他の業界と比較しても、労働時間が長い印象のクリエイティブ業界。特に子育てとの両立は難しいというイメージもある中で、自ら工夫したり会社独自の制度をうまく利用し、活躍しているママクリエイターもたくさんいます。
今回は、株式会社ZOZOテクノロジーズ、オイシックス・ラ・大地株式会社、株式会社サイバーエージェントでそれぞれデザイナー職として働いているママクリエイター3人の座談会を開催。産休・育休前後での働き方の変化や、各会社のサポート制度、自ら工夫していることなどについて伺いました。


田神 千賀子(たがみ・ちかこ)
株式会社ZOZOテクノロジーズ
デザイナー
静岡県出身。2008年ZOZO(旧スタートトゥデイ)に入社。商品撮影を経て、ZOZOTOWN内の企画・キャンペーン、社内制作物のデザインを担当。
2015年10月から産休に入り、2017年4月に復帰。3歳の女の子のママ。


福山 遊果(ふくやま・ゆうか)
オイシックス・ラ・大地株式会社
UI/UXデザイナー
千葉県千葉市出身。多摩美術大学情報デザイン学科を卒業し、ソフトウェア会社でのUI/UXデザインを経て2012年よりオイシックス・ラ・大地株式会社勤務。WEB、アプリサービスのUIデザインを担当。
2016年11月から産休に入り、2018年4月に復帰。1歳の女の子のママ。


松本 美由貴 (まつもと・みゆき)
株式会社サイバーエージェント
2012年サイバーエージェント新卒入社。アメーバブログや複数のコミュニティサービスのデザイナーを経て、現在はグループ会社(株)ASTROBOXにて占いサービス「Ameba占い館SATORI」のデザインを担当。 2017年7月から産休に入り、今年5月に復帰。1歳の女の子のママ。


働き方が変化したことで作業効率がアップ

――まず初めに、産休・育休取得前と復職後では、働き方で変化した部分はありますか?

福山 私は産休に入る前は結構遅くまで働いてました。デザインって終わりがないし、自分が納得できるまで作業することが多かったんですけど、復帰して時短で働いてみると、それがなかなかできなくて。なので今は仲間に渡すとか、作業効率を見直すとか、そういう方向に考えがシフトしてきましたね。

田神 私も似てます。産む前はどこまででもやるというか、時間を意識せず働くこともありました。

松本 そうそう。でも今思えばダラダラやってたなと(笑)。

――成果物のクオリティに変化はありましたか?

松本 効率は上がったと思います。電車の中とかで考えを練って、会社で短時間でアウトプットするみたいなことはできるようになったかなと。でも復帰してすぐはショートカットキーどれ使うんだっけとか(笑)、このツールの使い方はこれでいいんだっけとか戸惑ったりもしました。1ヶ月くらいすると慣れるんですけどね。

福山 そうそうそう(笑)。

田神 私は、仕事から離れて子供と接するようになったことで、視野が広くなった気がします。凝り固まらなくなりました。子供のおもちゃや絵本とかが、意外と参考になったりするんですよね。違うチャンネルが増えたことで、作るものの雰囲気が変わったというか。

松本 分かります、Eテレとかいいですよね!

田神 ですね!

福山 私はクオリティっていう部分ではまだ悩んでいて。Oisixのお客様は小さいお子さんをお持ちの方が多く、復帰前と後では、今のほうがUX的にもお客様に近いので、体験設計っていう意味では分かる部分が増えたけど、クオリティに関しては時間が取れてない分、まだ目標に達してない部分が続いていて。そこを今同僚とみんなでコミュニケーション取りながらやっていくっていうことで納得してます。でも自分1人だとまだ課題が残ってますね。

――みなさん現在は時短勤務ですか?

