NHKのキャラクター「どーもくん」や「こまねこ」など数々の人気コンテンツ、映像を手掛けてきたドワーフ。東京都練馬区にある“こま撮り専用スタジオ”から日々生み出される作品は海外でも高く評価されています。アメリカでも人気の「どーもくん」に続き、「こまねこ」も海外の映画祭で上映されるなど、確実にファンを増やしてきました。そして「こまねこ」の新作はAmazonプライム・ビデオのオリジナル作品のパイロットシーズンに採用され、日本、アメリカ、イギリス、ドイツ、オーストリアの5ヵ国で配信されています。今回、Amazonとやり取りを重ねて新作ができるまでのこと、Amazonプライム・ビデオ以外にも各種動画配信サービスでオリジナルコンテンツを作る動きが広がっている中で、コンテンツの作り手としての想いなど、松本紀子プロデューサーにお話を伺いました。

 

■ 仕事にするならすごい嘘か、すごい本当か?

就職活動の時に、仕事にするならすごい嘘か、すごい本当が良いと思ったんです。記者のような仕事をするのか、フィクション、ファンタジーを作る仕事をするのか、という。そこでドラマかCMを作りたいと思って、CMの制作会社であるTYOに入社しました。

大学の頃に映像の勉強をしていたわけではなかったので、入社したばかりのころは知らないことだらけでしたが、仕事はとても楽しかったです。最初はプロダクションマネージャーとして、映画やテレビでいうところのADとプロデューサーのアシスタントを兼ねたようなポジション。予算管理、人の動きの管理が仕事です。映像の現場でこれは誰がやるんだろう?と思われるようなところをやる仕事。このお弁当、誰が発注したんだろう?とか、このスタジオ、誰が予約したんだろう?とか、思いますよね。それも仕事です。現場をスムーズに進行していくための仕事ですね。

プロダクションマネージャーを経て、CMプロデューサーになりました。
延長線上にあるようで、これも全く違った仕事でしたが、やりがいを感じて楽しくやっていました。

そして1998年に「どーも」が誕生しました。「どーも」で初めてオリジナル・キャラクターの仕事をし、こま撮りの映像を作る良いチームが組めて、動き始めていたとき東京都写真美術館の「絵コンテの宇宙-イメージの誕生」展の企画を打診されました。私たちの仕事である映像制作の楽しさをそこでシェアするには、「現場を展示する」のが一番では、と思ったんです。人形をひとコマ(1コマ=1/24秒)ずつ動かして撮影していく「こま撮りアニメーション」は1日わずか数秒分の映像しか作ることができませんが、1ヶ月の会期があれば、東京都写真美術館をスタジオにして5分くらいの作品が撮影できるかなと考えました。そこで生まれたのが「こまねこ はじめのいっぽ」です。

「こまねこ はじめのいっぽ」の中で、こまねこは映像を作っています。その「こまねこ はじめのいっぽ」を作っている私たちを来場者の方が見るという、謎な構造です(笑)。こまねこの生みの親である合田は、自分たちの分身のようなこまねこを描く作業だったら、お客さんに見られながらの作業でも現場の皆がモチベーション高くできると考えて作ったのかもしれませんね。

 

■ 「どーもくん」に導かれたアメリカでの経験

アメリカでは「どーも」がセブンイレブンでキャンペーンに起用されたり、多様なグッズ展開をされたりと広がりを見せていますが、最初に人気に火が付いたのはインターネットがきっかけでした。ガシガシした形の歯が上下に4本ずつ生えていて、真ん丸な黒い目…という形が面白い、アイコン性が高いということで若い男の人を中心に浸透していきました。
アメリカではキッズ向けのキャラクターは大人には浸透しにくいんです。でも、大人から下の世代に広がることはあるので、若者からキッズ向けや女性向けに広がっていくことができたのは幸運でしたね。アメリカで商品化されているものは、今も男性向けが多いです。

アメリカではとてもカラフルな「どーも」のフィギュアが販売されていたりしますが、日本では「どーも」は基本茶色で、数年前にやっと色のついたものを出しました。でも、アメリカはいきなり色つきの案を出してきたので、最初はかなり抵抗がありました。日本では茶色い「どーも」がある程度定着しているからまだしも、定着していないのに出すなんてどういうことですか?と(笑)

