人間中心設計推進機構(HCD-Net)の理事を務めていらっしゃる松原 幸行(まつばら・ひでゆき)さんのコラム全6回分のポイントをまとめてご紹介!
ユーザーの体験を生み出すUXデザイナーの仕事のヒントになれば幸いです。
詳しく知りたい箇所があれば、各回の内容も合わせてチェックしてみてくださいね。

1.UXとは?

UXとは、ユーザエクスペリエンスの略語で
ユーザーが製品やサービスを利用することで得られる「一連の体験」のことを指します。

UI(ユーザインターフェース)と並べて語られることが多いですが、
UIはユーザーとサービスのタッチポイントである「モノ」のことを指します。
タッチポイントでの経験を「マイクロUX」と呼ぶこともあります。

要は、対話するその瞬間のみを考えるか、その地点も含めた一連の流れを「経験として」考えるかの違いです。前者はUIを取り扱うことであり、後者はUXを取り扱うことになります。

実践的UXデザイン論第1回より

2.UXに関する理論・モデル

良いUXデザインを行うために必要な考え方や実践に役立つモデルをご紹介します。

「UXハニカム」/ピーター・モービル(情報アーキテクト)

良いUXを導くために必要な7つの要素を整理したモデルです。
ユーザー・エクスペリエンス・ハニカム

「UXの5階層モデル」/ギャレット,ジェシー・ジェームス (デザイナー)

まずはユーザーのニーズを定義し、それを実現・解決するための機能的な枠組みを練る
→その上で基づいたインタラクションやGUIをデザインするという一連の考え方が整理されています。
ウェブ制作の5階層モデル

「行為の7段階理論」/ドナルド・ノーマン(認知科学者)

ユーザーがシステムを利用する際の認知的なプロセスを整理するためのモデルです。
「実行(1~4)」と「評価(5~7)」の各段階で構成されています。
ノーマン行為の7段階

表層的な美しさだけではなく、ユーザニーズから紐解かれる論理的な思考と認知的な思考の両面を考慮して作れば、良いUI(マイクロUX)を作ることができます。そのために何よりもまず必要なのはユーザーを正しく理解することです。

実践的UXデザイン論第2回より

3.広がるデザインの対象

Designの指し示す本来の意味は「企画し設計すること」です。
UXデザイナーに「顧客にどんな体験・価値を提供するかという視点からサービス・商品を企画・設計すること」が求められるように、今やデザイナーの仕事の領域は「スタイリッシュでカッコいいデザインをする人」という従来のイメージを超えて広がりを見せています。

サービス体験(サービスデザイン)

サービスデザインは、ウェブサイトやスマートフォンアプリなどを中心に、商品やシステム、あるいは人的な部分も含めた新たな価値の提供であると捉えられています。
サービスの本質はユーザーの期待に応えるものです。
ユーザーの漠然とした期待を察知して、価値に置き換え、経験できる形に変換して提示することをサービスデザインといいます。
そうして提示することで初めて、ユーザーの『これを待っていたんだ』という共感を生み出すのです。

サービスデザインを実践するためのツール

ユーザーとサービスとのタッチポイントをプロセスごとに整理し、共感や理解を高めて説得力のある物語をつくるためのツールとして「カスタマー・ジャーニーマップ」があります。

>カスタマー・ジャーニーマップの作成方法はこちら

ビジネス(デザイン思考)

デザイン思考とは、「ユーザーの期待、インサイト(洞察)」を把握した上でそれに基づきながら「保有技術」を活用することで生み出せる「新しい価値」を追求していく考え方です。

新規の事業展開をしたり、より横断的なチームを新しく組織したりする際に、事業戦略の立案からプロジェクトの組織化や製品やシステムやサービスの実際の開発に至るまで、あらゆる次元・場面で活用できる課題解決プロセスとして注目が集まっています。

さらに言えば、デザイン思考はビジネス以外にも応用できると言います。

デザイン思考は課題解決のプロセスであると述べましたが、それは企業ばかりでなく、学界や行政の現場にも応用できます。また災害からの復興など複雑な社会的課題にも適用できるものです。
様々な機会でデザイン思考プロセスを取り入れることで、豊かな社会が築いていけるでしょう。