松本 私はフルタイムです。復帰して最初の1ヶ月半くらいは時短だったんですけど、あまり作業ができないのと、もっとやりたいのにっていう気持ちとの葛藤があったのでフルタイムに戻しました。フルとはいえ、朝早く来て早く帰るみたいなフレックスですけど。朝の保育園の送りは完全に夫にやってもらって、夜のお迎えを私が担当しています。
変わったことでいうと、復帰前みたいに好きなだけ好きな時に残業するっていうことができないので、いかに効率的にやるかを考えるようになりました。朝の通勤の時間帯から1日の作業スケジュールを考えて動くので、育休前より作業効率がずっとスピードアップしていると思います。2倍くらいになってるかも(笑)。

田神 復帰前は会社を出たら仕事も終わりっていう区切りの実感があったんですけど、今は会社を出てからも通勤の時間で考えたり、子供をお風呂入れながら仕事のこと考えたり……

松本 すごくわかります!(笑)寝る前まで考えていますよね。

田神 そう、トイレの時間すらも隙あらば考えてます。移動中に調べ事をしておいて、席についたら「よし、あれやろう」みたいな。

福山 会社は実務をやるところで、情報収集は出先とか、ながら時間にやるようになりますよね。

――復帰前より効率的にはなりつつも、家事や育児にシワ寄せがきてるなと感じることはありますか?

福山 最初はすごくあって、夫とも家事の分担で喧嘩してました。仕事のことも考えたいけど家事と育児もやらないといけなくて、「何で私ばっかりこんなこと考えてるんだろう」ってモヤモヤして。夫も考えてくれてたとは思うんですけど。

松本 私はもともと家事が苦手なタイプで…子供が産まれてからは少し頑張るようになったんですけど、それでもたまに夫に怒られます(笑)。

田神 ウチは夫も技術職なので、お互い仕事の時間の取り合いになります(笑)。だから、家事はやることそのものを減らしちゃおうと思って、洗濯物は全自動で乾かすし、ルンバを使って掃除もしない、スーパーにも行かず朝の通勤時間にネットスーパーで買っています。

松本 一緒です!

田神 家もなるべく物を減らして掃除しなくていいようにとか。頼れるものにはとことん頼って、少しでも負担を減らすようにしてますね。

「復職式」や先輩ママからのアドバイスで不安解消

――では、それぞれの会社の産休・育休制度がどうなっているかについて教えてください。

福山 弊社は復帰前に「育休復帰プログラム」というのがあって、復帰する前に子供を連れて育休中の人達がみんな集まり、1日ワークショップをやるんですね。復帰するための心構えや、夫との調整の仕方とかを教えてもらう(笑)。「こういうところを整理しておくと復帰しやすいよ」とか、ママさん社員が制度を作ってるので、すごく共感できる話が多かったです。あとは復帰するときに「復職式」っていう入社式の復職版みたいなのがあるんですね。私は子供が風邪を引いてて出られなかったんですけど、表彰状みたいなものにチームのメンバーからのコメントが書いてあって。すごいあったかく迎えてくれました。

――そういうケジメがあると自分的にも安心できたりしますよね。

福山 すごく安心しますね。私の場合1年半くらい休んで、しかもその間に会社が合併したりオフィスが移転したりして、自分の知ってる会社とどう変わってるのかすごい不安だったんですね。でも復職式があることでみんなに「あの人復帰したんだ」って認知してもらえるから、周りからも「おかえり」って声をかけてもらえるのも嬉しくて。その分すぐ仕事も来るんですけど(笑)。
復職後も色々と研修があって、時短も結構自由に設定できるので、1人1人に合わせてくれるのもありがたいです。

田神 弊社は同時期に戻ってきたママさん達を集めて、前年に復職したママさんたちへのアンケートの共有とか、ママさん同士での繋がりを持てるような会があります。そこで知り合った人と仕事で会うとお互い近況報告ができたりして、心強いです。私も復帰するときはすごく不安でした。ママってずっと家にいるので、社会と離れてしまい自信が地に堕ちるような感覚があるんですよね。

福山 そう、分かる!

