのですが、できるに越したことはないです。でも実はECは、店舗で販売経験がある人の方のほうが活躍しやすいと思っています。ECも小売なのでお客様の気持ちを把握する必要があります。ECは顧客の顔が見えないので、顧客の顔を想像しなくてはいけない。店舗でそれをやっていた人の方が絶対想像しやすいですよね。
ほかにECに向いている資質があるとすると、コツコツできること。ECには大成功の秘訣もホームランもなくて、ヒットの積み重ねなんですよ。小さな作業がいくつも噛み合って結果が出る。だからこそ、スピーディにいろいろやらなければいけないので、細かいことをどんどん試すと、すぐに数字に反映されていきます。
いろんなツールを使うのは枝葉の部分でしかなく、自分達でどんどんネタを作らないといけません。チャレンジをしたい人にとってはとてもやり甲斐のある仕事ですよ。

さらに、ECは個人のキャリアとしても魅了的です。小売りやメーカー、B2Bの企業ですらECに注目をしている時代。一方、そのノウハウはまだまだ公開されていません。ECという領域で「結果を出す」ことができれば、それは規模に関わらず価値があるということです。僕のように売り上げ規模が小さな企業のEC担当でも、大企業の方と名を連ねるほど注目を集めることができます。それは、ECの戦略や施策には正解がないからです。結果を出すことは前提ですが、単純に「いくら売り上げたか」の金額だけではなく、「どんな思想を持って、どんな試みを実践して、どんな成果を上げたか」というプロセスを作ることができる人に価値があるということです。ECサイトの絶対的な規模でホームランは打てなくても、個人のキャリア上でホームランを打つことができる、それがECという仕事です。とくにECの第一人者は今40~50代の方々が多いですが、デジタルに慣れ親しんだ若い人にはチャンスの多い業界だと思いますよ。


 

メガネスーパーは、全国約330の店舗でメガネ、コンタクトレンズ、補聴器などを販売する小売チェーン。アイケアカンパニーとして、お客様の「眼の健康寿命」を延ばすために最適な「アイケア」「アイウエア」提供をしています。その中で、アイケアをより身近に取り入れて頂けるよう、またサービスの利便性や顧客体験の向上を図る上で戦略的にEC事業の強化、オムニチャネル推進に力を入れております。

川添 隆(かわぞえ・たかし)

株式会社メガネスーパー
店舗営業本部 デジタル・コマースグループ
ジェネラルマネジャー

1982年生まれ、佐賀県唐津市出身。
販売、営業アシスタントとしてサンエー・インターナショナルに従事後、ネットビジネスを志しクラウンジュエルでささげ業務から企画、PR、営業まで携わる。2010年にクレッジに転じ、EC事業の責任者としてEC事業を2年で2倍に拡大。その後2013年7月より現職。EC事業、オムニチャネル推進、デジタルマーケティング・コミュニケーション、デジタルを活用した店舗支援を統括。EC事業全体は3年間で約3倍、注力する自社ECは約5倍と拡大中。各種セミナーや講師、自身のブログなどEC関連での情報発信についても精力的に活動。

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