実践的UXデザイン論第4回より

デザイン思考を実践するためのモデル

デザイン思考を実践する際に用いると良いとされるのが英国のデザイン協議会が2005年に発表した「ダブルダイヤモンド・モデル」です。
「問題を定義する」「解決策を導く」2つのフェーズで、アイディアを出して(拡散)プロトタイプを作り評価する(収束)というプロセスが示されています。
ダブル・ダイヤモンドモデル

4.UXデザインに必要なスキル

越境力

越境力とは、自ら異分野に飛び込んで行って体験や交流を行うことで自分が知らなかったことに興味を持ち、気づきを得ることが出来る力です。
UXデザインを実践する際、様々な場面で求められます。

ユーザーの期待を発見する

ユーザーは様々な情報の中におり、興味・関心の対象も多様化しています。

・衣食住
・絵画・芸術や音楽など文化的な側面
・スポーツや震災ボランティアやSNS(Social Network Service)など社会的な側面
・人対人や家族・友人・趣味を同じくする人々など人的交流の側面

UXデザインでユーザーがどんなサービス体験を求めているかを考えるときには、これらの多様化する興味・関心を俯瞰する視座が必要です。
このような俯瞰の視座は、異分野での体験や交流を通して知らなかった事に興味を持ったり、気づきを得たりすることを通して獲得できるでしょう。

他部門と連携する

UXデザインに取り組む際は、研究部門や開発部門などデザインとは異なる機能をもった部門との連携が必須となります。
特にイノベーションに取り組む企業では、この連携を成立させプロジェクトをブレイクスルーさせる能力がUXデザイナー始め各プロジェクトメンバーに求められるでしょう。

UXデザインに関わる人はどんどん越境力を発揮して社内外の先端で活動している人々と共創し、魅力的なサービスを生み出し続けて欲しいものです。

実践的UXデザイン論第3回より

チームで発想しひらめく力

企画・設計をする上では発想力やアイデアを求められる場面も多いでしょう。
ただし、「発想する」とは、無の中から何かを生み出すというものでも、独力で取り組まなければいけないものでもありません。
むしろ、発想するときは「数人で取り組み全員の知を集めること」、つまりグループワークで発想することを前提とするのが良いと言われています。

>チームで発想するための具体的な手法はこちら

5.AI時代におけるUXデザインとは?

AI(Artificial Intelligence:人工知能)の技術的な進化や、プロシューマの台頭、C to Bなど消費者と生産者の関係性の変化によってUXデザインにおいても新たな動きが見えてきています。

※プロシューマとは?
デジタル技術を駆使したモノ造り(=デジタル・ファブリケーション)の流れの中で、生産販売に取り組む消費者のこと。自分にしか作れないユニークな作品を作り出し、企業と成果物を商取引するC to Bのビジネス形態が出てきている。

例として、省エネシステムの新規購入を検討してもらうため施策をみてみましょう。
これまでは、「節約しましょう」などの汎用的なメッセージが一般的でした。

ところが現在/今後は、クラウド情報とAI技術を少し応用すれば「あなたの省エネレポート」という形式で「あなたは節約家よりも1.4倍多く出費しています。無駄は20,000円です」と個々人に向けたアドバイスを提供することが十分可能です。

このような世界を前提に考えると、ペルソナを作りエクスペリエンスを考える現在のやり方では限界があると言わざるを得ません。
ディープラーニング技術があれば、ペルソナ工程を省いて、2〜3の質問と過去のサービス利用履歴を基に、先のような“個人へのアドバイス”を行う方がより効果的といえるでしょう。

実践的UXデザイン論第6回より

6.まとめ

事業・サービス・機能・GUIまでをユーザーの期待に沿ってデザインしていくこと――広く深く考える仕事で、難しいですがやりがいも大きいですね。

CREATIVE VILLAGEでは、現役UXデザイナーへのインタビュー記事や成功事例も掲載しています。
現役UXデザイナーが日々どんなことを描きながら仕事をしているのか、ぜひ合わせてチェックしてみてくださいね。

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