田神 そういう状態からデザイナーとしてまたやっていくのが結構難しくて。そういうときにオイシックス・ラ・大地さんみたいな制度があったらすごくいいですよね。弊社では最近、時短勤務できる期間が伸びて、元々子供が3才までだったのが小学校卒業まで取得可能になりました。

松本 そうなんですね!サイバーエージェントでも小学校入学前まで時短勤務が可能で、入学後も状況に応じて可能という制度になっています。

田神 あとはフレックスタイム制なので、かなり働きやすい環境づくりはしてもらえてるなという感じですね。安心感があります。

松本 弊社は半期に1回ある全社総会に、産休中でも招待してくれて参加することができます。託児所がついているので子連れでもOKで。産休中って会社の情報がなかったり社員の人と交流が持てなかったりするからいい機会なんですよね。あとは「ママ報」っていうママ向けの社内報があるんですね。今会社の中でママはこれくらいいますとか、ママ社員の活躍の様子が紹介されてたりとか。産休中もそのママ報を見て「最近会社ではこんなことをやってるんだ」っていうのが知れてよかったです。

――復帰後のサポート体制などはありますか?

松本 認可外保育園補助があります。私は認可の保育園に入れたので使ってないんですけど、入れずに選択肢がなくなってしまった人は認可保育園との差額を一部補助してくれる制度です。あとは「キッズデイ休暇」といって、子供の学校の行事とか誕生日などに、年に2回半休が取れます。

積極的に子どもの状況を伝えていくことで周囲の理解を得ていく

――皆さんリモートワークはされてますか?

松本してます。部署によって多少ルールが変わるのですが、、私の所属しているASTROBOXでは私が復帰してから原則週1でリモートOKという制度ができました。例えば子供を保育園前に病院に連れて行きたい日や、通勤時間を削って仕事の作業時間を増やしたい日などにリモートしています。

福山 私も子供が熱を出した時とかにリモートを使うことはあります。基本的には上司に報告してOKだったらできるようにはなってますね。

――時短勤務やリモートで働くことによって、周囲の人たちの理解を得ることが難しい場面もあると思うんですが、理解してもらうために自分で工夫していることって何かありますか?

田神 私は会社のイベントや飲み会に子供を連れて行きます。会社が終わって保育園にお迎えに行って、1回家に帰ってご飯を食べさせてから飲み会の会場に行きます。夫が同じ会社なので20時くらいに子供をピックアップしてもらって、あとは私一人でゆっくり飲むんですが(笑)。周りの人たちも「あ、◯◯ちゃんが熱を出してるから休んでるんだな」と、顔を知ってるだけで具体的になるかなと思って、なるべく顔を出して行くようにしてます。顔見知りになってもらって味方につけるっていうのは大事かなと思いますね。

――それによって大分周囲の対応も変化しましたか?

田神 そうですね。子供が熱を出したというよりは、○○ちゃんが熱を出したって分かるほうが温かい目で見てもらえる気がします。

福山 弊社はお客様自体ママが多いので、社内的にそういうお客様にたくさんヒアリングしてるのもあり、すごくみんな理解があるんですよね。子供が熱出して数日休んじゃって申し訳ないなと思ってても、「どうだった?大丈夫だった?」ってすごく声をかけてもらえるのがありがたいです。

松本 私は自分から仕事に対する意気込みを周囲にアピールするようにしてます。以前自分がママになる前は、ママになって時短で働くようになったら「そんなに大きな仕事はやれないのかな」って漠然と思い込んでしまってたんです。でも、それは勝手な先入観であることにハッと気がついて、今はそれを壊していきたいなと思ってます。家庭も大切にしながら、思いっきり働きたいです。