ただ、その時にアメリカのエージェントに言われたのが、「どーも」はアイコン性が高いキャラクターだから心配しないで、と。口が四角くて、歯が上下4本ずつあれば、「どーも」だって分かるから大丈夫だと、長い時間をかけて話し合ってしぶしぶOKしました(笑)結果的にはそれが面白がられて、口コミといじられで広がったので、そのスキを見せるというのが戦略としてはありだったのかと。最初は抵抗しましたが、アメリカとのやり取りで何が大事か見えた気もしました。それは、黙って受け入れるのではなくて、言いたいことは言って、自分たちが間違えたと思ったら軌道修正するということです。結局私たちはアメリカのマーケットにいる人間ではないので、最後は信用できると思ったら任せる。任せられるかを判断するのも私たちの仕事なので。話し合いを通して、相手がどれだけ考えてくれているのか、どれだけちゃんとした判断に基づいて提案してくれているのかを分かって進めたから良かったのだと思います。それは「どーも」に導かれて経験できたことだと思っています。

 

■ Amazonとの話し合いを重ねて、ターゲットを明確に制作した「こまねこ」

今回、Amazonプライム・ビデオで「こまねこ」の新作を配信するにあたっては、Amazonにプレゼンしたり、Amazonのリクエストを聞いたりしながら多くの話し合いを重ねて共に制作してきました。

(c) 2016Amazon.com, Inc. or its affiliatesAllRights Reserved (c) TYO/dwarf・Komaneko Film Partners
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今までの「こまねこ」と外見が違っていたり、明確なセリフがついた物語になっていることに驚いた方もいるかと思いますが、私たち自身も、とても悩みながら進めていきました。
でも最初にAmazonは他のキャラクターでなく「こまねこ」が良いと言ってくれたんです。
その理由は「こまねこ」がクリエイティブな子だから、と。「こまねこ」がこま撮りの映像を作ることでお友達ができたり、クリエイティブがきっかけで何かができることが良いし、「こまねこ」の撮った映画が作品の中で流れると言う二重構造も面白いと。その言葉に、私たちがこうありたいと思った「こまねこ」を分かってくれていると感じて、一緒にやってみたいと思いました。

その時にAmazonメンバーの豊富な経験に基づいて、アメリカの子どもの好みを考えた、見た目やストーリーについて提案を受けました。アメリカでは明確にプリスクール(未就学児童)をターゲットに定めて、その層に伝わりやすい作品にしないといけないと考えた時に表情が分かりやすい、表現が分かりやすい、言葉で補うことが大事という考え方、作り方です。

それはドワーフにとって次の一歩として取り組むべきことじゃないかと感じました。前作の「こまねこ」では、明確なセリフがないことで想像の余地がある部分がありましたが、今回はAmazon側の意見を取り入れて、子どもたちに向けて、物語をアウトプットしてみようと、現場に提案していくことにしました。

その中で、私たちは納得していないけれど、Amazonに言われてこうなった、というのは、「こまねこ」に失礼だと思ったんです。例え今回でなくても、いずれ何かしら変化する時には、親である私たちが納得して進まないといけないという想いは、Amazonとの話し合いを重ねる中でも常に持っていましたね。

 

■ 決まった時間に何を見るか?ではなく、見たい時に何を見るか?純粋にコンテンツが選ばれる環境

今、Amazonプライム・ビデオ以外にもNetflix、Huluなどの各種動画配信サービスでオリジナルコンテンツを作る動きが広がっているのは、とても面白い状況だと思います。
私たちはコンテンツメーカーなので、一番適した形で作品を出したいと思いますし、 そういう意味でも今Amazonと一緒に配信の仕事ができることにワクワクしています。

こま撮りでいうと、作るのには長い時間がかかります。でも、現代の物事のブームは短い。なので、テレビでいうワンクールのブームになったとしても、撮影期間の方が長くなってしまう。「こまねこ」や「どーも」をはじめとした、ドワーフの作品は、長く楽しんでもらえるコンテンツになって欲しいと思っています。そういう意味では、配信には大きな可能性を感じます。
いつでも、「こまねこ」が好きな人が「こまねこ」に会いに来てくれたり、世代を超えて 好きになってもらえたり…「こまねこ」でいうと、実際にそういうことが起きています。
東京都写真美術館の「絵コンテの宇宙-イメージの誕生」展の時に美大生だった人が、映画の公開時には子どもと一緒に観に来てくれたこともありました。配信はそういう エバーグリーンなコンテンツを作りやすいメディアなんじゃないかと思っているので、 長く楽しめる作品をちゃんと作っていきたいと思っています。

