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歌って踊るだけじゃない、映画大国インドの今 ラージクマール・ヒラニ監督に聞く

年間1000本を超える映画が制作されているインド。インド映画というと、歌って、踊って…のイメージが強いかもしれませんが、最近では、実に様々なタイプの作品が生まれています。2013年に日本で公開された『きっと、うまくいく』も、インド映画の多様性を表す1本でした。底抜けに爽快な青春映画でありながらも、謎解きのような緻密なストーリー、さらに社会問題にまで鋭くメスを入れた作風で、各国で話題となりました。その主演&監督コンビが再びタッグを組むのが『PK ピーケイ』。主人公である宇宙人“PK”の視点からインドの宗教事情を時にコミカルに、時にシニカルに描く本作を、どのような想いで制作したのか、そして、現在のインドの映画事情など…ラージクマール・ヒラニ監督に伺いました。

 

■ 「この100年の歴史の中で一番良い時期」映画大国インドの今

インドの小さな街で育ち、演劇に夢中になりました。自分で脚本を書き、演じて、演出もしていました。その後、映画学校に進んで編集を学んだことが、今の仕事に繋がるきっかけだと思います。
卒業後には、映画学校の友達が監督を務めるCMに役者として出演したこともありました。でも、その段階で自分は役者には向いていない、演技が下手だと気付いたので(笑)編集の道を進むことにしました。

現在のインドの映画業界は、この100年の歴史の中で一番良い時期だと思います。と言うのも、いろいろな客層に響く映画が作られるようになったからです。例えば15年前はラブストーリーやアクションがメインで、どの映画にも踊ったり、歌ったりのシーンがありました。でも今は年間1000本超が制作される中で、踊って歌うシーンはなく、スリラーやファンタジー、ホラー、人間ドラマに特化したものなど、本当にいろいろなジャンルの映画が作られていて、それが観客にも受け入れられています。
作品の多様性に加えて、マルチプレックスで多くのスクリーンを持つ劇場の数も増えて、マーケットの成長を肌で感じますね。興行収入の面でも、ハリウッド映画よりもインド国内で制作された映画の方が良い成績を収めていて、今、映画を作るにも見るにも良い時期だと思います。

2013年の監督作『きっと、うまくいく』は大学生活が舞台だったので、多くの人に受け入れられるテーマではありました。ただ、今回の『PK ピーケイ』は、神の存在自体を疑問視しているものなので、受け入れられるかどうか気にかかっていましたが、それが受け入れられたことに客層も多様化し、成熟してきたことを実感しましたね。

 

■ 信仰心や宗教に対するシニカルな視点をちりばめる

『きっと、うまくいく』では、40 代で大学生を見事に演じ切ったアーミル・カーンとの再タッグにあたり、今回の『PK ピーケイ』では、脚本の段階から彼を主人公として思い描いていました。

(C)RAJKUMAR HIRANI FILMS PRIVATE LIMITED

(C)RAJKUMAR HIRANI FILMS PRIVATE LIMITED

彼を主人公に想定した理由は、まずは子供っぽい純粋なルックス、顔つきであること。そして、地球にやってきた宇宙人という役どころで、冒頭、宇宙船から降りたばかりで服を脱ぐシーンがあるので、その鍛えられた肉体も必要なものでした。

あと、宇宙人“PK”の視点からインドの宗教事情を時にコミカルに、時にシニカルに描くこの映画のコンセプトに彼が共感してくれたこと、彼自身がそのような考えで生きていることも大きいと思います。彼自身、無神論者なので、信仰心が強い役者さんだったら、意見の食い違いが生まれていたと思います。

彼は脚本をもらった時から役作りを始めるような役者さんで、準備をしてきてくれて、映画を深く理解してくれているので、撮影はとてもスムーズでした。

『PK ピーケイ』では、作品全体で信仰心や宗教に対する皮肉を描いています。例えば最初の方に、PKがお寺で神を形どった像を買おうとします。お店の人に値段を聞くと、20ルピー、50ルピー、100ルピーの3種類。

(C)RAJKUMAR HIRANI FILMS PRIVATE LIMITED

(C)RAJKUMAR HIRANI FILMS PRIVATE LIMITED

そこでPKが「20ルピーでも僕の願いは叶うのか?」と尋ねると、お店の人は「叶う」と。そこで「どうやって僕の声が届くんだ?マイクが入ってるのか?」と聞くと、お店の人は「神にあなたの声が直接届く」と答えます。その答えに対して「じゃあ、何で売ってるんだ?あなたがビジネスをしたいだけなのでは?」というやり取りにも、シニカルな視点が込められています。
僕は人々の恐怖につけこんでビジネスをしている人に対して批判的なのであって、寺院に行く人々を批判しているわけではありません。ただ、どこの寺院に行っても募金箱がある…そのシステムに疑問を抱いています。

他にも、インドでは夫を失った女性が白い服を着ますが、キリスト教では結婚式のドレスで白を着ます。キリスト教ではお葬式で黒い服を着ますが、イスラム教徒は常に黒い服を着ています。それを見てPKが混乱するシーンもあります。
あと、子どもが生まれた時に「この子の宗教は何?判別するスタンプでも押してあるの?」というPKの発言もそうですし、宗教や信仰心に対する皮肉をちょこちょこしたところで表すのは、意識してやっていたところです。