田神 私もママになる前に知人から「ママになったらそこで成長が止まるからデザイナーとしては終わりだ」みたいなことを言われたことがあって、なんという呪いだと思ったんです(笑)。でもその呪いを絶対跳ね返してやろうと思って頑張って、復職してからは周りにも「最近田神頑張ってるね」って言ってもらえるようになって、あの呪いをはね返せた気がします(笑)。逆にその言葉があったからこそ、頑張れたのかなとも思いますね。

松本 分かります。サイバーエージェントは社風的に若い社員の活躍や成長が目立ちますが、最近はママ社員も増えてきて、各職種・部署で活躍したり表彰される方が見られるようになりました。
ママになったからといって仕事に対するマインドは変わらないので、これからも今まで通り、会社やサービスの成長・ユーザーの幸せに貢献できるよう頑張っていくのはもちろんですが、ひとつ新しい目標として、女性デザイナーがワーキングマザーになることに不安を持たず「ママになっても松本みたいに活躍できるから大丈夫!」と思ってもらえるような存在になりたいです。

自分がつまづいた部分を共有することでさらに働きやすい職場にしていきたい


――今後ママに対してこういう制度を作りたいみたいなことはありますか?

福山 デザイン業務に関して、ルールをガイドライン化したいというのがあります。以前はそこまでルールがなかったので、復帰したときにまずそこでつまづいたんです。「このデザインってどういうルールでやってるの?」って、人に聞かなきゃわからないからすごい時間がかかった。そこをちゃんとガイドライン化して、復帰した人でもすぐデザインできる環境にしたいです。それってママじゃなくても新入社員でも便利なものだから、デザイナーとしてそこをしっかり守っていければ自分の仕事の時短にも繋がるので仕組み化を進めてます。あとは復職前に先輩ママ達がつまづいたところを教えてもらって、そこに気をつけるっていうのが役に立ったので、私も同じようにこれから入る人達や復職する人達にアドバイスしていきたいなと思いますね。

田神 私が復帰したときはオイシックスさんの復職式のようなものは無かったので、不安の中で復帰をしたんですね。1年ほど経った時に同じチームに復帰予定のママがいたので、不安にならないように色々話したいなと思い、子供と一緒にご飯に行きました。だからオイシックスさんみたいに制度としてママを迎えてあげるっていうのがあったらすごい素敵だなと思います。

松本 私も研修とか復職式があったらブランクの不安を乗り越えて復帰できそうだなと思いました。弊社の中で思うのは、ママでももっと気軽に全社総会に参加できるようにしたいなということですね。総会の時に託児所がついてるのはありがたいんですけど、1回家に帰って、保育園から子供を総会に連れてきて、託児所に預けて参加するのは結構ハードルが高くて。でも、総会に参加するとモチベーションが上がるからこそ、参加できないのが寂しいんですよね。

福山 そういう意味で言うと、さっき田神さんが仰ってたみたいに飲み会とかもそうじゃないですか? ママだと飲み会に行けないことが多いけど、飲み会で生まれることって結構あるじゃないですか。

松本 そうですよね! ASTROBOXはママパパが多くて飲み会に行けない人が多いので、みんなでランチに行こうみたいな感じで、ママでも行きやすいようにしてくれます。飲み会に行けないの、キツイですよね。

福山 飲み会のときのための託児所みたいなの欲しいですよね(笑)。

田神 いいですね(笑)。

福山 あとは、産休中の人達で月1で会ってたのも結構良かったです。みんなで情報交換して仲良くなって、そのままみんなで復職式やってもらってっていうのがすごく心強かった。子供の病気のこととか注射のこととか相談しあえるし。横のつながりって大事ですね。

田神 共感が強いですよね。同じ苦労をしてる仲間として。

福山 そうなんです。やっぱり同じ境遇の人とコミュニケーションできる場があることが、今後の働きやすさにもつながってくると思います。

――ありがとうございました。

インタビュー・テキスト:上野 真由香/撮影:大門 徹/企画・編集:市村 武彦(CREATIVE VILLAGE編集部)