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ただ、それと同時に作り手が試される部分も大きいです。これまでのテレビドラマは毎週決まった時間に見るものでしたが、連続ドラマでも一気に配信されることもあって、
もう毎週見るものでもなくなるんですよね。
たくさんのコンテンツが時間も選ばずに見られるようになるので、見方も作り方も変わってきます。
月曜の夜に何を見るか?ではなくて、見たい時に何を見るか?という、純粋なコンテンツを選ぶ闘いになるので、作り手としては厳しい環境にさらされます。でも、それは正しいことで。私たちはものを作って評価されて生きていかなくてはいけないので、その厳しさも含めて、良いし、正しいのだと思います。その中でどうやっていくのか考えていかなければいけないのだと思っています。

 

■ 違う価値観をぶつけ合いながら生まれてくるものを作るということ

今は自分だけでも映像は作ることができますし、それで評価されるのも素晴らしいことですが、 仲間がいて、チームだから越えられることはあると思います。
ドワーフでいうと、もとのストーリーを作ったり、監督、演出をする合田がいて、素晴らしいアニメーターの峰岸がいて、美術の仲間がいて、カメラをやる人がいて…というチームプレーなんですよね。だからこそ面倒なことも意見が合わないこともありますが、チームの面白さ、だからこそ越えられる大きな壁はあると思います。今、流れとしては個人でさくっと作ってという風潮もありますが、私自身がプロデューサーで自分だけでは何も作れないから、やはり仲間が必要で、出会いも別れもある中で作っていく強さ、太さを信じているんです。
そういうチームや会社で、違う価値観をぶつけ合いながら生まれてくるものを作るのは、 面倒くさくても悪いことばかりではないと思います。制作に携わりたいとう方には、 それをメッセージとして伝えたいですね。

あと、作品は完成して終わりでなくて、世に出してからが勝負なので、そこを大事にしないと、作って自己満足で終わるのはもったいない。作るのもすごく幸せな作業ですが、観てもらって、好きになってもらえたらすごく素敵なことなので。そこにフォーカスして、見てもらうまでが仕事だと意識することが大事だと思います。批判されるのも仕事です。クリエイティブが趣味でなく仕事であることの宿命だと思います。
プロセスにフォーカスすると辛いことはありますが、受け手に喜んでもらえたら忘れてしまう苦労だったりもします。辛い上に作品が評価されないこともあるかもしれませんが、それも宿命で、次にどうするか考えれば良いのだと思います。私たちも今回の「こまねこ」がどう評価されるか、送り出すまでにできることは一生懸命やりましたが、今度はAmazonのパイロットシーズンの5か国での評価が出るので、すごく怖いですが、それも含めて制作者が負うべきことだと思います。
それを正面から受け止めるためにプロデューサーという仕事があるし、私たちがいる意味があるのだと思います。そこも含めて、プロデューサーはなかなかスリリングで楽しい仕事だと思っています。

ワクワクこまちゃん (仮題)
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■作品情報

(原題)The Curious Kitty & Friends
(邦題)「ワクワクこまちゃん」(仮題)

【配信元】 Amazonプライム・ビデオ
※Amazon.co.jp内では日本語吹き替え版で視聴することができます。
【原作・監督・キャラクターデザイン】 合田経郎
【脚本】 ケント・レデカー(ドックはおもちゃドクター)
【アニメーター】 峰岸裕和 他
音楽】 ケビン・カイナー(スターウォーズTVシリーズ)
【エグゼクティブプロデューサー】 松本紀子、ケント・レデカー、リチャード・コ
リンズ
【制作】 ドワーフ
【ストーリー】
好奇心旺盛なねこの女の子こま。一緒に暮らすおじいとピクニックをしていると、ど
こからか聞き慣れない音がしてくる。何の音か確かめに行くと道にリンゴが転がって
いた。いくつも転がっているリンゴを追いかけていくうちに、友達のラジボーや雪男
のゆきちゃんと出会い…。

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