 

■ コメディ映画ながらもショッキングなシーンにこめた想い

宗教が世界に与えた最も大きなダメージが、人々を殺してきた、ということだと思います。これまで宗教関連の戦争で亡くなった人数は、病気で亡くなった人数を大きく上回っています。世界大戦もそうですし、最近のISによる戦闘もそうです。神という名のもとに戦争をしている。自分の信じる神が他の人の信じる神より優れているという信念から生まれる戦争により、多くの人が命を失っています。

宗教は人を殺すためにあるものではなく、平和をもたらすためにあるもので、宗教の教えにも人を殺すという考えはないんですね。ただ、人がいつの間にか自分たちが神を守らなければ、と思い、神より上に立っているように考えてしまって、こういう争いごとが起きているのだと思います。自分の宗教が、他の宗教に勝っていると考える人が起こした事件のシーンに、そのメッセージを込めています。

そして、この作品を宗教的な争いがない日本という国で公開することを、とても興味深く思います。この作品は、信仰心の強いインドでは受け入れられることを予測していましたが、信仰心の強くない中国でも大ヒットしたんです。だから誰に響くかは本当に分からないので、とにかく面白いストーリーが皆さんに受け入れてもらえれば嬉しいと思っています。

映画を作る時、いつもそうなのですが、特にターゲットは定めていません。誰のために作るか?と聞かれたら、自分のためだと答えています。自分が信じているものを作品に反映させて、それを他の人も気に入ってくれたら良いなと思って作っています。

これから映像制作に携わりたい方へのアドバイスとしては、まず作ってみて欲しいです。今は簡単に映像が撮れる時代です。音や映像の編集も簡単にできますし、僕たちの時代にはなかった手段が多くあります。なので、アイディアさえあれば、まずはショートフィルムでも良いので作って、インターネットで公開して、いろいろな人に見てもらうべきだと思います。それを見た人が声をかけてきてくれて仕事に繋がるかもしれないので、まずは作るという行動に移すべきだと思います。


■作品情報

『PK ピーケイ』

10月29日(土)全国ロードショー

(C)RAJKUMAR HIRANI FILMS PRIVATE LIMITED

(C)RAJKUMAR HIRANI FILMS PRIVATE LIMITED

CAST
PK:アーミル・カーン
ジャグー:アヌシュカ・シャルマ
サルファラーズ・ユースフ:スシャント・シン・ラージプート
バイロン・シン:サンジャイ・ダット
チェリー・バージュワー:ボーマン・イラニ
導師 :ソウラブ・シュクラ
ジャグーの父 :パリークシト・サーハニー
特別出演 :ランビール・カプール

STAFF
制作:ヴィドゥ・ヴィノード・チョプラ/ラージクマール・ヒラニ
監督:ラージクマール・ヒラニ
脚本:アビジャート・ジョーシー/ラージクマール・ヒラニ
撮影:C.K.ムラリーダラン
作曲:シャンタヌ・モイトラ/アジャイ=アトゥル/アンキト・ティワーリー
編集:ラージクマール・ヒラニ

提供:日活、ハピネット
配給・宣伝:REGENTS

■オフィシャルサイト

http://pk-movie.jp/

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ラージクマール・ヒラニ

1962 年11 月22 日ナーグプル生まれ。
ハートウォーミングな作品によって観客を笑いと涙で包み込むボリウッドが誇る超人気監督。大学時代の演劇活動を経て俳優を目指すが、ムンバイの俳優養成学校では挫折を経験し、故郷ナーグプルに戻る。父の勧めでプネーの国立映画・テレビ研究院に進学を決めたものの、当時は俳優コースが廃止されていたため、編集コースに入学する。
卒業後、編集の仕事から広告業に転向。その頃、監督・プロデューサーのヴィドゥ・ヴィノード・チョプラと出会い、彼の監督作品『1942・愛の物語』(93)の予告編とTV プロモの制作を担当する。
それ以降2人の共同作業が続く。2000 年には、チョプラが監督してヒット作となった『アルターフ 復讐の名のもとに』の編集を担当し注目を集める。
2003 年、チョプラ製作により『Munna Bhai M.B.B.S.(医学生ムンナ・バーイー)』で映画監督デビューを果たす。ヤクザの兄貴分ムンナがひょんなことから医師を目指すというこのコメディは、現代の医療のあり方や医学部教育を痛快に風刺しており大ヒットとなった。この作品以降ヒラニ監督作品では、主人公に害をなす権威主義者をボーマン・イラニが演じる、という図式が定着する。
2006 年の続編『Lage Raho Munna Bhai(その調子で、ムンナ・バーイー)』では、再びヤクザの兄貴分・ムンナが登場。憧れの美人DJ に会うためにガンジーの思想を勉強し始めたところ、ムンナにガンジーの姿が見えるようになる、という奇想天外なコメディ。本作もまた大ヒットとなり、ガンジー復古ブームを引き起こした。
2009 年には『きっと、うまくいく』を発表。学歴社会のインドに一石を投じた本作は、当時のインド映画歴代最高の興収をあげ、インドのアカデミー賞といわれるフィルムフェア賞の監督賞など多くの賞を受賞。インドのみならず世界中の観客から愛される作品となった。

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